捨てられた花嫁ですが、一途な若社長に溺愛されています

紺乃 藍

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1巻

1-3

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「無事に乗り切れたことはすべて社長のおかげです……! このお礼は必ず……っ」
「ストップストップ」

 七海が頭を下げたまま丁寧に礼を重ねると、ベッドサイドに仁王立ちになった将斗にこつん、と頭を小突かれた。
 突然の攻撃に驚いて瞬きすると、にやりと微笑んだ将斗が七海の隣に腰を下ろしてきた。

「そうかしこまるな。俺とおまえは、もう夫婦になっただろ?」
「え、ええと……」
「正確にはまだか。婚姻届出しに行かなきゃな。戸籍謄本、取らないとなぁ」

 将斗の実家は神奈川県の山手町にある大豪邸だ。今は都内にある自社が建設したとある高級マンションで一人暮らしをしているが、彼の本籍は実家に置いたままになっているらしい。婚姻届を提出する役所が本籍地のある土地と異なる場合は戸籍謄本が必要になるのだが、未婚の将斗がよくそんなことを知っているなと感心する。しかし今の七海には、それ以上に気になることがあった。

「社長……どこまで、本気なんですか」
「ん~?」

 七海の質問を受けた将斗が「知りたいか?」と問いかけてくる。
 七海がこくんと顎を引くと、将斗がフッと表情を緩めた。

「柏木、俺はな」
「……はい」
「おまえに恩を着せておきたい」
「……。……はい?」

 真面目に話を聞くつもりで前のめりになったのに、将斗の唇から零れ出た回答は悪い意味で想像とは違うものだった。思わず不機嫌な声が出る。

「柏木が秘書になってから、俺は仕事をサボれなくなった。おかげで商談も会議も事務作業もスムーズだし、支倉建設の業績は上々だし、社内外問わず俺の株も上がりっぱなしだ」
「良いことじゃないですか」
「良くないだろ。人間は心に余裕を持つことも大切なんだ。つまり仕事をサボることでしか得られない、独特のリラックス効果と開放感というものがあってだな」
「社長」

 将斗への感謝の気持ちでいっぱいだった五分前の自分に教えてあげたい。目の前にいる人はぐうたらでサボり魔で図体ばかり大きいくせに世話と手間のかかる上司、支倉将斗だ。
 社長室から出れば完璧な姿を絶対に崩さないくせに、秘書の七海にだけはわがまま放題の御曹司。どんなに感謝をしても、甘い顔ばかり見せているとすぐ調子に乗る相手である。

「これ以上あなたが仕事を疎かにすると、私が職務怠慢だと言われてしまいます。社長にはもっと自覚を持って頂かないと」
「ふっ……くく、はははっ」

 いつもの調子で将斗を諫める七海だったが、将斗を正す言葉を並べているとなぜか突然吹き出された。将斗の爆笑を目の当たりにした七海は、言葉を切るとそのまま彼の顔をじっと見つめる。

「やっぱり、柏木七海はそうでなくちゃな」

 将斗の一言でハッと我に返る。
 どうやら将斗は七海を慰めてくれたらしい。恩を着せておきたいという台詞だけは本音のようにも聞こえたが、つまりは必要以上にへりくだるな、と言いたいのだろう。
 披露宴を無事に乗り越えるため、そして嘘の信憑性を高めるために一年間偽装夫婦を演じることとなったが、乗りかかった船が無事に対岸にたどり着くまでは、将斗もとことん付き合ってくれるようだ。ならば七海は将斗に最大限の感謝を伝えながら、差し出された手を握っていようと思う。
 二人は今夜、共犯者になったのだから。

「……ありがとうございます」
「どーいたしまして」

 将斗が屈託なく笑うので、七海もそっと表情を崩した。
 作戦会議はそれで終了するかと思ったが、ふと腕を伸ばしてきた将斗の指先が七海の後頭部に触れた。そのまま力を込められたかと思うと、彼の腕の中に身体がぽすんと収まる。
 将斗に抱き寄せられたことに気づいたのは、その数秒後。
 急に距離が縮まったことに驚き、心臓がどきりと飛び跳ねた。

「しゃちょ……っ」
「佐久のことは早く忘れろ。経緯はどうあれ、今夜おまえと結婚したのは俺なんだからな」

 抱きしめられたまま耳元でそっと囁かれる。鼓膜を震わせる将斗の声が一段階低くなったように感じて、一気に緊張感が増す。
 今夜、予定通りにこのホテルに残ったのは、将斗に面と向かってお礼を言いたかったからだ。もちろん両親も交えてお礼を述べる機会も改めて設けるつもりだが、その前に七海の口から直接将斗にお礼を伝えたかった。が、気づけばこの状況である。
 密着感に困惑して挙動不審になっていると、将斗の手が腰に回ってきた。男性らしい筋張った指が背中を撫でると、思わず悲鳴が零れそうになる。

「心配しなくても一年後には離婚してやる。けどそれまでは、俺に想われて大事に愛される妻を演じてろ」
「あ、の……えっと、申し訳ありません。この御恩は必ずお返しします」

 一度やると決めて将斗の手を取ったからには、最後まで偽装夫婦を演じきるしかない。将斗に一方的に愛されて最終的には性格の不一致で離婚するというシナリオだが、それと引き換えに守れるものを考えたら、嘘で取り繕うことにも躊躇いはない。とはいえ、一年後どうやってお礼をすれば……と考えていると、将斗の声がわずかに遠ざかった。

「必要ない。――その代わり」
「わ、わ……っ!?」

 ようやく解放されるのだろうと思った直後、七海の視界が突然くるっとひっくり返った。それが肩を押されてベッドに押し倒されたせいだと気づくと同時に、上にずしりとのしかかられる。
 顔の距離が近い。これ以上ないほどに。

「七海」
「!」
「今からプライベートの時間で『社長』は禁止だ。下の名前で呼ばなきゃ、返事はしない」
「社ちょ……」

 将斗の瞳に燃え盛る炎のような高温が宿っていることに気づくが、すぐに自分の過ちにも気がついて言葉を詰まらせる。

「ま……将斗、さん」
「そうだ、七海。それでいい」

 将斗の求めを読み取って彼の名前を呼ぶと、穏やかな表情で頷かれた。その声に思いのほか嬉しそうな音色が含まれていたので、今度は別の意味で言葉に詰まる。
 毎日傍にいるとはいえ、密着する機会はほとんどない。せいぜい社長専用車の後部座席に並んで座ったときに肩が触れ合うぐらいのものだ。そんな将斗が大きな手で七海の顎先をゆるゆると撫でながら顔を傾ける。キスされる、と思った瞬間、恥ずかしさのあまり無意識に首が引っ込んだ。

「おいおい、窮地を助けてやったのにご褒美もなしか?」
「え……? ご褒美……って」
「――わからないか?」

 将斗の低い声に確認され、かぁっと顔が熱くなる。
 もちろんまったくわからないわけではない。互いにバスローブ姿の状態でベッドの上に押し倒されて、こんなに身体を密着されている状況なのに、何もわからないほど初心ではない。
 だが将斗がその『ご褒美』を求める理由が……将斗にとって七海が『ご褒美』になりうるのかどうかがわからない。

「それとも七海は、俺に一年間禁欲しろって?」

 答えに窮していると将斗がため息交じりに問いかけてきた。その一言に仰天した七海は慌てて首を横へ振る。

「そんな、私は別に……」
「言っておくが、他の奴に手を出すつもりはないからな。万が一誰かにバレたら一途におまえを想ってる『設定』が台無しになるだろ。当たり前だが、おまえも他の男なんて作るなよ」

 将斗の言い分には妙な説得力があった。確かに七海への片想いを成就させて電撃結婚したという設定を作ってしまった以上、他の相手に浮気なんてしようものならすべてが水の泡になる。もちろんそれを理由に離婚の時期を早めることは可能だが、将斗の印象と評判は確実に悪くなるだろう。
 ただの恋人ではなく、戸籍上だけでも一応は夫婦になるのだから、安易な行動は慎まなければならない。そのために七海も多少は協力すべき、ということか。

「わかりました。それで少しでも、恩返しになるのであれば……」
「……」

 七海の返答を聞いた将斗が一瞬しかめ面になった。不服そうな表情で何か言いたげに口を開きかけたが、結局不満の言葉は紡がれない。

「まあ、いいか。交渉成立だな」

 代わりにぽつりと呟いた将斗の顔が、もう一度近づいてくる。恥ずかしいのは先ほどと変わらないが、今度はぎゅっと目を閉じるだけで拒否も逃亡もしなかった。
 唇同士が優しく触れ合うと、顔から足のつま先まで熱が広がっていくように全身が火照ほてる。慎介と結婚するはずだった夜に将斗とキスをする状況になるなんて微塵も想像していなかった七海は、ほんの少しの触れ合いだけで身体から力を奪われるような不思議な感覚を味わった。

(社長と、キス……してる)

 唇の表面を優しく舐められ、そのまま食まれる。ちゅ、と音を立てて唇を吸われると、羞恥のあまりまた身体が強張ってしまう。だが不快な感情は一切湧き起こらない。それどころか、触れ合うだけのキスが気持ちいいとさえ思えてくる。

「七海」
「っ……」

 離れた将斗に名前を呼ばれたので、そっと目を開いて視線を上げる。すると至近距離にいた将斗が表情を緩めて嬉しそうに微笑んでいた。その思いがけない仕草に、胸の奥がきゅうと甘く軋む。

(こんな顔、知らない……)

 将斗の顔自体は見慣れている。輪郭も顔のパーツ一つひとつも整っているので、異性に相当モテることも認識している。だがその見慣れた顔がこんなにも優しい表情を浮かべることは知らなかった。キス一つでこれほど嬉しそうに笑う人だなんて、知らなかった。

(だって社長は、いつもだらけてるし、すぐにいなくなるし、セクハラするし……それに……)

 口うるさい母親のような七海を面倒に感じているのではないかと思っていた。なのにこんなにも甘い表情を向けられると、どう反応していいのかわからなくなる。

「七海、口開けろ。キスできないだろ」
「だって、ん……ん」

 ただでさえ恥ずかしいのに、さらにキスがしたいと求められる。照れて拒否する七海だったが、困惑する隙をついて再度唇を重ねられると、今度は隙間から将斗の舌が侵入してきた。そのまま熱を絡ませるように舌の表面を擦り合わせられると、背中がぞわぞわと甘く痺れる。

「ふ……ぁ……んぅ」

 さらに舌を絡め取られながら、口内を隅々まで蹂躙される。激しいキスはすぐに終わるどころかだんだん深度を増し、気がつけば七海の呼吸と思考を奪うほどみだらな口づけに変わっていた。

「は……ぁ……っふ」
「……七海」

 貪るようなキスからようやく解放されてくったりしているうちに、バスローブの結び目をしゅるりと解かれた。深いキスに意識が奪われていた七海は、将斗の眼下に裸体を晒していることに数秒遅れてから気がついたが、必死に腕を抱き寄せたところでもう遅い。

「七海は腰が細いな。それに胸も大きい」
「や……見な、いで……っ」
「無茶言うなよ。……おい、隠すなって」

 将斗の視界から裸体を覆い隠そうとすると、不満げな声とともに腕を掴んでシーツの上に押し付けられた。今度はじっと身体を見つめられ、羞恥のあまり顔から火が出そうになる。

「恥ずかし……です」
「なんでだ? こんなに綺麗なのに……ここも」
「ふぁっ!?」

 将斗が腕を掴んだまま顔の位置を下げる。艶やかな黒髪が七海の胸の上で動きを止めた直後、そこに熱いほどの温度とぬるりとした感覚が生じた。

「ひぁ、あっ……!?」

 緊張に強張る左胸の頂を口に含まれ、舌の先で転がされる。こんなにも恥ずかしい状況になると思っていなかった七海は、身体を捩ってどうにか将斗から逃げようとした。だが胸を這う舌と膨らんだ突起を吸う唇、そして七海の両腕を掴む手が思いのほか力強く、上手く逃れられない。

「ふぁ、っ……ん」

 乳首を丁寧に舐め転がされるたびに背中と腰がぴく、ぴくんっと飛び跳ねる。敏感に反応する己の身体を恨めしく思う七海だが、気持ち良さのあまり力が入らずだんだんと思考も霞んでくる。

「ん……んんぅ……」
「どうだ? 七海、気持ちいいか?」

 将斗が左胸の突起に歯を立てながら、視線だけで訊ねてくる。その表情がやけに楽しそうで、けれどどこか哀願するような仕草にも思えて、七海は縦にも横にも首を振れなくなってしまう。
 何も答えられない七海を観察して表情を緩めた将斗が、左胸から顔を離して右胸に顔を埋める。そのまま右胸の突起を舐め始める将斗だったが、今度はこれまで散々舐めたり擦ったりしていた左の乳首も同時に、指の先で撫でられた。
 すっかりと熟れた果実をくりくりと擦られているうちに、腰がシーツから浮いて揺れはじめた。両胸を同時に刺激されると、口にすべき制止の言葉が少しずつ霞んで薄れていく。

「あ……そこ、だめ……っ」
「擦られる方が好きなのか?」
「ちが……ぁ、ん……そ、じゃなく……っ」

 将斗の問いかけを必死に否定するが、右胸を吸われて舐められ、左胸を撫でられて弾かれる刺激があまりに強く、抗議の言葉も紡げない。

「ひぁ……だめ……あっ……ん」
「可愛いな、七海」
「あ……ぁぅ……ん、ん」

 恥ずかしくてたまらないはずなのに、くすくすと笑う将斗の声と連動するように腰が揺れる。するとそれを見た将斗が左胸への愛撫を中断して、七海の脇腹を撫で始めた。
 恥ずかしい刺激は半分に減ったが、そのぶん肌を撫でるくすぐったさと手のぬくもりを感じる。将斗の大きな手がゆっくりと脇腹からお腹の上、下腹部を辿っていって――やがて秘部を覆うショーツにかかる。

「社ちょ……っ」

 驚いた拍子に『社長』と呼んでしまうが、事前に宣言されていた通りこの呼び方では将斗は七海の言うことを一切聞いてくれないらしい。するっと下着を剥ぎ取られ、いつの間にか濡れていた股の間に指先が侵入すると、そのまま膨らんだ蜜芽をくちゅ、と撫でられた。

「濡れてる……」
「んぅ……ふ、ぁ……ん」
「胸だけでこんな風になるのか……すごいな」
「いえ、これは……ちが……ぁ」

 しっとりと濡れた陰核をゆるく撫でながら、感心したように呟かれる。将斗の反応にも自分の陰部から聞こえてくる水音にも羞恥を煽られる七海だったが、何度も秘部を擦り撫でられているうちに、だんだん将斗の手の動きが速く激しく変化してきた。
 淫花の表面をぬるぬると滑る将斗の太い指に、身体がどうしようもなく反応してしまう。全身が熱く火照ほてって、恥ずかしい場所からシーツに染みをつくるほどの愛蜜が溢れてくる。

(私、なんかへん……? 今までこんな風になったこと、ないのに……)

 キスも、胸を愛撫されたことも、秘部を撫でられた経験もある。なのにこんな風に全身で反応して濡れるのははじめてのこと。
 どちらかというとセックスへの興味が薄く、声も控えめな方だと思っていたのに、今日はなんだか抑えが利かない。上司相手なんて、一番自分を律しなければいけないと理解しているのに。

「指、挿入れるぞ」
「あ、まっ……! ひぁ……っあ」
(声、出ちゃう……抑えられない……っ)

 蜜口から侵入してきた長い指に膣内をかき回されると、恥ずかしさと気持ち良さで自然と身体に力が入る。どうにか耐えようとして喉と下腹部に力を入れると将斗の指先が動きにくくなるせいか、膣口の上部にある敏感な部分を余計に強く撫でられてしまう。

「ふぁ、っ……んぅ」
「すごい締めつけだな。俺相手に、そこまで緊張しなくていいだろ」
「ち、ちがいま……っぁ、あん」

 感度の高い場所をぐりぐりと押される快感に涙が滲むと、表情を緩めて身を屈めた将斗が目尻に小さなキスを落としてくれた。だがその代わりに手を引っ込めてくれるということはなく、さらに奥へ進んできた指先に狭い隘路を押し広げられ、一番奥の敏感な場所を指先で上下に嬲られる。
 下腹部の奥で味わう未知の感覚に、背中にぞくぞくと電流が走る。しかし身を捩って逃げようとすると、なぜかさらに追い詰められる。

「えっ……ま、それはだめ……っ」
「だめじゃない、大丈夫だ」
「だめ、やぁ、あっ……あぁ」

 蜜壺を抜き差しする手はそのままに、将斗の反対の手が再び陰核を扱き始めた。中と表を同時に愛撫されると、快感を通り越して恐怖すら覚える。異なる強い刺激が気持ち良すぎて、どうにかなってしまいそうなほどに。

「あぁ……だめ……っおねがい、です……手、離し……っ」
「ん? イきそうか?」
「ふぁっ……あぁ……ん、んん」

 七海が懇願すると、将斗がさらに指の動きを速めてくる。濡れて感度が増した場所を手早く擦られ、ひくひくと蠢く場所をみだらにかき回される。
 大きな両手に与えられる快感に成す術もない。もうだめ、と感じた直後、七海の下腹部の奥から快楽の波が勢いよく押し寄せてきて、あっという間に弾け飛んだ。

「~~っ……っぅ、ん……ぅ」

 軽く絶頂してもそれほど大きな声は出ない。だが快楽の余韻が引いていく気配とともに息を零した瞬間、目尻からほろりと涙が伝い落ちた。

「泣くほど気持ち良かったのか」

 七海の表情を確認した将斗が、濡れた自分の手を舐めながら楽しそうに問いかけてくる。

「! まさ、とさん……! それ……っ」
「ん。甘いぞ」

 それが自身の愛液だと気づいた七海は、身体を起こして将斗の行為を止めさせようとしたが、やはり彼は七海の意見なんて少しも聞いてくれない。
 自分の手についた蜜液を舐めながら、そっと目を細めて肩で息をする七海を見下ろす。その視線にぞく、と背中が痺れる理由を探す前に、将斗がにやりと微笑んだ。

「普段のクールな美人秘書姿からは想像できないな」
「な、なんですか……それ……」
「こんなに可愛い声と表情でイクんだな、って。これから一年、俺がこれを独り占めできると思うと――たまらないな」
「……っ」

 将斗の熱の籠もった表情に驚き、びくっと緊張する。独占欲を露わにして七海を口説く視線に硬直していると、上に跨っていた将斗が身に着けていたバスローブの結び目をするっと解いた。
 その下から現れた裸体に、一瞬目を奪われる。普段は質の良いスーツを着込んでいるためわかりにくいが、将斗はほどよい筋肉がついてよく引き締まった男性らしい身体つきをしている。
 その姿にさらにどきどきと緊張していると、両足をぐいっと持ち上げられた。正真正銘の全裸同士でじっと見つめ合うと、ただ身体を触られるのとは別の緊張感が生まれる。ゆっくりと覆いかぶさってきた将斗に再度口づけられたので素直に応じると、将斗が七海の頭を優しく撫でてくれた。
 きっと大人しく『ご褒美』を差し出すことに決めた七海へ、将斗からの『ご褒美』なのだろう。あるいは一年間妻を愛する夫を演じると決めた、彼なりの慰めなのかもしれない。

「ん……っ」

 キスを重ねる将斗の手に脚を大きく開かれる。唇を離して熱い息を零しながら見つめ合うと、濡れた蜜口に固く尖った亀頭をぐいっと押し付けられた。

(いつの間に……)

 そこに薄い膜が被せられていることに気づくと、手際と準備の良さに感心してしまう。
 披露宴を行ったこのホテルは、交通の便が良く景色が綺麗な都心のシティホテルだ。繁華街の片隅や郊外によくあるラブホテルではないのだから、避妊具は備えつけられていない。なのに将斗がちゃんと用意して持っているということは、おそらく七海が入浴している間に準備をしたということだ。将斗が最初から〝そのつもり〟だったという事実に、恥ずかしさを覚える。だが照れる間もなく猛った先端が蜜口に沈むと、すぐにそれどころではなくなった。

「んぅ……っ……んん」

 身体の大きさと陰茎の大きさは比例するものなのか、将斗の雄竿を受け入れると下腹部全体に言葉にできない圧迫感を覚える。挿入はゆっくりとした動きだったが、一ミリ侵入するたびにお腹を押しつぶされそうなほどの質量を感じて、全身がびくっと震えた。
 小さな痛みを感じて少しだけ力むと、将斗の表情もわずかに歪む。泣くほど強烈な痛みではないが、一番奥まで挿入するのは物理的に不可能なのではないかと思ってしまう。

「かなり慣らしたつもりだったが……」
「将斗さ……ん」

 結婚式の最中に花婿に逃げられるような残念女でもいいと求められたのに、七海の身体では将斗が満足できないかもしれない。圧迫感に耐えながら、申し訳ないな、と考える。
 それでもゆっくりと押し進められ、限界まで到達するとゆっくりと引き抜かれているうちに、少しずつ身体が慣れてくる。繰り返される動きに痛みと圧迫感が和らぎつつある七海だったが、ある一点を突かれた直後、ふと身体に異変が起こった。

「ふぁっ……!?」
「!」

 ゆったりと静かな動きのまま最奥を突かれた瞬間、七海の身体がびくんっと跳ね上がる。

「え……な、に……?」
「七海……?」

 電流に似たその刺激から快感を得たのは将斗も一緒だったらしい。ふと視線を上げると、よく見慣れた整った顔が、驚いたように目を見開いている。
 数秒の間は顔を見合わせたまま停止していた七海と将斗だったが、先に我に返った将斗がふっと表情を緩めた。

「今のとこ、気持ち良かったのか?」
「え、な……なんですか……?」
「俺もだ、七海。だから……もう一回」
「ふぁっ……!?」

 将斗の宣言に答える間もなくシーツに腰を固定されて、上からより強めに体重をかけられる。脚を広げた状態で質問されると無性に恥ずかしかったが、顔を隠す前に頬を撫でられて再び唇を重ねられた。

「~~ッ……ぁ……んぅ」
「余裕なくて、ごめん……な」

 キスの合間にそう呟いた直後、将斗が腰を打つ速度を上げる。いつの間にか痛みが完全に消失していた結合部から、ぱちゅん、ずちゅん、と卑猥な水音が溢れて響く。

「あ、あ……だめ……んぅ……っぁ」

 将斗の陰茎が蜜壺を満たしては引き抜くたびに灼熱感と強い摩擦を感じる。激しい抽挿に胸が揺れるとその動きを観察され、さらに興奮度を上げた腰遣いに激しく貫かれる。

「七海……っ」
「あ……っふ、ぅ……あ」
「ほら……七海、わかるか? 今、七海の中にあるのは……誰のだ?」

 七海の心と身体を暴くと同時に、ココロとカラダを満たしていく。今の七海を欲する相手なんて将斗以外にはいないのに、それでも七海の口から決定的な言葉を言わせたいのか、将斗の問いかけと視線はどこまでも意地悪だった。

「まさ……」
「ん?」
「将斗、さん……の……!」
「そうだ……この感覚、忘れるなよ」
「あ……やぁ、ん……」

 にやりと微笑む将斗が腰を揺らして最奥を突く。鋭くも甘い刺激に震えた七海が喘ぐと、その様子に満足げな表情を見せた将斗が身体を抱きしめて唇を重ねてきた。

「七海っ……」
「ふぁ……っ! だめ、将斗さ……ぁん」

 とんとんと何度も最奥を突かれているうちに、蜜壺がきゅぅんと切なく収縮する。まるで将斗に抱きしめられて口づけられることが幸福だと言わんばかりの反応が、恥ずかしくてたまらない。けれど無意識のものは自分でも止められない。

「あ……は、ぁ……ぁんっ」

 激しい抽挿に導かれるようにやってきた甘い痺れが、下腹部から全身へ広がっていく。その快楽が最大まで高まると、膨れ上がった何かが一気に破裂するような強烈な快感に襲われた。

「あ、あ……ふぁ、あ……っ」
「……っ――は……七海ッ……!」
「ああ、ああぁっ……ん!」

 それが絶頂の瞬間だと気づいた直後、七海は身体の奥で燻っていた快感を放出するように激しく達していた。同じく腰を振っていた将斗も快感を堪えるように表情を歪め、七海の中で精を放つ。
 ぼんやりと麻痺した淫花の奥で薄膜が白濁の蜜液を受け止める感覚がしたが、それを知るよりも早く将斗のキスが七海の思考と台詞を奪い取った。

「七海」
「ん……」

 絶頂の気配が少しずつ遠退っていくと、汗だくになった七海の前髪を撫でながら、将斗が名前を呼んできた。腕枕をするように七海の身体を抱き寄せた将斗が、ふと意外な言葉を口にする。

「俺たち、身体の相性がいいと思わないか?」

 将斗が顔を覗き込みながら訊ねてくるが、七海には身体の相性の良し悪しはよくわからない。

(そうなの……?)

 楽しそうな将斗の表情を見ても疑問に思うしかない七海だったが、確かに気持ちよくはあった。誰かと比べるのは失礼だし、そもそも夜の事情について比較するほど経験豊富なわけでもないが、それでも将斗が頭や身体を撫でる指先は素直に心地よいと思えた。

(ふわふわして、あったかくて……)

 将斗の腕に包まれると、夢の中にいるような気分になる。こうやって触れ合っているだけで、心が温かくなって満たされていく気がする。
 それが夫だと思っていた人に捨てられて傷ついた心を癒されているからだと――期限付きのかりそめの快楽と幸福であると、本当は気がついている。
 けれど今はそれでもいい。身体の相性だけでも合っていてよかったと思う。
 だってこれは、そういう偽装結婚なのだから。

「早く慣れろよ、七海」
「……はい、将斗さん」

 頭の中では別のことを考えつつ、将斗の求めに従うように頷く。
 そう、頭の中では、別のことを考えている。

(一年……戸籍にバツがつくまでと、秘書を辞めるまでのカウントダウン……)

 今夜、七海と将斗は一年限定の共犯者になった。父の面子と会社の体裁を守るために、将斗との結婚を受け入れて周囲のすべてを欺くと決めた。
 だが一般家庭に生まれた七海と違い、支倉建設グループの御曹司として生まれた将斗には、会社と一族の将来を守る責任がある。ならばどこかの会社重役のご令嬢や会社にとって有益な人、もしくは将斗が心の底から好きになった相手と結婚するべきだろう。


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