「あの人とは違う形で、あなたを支えてみせます。」~最強の魔法使い師弟~

火威

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幕間&第三幕

「あの人とは違う形で、あなたを支えてみせます。」~最強の魔法使い師弟~

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幕間

 夜の帳を引き裂くように、犬の遠吠えが響く。
 耳にしただけで、肌が粟立つ、本能的な恐怖を呼び起こす唸り声。姿を見るまでもなく、ただの犬ではないとわかる。
 正体は、魔獣。
 それも高位種。凶暴で獰猛と知れ渡る、ケルベロス。
 三つの頭に大蛇の尾。首の周囲にも、無数の毒蛇が蠢いている。
 醜悪を通りこし、おぞましさに魂が凍るような魔犬が、群れをなしていた。
「壮観だねえ。ケルベロスの群れなんて、めったにお目にかかれないんじゃない?」
 高位の魔獣に囲まれている、という状況で、場違いに明るい声が響いた。
 もうすぐ二十歳になる青年にしては、ずいぶん高く、透明な声。実年齢より幼く、愛らしい美少年で通用してしまう容姿だ。
 月光を浴びた漆黒の髪は、濡れたように艶やかで、天使の輪が光っている。鮮やかに赤い瞳を、親友に向けた。
「オレたち二人がかりの仕事なんだ。これくらいの大物が出てくるのは当然だろ。」
 フェレトが、落ち着き払って言い放つ。
 指にはさんでいた煙草を吸って、ふう、と煙を吐いた。
 夜闇を払うように眩い金髪。サファイアの双眸は、視線を向けた相手をその場に縫い止めてしまうほどに、容赦なく鋭い。
「フェレト、煙草やめたら?かっこつけてそんなの吸っても、健康害するだけだって。」
「うるせーな。おまえホントに口うるさいよな。おまえはオレの母親か?」
「心配してあげてるのに。かわいくないなあ。」
 軽口を叩き合っていたところへ。
 ケルベロスの一頭が、とびかかってくる。首からびっしりと生えている蛇が、一匹残らず毒を吐く。
「防げ、<金剛壁こんごうへき>。」
 アレクトが唱える。
 アレクトとフェレトの二人を、ダイヤモンドの壁が包む。毒の息は、壁に弾かれて四方八方へ飛び散る。ケルベロス自身も、壁に激突した。泡をふいて崩れ落ちる。
 仲間を倒されたケルベロスたちが、地獄の底から響くような声で吠えたてた。恨みと怨嗟に満ちた、呪うような声。
 一斉に飛びかかってきた。
 フェレトとアレクトは、背中合わせに立つ。
 ひどく自然な、なめらかで慣れた動きだった。背中を預けるのに欠片ほどのためらいもない。互いを信じきった絆があった。
「吹き荒れよ、<緑風刃りょくふうじん>。」
 フェレトの起こした風が、ケルベロスを切り刻む。蛇の毒も、風に散らされて届かない。
「切り裂け、<白光斬びゃっこうざん>。」
 アレクトの手から、光の刃が飛び、次々にケルベロスを射抜いて行く。
 闇に飛び交う、風と光の競演。
 ものの数分で、ケルベロスは全滅していた。
 フェレトとアレクトは、ぱちんと掌を合わせて、に、と笑った。

第三幕

 <星の塔>の南。実戦向けの修行場、<コロシアム>は、長く伸びた影を大地に描いている。
 西の空に浮かぶ雲は、桃色に染まり、東の空の青さには、藍色が混じり始めている。茜に燃える太陽が空を焦がし、もうしばらくすれば完全に沈む。
 こんな時間まで<コロシアム>を使う物好きは少ない。だからこそ、彼らはここに来た。
 大勢の観客の鑑賞に値するような、高度な戦いが繰り広げられていた。
「欺け、<幻白光げんはくこう>!」
 ディアスの魔法が、周囲の光景をぐにゃりと歪ませる。フェレトの視界から、ディアスの華奢な体躯がかき消える。
 光によって、見え方は変化する。光属性の魔法には、攻撃だけではなく、幻覚を見せるものもある。
 しかし、操れるのは視覚のみ。
「吹き荒れよ、<緑風刃>。」
 フェレトの放った風の刃は、まっすぐにディアスに向かってきた。
 フェレトにとって、気配でディアスのいる場所を特定することくらい、造作もない。
 全てを切り刻む、鋭利な刃に襲われる前に。
「防げ、<金剛壁>。」
 ディアスの周囲を、ダイヤの壁が覆う。硬質な輝きを放つ障壁は、あらゆる攻撃を無力化する。
 地属性魔法の中で、最高難度の防御魔法を、ディアスは完璧に発動させた。
 そして、お返しとばかりに。
「突き刺せ、<青氷槍せいひそう>!」
 ディアスの声に応え、空気中の水分が凍りつく。尖った槍の形となった氷の武器が、フェレトに向かって突き進む。
「吹き荒れよ、<緑風刃>。」
 フェレトは、片頬に笑みさえ浮かべて、防御ではなく、攻撃の魔法を放った。
 全てを切り刻む風の刃は、氷の槍を粉々に打ち砕いた。
 幾百にも分かたれた氷片は、夕日を受けてオレンジ色に輝きながら、乱反射する。
 風の刃は、勢いを失うことなく、そのままディアスを襲う。
「吹雪け、<蒼雪乱そうせつらん>!!」
 ディアスが、ぎりぎりで作りだした吹雪の壁は、<緑風刃>を相殺しきれなかった。威力を減じたとはいえ、風の刃はディアスの四肢に突き刺さる。
 鮮血が飛び散る。
 痛みに、ディアスの動きが鈍る。
 その隙を見逃さず、フェレトは間合いを詰める。
 濃緑のマントが、大きく風をはらみ、翼のように広がる。
 ディアスが、はっと気づいた時には、足を払われて背中から石畳に叩き付けられていた。
 ガン、と背骨に衝撃が走る。
 フェレトの長身が、ディアスの上に大きな影を落とした。
 きらりと夕日を弾く、左耳のピアス。
 青い瞳に、息を呑む自分の顔が映っているのが見える距離。
 フェレトの長い指が、トンと軽くディアスの胸を突いた。
「…参りました。」
 ディアスが、渋々告げる。
 拗ねたように唇を尖らせている自分が、瑠璃色の鏡に映っているのが気に入らない。
 ぷいっと顔を背けると、フェレトが、くっくっくと、喉の奥で意地悪く笑う。
 長身の美青年なのに、そんな表情だと、いたずら好きの悪ガキめいて見えた。
「不満たらたらってツラしてんな。」
 ディアスの心情など、フェレトには手にとるようにわかるのだろう。それもまた、ディアスを苛立たせる。
「いい加減、どいてください。」
 と、フェレトを押しのけようとしたが、びくともしなかった。体格差がまた癪にさわるディアスである。
 フェレトはひょいと身を起こし、
「オレに勝つ気でいるんだから、たいしたもんだぜ。」
 独り言のように言った。
 面白いガキだと思う。
 <星の塔>最強と謳われる<風の賢者>に、<アカデミア>を卒業して一月もたっていないディアスが、敵うはずもない。それなのに、負けたことを本気で悔しがっている。
 身の程知らず、と断じるのは簡単だ。だが、かわいい顔に似合わない、その負けん気の強さこそが、ディアスをいつか高みに導くだろうと、フェレトは思う。
(末が楽しみ…いや、末恐ろしいってヤツかな。)
と、サファイアの瞳を軽く細め。
「ほらよ。」
と、ディアスに手を差し出してやる。
 ディアスが、一瞬ためらった後、おずおずと重ねてきた白い手を、フェレトはぐい、とつかんで引き上げてやった。
 そこで。
 パチパチと、拍手の音がした。
「いいもの見せてもらったよ。さすが、卒業試験の優勝者だね、ディアスくん。」
 柔らかなに澄んだ、鈴の音のような声音だった。
 夕風に、まっすぐな漆黒の髪と、純白のマントがゆったりとなびいていた。笑みを含んだ、真紅の瞳が向けられている。
「いつから…。」
 ディアスは、ぎょっとした。目の前の戦いに集中していたせいか、全く気が付かなかった。
「けっこう最初の方からな。暇人だな、おまえ。」
 フェレトは、台詞の前半を弟子に、後半を親友に向けた。ついでのように、「こいつ、気配消すのうまいんだ。」とつけ加えたのは、ディアスへのフォローか。
 アレクトは、大きな目でフェレトをぎろりとにらむ。
「修行の邪魔しちゃ悪いと思って待っててあげたのに、それはないんじゃない?だいたい、フェレトが<元老院>からの指令、無視してるから、ボクが伝える羽目になってるんだけどっ!」
 見た目が愛らしいのでわかりにくいが、実は結構怒っていた。
 しかし、フェレトは気にしない。広い肩をすくめた。
「ジジイどもになんか、会いたくねーよ。すぐ説教になるし。」
「自業自得だよ。問題ばっかり起こしてるんだから。この前だって、半月も無断外泊するし。その間の会議も全部すっぽかすし。」
「手続きが面倒なんだよ。」
「自覚が足りないよ。わかってる?<星の塔>の守護が、賢者ボクたちの最重要任務!キミがいない間に何かあったらどうするつもりだったのさ。」
「何かあったら、おまえがオレを呼ぶだろ。」
「ボクはフェレトの呼び出し係じゃないんだけどっ。」
「いいじゃねーか、それくらい。オレとおまえの仲だろ。」
「ボクはいい加減、この腐れ縁を切りたいんだけどね。」
「…<光の賢者>様、ご用件はなんですか。」
 ディアスが口を挟んだのは、放っておくと、この二人は、賢者とは思えないような低レベルの会話を延々続けそうだったからである。
 アレクトは、ああ、と我に返る。
「フェレト、<元老院>から、正式に呼び出し。さすがに無視はやばいってわかってるよね?」
 フェレトは、顔をしかめて、がりがりと金髪を引っ掻く。
「うぜーな…。」
 だが、アレクトの忠告は聞き入れることにしたらしい。
「しょーがねーから行ってくるわ。」
「じゃあ、ディアスくんはボクが預かるよ。フェレトがいないと、<風の塔>に入れないだろ。」
 アレクトが、一歩ディアスに近づいた。
「悪ぃな。頼むわ。」
「了解。」
 ディアス本人は置き去りに、賢者二人の短い会話で処遇が決められてしまった。
 アレクトは、口では嫌がっているが、フェレトのフォローが板についている。長年の経験の積み重ね、というところだろうか。
 しかし、ディアスもべつに異存はない。
 賢者本人がいないと、その塔には入れない。ディアスは、<光の家>の奉仕活動を終えてからは、フェレトと共に<風の塔>で寝起きしている。<アカデミア>の寮は引き払ってしまったし、<風の塔>で生活することになったので、魔法使いの研究と生活の場である<天の輪>に部屋はもらっていないのだ。
 つまり、フェレトが<元老院>に行ってしまったら、ディアスは一晩過ごせるところがない。アレクトの申し出は大変ありがたいものだった。
「お世話になります。」
と頭を下げたディアスに、アレクトは朗らかに笑う。
「気にしないで。フェレトが、こういうときのことを考えて手を打っておかないのが悪いんだから。じゃあ、フェレト。お説教から解放されたら、ディアスくんを迎えに来てあげて。まあ、明日の朝になるだろうけどね~。」
 アレクトは、ディアスには優しく笑いかけるが、フェレトには辛辣だった。フェレトは、ムッとした顔をしつつも、アレクトの助けがないと困るので、毒づくことはせずに立ち去った。

 窓の外には、青い夕闇のカーテンが降りている。ほんの少し目を離していれば、あっという間に闇の色は藍から濃紺、そして漆黒へと変わってしまうだろう。これでも、春が近づき、日は長くなってきた方なのだが。
 ディアスは、<光の塔>の一室を見回す。
 アレクトは、ディアスと違い、何人か弟子を育てたことがある。賢者の弟子になるような魔法使いは優秀なので、独り立ちも早く、今、<光の塔>で暮らす弟子はいない。ディアスが泊めてもらうことになったのは、以前にアレクトの弟子が使っていた部屋だった。
 基本的な作りは、フェレトの<風の塔>と同じだが、余計なものが置いていない、殺風景なフェレトの塔とは違い、<光の塔>の内部には、いたるところに花が飾られている。
 ディアスが泊まるこの部屋にも、テーブルの中央には、花瓶からあふれんばかりに大輪の薔薇が活けられている。
生花だけではなく、ドライフラワーが壁につるされていたり、枕元やソファーにはポプリが置かれていたりする。部屋中香りに満たされていても、香水とは異なり、不快にはならなかった。
 光は、植物を育てるには不可欠。だから、光を司る賢者の役割の一つに、庭園の管理がある。そこで育てた植物を使って薬を作るのも、<光の賢者>の仕事だ。
「あいつ、昔からそーゆーの好きだったからぴったりだよな。」とはフェレトの言葉だ。確かに、ただの義務なら、塔中に花を飾りはしないだろうから、園芸は、アレクトの趣味でもあるのだろう。
「ディアスくん、開けてもらっていい?」
 ドアの向こうから呼びかけられ、ディアスが急いで開けると、ティーセットを抱えたアレクトが入って来た。
「お茶にしようよ。」
 にこ、と微笑むアレクトは、清楚とか可憐とか、そんな言葉が似合ってしまう愛らしさがある。力の強い魔法使いは、肉体の最盛期で成長が止まる。アレクトは二十歳前くらいから容姿が変わらないのだろう。フェレトと同い年だと聞いて、ディアスは驚いた。フェレトの方は、二十代半ばほどに見えるので、今は、実年齢よりやや若いくらいだ。
 ティーセットをテーブルに置いたアレクトは
「そろそろ窓をしめようよ。」
と、窓へ向かう。カチャリと錠まで下ろす白い手も、フェレトと比べるとずいぶん小さい。肩幅や背丈も、まだ十代半ばで成長過程にあるディアスとさほど変わらない。
 フェレトが颯爽と翻す賢者のマントも、アレクトの細い肩にはやや重そうに見える。
 アレクトが淹れてくれたのは、リンゴに似た、爽やかで甘い香りのするハーブティーだった。
「カミモールだよ。安眠効果があるから、就寝前にはぴったりでしょう。」
と、差し出される。
 ほのかで優しい甘みは、確かに心が落ち着く作用がありそうだった。
「ありがとうございます、<光の賢者>様。」
と礼を言うディアスに、アレクトはいたずらっぽい視線を向けてくる。
「考えていること、当ててあげようか?」
 くすくすと、楽しそうに、アレクトは笑みをこぼす。
「フェレトと全然違うって、思ってるでしょう?」
「…はい。」
「言っとくけど、ボクが普通なんだよ?キミの師匠は、<星の塔>一の問題児だからね。今頃、たっぷり搾られてるはずだけど、フェレトだからなー、たぶん全然反省はしてないよねー。」
 笑うとさらに若く見える。<光の賢者>で、一宿一飯の恩がある。さらに、さっきの戦いで負った怪我も治してもらった。その上、フェレトの親友。しかし、相手が誰でも、付き合いで笑う愛想がないディアスは、無言だ。
 少しは角がとれてきたが、基本的に高慢で慇懃無礼なディアスだった。
 アレクトは構わず、カップを片手に話し続ける。
「<アカデミア>の頃から、とんでもないことばっかりやっててねー。『駄目だって言われると行きたくなるだろ。』って、<元老院>に忍び込んだこともあるし、『態度が生意気だ。』と因縁をつけてきた上級生を1ダースほどまとめてぶっとばしたこともあるんだよ。その時、『やりすぎだ。』って叱られても、『稽古をつけてやったんだ。』と反省の色が全くなかったから、しかけてきた上級生と同じように懲罰房行き。」
 身振り手振りを交え、臨場感たっぷりに話すアレクト。無駄にフェレトの声真似がうまい。ハーブティーも、そこらの店で出されるものよりはるかに美味だった。いろいろと器用な人だなと、ディアスは思う。
「まあ、一番とんでもなかったのは、<黒き魔性の森>で捕まえてきた、天馬ペガサス一角獣ユニコーン水生馬ケルピーを校庭で競争させたことかなあ。さらに、どれが速いかで賭け事。あれには、ウルカヌス先生が、本気でぶち切れたんだよ。」
 ディアスは、え、と腰を浮かした。
 あの温厚で誠実で、誰にでも声を荒げることなく穏やかに諭す、ウルカヌス教授が。
 ディアスの表情から、言いたいことを正しく読み取り、アレクトは言葉を足す。
「だって、どれも高位の魔獣だよ。暴れ出したら、相当の被害が出る。ウルカヌス先生は、生徒を危険に晒す行為には、容赦しないよ。」
 ディアスは納得した。確かに、ウルカヌスは、教育者の鑑だ。
「フェレトは、『ちゃんと手なずけたから大丈夫だ。』って言い張って、反省してなかったけどね。ウルカヌス先生が、誰かを怒鳴りつけなのを見たのは、あれが最初で最後だったよ。もう二度と見たくないね。怖すぎる。」
 アレクトは、当時を思い出したのか、渋い顔で、お茶を一口すする。
 ディアスは、昔から無茶ばかりやっていたフェレトに、めまいを覚える。
「考えてみれば、フェレトさま、よく賢者になれましたね…。」
 カチャ、と食器が音をたてた。
 アレクトが、カップをソーサーにもどした音。
 すうっと、ガーネットの双眸をすがめる。突然、まとう空気が温度を下げたような気がした。
 アレクトの視線は、テーブルに生けられた、大輪の薔薇に向けられている。
 真っ蒼な薔薇。空のように澄んだ、海のように深い青。
 カミモールのリンゴに似た香りに混じって、薔薇が甘く清しく匂い立つ。
「強いからだよ。」
 その、響きは。
 吐き捨てるような、突き放すような。
 それなのに、うっとりと夢見るような、焦がれるような。
「フェレトと戦ったキミは、その強さを肌で感じただろう?」
 うっすらと、朱をさしたような唇が笑みを刷く。
(あんなのは、フェレトさまにとって、稽古をつけてるだけで、全然本気なんかじゃないけれど。)
 弟子になる前に戦いを挑んだ時だって、相当手加減されていた…というより遊ばれていただけなのが、今ではよくわかっている。
 それでも、対峙したからこそわかる。絶対的な、圧倒的な、格の違いとでも言うべきものが。
 ディアスは、フェレトの攻撃を防御の魔法で防ぎ、その後、新たに発動させた魔法で攻撃した。
 フェレトは、防御のために放った魔法が、そのまま相手への攻撃に転じる。相手の攻撃を防いでも、魔法が威力を維持しているからこそ可能な力技。
「実力主義だからね、<星の塔>ここは。フェレトは、誰よりも強い。だから、素行の悪さも多少のわがままも許される。統治機関の<元老院>にさえも、平気で逆らえる。」
 アレクト自身が、類まれなる力をもつ魔法使いだからこそ、フェレトの実力がわかるのだろう。
 淡々とした口調の奥に、どんな感情が揺れているのか、ディアスにはわからない。
 非難?嫉妬?羨望?賞賛?憧憬?
 窓の外の夕闇だけが、次第にその濃度を増していきー同時に、空気がぴりぴりと張り詰めていく。
 緊張の糸をぷつん、と断ち切るように。アレクトが問いかけた。
「だからキミは、フェレトを選んだんだろう?」
 ディアスは、真正面からアレクトを見据えた。礼儀をかなぐり捨てて、にらみつける、という表現がふさわしいほどの烈しさで。
「はい。だけど、今のオレは。」
 誇り高く顔を上げ、堂々と宣言する。譲れない、揺るがない思いで。
「魔法だけが、フェレトさまの強さではないと、知っています。」
 アレクトは、ふわりと微笑む。今までとは真逆の、どこか儚げとも見える表情で。空の青さに溶けゆく虹の、最後の煌めきに似ている…。
「ありがとう。フェレトをわかってくれて。」
 切ないほどに綺麗な笑みは、こんなに間近にあるのに、なぜか遠い。
「フェレトの弟子が、キミでよかった。」
 澄み切った、鈴の音のような声は、いつまでもディアスの耳に残った。

「そろそろお暇するね。」
と、立ち上がったアレクトに、ディアスはふと尋ねる。
「そう言えば、フェレトさまは、<元老院>に泊まるんですか?」
「たぶんね。未提出の書類、徹夜で書かされるんじゃない?フェレトは、滅多に<元老院>に出向かないから、この機会を逃すと、次はいつになるかわからないって、おじいサマ方も必死なんだよ。」
 と、アレクトは、<元老院>に多少は同情している。フェレトに振り回されている、という点は同じだからか。
 権威に敬意を払わないディアスからすると、<元老院>と賢者の塔は、異空間回廊でつながっているのだから、用があるならそっちから出向け、と思ってしまう。<元老院>としては、好き勝手やらかす<風の賢者>を呼びつけることで、かろうじて体面を保っているのだろうが。
「フェレトの書類は半分以上、始末書なんだけどねー。」
 くすくす笑うアレクトの顔には、さきほどまでとは違って、陰りはない。罪のない悪戯に興じる子どもの無邪気さで白い歯を見せている。
「明日フェレトが帰ってきたら、ねぎらってやって、ディアスくん。じゃあ。」
 アレクトは立ち上がり、部屋のドアに手をかける。
 肩ごしに振り向いた。さら、と闇色の横髪が揺れて、艶やかに光る。
 軽く小首をかしげたアレクトは、いつも以上に若く見えた。十以上年下のディアスの目にさえ、幼く映ったほどに。
(<光の賢者>様…?)
 アレクトの頼りなげな様子に、ディアスは胸が騒いだ。
 それは、散る寸前の花を目にしたときのような、どうしようもない焦燥に似て。
「おやすみ、ディアスくん。」
 雫をこぼすような笑み一つを残して。
 アレクトの姿は、扉の向こうに消えた。

 目を覚ましたディアスは、かすかな違和感に、(ああ、ここは<光の塔>か。)と思い出す。アレクトが淹れてくれた、安眠効果のあるハーブティーのおかげか、ずいぶん深く眠った気がする。
 しかし、空はどんよりと曇った、鈍色をしている。ここ数日、日射しが明るさを増し、春本番のような陽気だったのに、真冬に逆戻りしたように肌寒い。今にも泣き出しそうに、低く重くたれこめた雲。なんとなく、憂鬱な日になりそうな予感がした。
 テーブルの上の青い薔薇が、今日の空とは対照的な鮮やかさで、ほのかに漂う甘い香りが心を落ち着かせてくれた。
 ディアスは、身支度を済ませ、アレクトの寝室へ向かう。
 コンコンと軽くノックして呼びかける。
「<光の賢者>様、お目覚めですか。」
 反応がない。フェレトと違って、規則正しい生活を送っていそうなのに、とディアスは首をかしげた。
(フェレトさまが迎えに来てくれるのを待つしかないか。)
 賢者は、自分の塔以外にも入れる。もちろん、礼儀に反するので、よほど親しい仲か、非常事態でもなければ勝手に入るようなことはない。しかし、フェレトとアレクトは、互いに遠慮なく出入りしているのを、<風の塔>で暮らし始めたディアスは知っている。
 しかし、フェレトはいつ来るかわからないので、ディアスは、もう一度ノックしてみた。
 ノックの拍子に、強く扉を押してしまったらしい。
 キイ、と木の軋む音をさせて、ドアが内側に開いた。
 すうっと流れこんでくる、覚えのある甘い香り。これは、おそらくディアスの泊まった部屋にも活けられていた、青い薔薇の芳香だ。甘い中にも、きりっと冷たい冬に似た気配を漂わせている。
(鍵がかかっていないのか…。)
「失礼し…。」
と、一歩部屋に踏み入ったディアスの声が、凍りついて途切れた。
 世界が停止する。
 鈍器で殴られたような衝撃に、膝から崩れ落ちた。
 がん、と打ちつけたはずの膝に、けれど痛みを感じない。
 心臓が早鐘を打つ。
 息が苦しい。呼吸のしかたを忘れたように、うまく空気が吸えない。
「うそだ…!!」
 夢だと思った。とびっきりの、最悪の悪夢。早くさめてほしいと、それだけしか考えられなくなる。
 <光の賢者>、アレクト・エリニュスは、鮮血の海に沈んでいた。
 真っ赤に染まったベッドに、その四肢を横たえて。
 ベッドからは、シーツが吸いきれなかった血が、ポタポタと滴り落ちて、絨毯に血だまりを作っている。
 壁に飛び散った血飛沫は、床に向かって流れ落ち、そのまま乾いていた。
 まるで眠っているかのように、穏やかな表情。
 けれど、すでに息がないことは、火を見るより明らか。
 成人男性にしては、ずいぶん細い、その白い首は。
 完全に胴と切り離されて。
 頭部が床に転がっていたからー。
「勝手に入るぜ、アレク。ディアス、どこだ?迎えに来たぜ。」
 遠くで、フェレトの声。
 幻聴のようで。
 まるで現実感がないー。
 聞き慣れたフェレトの足音が近づき、それが凍りついたように停止し。
 直後、フェレトが親友の亡骸に駆け寄った。
「アレクッ!!」
 それは、ディアスが初めて聞いた、師の悲鳴。
 それに重なって。
 ボッと、炎の吹き出す音。
 天井まで焦がす火柱が立った。
 <光の賢者>の遺体は、瞬時に紅蓮の炎に包まれて、焼け落ちた。
 一瞬だった。消しとめるための魔法を放つ暇もなく。
 骨の一片、髪一筋すら残さずに。
 フェレトとディアスの眼前で。

 フェレトは、ガン、と拳を壁に叩き付けた。壁にひびが入る。拳の骨も砕けたかもしれない。けれど、目の前が真っ赤に染まるほどの憤怒に、痛みなど感じない。
 見る者全てを震え上がらせる、凄まじい殺気を宿した両目が、虚空を突き刺す。
「畜生っ…。」
 地獄の底から響くような、低い声で吐き捨てた。
 フェレトは、大きく深呼吸した。鋼の精神で激情を押さえつけ、弟子を振り返った。
 ディアスは、顔面蒼白で座り込んでいる。
 今にも気を失いそうな様子だった。もともと白皙の肌からは、血の気が完全に失せている。
 フェレトは、弟子の前に膝をついた。
「ディアス。」
 名前を呼ぶと、ゆっくりと顔が上がる。ふだんのディアスからはほど遠い、緩慢な仕草。横髪が一筋頬にかかるのを払うこともしなかった。おそらく、気づく余裕もない。
 フェレトが、ディアスの両肩に手を置く。驚くほど細い肩は、小刻みに震えていた。
「大丈夫か。」
 視線を合わせてささやくと、紫の瞳にようやく、かすかな光が灯った。
「フェレトさまっ!フェレトさまっ、どうして、こんなっ。」
「…わからねえよ。」
 沈痛な表情で首をふったフェレトに、ディアスはハッとする。
(オレは何を甘えているんだ!)
 アレクトは、フェレトの親友だった。衝撃を受け、打ちのめされているのはフェレトだ。
(オレが今、フェレトさまにすがってどうするんだ!!)
「フェレトさま。」
 ディアスが言いかけた時。
 寝室の床が輝いた。
 人一人が立てるほどの大きさの、円の形に。
 そして、その中に複雑な図形や紋章が、いくつも描き出される。
 異空間回廊を開く、特別な魔法だった。
「<元老院>か?」
 フェレトが呟く。
 しかし、光が消えた時、円があった場所に立っていたのは、ディアスもよく知る人物だった。
 異空間回廊が閉じた余波のかすかな風で、襟足の長い栗色の髪が、一瞬ふわりと浮き上がった。
 穏やかで優しかった飴色の瞳が、今は別人のように険しい。
 一歩こちらに踏み出したことで、まとっている濃紅色の重厚なマントが、ゆったりと揺れる。
「ウルカヌス先生…なんであんたが、異空間回廊を…それに、そのマントは。」
 異空間回廊は、<元老院>と賢者にしか使えない。
 マントをまとうことが許されるのは、賢者のみ。
 そして、濃紅のマントは、現在空位のはずの…。
 フェレトには、薄々状況がわかってきた。
「あんたは、<火の賢者>なのか。」
 ウルカヌス・ヘパイトは、消しきれない憂いを帯びた眼差しを、二人の教え子に向けた。
「ええ。できれば、引退するまで隠しておきたかったのですが…。」
 フェレトは、ディアスから手を離して立ち上がる。一歩前に出て、ウルカヌスと対峙した。
 反射的に、ウルカヌスの視線から、弟子を隠していた。
 今のウルカヌスの、何かを切り捨てた非情な視線に、ディアスを晒したくなかった。
「<火の賢者>が空位、ってのは偽りか?」
「はい。<火の賢者>の役割は特殊。それゆえに、通常はいないことになっているのです。」
 ウルカヌスの声音にも、いつもの暖かさはない。
「火の役割は、罪人を焼き清めること。大罪を犯した魔法使いを裁くときにのみ、<火の賢者>の存在が公になる。」
「大罪だと!?」
 フェレトが、きつく眉根を寄せた。冷静でいられない状況で、一度明かされた情報が多すぎる。思考がうまく働かない。けれど、崖っぷちに立たされているのはわかる。
 ウルカヌスは、一片の容赦もない声で告げた。
「ディアス・パレルを、<光の賢者>殺害容疑で拘束します。」

「…ふざけるなよ。」
 怒りを低く押し殺した、地を這うような声は、ディアスではなく、フェレトが発したもの。
 ディアスは、状況もウルカヌスの言葉も頭に入りきらなかった。ただ呆然と座り込んだまま。
 それも無理のないことだった。いくら天才と称されていても、ディアスは十五の少年だった。
 ディアスを現実に引き戻したのは、
「こいつが、アレクを殺しただと?笑えねえ冗談だ。」
 剣を一閃するがごとく。はっきりと放たれたフェレトの声に、ディアスへの疑いは、一滴たりとも含まれていなかったこと。
(フェレトさま。)
 夜明けの空の瞳が、輝きを取り戻していく。
 ウルカヌスは、フェレトの見幕に、憐れみを含んだ眼差しを向けた。
「<風の賢者>。」
 あえて、そう呼びかけた。
「私も、信じたくはありません。ですが、状況から導き出される真実から、目を反らすわけにはいきません。」
 丁寧な物言いだけが、常と変わらぬもの。それがかえって、声の冷徹さを際立たせる。
「昨夜から今朝にかけて、この<光の塔>にいたのは、<光の賢者>とディアス・パレルのみ。貴方に説明するまでもないことですが、賢者の塔を開けられるのは、賢者のみ。<元老院>の方々が、異空間回廊を使用した記録もありません。<光の賢者>を殺せたのは、ディアス・パレルしかいないのです。さらに。」
 ウルカヌスは、すっと、部屋の姿見を指さした。
 縁に細かな装飾のある上品な鏡には、見覚えがある。賢者の塔の全てに同じ鏡があるからだ。異空間回廊と同様、魔法を組み込まれた特別な品だ。
 離れた場所を映し出す鏡。
「地、闇、水の賢者、それぞれの塔の鏡に、光の賢者の遺体が映し出されました。おそらく、火と風の塔の鏡にも。その鏡に、文字が浮かびました。殺したのは、ディアス・パレルだと。こんな真似ができるのは、相当高位の魔法使いでしょう。何者の仕業かは、現在調査中ですが、何らかの形でディアス・パレルの犯行を知った魔法使いが匿名で知らせたものと。」
「うるせえ!!」
 フェレトが大喝した。
 サファイアの双眸は、激怒を通り越して、殺気を帯びる。
「百万の証拠があろうが、オレは認めねえ!!」
 ディアスを背中にかばい、フェレトは一歩も引かない。
 ウルカヌスが、重いため息をついた。
「…困りましたね。手荒な真似はしたくないのですが…。」
 一触即発の空気が生まれる。
 賢者どうしの対峙は、空気が張り裂けそうな緊張を孕む。
 それを破ったのは。
 金髪をさらりと揺らして立ち上がったディアス。
「フェレトさま、オレは、ウルカヌス教授と…<火の賢者>様と行きます。」
「ディアス!?」
 瞠目したフェレトに一礼し、ディアスは、堂々と、ウルカヌスの前に進み出た。
 ここで、<火の賢者>とことを構えれば、フェレトの立場は確実に悪くなる。
(フェレトさまに、ご迷惑はかけられない。)
 フェレトは、信じてくれた。露ほども疑わなかった。
 それがディアスの支え。
 漆黒の闇すら照らす光。
「オレは、<光の賢者>様を殺してなどいません。だから、逃げも隠れもしません。」
 その瞳に、絶望はない。

 ピチャン、ピチャン…という、水滴が石の床を叩く音で目が覚めた。
 地下牢は、今が昼なのか夜なのかさえ分からない。
 投獄されてから五日目の朝のはずだが、食事の回数を手掛かりにしているだけなので、正しいという保証はない。
 地下牢は広いが、囚人はディアスただ一人で、会話をする相手もいない。
 待遇は、最悪だった。
 一枚の敷布さえ与えられず、石の床に直接寝ることも、常に鎖つきの手枷がはめられたままなのも、以前のディアスなら耐えられなかっただろう。
 ディアスが何とか正気を保っていられるのは、<黒き魔性の森>で過ごした1週間があったから。そして…。
(しかし、またこれか。)
 首には、<黒封環こくふうかん>が禍々しい輝きを放ち、存在を主張している。
 フェレトにはめられた時は、ディアスが本気を出せば簡単に壊れる強度だったが、今回は何度試しても、ひび一つ入らない。魔法使いを裁く立場にある<火の賢者>が、全身全霊でかけただけのことはある。
 かつん、カツン…と靴底が石の床を叩く音。
 ディアスの前で泊まった足音の主は、鉄格子の向こうから、感情を排した視線を投げる。
「おはようございます、<火の賢者>様。」
 ディアスは、顔を上げ、堂々と言う。
「毎日尋問ご苦労様です。でも、オレは何も知りませんよ。」
 焦燥の影もなく、不敵に生意気に、慇懃無礼に言い放つ。
 それはかつて、ウルカヌスの講義において、難易度の高い問いを向けられても、すらすらと答えていたディアスと、表面上は同じだったが、その奥にあるものは、明らかに違う。
 あの時にはなかった、逆境においてもくじけない、たくましくしなやかな心。
(フェレトさまは、オレを信じてくれた。)
 その事実が、ディアスを支えている。
 ウルカヌスは、あえてその成長を無視する。感情を殺して、幾度も繰り返した詰問を再び口にする。
「…今度こそ答えてください。ディアス・パレル。<光の賢者>を殺しましたね。」
「いいえ。」
 ディアスは即座に否定する。
 認めれば、刑が軽くなる可能性があることはわかっている。あの状況なら、疑われて当然だということも。
 それでも言い続けるのは、意地だ。フェレトが信じてくれたから、張り続けていられる。
「…そうですか。」
 ウルカヌスは、目を伏せる。
「あなたの処刑が決まりました。明日の正午です。」
 ディアスの白い頬が、びくりと固まった。それだけだった。
「裁判もなく、投獄から1週間も待たずに死刑ですか。とっとと、犯人を処刑して、動揺が広まるのを避けたいという政治判断ですか。」
 賢者は、<星の塔>の至宝。それが殺害され、<星の塔>の権威は揺らぎかけている。すぐにでも事件を「解決」したことを、内外にアピールしたいという<元老院>の思惑を、ディアスは見抜いていた。
 その明晰な頭脳は、状況が絶望的であることも悟ってしまう。
 平然と言ってのけたが、虚勢だとばれているのはわかっていた。
 声も、手も震えている。
 両手首を拘束する手枷の鎖がこすれて、音が鳴る。
 それでも俯かない。
 怖いなんて、口が裂けても言わない。
 愚かな強がりでしかなくても、貫き通してやると、決めていた。
 フェレトの弟子としての、それがディアスの矜持。

 フェレトは、<元老院>での謹慎を命じられていた。
 ディアスが、ウルカヌスに連行された後、<元老院>に乗り込んで抗議し、それを却下されると派手に暴れたせいである。
 ウルカヌスを含む、残りの賢者たちが駆けつけ、<元老院>に属する熟練の魔法使いも総出でフェレトを抑え込んだ。
 現在、フェレトの身柄は、<元老院>の最奥の部屋にある。部屋の内側には、地、水、火、闇の賢者が、四人がかりの結界が張られている。いくらフェレトでも、破るのは骨が折れそうだった。
 しかし、フェレトはあきらめるつもりは毛頭ない。
 だからこそ、今は、その時ではないと、フェレトは理解している。
 焦れば本当に、ディアスを助けられなくなる。そして、アレクトの死の真相もわからないままだ。それについては、フェレトは何か引っかかるものを感じていた。具体的に何が、とまではまだ見えてこないのだが…。
 血の海に横たわるアレクト。その傍らに、真っ蒼な顔で座り込んでいたディアス。いつもの勝気さは欠片もなく、崩れ落ちそうな、儚く溶けゆく雪のような姿だった。
(ディアス…。)
 生意気なクソガキだと思っていた。
 挑発的で、慇懃無礼。魔法の才能を鼻にかけて、自信たっぷりだけれど、狭い世界しか知らない子ども。
 けれど、放っておけなかった。
 強さだけを求めるその姿が、昔の自分にそっくりだったからー。
 だからこそ、ディアスが少しずつ心を開いて、笑うようになったことが、フェレトには本当にうれしいのだ。固い蕾が春の日射しのほころんでいくのを見るようで。
(あきらめるなよ、ディアス。絶対に助ける…!)
 今すぐ、何もかもぶち壊したくなる衝動を、フェレトは必死で抑える。
 常日頃、<元老院>に反抗して、好き放題やらかしていても、フェレトは<星の塔>を侮ってはいない。ここまで大きな組織に、自分一人で立ち向かうのは、不可能ではないが、うかつな真似もできないと。
 ぎり、と奥歯をかみしめた時。
 ギイ、と音がして、扉が細く開いた。隙間に体を滑り込ませるように入ってきた魔法使いが、見張り役に、二言、三言ささやく。交代の時間なのか、今までいた見張りは出て行った。
「<風の賢者>様。」
 新たに見張りについたのは、少年の面影を色濃く残した、年若い魔法使いだった。彼は、ひそめた声でフェレトに呼びかけた。
「面会したいと訴えている者を連れて参りました。」
「<元老院>のジジイなら断るぜ。」
「フェレト兄、オレだよ!!」
 フェレトは瞠目した。
「ラレス!」
 フェレトが呼んだことを了承と受け取り、見張り役の魔法使いは、扉を開ける。
 ラレスが、転がり込むような勢いで、飛びこんで来た。
「フェレト兄、アレクト兄が殺されたって…ディアスが捕まったって本当なのか!?」
 悲鳴のような絶叫。
「…ああ、本当だ。」
 フェレトが、重い息を吐きながら肯定すると、
「そんな。」
 ラレスは絶句して膝から崩れ落ちた。
「ラレスっ。」
 フェレトが叫ぶ。
 助け起こしてやりたくても、フェレトの周囲には、透明な壁が強固に立ちはだかっていて、それは叶わない。
 ラレスは、唇を引き結び、必死で感情をこらえようとしている。
 フェレトと共に<光の家>を訪れるアレクトを、ラレスはフェレトと同じくらいに慕っていた。忙しい任務の合間を縫って顔を見せるアレクトは、魔法の手ほどきや、取り組んでいる課題についての助言をしてくれた。
 優しく穏やかで頼れる大人だけれど、無邪気で茶目っ気があって、一緒に過ごすのはとても楽しかった。小さな子たちと一緒になって、フェレトにたわいない悪戯をしかけて、笑い転げていた。
 アレクトが、フェレトに対してだけ怒りっぽくなるところが、逆に彼らの親密さを物語るようで。
 ラレスにとって、フェレトとアレクトは、対の存在だった。二人で一緒にいるのが自然で、当たり前の。
「アレクト兄っ…。」
 こらえきれずに、ぽたっと、ラレスの膝に涙がこぼれ落ちた。
 フェレトは、何もしてやれない自分に歯噛みする。
 忌々しい障壁は、透明でありながら、きらきらと輝き、その存在を見せつける。<光の塔>の最高位、賢者四人がかりの結界。強度は、金剛石をはるかに凌ぐ。
 ラレスの涙をぬぐうことも、手を差し伸べることもできない。
 今のフェレトにできることは、たった一つ。
「ラレス。犯人は、ディアスじゃねえよ。」
 ラレスが、顔を上げた。涙を手の甲でぬぐう。
「…わかってる。」
 涙声だったが、その声には力がこもっていた。
「ディアスが、アレクト兄を殺すなんて有り得ない。だって、あいつは、オレたちを助けることを選んだんだから。」
 <黒封環>が、粉々に砕け散ったときの音を、覚えている。
 ディアスは、自分自身がフェレトとのつながりを失うことを覚悟して、フェレトの大切なものを守った。
 そんなディアスが、フェレトの親友を殺すはずがない。
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と、フェレトが障壁のぎりぎりまで近づいた。
 ラレスも立ち上がる。透明な壁一枚を挟んで、フェレトと向き合った。
「みんなを頼む。」
 短い言葉が、ずん、と重みをもってラレスの耳に落ちた。
 それだけで、ラレスには全てわかってしまう。
 フェレトの選択が。
 フェレトの覚悟が。
「任せてくれよ。」
 ラレスは、全てを受け止めて、微笑んだ。涙の痕が残る頬で。
 自分は、一人ぼっちじゃない。ずっと一緒に育ってきた仲間がいる。フェレトとの思い出を共有する兄弟が。
 もう二度とフェレトに会えなくなったとしても、フェレトが築いたものは、揺らがない。
 抱きしめたぬくもりが消えても、その胸に確かなものを残せるように、フェレトはラレスたちを慈しんでくれた。
 だから、ディアスのために捨てられるなんて思わない。誰にも、そんなことは言わせない。
 一番辛いのが誰なのか知っている。
 フェレトは、この選択に躊躇しなかっただろう。結果に後悔はしないだろう。
 フェレトは、痛みに耐えて、先に進む。
 だから、ラレスはディアスを恨まないでいられる。
 あの時、ディアスを騙すために言った言葉に、もしかしたら本音が隠れていたのかもしれない。
 でも今は。
(おまえは、大好きなフェレト兄の大事な弟子で、オレの大切な友達だ。)
 だから絶対に死ぬなと、痛切に願う。
 何が正しいかなんて知らない。友達が死ぬのを認めるような正義なんかいらないー。

 ラレスは、若い魔法使いに伴われて出て行った。
 しばらくしてもどって来た魔法使いに、フェレトは声をかける。
「ラレスを入れてよかったのか?」
「…私も、<光の家>の出身なのです。」
 フェレトがかすかに目を見開く。
「あの子に、『どうしてもフェレト兄に会いたい。』と泣きつかれて、無下にはできませんでした。」
 青年と呼ぶには、線が細い、年若い魔法使いは顔を上げて、フェレトを見上げた。
「<風の賢者>様。」
 呼びかける声は真摯だった。
「貴方が、各地の<光の家>に多額の喜捨を行っていることは存じております。」
 この魔法使いの歳は、フェレトと十も離れていない。彼自身が恩恵に与かったかどうかはわからない。
「あの子に話を聞き、私もディアス・パレルという少年が、<光の賢者>様を手にかけたとは思えなくなりました。…しかし、私には、<元老院>の決定に逆らうことなどできません。せめて、私にできることをさせていただきたかったのです。…この程度のことしかできないことをお詫びします。」
 フェレトは、首を振った。
 金髪が揺れ、光をこぼす。
「恩に着る。」
 鮮やかに微笑んだ、<風の賢者>は、眩いほどに輝きを放っていた。

(明日になったら、オレは死ぬ?)
 ディアスは、無意識のうちに口元を押さえた。ジャラと、手枷につけられた鎖が、耳障りな音をたてる。胃はほぼ空で、吐くものなどないのに、吐き気だけがこみ上げてくる。
 恐怖が、それ以外の感覚を麻痺させていく。
 石の床は冷え切っているはずなのに、寒さを感じない。一日に、コップ一杯の水と、具のないスープ一皿しか与えられていないのに、飢えも乾きも遠い。
 真っ白な、空っぽな、虚無。
 世界から切り離されたようなー。
「眠れませんか?」
 ディアスは、ハッと現実に引き戻された。
 身をかがめて鉄格子をつかみ、薄茶の瞳でのぞきこんでくる相手と、目が合った。
 波一つたたない凪の海のような。曇り一つない鏡面のような。
 感情の読めない目。
「ウルカヌス教授…。」
 いつの間に、とディアスは思った。足音も気配も感じなかった。そして、なぜ、とも思う。既に処刑は決定され、今さら自白を引き出す必要もない。
「怖いですか?」
「べつに。」
 ディアスは、そっぽを向いた。相手が誰でも、弱みを見せるのは大嫌いだ。
「感覚が麻痺しているみたいで、妙に冷静ですよ。」
 半分本音の強がりに。
 ウルカヌスは何故かー。
 にっこりと笑った。
(-え?)
 ディアスは、ぎょっとして息を止めた。こんな状況で笑う人じゃないはず。
「痛みでもどるかもしれませんね、感覚。」
 寒気がするほど綺麗な笑顔で。
「切り裂け、<白光斬びゃっこうざん>。」
 ザンッ!ドスッ!ザシュッ!
 光が刃と化して、ディアスの四肢を抉った。
「っ…。」
 全て急所は外れている。命に関わるほどの傷ではない。
 しかし、かすり傷と言えるほどの浅手でもない。どくどくと鮮血が滴り落ちて、石の床を叩く。
 痛みよりも驚愕で、ディアスは呆然とウルカヌスを見上げた。
 この数日、尋問はされた。しかし、拷問どころか一度も手を上げられたことはない。なぜ、今になって。
「ウルカヌス教授…?」
 ウルカヌスは、氷のような眼差しで、ディアスを見下ろし。
 鉄格子の隙間から手を入れて、ディアスの金髪も触れた。ぐい、と乱暴に引っ張る。ぶち、と数本抜けて、床に散った。
「痛いですか?治してあげてもいいですよ。ここから出してあげてもいい。キミが、全ては<風の賢者>の指示だったと、そう一言証言してくれるなら。」
 ディアスは、キッとにらみつける。突き刺すような視線で。
 なぜ、ウルカヌスが突然こんなことを言い出したのか、全く意図が読めない。ウルカヌスには、何度も尋問されたが、フェレトとの関わりなど、今の今まで指摘されたことはない。
 だが、意図が読めずとも、ディアスの答えは一つ。
「お断りします。」
 ウルカヌスは、満足そうに微笑んだ。鳥肌が立つほど残忍な、暗い愉悦に染まった笑み。
「…よく似てる。」
 誰が、誰に?ディアスには、意味がわからない。
 ウルカヌスは、パッと手を離した。
 ディアスは、両手をついて体を支える。鎖が金属音をたてた。
 ウルカヌスは、濃紅のマントを翻して踵を返す。歩き去る背中に。
「おまえは、誰だ…?ウルカヌス教授じゃないな。」
 ディアスが、低く問いかけた。
 ウルカヌスの足が止まる。
 これは、ウルカヌスではない。
 ディアスは、確信していた。
 外見は、どう見ても、ウルカヌス・ヘパイトその人だ。見慣れた教授の姿。笑うとかすかに目じりに寄る皺も、優しげな薄茶の瞳も、亜麻色の髪一筋に至るまで。
 だが違う。
 ウルカヌスは、職務に忠実であろうとしていたが、教え子を投獄していることに、心を痛めていた。
状況から、ディアスがアレクトを殺したことは間違いがないと理性が認めていても、感情は納得していないのが伝わってきた。
 同時に、アレクトの死に打ちのめされているのもわかった。
 だが、今のウルカヌスは、そんな葛藤とは無縁の、冷たく残虐な笑みを浮かべていた。
 抵抗できない相手を、一方的に痛めつけて笑えるような人ではないのに。
 ディアスは、己の目よりも、心を信じた。自分のよく知るウルカヌスの人柄を。
 ウルカヌスは、肩ごしに振り返る。さらりと揺れる、鳶色の髪。
「おもしろいことを言いますね。では、当ててごらんなさい。あなたの目の前にいるのは、誰でしょう?」
 視線が絡んだ。息の詰まる数瞬。
 先に目を反らしたのは、ウルカヌスだった。
「もう、おやすみなさい。せめて、最後の夜に、いい夢を。」
 歌うように告げた唇が、魔法を紡ぐ。
「眠りにいざなえ、<黒幻夢こくげんむ>。」
 抵抗する術はなく、ディアスの意識は闇に沈んだ。

「ディアス、おい、しっかりしろ、ディアス!!」
 夢の中で、誰かに呼ばれた。一番聞きたかった声。だけど、たぶん、違うと否定する。
(あの人は、こんな切羽詰まった声で、オレを呼ばない…。)
 いつだって余裕があって、大胆不敵でー。
 だからディアスは、目を開けたときも、夢の続きか幻覚かと思った。半信半疑のまま
「フェレトさま…?」
と、おそるおそる呼びかける。消えてしまうのを危惧したように。
 フェレトは、ディアスが目を覚ましたことに安堵したように、少し肩の力を抜く。
「血まみれで倒れてるんじゃねーよ。死んだかと思って焦った。」
「勝手に殺さないでください。」
 反射的に言い返し、はたと我に返る。
「フェレトさまが、どうして、ここに…。」
 投獄された日、ウルカヌスから聞いていた。フェレトは、<元老院>で拘束されていると。賢者四人がかりの結界は、フェレトでも破れないと。
「<黒影翔こくえいしょう>。魂だけ飛ばした。」
 ディアスは、フェレトの姿を凝視する。
 フェレトが背にしている鉄格子が、透けている。実体のない幻…。
「悪いな。」
 心をそっと包み込む声。泣きたくなるほど優しい瞳で見つめられた。
「今は出してやれねえけど、必ず助ける。力づくでもな。」
「何を言っているんです…。」
 熱いものがこみ上げて、言葉が途切れた。
「そんなことしたら、最悪、同罪ですよ。少なくても、<風の賢者>の位は剥奪されます。」
(フェレトさまに迷惑をかけたくないから、大人しくつかまったのに。)
 自分のせいで、<星の塔>最強の魔法使い、フェレト・リウスの名が穢れるのは嫌だ。弟子が<光の賢者>を殺害したことになって、その名に傷がついたはず。もう、これ以上は。
「馬鹿。」
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 ディアスは、カッと頭に血が上る。
「誰が馬鹿ですかっ!オレはフェレトさまにこれ以上。」
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「…ごめんな。」
 フェレトが呟く。
 今のフェレトは、魂だけの存在。魔法は使えないから、ディアスの怪我を治すことはできない。涙をぬぐってやることも。
 それでも、フェレトは、ディアスの頭に手を置いた。
 手の重さも体温も、伝わることはない。わかっていても、フェレトはそうせずにはいられなかった。
 ディアスは、首を振った。
 フェレトのぬくもりは、ちゃんと届いたから。
 体ではなく、心に。
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