【完結】低レアの地味キャラに転生したのでひっそり暮らす予定が、最強の悪役将軍にスカウトされてしまいました

大河

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第17章

 軍議が終わり、全軍に準備の指示が出された。

 俺は急いで温修明のもとへ戻り、状況を説明した。

「戦場に行くなんて危険です!」

 温修明は青ざめた顔で叫んだ。彼の目には心配の色が浮かんでいる。

「大丈夫、なんとかなるって」

 ──なんとかならないかもしれないけど、現状では逃げることはできない。

 温修明には部屋で待っていてもらうことにした。彼を危険にさらすわけにはいかない。

 部屋を出る時、温修明の不安そうな顔が胸に刺さった。彼のためにも、無事に戻らなければ。


 翌朝、出陣の時が来た。俺は初めて軽装の鎧を身につけていた。重くて動きにくい。肩と胸のあたりがきつく締め付けられ、息苦しい。こんな状態で戦場に行くなんて、正気の沙汰じゃない。

「これがお前に割り当てられた馬だ」

 兵士が一頭の馬を連れてきた。大人しそうな茶色の馬だが、それでも俺にとっては扱いきれない大きさだ。

「乗れるな?」
「あ、ああ……」

 実際は全く乗れないのだが、それを言うわけにもいかない。恐る恐る近づき、馬の背中に片足をかけようとした瞬間、馬が嫌がって鳴いた。俺の緊張が伝わったのか、尻尾を振りながら少し後ずさる。

(ヤバい、絶対に乗れないじゃん……)

「なんだ、乗れないのか?」

 背後から龍承業の声がした。心臓が跳ね上がる。振り向くと、漆黒の鎧に身を包んだ彼が立っていた。その姿は戦神のようで、思わず息を呑んだ。朝日を浴びた彼の姿は、恐ろしいほどに美しい。

(何を考えてるんだ、俺は……!)

「す、すみません……商人なので……」
「商人なのに馬に乗れないとは」

 龍承業は鼻で笑った。その表情には、軽蔑というよりも、どこか楽しんでいるような色があった。

「仕方ない」

 彼は自分の馬に跨ると、俺に手を差し伸べた。

「乗れ」
「え?」
「俺の馬に乗れと言っている」

(じ、冗談じゃないぞ、あいつと一緒に乗るなんて……!)

 あの夜のことを思い出し、息が詰まりそうになる。あんな屈辱的な思いをさせられたというのに、また彼の近くに行くなんて……。

 しかし、周りの兵士たちの視線がある今、俺に拒否権はない。

「一緒に、ですか?」
「さっさとしろ」

 戸惑いながらも、俺は彼の手を取り、馬の背に引き上げられた。龍承業の前、鞍の上に座らされた格好だ。彼の体温が背中に伝わってくる。

「落ちるなよ」

 そう言うと、龍承業は馬を進ませた。俺は慌てて鞍に掴まった。彼の腕が俺の両脇を通して手綱を握り、まるで抱きかかえるような体勢になっている。

(な、なんでこんな状況に……!)

 龍承業の胸板が背中に当たり、彼の体の熱が俺に伝わってくる。その腕の力強さや体の大きさに、どうしようもなく意識してしまう。嫌なはずなのに、心臓が早鐘を打っている。

「緊張しているな。……あの夜のことを思い出したか?」

 突然、龍承業が俺の耳元で囁いた。温かい吐息が耳を撫でる。

「な、何を言っているんですか!」
「顔が赤いぞ」
「そ、それは……馬に乗り慣れていないからです!」

 龍承業は小さく笑い、それ以上は何も言わなかった。だが、その笑い声だけで俺の頭は混乱した。あいつは俺を弄んでいるのか? それとも本当に何か意図があるのか?

 行軍は半日ほど続き、やがて崑山都市の近くにある高台に到着した。ここからは都市全体と周辺の地形が見渡せる。

 龍承業は馬から降り、俺も続いた。

「見ろ」

 龍承業は都市の方を指さした。

「何か見えるか?」

 俺は目を凝らした。都市の周辺には東越国の軍勢が見える。しかし、さらにその外側、少し離れた場所に何か不自然な動きがあった。

「あれは……川の流れが変えられています!」

 確かに、近くを流れる河川の一部が人工的に変えられ、都市から離れた場所に水が流されているようだった。

「多分、地下の水量をわざと調節しているんです」

 俺は推測した。

「最終的には堰を壊し、一気に水を流し込んで建物の崩壊を狙うつもりでしょう」

 龍承業はじっと俺を見つめた後、突然笑い出した。

「面白いな」
「え、何がですか?」

 龍承業は続けた。

「そこまでわかっているのなら、なぜあの場で進言した。黙っていれば我が軍は罠にかかり、お前は今の囚われの身から解放されただろうに」
「それは……」

 確かにそうだ。俺にとっては、黒炎軍の敗北後に逃げるというのが「生存ルート」のはずだった。なぜわざわざ彼らを救う策を話してしまったのか。この男を憎んでいるはずなのに、なぜ助けようとしてしまったのか。

(俺ってば、自分から死亡ルートを突き進んでいっちゃってるんじゃなかろうか……)

 ここしばらく、龍承業のことを心の底から憎めないでいる自分が少し怖かった。あの夜、彼は俺に屈辱を与えた。それを恨んでいるはずなのに、どこか彼の存在が気になってしまう。この複雑な感情は一体何なのか。

「戻るぞ」

 龍承業は言った。

「お前の言は正しかった。陣を整え直す」

 そう言って、彼は再び馬に乗り、俺に手を差し伸べた。俺はその手を取り、再び彼の腕の中に収まった。

 ◆◆◆

 陣営に戻ると、龍承業は再び軍議を開いた。

「梁易安の言葉は正しかった」

 彼は断言した。

「東越国は我々を罠に誘い込もうとしている」

 郭冥玄は驚いたような、少し焦ったような表情を見せた。

「では、どうするべきでしょうか?」
「逆に奴らの策を利用してやる」

 龍承業は冷酷な笑みを浮かべた。

「彼らが仕掛けた罠を、彼らに向けてやるのだ」
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