【完結】低レアの地味キャラに転生したのでひっそり暮らす予定が、最強の悪役将軍にスカウトされてしまいました

大河

文字の大きさ
20 / 41

第20章

 龍承業は命からがら逃げ出し、同じように国に捨てられた者たちを集め始めた。それが黒炎軍の始まりだった。

「俺の戦いは、お前が指摘したとおり、もはやなんの理念も理想もない」

 彼は冷たく笑った。その笑顔の奥に、深い悲しみを感じた。

「ただの怒りのはけ口だ。俺を裏切った国、裏切った人々に報復するため……」
「……」

 そこまで聞いて、俺は言葉を失った。彼の来歴はゲームの知識として知っていたが、本人の口から、その感情を込めて語られるとまるで重みが違った。ゲームでは悪役として描かれていた彼も、実際は壮絶な過去を持ち、それが今の行動の原動力になっているのだと実感した。

「どうだ、失望したか?」

 龍承業は皮肉っぽく尋ねた。

「俺の本質が誰もが恐れる黒龍将軍などではなく、ただの凡庸な復讐鬼だと知って」
「……いいえ」

 俺は首を振った。

「あなたがなぜそこまで怒りを抱えているのか、少し理解できた気がします」

 龍承業は少し驚いたような表情を見せた。彼は俺のこの返事を予期していなかったようだ。

「今、あなたには信頼できる人はいるんですか?」

 俺は尋ねた。自分でも驚くほど大胆な質問だったが、知りたかった。彼の心の内を。

 その質問に、龍承業は苦笑した。

「信頼? そんなものはとうに捨てた」
「でも、郭冥玄参謀とか……」

 その名前を出した瞬間、俺はハッと思い出した。すっかり忘れていた、ゲームの設定のことを。

 郭冥玄。そうだ、彼はゲーム内では黒炎軍の裏切り者キャラクターだった。彼は裏で東越国のとある有力者に仕えており、黒炎軍を内部から崩壊させようと動いている裏設定がある。今日の戦いでも、彼はほとんど発言しなかった。あの寡黙さは、もしかして作戦の成功を願っていなかったからではないか。

「冥玄のことを、お前は何か知っているのか?」
「……いえ、ただ……彼はあなたの一番近くにいる参謀だから」

 俺は焦って誤魔化そうとした。しかし、心の中では「彼を助けなければ」という思いが急速に膨らんでいた。

「ふむ」

 龍承業は納得しなかったようだが、それ以上は追及しなかった。彼の目は俺を見つめたままだ。その視線に重みを感じる。

 俺の脳裏では、ゲームのエンディングが鮮明に浮かんでいた。黒炎軍は最終的に内部崩壊し、三国の同盟軍に敗れる。龍承業もまた、郭冥玄を含む部下たちに裏切られ、失意のまま最期を迎える……

「最強」と恐れられる彼の存在が、今はひどく危うくもろいものに思えた。彼はこの世界ではただ「負けることが運命づけられた敵役」なのだ。

(でも……)

 胸の奥で何かが熱くなった。そして、その熱さは次第に体全体に広がっていく。

「龍将軍」

 俺は思わず口にした。

「どうか俺をうまくお使いください」
「何?」

 龍承業は意外そうな表情を見せた。

「あなたのために、力になりたいんです」

 そんな言葉がいつの間にか口から出ていた。自分でもびっくりしたが、その言葉に嘘はなかった。本音を言えば、これまでは逃げたかった。敗北がほぼ確定の悪役外伝ルートなんて、死に直結するからまっぴらごめんだった。

 でも、助けたいと心から思ってしまった。自分の力がどれぐらい役に立つかなんてわからないけど、世界から死ぬことを運命づけられた彼の運命を、変えてみたいと願ってしまった。

 たぶんそれは、異世界転生した「プレイヤー」の自分にしか、できない役目だ。

 龍承業は驚きの表情から、そして笑いに変わった。

「俺を助けるだと?」

 彼は鼻で笑った。

「俺はお前に助けてもらわねば生きていけぬほどの存在ではない」
「そうじゃなくて……」

 俺が言葉に詰まっていると、龍承業は立ち上がって近づいてきた。その足音すら聞こえないほど軽い動きで、気づけば目の前に立っていた。そして、俺の顎を掴んで顔を上げさせた。彼の指の感触が熱い。

「……お前は、本当に変わった男だ」

 彼の声は低く、息が俺の顔にかかる。そして——彼の唇が俺の唇を覆った。

「んっ……!」

 前回のキスとは違う。強引さはあるものの、どこか優しく、丁寧だった。龍承業の手が俺の頬を包み、もう片方の手が背中に回される。その手が背骨を一つずつなぞるように下りてくると、言いようのない感覚が俺の体を駆け巡った。

 彼の舌が、俺の舌に触れる。熱い。

 唇が離れたとき、俺は呼吸を忘れていたかのように、大きく息を吸った。頭がくらくらする。

「な、なぜ……」
「お前のような底の知れない男は初めてだ」

 龍承業は小さく笑った。

「俺に好意を持つ者も、俺を利用しようとする者も見てきたが、お前のようなタイプは初めてだ」
「どんなタイプですか?」
「言葉では説明しづらいな」

 彼は俺の髪に手を伸ばし、軽く撫でた。その指が耳を掠めると、思わず体が震える。

「まるで予言者のように未来を予測し、しかし何も求めず、ただ俺を助けようとする。お前は一体何者なのだ?」

 俺は答えられなかった。異世界から来たゲーム好きの社畜だなんて言えるわけがない。

「あなたのことが……気になって」
「何?」
「あなたのことが気になるんです。最初はただ怖かっただけなのに、今は……」

 俺は自分の正直な気持ちを言葉にするのに苦労していた。確かに龍承業に対する感情は変化しているが、その感情に名前をつけることは難しかった。

「お前も俺のことが気になるのか?」

 龍承業の視線が熱を帯びる。翡翠の色をした瞳が炎のように輝き、俺を見つめていた。

「それなら、俺も同じだ」

 彼の言葉に、心臓が大きく跳ねた。

「お前は謎めいている。ただの商人のようでありながら、卓越した知識を持ち、俺の軍の将来を見通し、そして何より……俺に怯えながらも、決して心を閉ざさない」

 彼の手が再び俺の顔に触れた。その指先が頬を撫で、唇の端を親指でなぞる。その感触に、言葉にできない感覚が全身を駆け巡る。

「俺は誰も信じていない。信じる必要がなかった。戦に勝てばそれでよく、他のことは考えなかった」

 彼の声は低く、囁くように続く。

「お前はおかしな男だ。俺に恐怖しながら、しかし、いざというときには俺の命を救う」

 龍承業は首を傾げた。

「なぜそうする。お前は何を得ようというのだ?」
「それは……」

 俺は答えに詰まってしまった。

 龍承業は俺をじっと見つめていた。その眼差しは、これまで見たことのないような温かさを含んでいた。彼の冷酷さの奥に隠れていた、もう一つの顔。

「……良かろう、お前をしばらく俺の傍で使ってやる。ただし、少しでも疑わしい様子を見せてみろ。すぐに俺の剣で首を刎ね飛ばしてやるからな」

 物騒な言葉のわりに、龍承業の口調はどこか優しげな雰囲気すらあった。ほんの数日前までは、彼のこんな言葉に震え上がっていたはずなのに、今では彼の言葉に嬉しさすら感じてしまう。

「あ、ありがとうごさいま……んっ……!」

 龍承業はその答えに満足したように微笑み、再び俺の唇を奪った。今度はさらに深く、互いの息が混ざり合うほどに。
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。

とうや
BL
【6/10最終話です】 「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」 王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。 あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?! 自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。 ***********************   ATTENTION *********************** ※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。 ※朝6時くらいに更新です。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。