転生しました、脳筋聖女です

香月航

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STAGE12-07

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「ディアナ様、ご無事で何よりです」

「そちらもな。……いや、護衛を託されたにも関わらず、とんだ醜態を晒してしまったな。面目ない」

 ズシンとディアナ様の硬い靴が地面へ降り立つと同時に、騒いでいた背後の魔術も消えたようだ。
 残り火の逆光に照らされたディアナ様は、やや沈んだ表情をしていた。

「そんな! あの魔物相手に、こうして戻って来て下さっただけでも十分です!」

「いや、アンジェラ殿が来てくれなければ、我もこの子らも無事ではすまなかった。礼を言わせてくれ」

 そう言った女神様は構えていた斧を地面に突き刺すと、左腕に抱えていた毛布の塊のようなものをゆっくりと解いた。

「……あっ!! よかった、ご一緒だったんですね!」

 中から現れたのは、身を小さく丸めたシエンナさんと可愛い天使だ。顔色は少し悪いものの、泥まみれのディアナ様とは違い、二人には外傷どころか汚れ一つない。

「シエンナ、無事か!!」

 即座に反応したクロヴィスが、ロングソードを放って駆け寄ってくる。
 慎重に彼女たちを下ろして引き渡せば、安心したのか赤ちゃん特有の可愛い泣き声が響き始めた。
 ……ああ、よかった。あの小さな命に怪我を負わせることなく、厄介な魔物を退治できたみたいだ。

「……やはり、ディアナ様にお願いして正解でした。急な頼みにも関わらず、引き受けて下さってありがとうございます」

「褒めないでくれ、アンジェラ殿。守るべき弱き命を危険に晒してしまったのだ。我はまだまだ未熟だな」

「ディアナ様が未熟なら、私たちなんて全員ひよこじゃないですか。貴女様だからこそ、彼女たちを無事に守り通せたんですよ」

 丸太のようなたくましい腕にそっと触れてみれば、それはかすかに震えていた。
 誰よりも強いディアナ様をここまで追い込んだのだ。私を含め、他のメンバーでは彼女たちを守れなかったかもしれない。

(……いや、これは私のミスね。あのサリィって人が【混沌の下僕】だと見えていたのだから、魔術が使える人間をもう一人置いていくべきだったんだわ)

 さすがに破壊師弟は置いていけないけど、ノアなら魔術コントロールは完璧だ。護衛対象がいても、ディアナ様が捕まることはなかったかも……。

(済んだことを後悔しても仕方ない、か)

 ディアナ様の視線の先では、涙目のクロヴィスが家族と一緒にこちらに頭を下げている。
 怖い目に遭わせてしまったけれど、二人は無事だったんだ。今回の件は今後の教訓としていかしていこう。

「ディアナ様、無茶をさせてしまってごめんなさい」

「いや、この役目は我が請け負うべきものだった。アンジェラ殿に感謝をすることはあっても、謝ってもらう理由は何一つない」

「ディアナ様……」

 再び私に向けられた緑色の瞳には、強い意思が宿っている。
 ……それは、ここで別れた時のものよりもずっと凛々しい、何か大事なことを決断したような、眩しいほどの輝きだ。
 あの泥の中で、何か得るものがあったのだろうか。

「おーい二人ともー! そこで二人の世界に入られちゃうと、オレたちどうしたらいいか困るんだが?」

 女神様の瞳に魅入っていれば、横から平坦な男性の声が聞こえてきた。
 周りを見れば、クロヴィスを支えていた主従コンビの他、戦っていた皆も私たちの元へ集合して来ている。
 ぱっと見た感じ、誰にも怪我はなさそうだ。

「厄介な魔物は全て倒せたわ。皆ありがとう。ただし、ジュードは後で一発殴る」

「ええっ!? いや、別に君が殴りたいなら止めないけど」

 しょんぼりと呟く幼馴染は、自分の罪がわかっていないようだ。全く、いくら戦場でも、突然女の子を投げるやつがいるかっての。私だったから無事に済んだけど、反省しなさい。

「それで、破壊魔たちはどれぐらい家を壊して…………ん? あれ?」

「誰が破壊魔だ。見ればわかるが、そんなに壊してねえよ」

 ひとまずジュードは置いておいて、戦場になってしまったクロヴィスの家へ目を向ければ……そこにあったのは多少汚れているだけのお洒落な家だった。
 【バサン】と戦った養鶏場よりも、遥かにきれいな形のままで残っている。

「ずいぶん大きな音がしていたから、てっきり家ごと消し飛ばしたのかと思ってたわ」

「俺もそのつもりだったんだが、予想よりもあの泥は硬かったようだな」

「……はい?」

 思わず家と彼らの顔を二度見してしまった。
 はっきりと見たわけではないけど、彼らの破壊魔術はかなり強いものだったはずだ。体じゅうに圧し掛かってきた重い衝撃を、まだしっかりと覚えている。
 それを耐えきったなんて、一体どんな作りをしているのよ、あの泥の魔物。物理攻撃もろくに効かないのに、弱点であるはずの雷魔術も効かなくなったらお手上げじゃない。

(敵ネームは消えているし、ちゃんと全部倒せたのよね?)

 まあ、彼らの家がきれいに残ったのは、ありがたくもある。もし全部壊してしまったら、しばらくは宿暮らしを強いるところだったもの。
 奥さんにも赤ちゃんにも、慣れない環境は好ましくないからね。

「それで、そっちはどうなんだ? 今回の犯人はここにいるのか?」

「残念だけど、もう敵性反応は見えなくなってる。少なくとも、目視できる範囲にはいないはずよ」

「……そうか」

 もう一度周囲を見てみるけれど、やはり敵ネームはどこにもない。
 家をまるごと囲い、かつ危うく『影』に進化するほどの泥を差し向けてきたサリィには、まだ警戒しないといけないだろう。
 ディアナ様にも目で合図をしてみるけど、首を横にふって返された。どこへ行ったのかわからないようだ。

「おい、修道女ちゃん。さっきもサリィが犯人だって言ってたよな。混沌のなんとかって。どうしてあいつがそんなことをしたのか、何かわかっているんだろう?」

 私とカールの会話に、おずおずとクロヴィスが割り込んでくる。なんとも不安げな様子だけど、まさか本当に気付いていなかったのか。
 ほんの一瞬だけ顔を合わせた私ですら、すぐに気付けたほどの〝激しい感情〟だったのに。

「単純な話ですよ。――彼女は貴方に好意を持っていて、他の女に嫉妬しています。それが妻であり子どもまで産まれている、実の姉であってもね」

 はっきりと答えた私に、シエンナさんが華奢な体を縮めて俯いていた。
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