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STAGE13-05
しおりを挟む「……君たちは一体何をやっているんだい?」
「勝手に動いて申し訳ございません、殿下」
ハルトの話が終わってすぐに、私たちは庭へ捜しに来たダレンに見つけられてしまい、現在はその主からお説教を受けている。
戻ってきた応接間の一角、私たちの周りは呆れた顔の仲間たちにすっかり取り囲まれており、今度は走って逃げられるような隙もなさそうだ。
観念してソファに自主的に正座をしたら、何故かジュードも倣って同じように座り始めた。
いや、別に貴方はマネしなくてもいいのよ。これは日本人の反省の文化だからね。……呻くぐらいなら止めればいいのに、もう。
「大方、ディアナの昔の話か何かを聞いていたのだろうけど、初対面の人間を君の暴走に付き合わせるのは看過できないね。君は自覚しているよりも、結構すごいからね? 鋼鉄メイスを振り回せるのは普通じゃないからね?」
「……あ、気にしているのはそっちなんですか」
「アンジェラ、図体のでかい僕ごと男二人を引っ張るって、相当だと思うよ?」
どうやら、彼が怒っているのは勝手に部屋を出て行ったことではなく、ハルトを強引に連れ出したことのほうらしい。
……まあ、言われてみればその通りだわ。ジュードは筋肉質だから見た目より重いし、ハルトだって女の私よりは身長も体重もある。
いくらディアナ様のことに驚いたからって、その二人を引っ張って逃走するのは、普通の人が見たら驚愕でしょうね。
私の場合外見だけはか弱い少女だから、下手したら面倒ごとに巻き込まれる可能性もある。
今回はディアナ様のご自宅だし、相手がハルトだからよかったけど、チート能力は戦闘以外でむやみに使っちゃいけないわ。
今頃気付いた『やらかし』に深く頭を下げれば、王子様もそれ以上言ってくることもなく、小さく苦笑を浮かべた。
「ハルトさんも、強引に連れ出してすみませんでした」
「僕のことは気にしないで。むしろ、ディアナのことをよく思ってくれる子が仲間にいて、とても安心したよ。ほら、彼女は普通の女性とはちょっと違うだろう?」
「その違いこそが素晴らしいのに……我が女神様の筋肉の美しさは、この国の宝ですよ」
「あ、うん。君はなんというか……結構変わってるよね」
曖昧に言葉を濁すハルトに、胸の内が少しだけモヤッとしてしまう。
私にとって、彼は『ディアナ専用の攻略対象』……つまり、ディアナ様のパートナーとして一番合う人物だと認識している。私にとってのジュードがそうであるように。
さっきの怪我の話から考えても、彼がディアナ様を大切に思っていることは間違いない。
だけどその一方で、『彼女はいつか婿をとらなければならない』とも口にしている。好意を寄せる相手なら、自分がその婿になりたいと思うものじゃないだろうか。
(もしかして、過去の怪我の一件が、二人の関係をただの幼馴染止まりにしている?)
襲撃のなかったゲームの時には当然傷もなかったし、どちらかと言えば……そう、ハルトは今のジュードのように、自分の幼馴染を一番に考えて動く人だった。
私のプレイした『ディアナ』も、他のキャラを攻略している時以外はハルトと共に行動させていたはずだ。
彼が幼馴染をとても大切にしてくれると知っていたから。――彼らの関係性は、今の私とジュードの関係の元になっている。私にとって、二人はお手本なのだ。
なのに、現実の彼は部隊には参加せず、領地に留まった。
さらに、『罪を自分が背負う』と言っていたことを考えれば、ディアナ様とは今後距離をおくつもりなんだろう。
(ゲームのことは抜きにしても、ディアナ様に相応しいのはきっと彼なのに)
はっきり言って、あの筋肉の女神様に並べる男など早々いない。
騎士団の人々はディアナ様を尊敬してはいるようだけど、そこに恋愛感情がでてくるかと言えば微妙なところだ。
私のように崇めている人もいるし、多分“女として意識するなんて恐れ多い”と感じてしまうだろう。
この部隊の仲間たちも、もちろんディアナ様を信頼していると思う。けど、“異性として好意を寄せている”ような行動はまだ見たことがない。
……いやまあ、堂々とアピールしてくるジュードが強烈すぎて、隠れているだけかもしれないけど。
(私があれこれ考えても仕方ない。いっそ本人に聞いてみるべきか……いやでも、戦うための部隊で恋バナにツッコむのもどうなのかしら。それこそ、余計なお世話かもしれないし……むう)
『攻略情報』なら簡単だけど、それが現実の色恋話となれば別だ。ましてや、ディアナ様は弟のいる私と違って伯爵家の一人娘。婚姻関係はデリケートな問題だろう。
ああもう、こういう問題も全部コメディ的に殴って解決できれは楽なのに。
あれこれ考えながら俯いていれば、どうもそれが反省しているように見えたのか。ハルトやらジュードやらがそわそわと落ち着きなく私のほうを窺い始める。
なんだかこの二人、似ているわね。容姿や雰囲気は全然似ていないけど、幼馴染を大切に思ってくれるところはそっくりだわ。やっぱり何かしら通じるものがあるのかしら。
(ゲームのことは抜きにしても、現実の幼馴染二人が似ている。そして私とディアナ様も、中身が似ているというのなら……)
「……ねえジュード、もしかして貴方、ディアナ様のことも好き?」
「この話の流れでどうしてそうなったのかよくわからないけど、僕は君と出会ってからこれまで、一度たりとも他の女性に浮気したことはないからね!? 彼女のことは信頼しているけど、女の子として大切なのは後にも先にもアンジェラだけだから! ……って、君も恋愛脳じゃないか、もう!」
……まさかちょっと質問しただけで、ここまで長い回答が返ってくるとは思わなかったんだけど。
さすが我が部隊が誇るヤンデレ予備軍、ブレなさ加減に周りの仲間たちも引いてるわよ。聞いたのは私だから文句は言わないけど、真顔で長台詞を言い切る様子は正直ちょっと怖いわ。
まあ、ジュードの答えは予想通りとして、
「安心安定の回答をありがとう。……じゃあハルトさんに同じ質問を。私とディアナ様は中身がよく似ているらしいのですけど、私のことをちょっとでも良いなーとか思ったりします?」
「出会ったばかりの女の子にそういう感情は持てないよ。……でも、君は多分いい子なんだろうとは思うよ。ディアナのことを大事に思ってくれているんだろう?」
「……聞きたかった答えが聞けて、安心しました」
似ていると感じたハルトにも質問してみれば、彼はほんの少しだけ驚いたものの、すぐに私が欲しい答えを返してくれた。
ああ、よかった。彼の根底はちゃんと私が知っているハルトだったようだ。
一般的にディアナ様よりも男性受けする外見の私ではなく、ちゃんと彼の幼馴染を選んでくれた。
たとえ中身が似ていても、彼が大切なのはディアナ様であり、私なんかに目移りなどはしない。
――ならばなおさら、彼ら二人には幸せになって欲しいところだけど……、
「――――あれ? そういえば、ディアナ様はどこに?」
ふざけていたせいか、すっかり見落としてしまっていた。
私たちの周囲にいるのは男ばかり。肝心要のディアナ様が応接間にはもういなかったのだ。
一緒に話していた執事さんたちもいなくなっているので、もしかしたら久々の実家で挨拶に回っているだけかもしれないけど。
『知ってる?』と周囲の仲間たちに表情で訊ねてみれば、一番近くにいた王子様が柳眉をますます下げて教えてくれた。
「……ディアナは、墓参りに行っているよ」
「お墓……」
……盛り上がった気持ちが、一気に下降していくのがわかった。
つい先ほど、私たちはハルトにそのような話を聞いたばかりだ。きっと、ディアナ様の傷になってしまっている、過去を。
(……部隊の仲間は全員いる。ハルトも、私がさらったせいでここにいる)
久しぶりに会う幼馴染だ。きっと積もる話もあるだろうし、ディアナ様ならハルトを捜しに行くだろう。……彼とともに、墓参りに行こうと思っているのなら。
しかしそうはせずに、私たちが不在の間に行ってしまったということは、ディアナ様は一人で行きたかったということだ。
人間誰だって一人になりたい時はある。しかし、ディアナ様は常に誰かを守る騎士だった。
同じ騎士でも諜報行動があったダレンと違い、彼女はいつだって誰かを守るために動いてくれていた。この部隊に入ってからは特に、彼女が一人だった時間はあんまりなかったのだ。
それこそ、王子様が何度自由を許可しても、彼女は頑なに『騎士』であり続けた。――そのディアナ様が、単独行動を望んで墓参りに行っている。
“よほどのことがある”と思ってしまうのは、仕方ないだろう。
「…………せめて、お迎えに行くのも、ダメでしょうか?」
いくら頭のよろしくない私とて、さすがにそんな場所へ邪魔しに行くようなことはしない。
けれど同時に、今のディアナ様を一人にしたくないとも思ってしまう。
私は庇護対象じゃない。私は彼女が守らなくても、決して死んだりしない。そんなに弱いつもりはない。
私たちは『仲間』なのだと、ディアナ様に伝えたい。
「……場所、案内しようか」
視界の端で、柔らかな水色がさらりと揺れた。
顔を上げれば、穏やかに微笑むハルトが私に手を差し出してくれている。
「場所、知らないだろう? 僕は一緒にはいられないけど、道案内ぐらいはさせて」
「……いいんですか、ハルトさん?」
「君が、ディアナを追い詰めたりする子じゃないって信じたいからね。大丈夫。僕は僕で、ちゃんと彼女とは話したいと思っているから」
困ったような、悩んでいるような。そんな雰囲気を漂わせつつも、ハルトはしっかり私の目を見て話してくれている。
ディアナ様を追い詰めるなんてとんでもない。私は強く強く頷いて、ハルトの手をとる。彼女を大切な仲間として迎えに行くために。
「イングラム殿、私も同行してもいいかな?」
「あの、オレも」
ソファから下りれば、ただ見ているだけだった仲間たちもいそいそと身支度を始めた。
訊ねたのは関係の深い王子様とダレンだったけど、ノア・ウィリアムにカールまでもが外出用に装いを整えている。どうやら、うちの部隊は私が思うよりも仲良しだったらしい。
「……待ってアンジェラ、なんか足がビリビリして動けないんだ……」
「……慣れないことをするからよ。痺れてるだけだから、少し大人しくしてなさい」
皆の様子にちょっぴり感動していたところに、水を差すようなジュードの情けない声が聞こえる。
元日本人の私でも慣れないのに、全く知らないジュードが正座なんかして、無事で済むわけがないじゃない。
呆れたように息を吐く仲間たちを眺めながら、私も彼の足を軽くつついておいた。
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