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STAGE13-08
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仲間たちと合流した私は、すぐ様外の状況を皆に話した。
と言っても、魔物の詳細を語っているヒマはない。あくまで簡潔に、いかに面倒な状態であるかを掻い摘んでの説明だ。
「……なんてことだ」
結果、ほとんどの仲間がジュードたち同様に言葉を失い、頭を抱えた。
繰り返しになるけど、状況は本当に絶望的なのだ。正直に言って、ゲームのラスボス戦だってこんなに悲惨な戦況にはならなかった。
この世界は鬼畜だと言い続けてきたけど、改めて言わせてもらおう。世界が本気で殺しにきている。
――しかし、そんなどんよりとした中でも、ただ一人力強さを失わない人がいた。すなわち、
「我が出よう」
我らが筋肉の女神、ディアナ様である。
私の説明の終わり頃からバトルアックスを肩に担ぎ、いつでも出撃できるよう体を低く構えている。
外壁を見据える緑眼はぎらりと輝き、その勇ましさは私たちでも怯えてしまうほどだ。
いつもの私なら大いに感動し、拝みたいところなんだけど……今日ばかりはそうも言ってはいられない。
「ディアナ、話を聞いていなかったの?」
呆れたような……いや、どこか苛立った様子で制止したのは、ハルトだ。彼だけは、ディアナ様の気持ちが痛いほどわかるだろう。
……そう。外壁の向こうにいる強敵どもは、彼ら二人の友人たちの仇なのだから。
(でも、今のディアナ様をそのまま出すわけにはいかないわ)
勇敢と無謀は違う。ディアナ様は本っ当に強いけれど、一人ではどうしたって勝てない戦いがあるのだ。今回は正しくそれだ。
今彼女を感情のままに外に出したら、間違いなく無為に死なせてしまうことになる。
冗談じゃないわよ。そんなことは、絶対にさせない。
「いかに強くとも、所詮木は木だ。斬れぬ木などない」
「そりゃ、君なら一本二本は何なく倒せるだろうね。でも、百本二百本と同時に相手にできるとでも思うの? どんなに強靭でも、君の腕は二本しかないんだよ、ディアナ」
冷静を装うディアナ様に、ハルトの声は怒りを増していく。
……多分、ディアナ様も自分の行動が無謀だとわかっているはずだ。その上で、止まるわけにはいかないのだろう。
(私だって行かせてあげたい。思う存分暴れてきて欲しいわよ! けど、あんな大群どうしろって言うの!?)
ヤツらがまだ『小枝』程度なら、多少不利だとしても戦いに出た。
けれど、今回の器は【大木の悪精】……名前の通り、幹の太さは成人男性二人が囲うぐらいに太く、上背は低いものでも三メートルをゆうに超えている。
そんな大木たちが、満員電車さながらにわらわら密集しているのだ。剣士を一人で放り込んだら、物量差で押しつぶされるのは子どもでもわかるだろう。
どうしたらいい。どうしたら……?
皺の少ない脳みそをぐるぐるさせながら、必死に攻略手段を考える。ゲームの情報が全くアテにならないなら、私に提案できる策は限られる。
他の皆も対策を考えてくれているようだけど、焦りの強い表情から結果は期待できそうにない。
「…………ッ!? 何っ!?」
――そんな思考を遮るように、ズシンと重たい音が響き渡った。
「……地震、じゃないよな」
同時に地面を揺らした低い轟音に、仲間たちの顔からどんどん血の気が引いていく。
この状況で、ただの地震なわけがない。としたら、つまり……外壁が攻撃されている音ということだ。
――もう時間がないのだ。こうして策を講じている間にも、あの夥しい量の魔物たちは街に侵攻してきているのだから。
「……ッ! 偽聖女、本当に何もないのか? どんな荒唐無稽な話でもいい! 俺が何とかしてやるから話せ!」
「めちゃくちゃ言うわね、貴方!」
真っ先に声を上げたのは、予想外にもカールだった。
強大な力を持つ彼だからこそ、何もできないという状況が耐えられないのかもしれない。
外見だけは幼い少年だけど、その金に輝く瞳には強い意思と力が燃えている。
――どんな荒唐無稽な話でも叶える、か。人の域を超えた導師様らしい発想だ。
「…………じゃあ一つ提案するわよ。“マグマ”……溶岩ってわかる? 火がダメでも、あれなら多分【寄生種】もろともに全部倒せるわ」
……ええ、乞われたならば話してやりますとも。それが魔術では不可能だと知っている以上、ますます絶望するとわかっていてもね。
【寄生種】は今、火への耐性を持っている。器が火だるまになろうとも、そのまましばらくは戦えてしまうだろう。消火ができれば、倒れることもない。
しかし、マグマとなれば別だ。燃やすなんて易しい次元ではない。何もかもを熔かし飲み込むそれに、ただの魔物が抗えるはずもない。
世界中のどこにでもいる微生物だって、マグマの中でだけは生きられないらしいしね。
だけど、この世界にマグマを扱えるような魔術はそもそも存在しない。いくら魔術を極めているらしいカールとて、存在しないものを行使はできないだろう。
私の提案に、ノアとウィリアムはぐっと眉間に皺を寄せて俯いている。二人もそれが『無理』だと知っているのでしょうね。
私も自分で言って、さすがに空しくなる。思わず唇を噛みしめて――
「――――できるぞ」
「はっ!?」
少し高い声で返された『肯定』に、思わず耳を疑ってしまった。
おいおい本気でチートですか、この年齢詐称導師!?
「そういう魔術は存在しない。だが、“ないなら活火山から持ってくればいい”だろう? できるぞ」
「……そうか! 貴方、転移魔術使えたわね!!」
ついさっき屋敷で見せられたばかりなのに、すっかり忘れていたわ。
あのテレポート魔術、実はかなり高度な術式らしくて、この強力な部隊の中でもカールしか使うことができない。
だが、一人でも使えるのなら“その策は可能”だということだ。
敗北しか見えなかった世界が、一気にクリアになっていく。あの悪夢のような大群に、これなら勝てるかもしれない!
私の隠しきれない喜びが伝わったのか、他の皆も表情を和らげ始めたのだけど……、
「――だが、三つ問題があるぞ」
できると宣言しておきながら、表情を歪めたカールがスッと指を立てた。
そりゃ、マグマを持ってくるなんて普通はありえないことだ。制約もあるだろう。
提案者の私は深く頷き、皆も顔を見合わせながら小さな導師の声を待つ。……この間にも、外壁を揺らす地響きは続いている。
「一つ、これをやっている間、俺は全く動けない。できると言っておいて何だが、機会は一度だけだ。恐らく俺は魔力を使い切るから、失敗はできないことを覚えておいてくれ。二つ目は、外壁の守りが必要になる。さすがにマグマなんてものをぶつけたら、この街の外壁はもたん。防御の魔術を張るとしても……一番適任は月の賢者だが、これにかかりきりになるだろうな」
「……無理だと言わせてもらえないところが複雑だが。まあ、俺しかいないなら引き受けるさ。だが、導師の言う通り全力で守る必要がある。他に手を回せる余裕はないな」
二人の人外魔術師の真剣な声に、一同はまた顔を見合わせる。
要であるカールはもちろん、最近はほぼ守りに徹してくれているノアも、普通の魔術師をはるかに上回る強者だ。
その二人が戦力から外れるのは痛いけれど、“その二人でなければ出来ないこと”をしてもらうのだから、これはもう仕方ない。
残されたこちらはこちらで、何とかしなくては。
「三つ目。これが一番重要だ」
彼にしては低い声で続けて、カールはディアナ様とハルトに顔を向けた。
お互いまっすぐに。刺さりそうなほど強い視線が交わる。
「……マグマなんてものを召び出したら、あの辺りの土地は死ぬぞ。それでも構わないか?」
「…………」
――ああ、やっぱり私は、考えの足りない女だった。
少し想像すればわかることだ。マグマが通った後の土地がどうなってしまうかなど。
それも、このエリーゴはトールマン伯爵領の中心の都市のはずだ。その一辺……いや、この外壁の周りを完全に潰すことになってしまう。
罪悪感で震えながらもこの地に関わる二人を見れば――意外にも、二人はともに強い意思を浮かべて笑っていた。
「ここであの魔物をどうにかできなければ、エリーゴの街は壊滅します。それぐらいの対価、支払わなくてどうします」
「導師カールハインツ。どうか、力を貸して欲しい」
「……承った。取り消しは聞かないからな」
関係者からの了承を受けて、すぐ様カールは外壁の上へ戻って行く。その周囲には目に見えるほど濃い魔力が渦巻いていて、早速魔術を唱え始めているようだ。
ただ、途中でほんの少しだけふり返ると、私に瞬きを向けて去って行った。
……何よ、それ。私に他の皆の指示をしろって言うの? 脳筋の私に指示を出せと?
「……わかってるわよ。やりますやります。皆、状況が変わったから戦い方を提案するわ。協力してくれる?」
「もちろん!」
ため息交じりに訊ねてみれば、さっきまで沈んでいたとは思えないような明るい声が返ってきた。ジュードだけではなく、他の皆からもだ。
全く、頭脳労働が苦手な脳筋に指示をさせるなんて、後悔しても知らないわよ。
気持ちの切り替えに、パチンと頬を両手で挟み叩く。
さて、無謀な戦いから“詠唱の時間かせぎ”に変わった以上、私も私らしく全力でやらせてもらいましょうか!
「さっきも言った通り、ノアは防壁に集中してもらって、魔術師二人には氷の魔術での足止めをお願いします。水じゃなくて凍らせる魔術、使えますか?」
ノアは除外して、まずウィリアムとハルトに聞いてみれば二人とも力強く頷いてくれた。
火・雷・風の攻撃魔法は厳禁だ。密集した木にそんなものを撃たれたら、前衛組は確実に巻き添えを食らうからね。地と水の魔術は、器の【大木の悪精】を回復してしまう属性なので避けておきたい。
「次、ダレンさんと殿下には魔物本体の対処をお願いします。あの大きな木には、肉々しい塊がどこかについています。それこそが【寄生種】の本体なので、見つけ次第潰して下さい。ジュードは臨機応変に動いてちょうだい」
素早く動けるダレンをメインに、刺突が得意の王子様もこっちの任務だ。
前衛側で唯一決定的なダメージを与えられる役割。魔物の数が少なければ、彼らだけで倒せたのだけどね……さすがに大群全員を相手にはできない。でも、数は減らすに越したことはないからね。
結構大変な役割を任せてしまうのだけど、主従組もまたそれぞれの武器を構えて力強く頷いてくれた。
――さて、あとは私とディアナ様だ。
『君たちは?』と目で雄弁に語ってくる幼馴染二人に、私もメイスを高く掲げて宣言する。
脳筋女子の役割なんて、決まっているじゃない!
「私とディアナ様は、全力で“木こり”です!!」
「うむ、承った!!」
ぶんっと風を切る音が聞こえたと思えば、私のすぐ隣でディアナ様がバトルアックスを掲げて応えてくれている。
ようするに、トドメ組にターゲットがいかないように戦う“肉壁役”だ。
繊細な動きができない私たちは、器に少しでもダメージを与え、且つせき止めるのが仕事になる。
近くで見るとますます素晴らしい斧の刃は、馬ぐらいは一太刀でいけそうだ。
例え硬化されている木でも、斬れるはず……いや、斬らせてみせますとも、私の魔法でね!
「…………女性二人が一番の力仕事ってどうなの?」
久しぶりにツッコミの仕事をしてくれたダレンにウィンクで応えつつ、相変わらず轟音を響かせている外壁へ向かって行く。
よく見れば、石の壁にはすでにヒビが入っている。これは本当に時間がなさそうだわ。
「一体でも多く倒して、時間を稼ぐわよ! 全員に強化魔法付与!! 出陣します!!」
「おう!!」
魔物に負けないように大きく声を張り上げて、絶望的な『森』へと突き進んで行く。
――かくして、エリーゴの防衛戦は勇ましく幕を開けた。
と言っても、魔物の詳細を語っているヒマはない。あくまで簡潔に、いかに面倒な状態であるかを掻い摘んでの説明だ。
「……なんてことだ」
結果、ほとんどの仲間がジュードたち同様に言葉を失い、頭を抱えた。
繰り返しになるけど、状況は本当に絶望的なのだ。正直に言って、ゲームのラスボス戦だってこんなに悲惨な戦況にはならなかった。
この世界は鬼畜だと言い続けてきたけど、改めて言わせてもらおう。世界が本気で殺しにきている。
――しかし、そんなどんよりとした中でも、ただ一人力強さを失わない人がいた。すなわち、
「我が出よう」
我らが筋肉の女神、ディアナ様である。
私の説明の終わり頃からバトルアックスを肩に担ぎ、いつでも出撃できるよう体を低く構えている。
外壁を見据える緑眼はぎらりと輝き、その勇ましさは私たちでも怯えてしまうほどだ。
いつもの私なら大いに感動し、拝みたいところなんだけど……今日ばかりはそうも言ってはいられない。
「ディアナ、話を聞いていなかったの?」
呆れたような……いや、どこか苛立った様子で制止したのは、ハルトだ。彼だけは、ディアナ様の気持ちが痛いほどわかるだろう。
……そう。外壁の向こうにいる強敵どもは、彼ら二人の友人たちの仇なのだから。
(でも、今のディアナ様をそのまま出すわけにはいかないわ)
勇敢と無謀は違う。ディアナ様は本っ当に強いけれど、一人ではどうしたって勝てない戦いがあるのだ。今回は正しくそれだ。
今彼女を感情のままに外に出したら、間違いなく無為に死なせてしまうことになる。
冗談じゃないわよ。そんなことは、絶対にさせない。
「いかに強くとも、所詮木は木だ。斬れぬ木などない」
「そりゃ、君なら一本二本は何なく倒せるだろうね。でも、百本二百本と同時に相手にできるとでも思うの? どんなに強靭でも、君の腕は二本しかないんだよ、ディアナ」
冷静を装うディアナ様に、ハルトの声は怒りを増していく。
……多分、ディアナ様も自分の行動が無謀だとわかっているはずだ。その上で、止まるわけにはいかないのだろう。
(私だって行かせてあげたい。思う存分暴れてきて欲しいわよ! けど、あんな大群どうしろって言うの!?)
ヤツらがまだ『小枝』程度なら、多少不利だとしても戦いに出た。
けれど、今回の器は【大木の悪精】……名前の通り、幹の太さは成人男性二人が囲うぐらいに太く、上背は低いものでも三メートルをゆうに超えている。
そんな大木たちが、満員電車さながらにわらわら密集しているのだ。剣士を一人で放り込んだら、物量差で押しつぶされるのは子どもでもわかるだろう。
どうしたらいい。どうしたら……?
皺の少ない脳みそをぐるぐるさせながら、必死に攻略手段を考える。ゲームの情報が全くアテにならないなら、私に提案できる策は限られる。
他の皆も対策を考えてくれているようだけど、焦りの強い表情から結果は期待できそうにない。
「…………ッ!? 何っ!?」
――そんな思考を遮るように、ズシンと重たい音が響き渡った。
「……地震、じゃないよな」
同時に地面を揺らした低い轟音に、仲間たちの顔からどんどん血の気が引いていく。
この状況で、ただの地震なわけがない。としたら、つまり……外壁が攻撃されている音ということだ。
――もう時間がないのだ。こうして策を講じている間にも、あの夥しい量の魔物たちは街に侵攻してきているのだから。
「……ッ! 偽聖女、本当に何もないのか? どんな荒唐無稽な話でもいい! 俺が何とかしてやるから話せ!」
「めちゃくちゃ言うわね、貴方!」
真っ先に声を上げたのは、予想外にもカールだった。
強大な力を持つ彼だからこそ、何もできないという状況が耐えられないのかもしれない。
外見だけは幼い少年だけど、その金に輝く瞳には強い意思と力が燃えている。
――どんな荒唐無稽な話でも叶える、か。人の域を超えた導師様らしい発想だ。
「…………じゃあ一つ提案するわよ。“マグマ”……溶岩ってわかる? 火がダメでも、あれなら多分【寄生種】もろともに全部倒せるわ」
……ええ、乞われたならば話してやりますとも。それが魔術では不可能だと知っている以上、ますます絶望するとわかっていてもね。
【寄生種】は今、火への耐性を持っている。器が火だるまになろうとも、そのまましばらくは戦えてしまうだろう。消火ができれば、倒れることもない。
しかし、マグマとなれば別だ。燃やすなんて易しい次元ではない。何もかもを熔かし飲み込むそれに、ただの魔物が抗えるはずもない。
世界中のどこにでもいる微生物だって、マグマの中でだけは生きられないらしいしね。
だけど、この世界にマグマを扱えるような魔術はそもそも存在しない。いくら魔術を極めているらしいカールとて、存在しないものを行使はできないだろう。
私の提案に、ノアとウィリアムはぐっと眉間に皺を寄せて俯いている。二人もそれが『無理』だと知っているのでしょうね。
私も自分で言って、さすがに空しくなる。思わず唇を噛みしめて――
「――――できるぞ」
「はっ!?」
少し高い声で返された『肯定』に、思わず耳を疑ってしまった。
おいおい本気でチートですか、この年齢詐称導師!?
「そういう魔術は存在しない。だが、“ないなら活火山から持ってくればいい”だろう? できるぞ」
「……そうか! 貴方、転移魔術使えたわね!!」
ついさっき屋敷で見せられたばかりなのに、すっかり忘れていたわ。
あのテレポート魔術、実はかなり高度な術式らしくて、この強力な部隊の中でもカールしか使うことができない。
だが、一人でも使えるのなら“その策は可能”だということだ。
敗北しか見えなかった世界が、一気にクリアになっていく。あの悪夢のような大群に、これなら勝てるかもしれない!
私の隠しきれない喜びが伝わったのか、他の皆も表情を和らげ始めたのだけど……、
「――だが、三つ問題があるぞ」
できると宣言しておきながら、表情を歪めたカールがスッと指を立てた。
そりゃ、マグマを持ってくるなんて普通はありえないことだ。制約もあるだろう。
提案者の私は深く頷き、皆も顔を見合わせながら小さな導師の声を待つ。……この間にも、外壁を揺らす地響きは続いている。
「一つ、これをやっている間、俺は全く動けない。できると言っておいて何だが、機会は一度だけだ。恐らく俺は魔力を使い切るから、失敗はできないことを覚えておいてくれ。二つ目は、外壁の守りが必要になる。さすがにマグマなんてものをぶつけたら、この街の外壁はもたん。防御の魔術を張るとしても……一番適任は月の賢者だが、これにかかりきりになるだろうな」
「……無理だと言わせてもらえないところが複雑だが。まあ、俺しかいないなら引き受けるさ。だが、導師の言う通り全力で守る必要がある。他に手を回せる余裕はないな」
二人の人外魔術師の真剣な声に、一同はまた顔を見合わせる。
要であるカールはもちろん、最近はほぼ守りに徹してくれているノアも、普通の魔術師をはるかに上回る強者だ。
その二人が戦力から外れるのは痛いけれど、“その二人でなければ出来ないこと”をしてもらうのだから、これはもう仕方ない。
残されたこちらはこちらで、何とかしなくては。
「三つ目。これが一番重要だ」
彼にしては低い声で続けて、カールはディアナ様とハルトに顔を向けた。
お互いまっすぐに。刺さりそうなほど強い視線が交わる。
「……マグマなんてものを召び出したら、あの辺りの土地は死ぬぞ。それでも構わないか?」
「…………」
――ああ、やっぱり私は、考えの足りない女だった。
少し想像すればわかることだ。マグマが通った後の土地がどうなってしまうかなど。
それも、このエリーゴはトールマン伯爵領の中心の都市のはずだ。その一辺……いや、この外壁の周りを完全に潰すことになってしまう。
罪悪感で震えながらもこの地に関わる二人を見れば――意外にも、二人はともに強い意思を浮かべて笑っていた。
「ここであの魔物をどうにかできなければ、エリーゴの街は壊滅します。それぐらいの対価、支払わなくてどうします」
「導師カールハインツ。どうか、力を貸して欲しい」
「……承った。取り消しは聞かないからな」
関係者からの了承を受けて、すぐ様カールは外壁の上へ戻って行く。その周囲には目に見えるほど濃い魔力が渦巻いていて、早速魔術を唱え始めているようだ。
ただ、途中でほんの少しだけふり返ると、私に瞬きを向けて去って行った。
……何よ、それ。私に他の皆の指示をしろって言うの? 脳筋の私に指示を出せと?
「……わかってるわよ。やりますやります。皆、状況が変わったから戦い方を提案するわ。協力してくれる?」
「もちろん!」
ため息交じりに訊ねてみれば、さっきまで沈んでいたとは思えないような明るい声が返ってきた。ジュードだけではなく、他の皆からもだ。
全く、頭脳労働が苦手な脳筋に指示をさせるなんて、後悔しても知らないわよ。
気持ちの切り替えに、パチンと頬を両手で挟み叩く。
さて、無謀な戦いから“詠唱の時間かせぎ”に変わった以上、私も私らしく全力でやらせてもらいましょうか!
「さっきも言った通り、ノアは防壁に集中してもらって、魔術師二人には氷の魔術での足止めをお願いします。水じゃなくて凍らせる魔術、使えますか?」
ノアは除外して、まずウィリアムとハルトに聞いてみれば二人とも力強く頷いてくれた。
火・雷・風の攻撃魔法は厳禁だ。密集した木にそんなものを撃たれたら、前衛組は確実に巻き添えを食らうからね。地と水の魔術は、器の【大木の悪精】を回復してしまう属性なので避けておきたい。
「次、ダレンさんと殿下には魔物本体の対処をお願いします。あの大きな木には、肉々しい塊がどこかについています。それこそが【寄生種】の本体なので、見つけ次第潰して下さい。ジュードは臨機応変に動いてちょうだい」
素早く動けるダレンをメインに、刺突が得意の王子様もこっちの任務だ。
前衛側で唯一決定的なダメージを与えられる役割。魔物の数が少なければ、彼らだけで倒せたのだけどね……さすがに大群全員を相手にはできない。でも、数は減らすに越したことはないからね。
結構大変な役割を任せてしまうのだけど、主従組もまたそれぞれの武器を構えて力強く頷いてくれた。
――さて、あとは私とディアナ様だ。
『君たちは?』と目で雄弁に語ってくる幼馴染二人に、私もメイスを高く掲げて宣言する。
脳筋女子の役割なんて、決まっているじゃない!
「私とディアナ様は、全力で“木こり”です!!」
「うむ、承った!!」
ぶんっと風を切る音が聞こえたと思えば、私のすぐ隣でディアナ様がバトルアックスを掲げて応えてくれている。
ようするに、トドメ組にターゲットがいかないように戦う“肉壁役”だ。
繊細な動きができない私たちは、器に少しでもダメージを与え、且つせき止めるのが仕事になる。
近くで見るとますます素晴らしい斧の刃は、馬ぐらいは一太刀でいけそうだ。
例え硬化されている木でも、斬れるはず……いや、斬らせてみせますとも、私の魔法でね!
「…………女性二人が一番の力仕事ってどうなの?」
久しぶりにツッコミの仕事をしてくれたダレンにウィンクで応えつつ、相変わらず轟音を響かせている外壁へ向かって行く。
よく見れば、石の壁にはすでにヒビが入っている。これは本当に時間がなさそうだわ。
「一体でも多く倒して、時間を稼ぐわよ! 全員に強化魔法付与!! 出陣します!!」
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魔物に負けないように大きく声を張り上げて、絶望的な『森』へと突き進んで行く。
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