転生しました、脳筋聖女です

香月航

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STAGE15-07

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「ぬおおおおおッ!!」

 ギィン、と耳障りな音を立てて、襲い掛かった牙が斧の刃と火花を散らす。

「ディアナ様!!」

 ディアナ様の冗談みたいに巨大な斧を持ってしても、大蛇の口を食い止めるのはギリギリだ。今までにも体格の大きな魔物と戦ってきたけど、アペプ改め【混沌の大蛇】の大きさは規格外すぎる。

 特に口の大きさが異常だ。元々蛇は、細い体からは考えられないほど大きな獲物を、一口で丸呑みしてしまう生物だけど。それが魔物化……しかも、元ネタが邪神であるような凶悪なものとなれば、力は桁違いに強くなってしまっている。
 おまけに、ヤツには今まで戦ったボス魔物にはなかった脅威の性質がある。

「ディアナ様気をつけて! ヤツは猛毒持ちの蛇です!!」

「なんと! 忠告感謝するぞ!」

 噛み砕こうとした大蛇を斜めにいなすと、ディアナ様はすばやく地面を転がって追撃を防ぐ。その軌跡には、どろどろのヤツの唾液がたっぷりと垂れていた。

「なるほど、我は鎧で命拾いしたようだな」

「一応装備で防ぐことはできますが、かなりの猛毒のはずです。恐らく、命に関わります」

「それほどか……しかし、遠くから眺めていて勝てる相手ではあるまい。ならば、装備が堅固な我が盾となろう」

「ディアナ様……!」

 駆け寄ったディアナ様は、幸いにも重い鎧のおかげで無傷だった。
 しかし、油断はできない。ヤツがゲーム通りの性能なら、素肌で触れたら即命に関わるレベルの超凶悪な毒なのだ。

(部隊で一番重装とは言え、ディアナ様だって頭の部分は露出している。私の回復魔法で解毒ができればいいんだけど、やったことないし、毒に対して有効なのかはわからない)

 多分、ゲームでも回復と解毒のアイテムは別だったから、私の魔法のみ特別ということはないだろう。
 今まで毒持ちの魔物とはあまり戦わなかったし、居たとしても毒を出される前に倒せてしまうレベルだったから、対策をしてこなかったのよね。
 それがここにきて、いきなりの致死毒持ちとは。本っ当にこの世界は鬼畜な難易度になってるわよね!

「毒持ちか……」

 慎重に構え直したディアナ様に続いて、盾を持っている王子様も皆をかばうように立ってくれる。とは言っても、ディアナ様とは違って軽装の彼を前に立たせるのも危ない。

「殿下、解毒薬とか持ってませんよね?」

「汎用品なら少し買ってあったけれど、馬車に置いてきてしまったな」

「そもそも、蛇毒は植物由来のものとは全く別物だ。汎用品でどうにかできるとは思えん」

 短く交わした会話に、ノアからの補足が入る。確かに、毒という『状態異常』に一括りされるゲームと現実は違うだろう。
 蛇毒は特に、植物や虫由来のものよりも多様な性質があったはずだ。一度かかってしまったら、治療も時間との勝負になってしまうし。

(勝利条件は、まず“毒にかからないこと”か……)

 口で言うのは簡単だけど、実際にはかなり厳しい条件だ。
 こうして対策を考えている間にも、ヤツの巨大な口からはボタボタと毒の唾液が滴り落ちている。あれに触らずに戦えなんて……直接魔物と戦う前衛の私たちは、特に難しい。

「何か、毒を無効化できる手段があればいいんだけど……くっ!!」

 大蛇は鼻先で地面をつついては私たちを翻弄してくる。正しく獲物をいたぶって楽しむ、捕食者の動きだ。
 しかも、巨体が地面をつつく度に地震のように揺れるので、視界がブレて定まらない。

 ここに招いた泥女は、こうして私たちがじわじわと疲弊していくのを、どこかから楽しく見ているのだろう。……そう思ったら、なんだかますます腹が立ってきたわ。

「くそっ、崩落を防ぐなんて、まだ軽い話だったな。何か対策はないのかアンジェラ」

「……崩落」

 忌々しげに大蛇を睨みながら、ノアが問いかけてくる。崩落といえば、遺跡にきてから何度かネタにされている破壊師弟のウィリアムだ。
 ――攻撃特化型の魔術師の彼は、火の魔術が得意ではなかっただろうか。

「ウィリアムさん、ちょっと聞きたいんだけど、火の魔術ってどれぐらい使える?」

「は、はい!? 火でしたら、だいたいの破壊魔術は使えます!」

 突然聞いたせいでちょっと声が上ずったけど、ウィリアムはしっかりと肯定の返事をしてくれた。
 ノアが特に心配していた“加減が苦手な魔術師”……その脅威は折り紙付きだろう。

「だったら、ねえ――あの大きな蛇を蒸発させるぐらいの強い火の魔術、使えない?」

「ええっ!?」

 ウィリアムの驚きの声に、仲間たちの視線が一気にこちらに向いた。
 ……そうよ、近付いて戦えないのなら、毒ごと敵を消し飛ばしてしまえばいいんだわ!
 幸いにもうちには、壊すことに関しては他の追随を許さない魔術師が二人もいるんだもの。せっかくの破壊力、もうここで発揮してもらっちゃいましょう!

「お、おい、本気かアンジェラ……」

 何度も注意していたノアが、信じられないものを見るような顔で私とウィリアムを見返している。
 少し離れたところの王子様は、何故かとても楽しそうだ。

「…………はい、あのぐらいの魔物なら、できます!」

 やがて、巨大な蛇を観察していたウィリアムは、しっかりと頷きを返してくれた。うんうん、さすが壊し屋、そうこなくっちゃね!

「先の戦いで、お師匠様がマグマを召喚してくれましたから。魔物を蒸発させるぐらいの温度の高い魔術を、ちょうど研究していたところなんです。少し時間はかかりますが、ぼくがやります。やらせて下さい!!」

「ウィル……」

 いつもは気弱なウィリアムの力強い宣言に、師たるカールはどこか誇らしげに笑う。
 謝り癖こそ面倒だけど、ウィリアムも人間卒業間近な凶悪魔術師なのだ。今回は彼に主力を務めてもらおうじゃない。

「よし、そうと決まれば早速準備をお願い。私たちはウィリアムさんの準備が整うまで、とにかく時間稼ぎよ! 攻撃は体を中心に狙って、口からは逃げてちょうだい!」

「了解だよ、アンジェラ! とすると……エルドレッド殿下、ご相談が」

「逃げながらでもいいかな!?」

 こちらが動きを変えると気付いたのだろう。さとい魔物は遊ぶような行動をすぐにやめて、再び大きな咆哮を上げる。
 動きの素早いダレンたちが、応えるようにターゲットをとって、攪乱かくらんに走り始めた。

「ディアナ様、私たちは毒を避けた体をとにかく殴りましょう」

「うむ、請け負った!!」

 対して、動きがあまり早くない私とディアナ様はとにかく顔から遠い場所を攻撃だ。
 ウィリアムの魔術が当たりやすいように、少しでも弱らせておきたい。

「やるなと言い続けたことがあだになるとは……ああもういい! 防御は俺が引き受ける! ウィリアム、全力で消し飛ばせ!!」

「はい、賢者様!!」

 最後まで心配していたノアも、強行作戦に乗ってくれるようだ。
 やっぱり考えるなんて私には似合わないわ。厄介な性質があるなら、本体ごとまとめて全部消し飛ばすのみ!

「ちゃんと見てなさいよ、泥女! 脳筋聖女様の仲間は、貴女が思うよりずっと強いんだからね!!」
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