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第7話 初めての食事会
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マノンさんに髪を結っていただき、お化粧も失礼にならない程度に薄く施していただいていよいよ夕食に臨む。
呼吸を整えて食堂に足を踏み入れると、レイヴァン様は既に着席されていて、私の姿を認めると立ち上がった。礼を取って挨拶した私を見つめまま何も言わない彼に戸惑っていると、こほんとした咳払いののち椅子に手を向けて何かを言った。
「クリスタル様があまりにもお綺麗で見とれてしまったんですって」
私の側に立つマノンさんはくすくすと笑ってそう教えてくれるが、椅子を指して言った言葉とはとても思えない。私をリラックスさせるための彼女なりの計らいに違いない。
「さあ。クリスタル様、お座りください」
「分かりました」
こちらが本当の言葉だろう。
私が椅子に手をかけようとした時、後ろに控えていた男性が椅子を引いてくれた。まさかそんな対応があるとは思わず、小さく肩が跳ねてしまった。
先ほどより少し離れたマノンさんを振り返ると彼女は笑顔で頷く。このまま座れということだろう。私は緊張の息を呑みながら腰を下ろした。
目の前には、ナプキンを中心に両脇に配置されたカトラリーやグラスがある。お茶を頂いた時にも思ったが、食文化も食事形式も自国とは違うようだ。きっと食事作法も違うだろう。食事中にたびたびマノンさんへと振り返って尋ねることも難しい。レイヴァン様の動きをこっそり真似ることにしよう。
そう考えてテーブルからそろりと顔を上げると、レイヴァン様とばちりと視線が合った。
まさかさっきから私の一挙一動を監視されていたのだろうか。
内心焦りつつも、さり気なさを装って視線を落とすとナプキンを取って膝の上に置く。すると、まるでそれを合図かのようにテーブルに次から次へと料理が運ばれてきた。
サンティルノ国の人は、一度にこんなにたくさんの品数を食べるのかと目を丸くしてしまう。
驚いている私にレイヴァン様が何かを言った。
「お上品な晩餐会とは様式が違うけれど、うちではこれが日常だから慣れるようにとのことです」
「分かりました」
マノンさんは私の言葉を伝えてくれている。これから私も少しずつ言葉を覚えていかなければ。
「それでは食事を始めようとのことです」
「はい」
マノンさんの言葉で思考から戻り、レイヴァン様に視線を向ける。
彼はフォークを手に取ってまず野菜から手をつけたので、私もそれにならう。火を通していない野菜は思いの外、咀嚼音が響くような気がして音がもれないように噛む力を緩めた。
次に口にしたのはスープだ。温かくて甘味のあるスープは感じたことのないくらいの濃厚さだった。驚きはしたけれど、色々な味が感じられてとても美味しいと感じる。お茶も渋かったし、サンティルノ国は味が濃いお料理が好まれるのかもしれない。
ふとレイヴァン様に視線を向けると彼は既にお肉に手を付けていた。私は慌ててナイフとフォークに持ち替えてお肉にナイフを入れる。
信じられないほどの柔らかさだ。一口大に切ったお肉をおそるおそる口にすると、やはり食感も柔らかくて口の中で溶けゆくとともに肉本来と思われる旨味がじゅわりと広がった。こちらも本当に美味しい。人生で一番美味しく感じた料理かもしれない。
故郷のお肉は固くて飲み込むまで何度も何度も咀嚼を繰り返し、食べ終わる頃には顎が疲れていることさえあった。焼いてソースをかけているところは変わりないように思うのに、育てる環境なのか、品種の違いなのか、調理時間の違いなのか。
また深い思考の沼にはまりそうな自分を叱咤して、レイヴァン様に視線を向けると、彼はパンを口に運んでいたので私もパンに手を伸ばした。
触れてみると外側はパリッとしていて固そうだ。中も固かったりするのだろうか。スープに浸して食べたりするのは……やはり無作法に当たるかもしれない。レイヴァン様はちぎって食べていたようだし、とりあえずちぎってみ――。
「――タル、XXクリスタル」
「は、はい!」
呼びかけにはっと我に返り、手を引っ込めてレイヴァン様を見ると彼は何かを言った。すぐさまマノンさんが通訳してくれる。
「私の後を追って同じ物を食べていく必要はない。好きに食べるようにとおっしゃっています」
気付かれていた。……恥ずかしい。
私は申し訳ありませんと頬に集まった熱を隠すようにうつむく。マノンさんはそれすらも訳してくれているようだ。
「XXクリスタル」
再び呼びかけてきたレイヴァン様は、少し気まずいような表情を浮かべながら言った。
「食事が冷めるから続けようとおっしゃっています」
「はい」
その後、数回手を動かしてパンやお肉を口にしたところで私はフォークとナイフを置いた。
お皿にはまだ沢山のお料理が残っている。元々が多かったとは言え、こんなにも残すことになって、勿体なさと罪悪感が生まれる。
「クリスタル様、もう食べないのかとレイヴァン様がおっしゃっています」
「……はい。誠に申し訳ありません。もうお腹が一杯になりました」
慣れぬ濃厚な味付けと脂身のあるお肉を食べたせいか、お腹に満足感が出てしまった。きっと緊張していて喉に通らないせいもある。
けれどレイヴァン様は、ほとんど手が付けられていない料理を訝しげに思ったらしい。続いて何かを言った。
「もしかして口に合わなかったのかと」
「い、いいえ。味が濃厚で深みがあって、とても美味しかったですとお伝えください」
自分の言葉ではうまく表現できないから、書物で見た一文を引用する。
「承知いたしました」
ただ、マノンさんは私の言葉を伝えてくれたけれど、レイヴァン様はそれでも不信感を拭えないままのようだった。眉をひそめて渋い表情を浮かべ、ただ小さく頷くと彼はそのまま食事を続行する。
初めてのレイヴァン様とのお食事会も決して成功とは言えそうになかった。
呼吸を整えて食堂に足を踏み入れると、レイヴァン様は既に着席されていて、私の姿を認めると立ち上がった。礼を取って挨拶した私を見つめまま何も言わない彼に戸惑っていると、こほんとした咳払いののち椅子に手を向けて何かを言った。
「クリスタル様があまりにもお綺麗で見とれてしまったんですって」
私の側に立つマノンさんはくすくすと笑ってそう教えてくれるが、椅子を指して言った言葉とはとても思えない。私をリラックスさせるための彼女なりの計らいに違いない。
「さあ。クリスタル様、お座りください」
「分かりました」
こちらが本当の言葉だろう。
私が椅子に手をかけようとした時、後ろに控えていた男性が椅子を引いてくれた。まさかそんな対応があるとは思わず、小さく肩が跳ねてしまった。
先ほどより少し離れたマノンさんを振り返ると彼女は笑顔で頷く。このまま座れということだろう。私は緊張の息を呑みながら腰を下ろした。
目の前には、ナプキンを中心に両脇に配置されたカトラリーやグラスがある。お茶を頂いた時にも思ったが、食文化も食事形式も自国とは違うようだ。きっと食事作法も違うだろう。食事中にたびたびマノンさんへと振り返って尋ねることも難しい。レイヴァン様の動きをこっそり真似ることにしよう。
そう考えてテーブルからそろりと顔を上げると、レイヴァン様とばちりと視線が合った。
まさかさっきから私の一挙一動を監視されていたのだろうか。
内心焦りつつも、さり気なさを装って視線を落とすとナプキンを取って膝の上に置く。すると、まるでそれを合図かのようにテーブルに次から次へと料理が運ばれてきた。
サンティルノ国の人は、一度にこんなにたくさんの品数を食べるのかと目を丸くしてしまう。
驚いている私にレイヴァン様が何かを言った。
「お上品な晩餐会とは様式が違うけれど、うちではこれが日常だから慣れるようにとのことです」
「分かりました」
マノンさんは私の言葉を伝えてくれている。これから私も少しずつ言葉を覚えていかなければ。
「それでは食事を始めようとのことです」
「はい」
マノンさんの言葉で思考から戻り、レイヴァン様に視線を向ける。
彼はフォークを手に取ってまず野菜から手をつけたので、私もそれにならう。火を通していない野菜は思いの外、咀嚼音が響くような気がして音がもれないように噛む力を緩めた。
次に口にしたのはスープだ。温かくて甘味のあるスープは感じたことのないくらいの濃厚さだった。驚きはしたけれど、色々な味が感じられてとても美味しいと感じる。お茶も渋かったし、サンティルノ国は味が濃いお料理が好まれるのかもしれない。
ふとレイヴァン様に視線を向けると彼は既にお肉に手を付けていた。私は慌ててナイフとフォークに持ち替えてお肉にナイフを入れる。
信じられないほどの柔らかさだ。一口大に切ったお肉をおそるおそる口にすると、やはり食感も柔らかくて口の中で溶けゆくとともに肉本来と思われる旨味がじゅわりと広がった。こちらも本当に美味しい。人生で一番美味しく感じた料理かもしれない。
故郷のお肉は固くて飲み込むまで何度も何度も咀嚼を繰り返し、食べ終わる頃には顎が疲れていることさえあった。焼いてソースをかけているところは変わりないように思うのに、育てる環境なのか、品種の違いなのか、調理時間の違いなのか。
また深い思考の沼にはまりそうな自分を叱咤して、レイヴァン様に視線を向けると、彼はパンを口に運んでいたので私もパンに手を伸ばした。
触れてみると外側はパリッとしていて固そうだ。中も固かったりするのだろうか。スープに浸して食べたりするのは……やはり無作法に当たるかもしれない。レイヴァン様はちぎって食べていたようだし、とりあえずちぎってみ――。
「――タル、XXクリスタル」
「は、はい!」
呼びかけにはっと我に返り、手を引っ込めてレイヴァン様を見ると彼は何かを言った。すぐさまマノンさんが通訳してくれる。
「私の後を追って同じ物を食べていく必要はない。好きに食べるようにとおっしゃっています」
気付かれていた。……恥ずかしい。
私は申し訳ありませんと頬に集まった熱を隠すようにうつむく。マノンさんはそれすらも訳してくれているようだ。
「XXクリスタル」
再び呼びかけてきたレイヴァン様は、少し気まずいような表情を浮かべながら言った。
「食事が冷めるから続けようとおっしゃっています」
「はい」
その後、数回手を動かしてパンやお肉を口にしたところで私はフォークとナイフを置いた。
お皿にはまだ沢山のお料理が残っている。元々が多かったとは言え、こんなにも残すことになって、勿体なさと罪悪感が生まれる。
「クリスタル様、もう食べないのかとレイヴァン様がおっしゃっています」
「……はい。誠に申し訳ありません。もうお腹が一杯になりました」
慣れぬ濃厚な味付けと脂身のあるお肉を食べたせいか、お腹に満足感が出てしまった。きっと緊張していて喉に通らないせいもある。
けれどレイヴァン様は、ほとんど手が付けられていない料理を訝しげに思ったらしい。続いて何かを言った。
「もしかして口に合わなかったのかと」
「い、いいえ。味が濃厚で深みがあって、とても美味しかったですとお伝えください」
自分の言葉ではうまく表現できないから、書物で見た一文を引用する。
「承知いたしました」
ただ、マノンさんは私の言葉を伝えてくれたけれど、レイヴァン様はそれでも不信感を拭えないままのようだった。眉をひそめて渋い表情を浮かべ、ただ小さく頷くと彼はそのまま食事を続行する。
初めてのレイヴァン様とのお食事会も決して成功とは言えそうになかった。
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