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家族がおかしな人たちだった
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夜中に話し声が聞こえて目を覚ますと、リビングで父さんと女がボソボソと話をしていた。
「もう、こっちには戻ってこないんだと思っていた」
「そんなわけないじゃない。シンがいるのに、どうして」
「だって君は、もともと向こうの人だろう」
向こうの人?こっちには戻ってこないと思ってた?何の話だ?
「それは確かにそうだけど、しんちゃんだって一度は勇者としてきてくれたじゃない」
はい?父さんがなんだって…?
「けど、魔王は討伐したはずだろう?その馬に乗った俺は結局誰だったんだ?」
「魔王の部下。四天王の一人だった。見た目をシンに変えて、私を拉致しようとしたの…魔王の奴、しぶとく生き返ったのよ…まだ力はそれほど大きくないけど」
まおうのぶか…。魔王?ちょっと待て。俺は一体なんの話を聞いているんだ?父さんも何落ち着いて聞いてんだ?
「そいつはどうなった?」
「アマリアとグレッグが来てくれたから大丈夫だったわ」
誰のことだ?アマリアとグレッグ?外人の友人?
まあ、新聞記者だったから交友範囲は広いと思っていたけど。そいつらも仲間なのか?
「あいつらも…こっちですっかり根を下ろしたと思ってたのに」
「私だってそうよ!でも魔力繋がりがあって引きずられたんだと思う」
「ああ、そっか。俺は健二を守るために縁切りしたからな…」
「アマリアから聞いたわ。私の聖女の力はケンちゃんを生んで、消えたと思っていたのに。ねえ、ケンちゃんはもしかして」
「はぁ…。ああ、健二は魔力持ちだ。だから縁切りして、あっちとのつながりを切ろうとしたんだ。多分何度か呼ばれているはずだけど…自我が強いのか拒否力が強くてここにとどまってる」
俺?俺の話?魔力持ちって…はぁ?
「じゃあ、やっぱりケンちゃんが次の勇者……っ」
「勇者の子は勇者ってわけか。健二は現実主義に育ったからな。ファンタジーとか超能力とか毛嫌いしてる。何度か呼ばれたのも気づいたけど完璧無視してたし、召喚も効かなかった」
「さすが我が子…と言いたいとこだけど、このままじゃ魔王がこっちにきちゃう」
「それはそれで困ったな…」
両親が壊れてる。
……頭痛くなってきたぞ。母だけでなく、父親までも厨二症だったのか。どうしよう。両親が精神やられてると言うことは、俺どうなるんだ?18歳って一人で生きていける年齢だよな?とりあえず仕事も内定もらったし。
明日、この女ーーと言うか一応母親なのかーーの両親が来るんだよな。えっと、俺の祖父母になるわけか。ちゃんとした人間なんだよな?狂ってんのは実は俺の方とか、言わないよな?狂人ほど『俺は狂ってない』と言うとか、マジで?
途端に信じていた世界が足元から崩れていくような気がして、俺はフラフラと自室に戻った。
母さんが聖女で、父さんが勇者……?
しかも母さんは元から異世界人だった?
父さんが異世界に行って、奥さん連れてこっちに帰ってきたってこと?
俺がその息子?
異世界召喚。ほんとにあるのか、そんな事。魔王とか魔法とか聖女とか勇者とか。ダンジョンとかドラゴンとか、体長5メートルくらいの目の赤いクマとか、羽の生えた人型のなんかとか。
「………絶対行きたくないな」
ぶるぶると頭を横に振るって自分に言い聞かせ、何があっても自分だけはマトモでいたいと願った。次の勇者とか、わけわかんねぇ。俺は頭から布団をかぶって目を瞑った。
まさか、父さんが一度勇者召喚されて、あっちで母さんと知り合って一緒に魔王討伐の冒険に出て、こっちに戻ってきたなんて。次の日になって現れた祖父母が、実は本当の祖父母じゃなくて、討伐で一緒に戦った仲間の魔導士アマリアと聖騎士グレッグだなんて知る由もなく。
どれだけ頼まれても脅されても拒み続けて現実を見据えていたら、とうとう現実世界に魔王が現れ、ダンジョンが世界中に湧き出てくるなんてこの時の俺は、全く想像もしなかった。
神様。もし本当にいるのなら、チートとか魔法とか要りません。わけわからん母親もいらないし、勇者の父もいりません。グルメ雑誌の記者の父だけでいいです。ご飯も自分で作れるし、仕事も真面目にできると思います。
だから俺の平穏な生活を返してくれ。
<完>
「もう、こっちには戻ってこないんだと思っていた」
「そんなわけないじゃない。シンがいるのに、どうして」
「だって君は、もともと向こうの人だろう」
向こうの人?こっちには戻ってこないと思ってた?何の話だ?
「それは確かにそうだけど、しんちゃんだって一度は勇者としてきてくれたじゃない」
はい?父さんがなんだって…?
「けど、魔王は討伐したはずだろう?その馬に乗った俺は結局誰だったんだ?」
「魔王の部下。四天王の一人だった。見た目をシンに変えて、私を拉致しようとしたの…魔王の奴、しぶとく生き返ったのよ…まだ力はそれほど大きくないけど」
まおうのぶか…。魔王?ちょっと待て。俺は一体なんの話を聞いているんだ?父さんも何落ち着いて聞いてんだ?
「そいつはどうなった?」
「アマリアとグレッグが来てくれたから大丈夫だったわ」
誰のことだ?アマリアとグレッグ?外人の友人?
まあ、新聞記者だったから交友範囲は広いと思っていたけど。そいつらも仲間なのか?
「あいつらも…こっちですっかり根を下ろしたと思ってたのに」
「私だってそうよ!でも魔力繋がりがあって引きずられたんだと思う」
「ああ、そっか。俺は健二を守るために縁切りしたからな…」
「アマリアから聞いたわ。私の聖女の力はケンちゃんを生んで、消えたと思っていたのに。ねえ、ケンちゃんはもしかして」
「はぁ…。ああ、健二は魔力持ちだ。だから縁切りして、あっちとのつながりを切ろうとしたんだ。多分何度か呼ばれているはずだけど…自我が強いのか拒否力が強くてここにとどまってる」
俺?俺の話?魔力持ちって…はぁ?
「じゃあ、やっぱりケンちゃんが次の勇者……っ」
「勇者の子は勇者ってわけか。健二は現実主義に育ったからな。ファンタジーとか超能力とか毛嫌いしてる。何度か呼ばれたのも気づいたけど完璧無視してたし、召喚も効かなかった」
「さすが我が子…と言いたいとこだけど、このままじゃ魔王がこっちにきちゃう」
「それはそれで困ったな…」
両親が壊れてる。
……頭痛くなってきたぞ。母だけでなく、父親までも厨二症だったのか。どうしよう。両親が精神やられてると言うことは、俺どうなるんだ?18歳って一人で生きていける年齢だよな?とりあえず仕事も内定もらったし。
明日、この女ーーと言うか一応母親なのかーーの両親が来るんだよな。えっと、俺の祖父母になるわけか。ちゃんとした人間なんだよな?狂ってんのは実は俺の方とか、言わないよな?狂人ほど『俺は狂ってない』と言うとか、マジで?
途端に信じていた世界が足元から崩れていくような気がして、俺はフラフラと自室に戻った。
母さんが聖女で、父さんが勇者……?
しかも母さんは元から異世界人だった?
父さんが異世界に行って、奥さん連れてこっちに帰ってきたってこと?
俺がその息子?
異世界召喚。ほんとにあるのか、そんな事。魔王とか魔法とか聖女とか勇者とか。ダンジョンとかドラゴンとか、体長5メートルくらいの目の赤いクマとか、羽の生えた人型のなんかとか。
「………絶対行きたくないな」
ぶるぶると頭を横に振るって自分に言い聞かせ、何があっても自分だけはマトモでいたいと願った。次の勇者とか、わけわかんねぇ。俺は頭から布団をかぶって目を瞑った。
まさか、父さんが一度勇者召喚されて、あっちで母さんと知り合って一緒に魔王討伐の冒険に出て、こっちに戻ってきたなんて。次の日になって現れた祖父母が、実は本当の祖父母じゃなくて、討伐で一緒に戦った仲間の魔導士アマリアと聖騎士グレッグだなんて知る由もなく。
どれだけ頼まれても脅されても拒み続けて現実を見据えていたら、とうとう現実世界に魔王が現れ、ダンジョンが世界中に湧き出てくるなんてこの時の俺は、全く想像もしなかった。
神様。もし本当にいるのなら、チートとか魔法とか要りません。わけわからん母親もいらないし、勇者の父もいりません。グルメ雑誌の記者の父だけでいいです。ご飯も自分で作れるし、仕事も真面目にできると思います。
だから俺の平穏な生活を返してくれ。
<完>
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