俺は善人にはなれない

気衒い

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第6章 裏切りは突然に

第79話 対価

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「あの野郎…………」

「どうした?出し抜かれたことがそんなに悔しいのか?だが、それは仕方のないこと。今回は相手が悪い。なんせ、シンヤ殿だからな」

「違ぇよ…………悔しいとかそんなんじゃなくて、ただただ驚いてんだ。お前らがここに来るなんて予想だにしていなかったからな」

「で、まんまと出し抜かれたから悔しいと」

「てめぇ…………消されたいのか?」

「なんにしてもここだと思う存分、戦えないだろ?ってことで今から場所を変えよう」

「は?そんなの、いきなり無理だろ。一体、何を言ってるんだ?」

「お前の方こそ、何を言っているんだ?空間魔法の"転移"を使えばいいだけじゃないか」

「それこそ、無理だろ。凄腕の魔術師達でも厳しい魔法をどう見ても武闘派の俺達が使える訳………」

「我をお前みたいな奴と一緒にしないでもらいたい」

「何だと?」

「だって、そうだろ?なんせ、我は使えるのだから」

「な…………何!?」

――――――――――――――――――――






「や、やめてくれ!」

「お母さん~!」

「だ、誰か助け」

世界の各地では黒いローブを纏った集団があらゆる街や村の人間に危害を及ぼし始めていた。これに対して、人々もただやられてばかりではなく、冒険者ギルドへの救助要請を出し続けてはいたのだが……………

「おい!お前ら、しっかりしやがれ!」

「で、ですがリーダー!こいつら、かなり強いぞ!」

「僕達の攻撃は効かず、あちらの攻撃はこちらの防御を貫通してきます!」

派遣されてきた冒険者のことごとくが敵の強さに抗うだけの力がなく、時間稼ぎが精一杯の状況となってしまっていた。

「くそっ!このままじゃ、いずれ時間の問題だぞ!誰か、いないのか!?この圧倒的不利な状況をひっくり返すだけの力を持つ者は!」

「そんなの……………あ…………リ、リーダー!もしかしたら、あの時、フリーダムで"魔剣"を助けたあの男なら」

「馬鹿野郎!フリーダムから、ここまで一体どれだけの距離があると思っているんだ!そんなくだらない妄想に縋るぐらいなら、今自分ができる最善の策を考えやがれ!」

「妄想じゃないわよ」

「は?一体、何の根拠があって…………ってお前は」

その時、周りの者の目が急に現れた黒衣を纏った集団へと集中した。逃げ惑う人々やそれを襲おうとする黒ローブ、さらには応戦する冒険者までもが皆、時が止まったかのように一斉に動かなくなり、突然の事態に困惑した。それもその筈。今の今まで彼らの存在に気が付いておらず、何か声がしたと思った時には既に人々を守る形でその集団はいたのだ。先頭には獣人の中でも特に珍しいとされる九尾種の少女が黒衣を靡かせ、堂々とした表情で立っていて、こう言った。

「クラン"黒天の星"朱組組長、クーフォ!助けに来たわ!」




同時刻、他の場所でも同じようなことがいくつも起き、黒衣を纏った集団が戦場を駆け抜けていった。その際、助けられた人々のケアなどはそれぞれ異なっていたが、ある村では積極的に負傷者の介抱や受け入れを行っていた。世界中が混乱状態に陥っている状況で何故、そのような余裕があるのか……………その真相を解明する為には3日程前に遡る必要があった。

――――――――――――――――――――




フリーダムでの一件が起こる3日前、とある村。ここには随分と前から悪魔が住み着いており、日頃から人々に対して精神的・肉体的な苦痛を強いていた。その日もまた同じような日常を過ごすことになると諦めていた門番を務めている男はある集団が村へと向かってくるのを発見した。全員、同じ格好をした男女7人。種族もバラバラであり、何故か一度見たら目が離せない、そんな集団であった。そして、門の前に辿り着くとギルドカードを掲げながら開口一番、こう言った。

「俺達は冒険者でこういう者だ。この村に寄ったのには訳がある」

「訳………?」

「この村に住み着いている悪魔を退治しに来た」

「な!?」

いきなり、やって来て大口を叩いた男に驚きの声を上げた門番。しかし、その直後、ギルドカードに記載された冒険者のランクを見て、もしかしたらという淡い期待を抱いた。一応、村長への紹介もした方がいいと判断した門番はその集団を連れて、村の中へと戻った。その後、悪魔に気が付かれて奇襲をかけられでもしたらマズイということになり、村長との挨拶も軽くで済ませ、一行は悪魔が村人から奪い取って住んでいる家へと向かった。

「着きました。ここが悪魔の…………」

「"滅魔刀"」

「って、いきなり何をしているんですか!?」

着いて早々、その集団のリーダーは刀を軽く一閃し、家を斬った。半壊する家、驚く門番。幸い、周りに村人はなく、被害は家を除けば、悪魔のみに及んだ。

「ぐはっ…………い、一体、何が起きたんだ!?」

「お前がこの村を乗っ取った悪魔だな?見たところ、魔族のようだが」

「へっ、こんなことをしてタダで済むと思うなよ?俺のバックにはな」

「アスターロ教だろ?」

「な、何故それを!?」

「答える義理はない。そして、お前は逝け」

門番には何がなんだか分からなかった。いきなり現れて、悪魔を秒で始末した男とそれを見守る集団。はっきり言って異常だった。自分達が長年苦しんだことをこうも簡単に解決されてしまえば、それを受け入れるのに時間がかかる。それも仕方のないことかもしれない。しかし、男の目的はまだこれで終わりではないらしかった。未だ驚きから立ち直っていない門番に向かって、こう言ったのだ。

「門番、悪いが村人全員を集めてくれないか?」






「冒険者様、この度は誠に」

「礼はいらない。何故なら、俺はあの悪魔を倒さなければならない……………それだけのことを以前してしまったからだ」

「それだけのこと?それは一体…………」

「単刀直入に言おう……………俺は以前、この村出身の者達を手にかけた。名はそれぞれパーシィー、シンディー、ロンダ、マリ、ニックだ」

それを聞いた途端、崩れ落ちる村人が数十人いた。おそらく、その5人の遺族であろう。一部、怨嗟のこもった視線を向けている者もいたが、大半はそこに至るまでの経緯を説明すると納得すると同時に涙を堪えきれず、蹲ってしまった。

「なるほど、そのようなことが…………過程はどうあれ、我々がパーシィー達に救われたことには変わりない。冒険者様方もどうか、ご自分を責めないで頂きたい。誰かを救うには誰かを犠牲にしなければならない……………ここは現実。物語の中などではないのじゃ」

「ああ…………1つ頼みたいことがあるんだが」

「何でしょう?」

「この村にあいつらの墓を建ててやりたい。フリーダムにあることはあるんだが、村人達にも拝めるようにしたい。2箇所にあっても問題はないだろ?」

「ええ。こういうのは作法やしきたりよりも気持ちの方が大事なのじゃ。ということで許可しましょう」

その後、墓を建て全員で手を合わせた。村へとやってきた集団は墓へと花を手向け、大量の食料や回復薬、金銭を村へと残していった。村を出る直前、リーダーの男が振り返り、こう言った。

「それらをどう使うかはお前らの自由だ。あと、余談だが、数日後とんでもないことが起きるから」

男の言葉通り、数日後フリーダムでの一件が世界中を震撼させ、各地が混乱の渦に巻き込まれた。幸い、その村の者達は驚きはしたものの、その時の言葉が頭に残っていた為、そこまで慌てることはなかった。そして、村長は男に貰った物資や食料を使い、近くの街や村の負傷者を受け入れようと動き始めた。結果的にあの時、出会った冒険者達の行動や運が故郷の村人だけではなく、それ以外の者達をも救うことに繋がったのだった。
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