俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第131話 和解

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「この!この!この!俺達が一体何をしたってんだ!何であんな目に遭わなくちゃならない!どうしてだ!どうして、この世界はこんなにも理不尽なんだ!…………ごの!……………ごの!…………ごの!…………それから…………ぐずっ、すまない…………本当にすまない…………お前は何も悪くない。それなのに……………こんなのただの八つ当たりじゃないか……………」

俺に攻撃をしていた最後の1人が泣きながら崩れ落ちた。その際、落下した剣が大きな音を立てた。俺は一切抵抗しなかった。ただただ所定の位置から一歩たりとも動かず、彼等の思いをその身で以て受け止めた。ステータスに大きな開きがあり、なおかつ固有スキルのおかげで俺が傷を負うことはなかったが逆に彼等の方が心に傷を負ってしまったのかもしれない。罪悪感と自己嫌悪によって。しかし、それは俺の本意ではない。そこですかさず、本心を伝えることにした。

「八つ当たりではない。提案とは言ったがこれは俺が望んだことだ。現に爺さんも戸惑っていたし、止めようとしてくれた。それを俺が強引に押し切ったんだ。だから気にする必要はない」

俺に攻撃した最後の1人にそう言った。どうやら、この男は長老の次に偉いそうでまとめ役もやっているみたいだ。

「いや、それでも!」

「では聞くが…………皆、モヤモヤは多少なりとも晴れたか?正直に答えて欲しい」

俺は彼等を見回した。全員が申し訳なさそうにしていた表情を一変させ、深く頷いた。

「なら、それでいい。俺としては申し訳なさそうにされるのが一番嫌だ。お前らがスッキリとし、俺もまた自己満足できる……………これでWin-Winだろ?」

「……………いいのか?」

「ああ。その代わり、これでお互いは対等だ。いいよな?」

「ああ、もちろんだ!よろしく頼む。それと改めて……………ようこそ!ダークエルフの隠れ里"スニク"へ!」




――――――――――――――――――――





その日の夜、宴会が開かれた。どうやら俺達を歓迎してのものらしい。隠れ里に着いたのが昼頃で今の今までは長老に色々と案内してもらいながら、景色や人々との交流、また仕事ぶりを見て楽しんだ。リースやセバスは自国のこともあり、早く帰りたいのではないかと心配したが早ければいいという訳でもないらしく、むしろ外で様々なものに触れることで見聞を広めることができると喜んでいた。ちなみにローズだが俺達とは別行動で両親や親戚、友人等と久々の再会を楽しんでいたそうだ。積もる話もあるのだろう。

「シンヤ君だったね?ここ、ちょっといいかい?」

酒の席でぼんやりと皆の様子を見ながら座っていると目の前にがっちりとした体格のダークエルフが座った。宴会が始まって既に1時間。先程まで里の者達がひっきりなしに俺の所へやってきてはお礼や友好的な言葉、愛の告白などをしてきていた。告白をされた際はクランの女性陣の目が吊り上がって少しヒヤリとしたが……………そんな中、この男とは話した覚えがない。というよりも……………

「タイミングを窺っていたのか?さっきから、ずっと見ていただろ」

「流石だな。気配を絶ち、姿も隠していたんだが…………バレていたか」

「そんくらい察知できなきゃ、冒険者はやっていけない」

「高ランク冒険者は…………だろ?」

「何が言いたい?」

「これでも俺は実力者であると自負している。おそらくCランク冒険者ならば、先程のは一切気が付かないはずだ」

「そうか。俺の感覚が麻痺してるかもな。それか、ただ単にアンタが井の中の蛙なだけか」

「前者だと思いたいな」

「で?用件はなんだ?」

「その前にまずは自己紹介をさせてもらいたい。俺はロッド。この里のまとめ役をしている者だ」

「ん?よく見たら、俺に最後に攻撃して勝手に泣き崩れた奴じゃないか」

「嫌味な言い方だな!まぁ、事実なんだがな!いっそ清々しいわ!」

「俺はシンヤ。冒険者をしている……………で?一体、何の用なんだ?」

「お礼と謝罪をさせて欲しい」

「アンタもか…………」

「いや、他の者とは多少意味合いが違うんだ」

「意味合い?」

「…………この度は娘・を救い、今日まで大切にしてくれてありがとう!全て聞かせてもらったよ。あいつはシンヤ君に出会ってから、とても幸せな毎日を過ごしてるみたいだ。シンヤ君やクランの仲間達と楽しい日々を送り、冒険者稼業に至ってはSSランクの幹部で部下もいるとか。それも邪神の件で広く知れ渡った有名なクランのだ。これは親として1人のダークエルフとして、とても嬉しいことだ。だが、同時に謝らなくてはならないこともある」

「何をだ?」

「まずはあいつが迷惑をかけてしまっていることだ。1人増えるだけでも共同生活は大変なものだ。ましてや、君のところはクランメンバーが多い。それに対して仕事が何かでお返しができているのなら、いいのだが……………それから、次にシンヤ君に対して他種族だからというだけの理由で嫌悪感を持ってしまったことだ。危うく自分達をあんな目に遭わせた者達と同じ立場になるところだった……………本当にすまない!」

「頭を上げろ。別にどちらも迷惑ではない。俺にとっては大切な仲間・家族が増えるのは嬉しいことだし、ロッド達が他種族に対してそういう気持ちを抱いてしまうのは仕方のないことだ。だから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」

「そうか…………ありがとう。こちらこそ、よろしく頼む」

「ああ…………それにしてもアンタがローズの父親か」

「ああ。それでなんだが………………実はあともう1つ訊いておかなければならないことがあるんだが」

「何だ?」

「その………あの……………」

「?」

「ローズとはいつ……………」

「お父さん!」

その時、俺達の会話に割り込むように一際大きな声が聞こえた。周りの者も驚いて一斉にそっちを向く。そこにいたのは顔が真っ赤になったローズだった。

「一体、何を訊くつもりだったのよ!」

「ローズ!お前、もしかして会話を」

「そんなことはどうでもいいのよ!ワタシが言いたいのは……………」

「ローズ、悪いんだが一旦黙ってもらってもいいか?すぐに終わるから」

「……………分かったわ。シンヤがそう言うのなら」

「ありがとう……………ロッド」

「な、何だ?」

「今はまだその時じゃない。少し落ち着いたら考えてみる。で、もしそうなったら再びアンタの元へ挨拶をしに来させてもらうつもりだ」

「シンヤ!?」

ローズは俺の発言に驚いて、あたふたした。一方、ロッドは真剣な顔付きをしてこう言った。

「分かった。その時を楽しみにしている。それから、これからも娘のことをよろしく頼む」

「もちろんだ」

この後、宴会は程なくして終わった。そして、次の日の昼頃には里を後にすることになった。皆、口々に感謝や喜びの言葉を発し土産もいくつか持たせてもらった。代わりに外でしか手に入らない食べ物や武器、その他諸々を置いていった。その去り際、長老が言った。

「今回のことで我々の考え方や生き方も大きく変わった。お主達と出会えたこと、これが全てであり、決して無駄にはせんぞ」

後半は笑いながら言っていて、とても優しい表情をしていた。俺はそれに対して、こう答えた。

「ここに通信の魔道具を置いていく。何かあったら、いつでも呼んでくれ。もしかしたら、俺達の方が皆のことを呼ぶかもしれんがな。それから忘れないで欲しいことがある」

「何じゃ?」

「俺達は常にお前達の味方だ。何があっても守ってみせる。だから安心してくれ」

「…………全く、お主という奴はどこまで」

俺の不敵な笑みに同じく不敵な笑みで返す長老。これから先、きっと俺達は長い付き合いになっていくだろう。ほぼ確信に近い予想があった。
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