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第11章 軍団戦争
第205話 名の知れた男
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フリーダムから遠く離れた街、ソン。"三凶"のおかげで邪神災害から難を逃れたこの街は現在、周辺の街や村からの移住者または冒険者が相次ぎ、日に日に人口が増加していた。それに伴い、人々の安全と安心を守る治安維持組織が強化され、警備も交代で巡回している為、大きな揉め事や犯罪は未然に阻止されていた。朝から夕方にかけて商売人は皆、張り切って物を売り捌き、冒険者は早朝から積極的に依頼をこなして稼いだ金を街へと落とす。これがソンでの日常であり、人々にとっての日課であった。以上のことから、ソンが活気のある街ということが周辺地域へと知れ渡り、今もなお人が増え続けているという訳だ……………がしかし、それは朝から夕方までの話。夜になるとこの街はその様相が一変する。
――――――――――――――――――
「ギャハハハッ!オメーもまだまだだな!」
「他人の失敗を肴にする酒は格別だ!」
「笑うな!それと俺を肴にするな!」
裏路地をいくつも経た先にその酒場はあった。そこは歓楽街の中にあり、仕事で疲れた者達を相手に商売する夜の顔だ。昼間は活気、夜は邪気。いくつもの思惑や知謀が交錯し、毎晩誰かが必ず泣く。昼間にしこたま物を売り捌き、いくら繁盛しようが女に酒に賭け事に大金を注ぎ込んで後悔する者は後を絶たない。ソンは昼と夜のこのニ面性によって成り立っていた。そして、今日もまた泣きを見る者が現れたのだった。
「振られたと決まった訳じゃねぇ!俺はまだ諦めないぞ!」
「いや~あれは完全に脈なしだろ。そもそもたかが客にそこまで入れ込む訳ねぇだろ」
「そ、それは…………」
「ってか、女のことよりもお前はまず金のことを気にしろよ。そいつに注ぎ込んだせいでロクに残ってやしねぇんだろ?」
「……………あ」
「その反応は今の今まで忘れてただろ?どんだけ周りが見えなくなってんだよ」
「……………あの~」
「貸さないぞ?」
「えっ!?まだ何も言ってないのに!?」
「どうせ金でも貸してくれとか言うんだろ?悪いが無理だ」
「な、何故」
「この間、ギャンブルに負けたお前に対して貸してやった金がまだ返ってきてないからだ」
「……………あ」
「お前な……………俺も他人のこと言えた立場じゃないがもう少しちゃんとしたら、どうだ?女・酒・賭け事、その全てに手を出してまんまと破滅まで追い込まれてんじゃねぇか」
「いや、それを今言われても遅いぞ!もう無一文に近い状態にまでなってんだから!なんでもう少し早く止めてくれなかったんだ!」
「逆ギレかよ」
「なぁ、頼むよ!このままじゃ俺、生活していけねぇって!」
「挙句の果てにまだ助けを求めてくんのかよ」
「どうしてもダメだって言うなら、この酒をお前にぶっかけ…………」
とその時だった。その男が酔った勢いで振り翳した酒がコップごと宙を舞い、離れたテーブルに1人で座っていた男へとぶつかってしまった。どうやら、酔っていたせいで力が上手く入らず、手からすっぽ抜けてしまったようだ。
「す、すみません~俺の不注意で」
これによって若干酔いの覚めた男が慌てて、謝罪に向かうとそこには薄汚れたローブを纏った件の男が座っていた。
「いや、ローブに軽くかかっただけだから」
「あ、じゃあ大丈夫…………」
「じゃねぇよ」
「え…………」
その瞬間、酒をかけた男は凍り付いた。ローブの男が目をギラつかせ、不敵な笑みを浮かべていたからだ。
「酒もかかり、入れ物までぶつけられた。こりゃ、宣戦布告だろ」
「え、一体何…………ぐぼぉっあ!!」
次の瞬間、宙を舞う男。あまりの衝撃に思考が追い付かず、次にローブの男が放った踵落としによって地面に叩きつけられるまでの間、周りがスローモーションで動いていることぐらいしか認識は出来なかった。
「がはっ!!」
「おいおい。手応えがねぇな」
周りは騒然としていた。ローブの男が放った拳と蹴りの余波によってテーブルがいくつか壊れ、床には穴まで開いている。そればかりか、たった今、やり取りをしていた相手の男は床にめり込み、ローブの男が今もなお足で押し込んでいる為、絶体絶命の状態だった。
「ズーク!」
「お、お前………なんてことを」
先程まで男と話をしていた2人の友人がローブの男へと詰め寄る。その表情は焦りの色が濃いようだった。
「おいおい。俺は喧嘩をふっかけられたから買っただけだぜ」
「いや、だからあれは間違いで」
「ちゃんと謝っただろ!」
「あんなの謝罪じゃねぇ。まぁ、そんなのはどうでもいい。俺はやられたらやり返す精神だからな。あと俺の邪魔をする奴は許さねぇ」
そう言って去ろうとするローブの男。それを見た2人は慌てて止めにかかった。
「お、おい待て!まだ話は終わって」
「お、何だ?俺の邪魔をするのか?お前もこうなりたいのか?」
そう言って床にめり込んだ男を指差すローブの男。それに対して思わず踏み止まった2人を一体誰が責められようか。
「全く……………退屈するかと思ったが、なかなかに楽しませてくれたな、この街は」
ローブの男は徐に屈み込むと床にめり込んだ男の懐を探り、そこから大量の金を取り出してポケットへと仕舞い込んだ。
「なっ!?お、お前は一体何をしてるんだ!」
「ってか、こいつ金ないって言ってたのに!」
「そりゃ戦利品は貰うだろう。あと人のことをあまり信用しすぎるなよ?金がないとか言って他人から借りてるような奴は他の奴にも同じことを言って借りてる可能性が高い。まぁ、なんにせよ…………」
ローブの男が扉から出ていく去り際に言い残した言葉は
「女も酒もギャンブルもほどほどが一番よ。それが出来ない奴にやる資格はねぇ」
だった。あとに残された者達は呆気に取られていたが、それも数分の話。次第に脳が現実へと復帰してくると口々にこう言い合った。
「おい、あいつって」
「ああ。噂は本当だったんだな」
「噂って?」
「馬鹿、知らねぇのか?ここ1週間程、この街で負傷者や暴力沙汰、その他トラブルが相次いでるんだよ」
「ん?それは警備が巡回してるから大丈夫じゃないのか?」
「それがそうでもないんだよ。なんせ決まって夜の歓楽街で起きてるからな」
「なるほど」
「それでその現場に毎回いる…………ってか、その中心にいるのがさっきのあの男なんだと。だから、この辺りじゃ名の知れた男さ。確か、キョウと名乗ったそうだ」
「それはあいつで間違いないのか?」
「ああ。さっき顔を見てちゃんと確認したからな」
「薄汚れたローブに傲岸不遜なあの態度。そして何より…………黒髪黒眼。間違いない。証言と一致している」
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「ギャハハハッ!オメーもまだまだだな!」
「他人の失敗を肴にする酒は格別だ!」
「笑うな!それと俺を肴にするな!」
裏路地をいくつも経た先にその酒場はあった。そこは歓楽街の中にあり、仕事で疲れた者達を相手に商売する夜の顔だ。昼間は活気、夜は邪気。いくつもの思惑や知謀が交錯し、毎晩誰かが必ず泣く。昼間にしこたま物を売り捌き、いくら繁盛しようが女に酒に賭け事に大金を注ぎ込んで後悔する者は後を絶たない。ソンは昼と夜のこのニ面性によって成り立っていた。そして、今日もまた泣きを見る者が現れたのだった。
「振られたと決まった訳じゃねぇ!俺はまだ諦めないぞ!」
「いや~あれは完全に脈なしだろ。そもそもたかが客にそこまで入れ込む訳ねぇだろ」
「そ、それは…………」
「ってか、女のことよりもお前はまず金のことを気にしろよ。そいつに注ぎ込んだせいでロクに残ってやしねぇんだろ?」
「……………あ」
「その反応は今の今まで忘れてただろ?どんだけ周りが見えなくなってんだよ」
「……………あの~」
「貸さないぞ?」
「えっ!?まだ何も言ってないのに!?」
「どうせ金でも貸してくれとか言うんだろ?悪いが無理だ」
「な、何故」
「この間、ギャンブルに負けたお前に対して貸してやった金がまだ返ってきてないからだ」
「……………あ」
「お前な……………俺も他人のこと言えた立場じゃないがもう少しちゃんとしたら、どうだ?女・酒・賭け事、その全てに手を出してまんまと破滅まで追い込まれてんじゃねぇか」
「いや、それを今言われても遅いぞ!もう無一文に近い状態にまでなってんだから!なんでもう少し早く止めてくれなかったんだ!」
「逆ギレかよ」
「なぁ、頼むよ!このままじゃ俺、生活していけねぇって!」
「挙句の果てにまだ助けを求めてくんのかよ」
「どうしてもダメだって言うなら、この酒をお前にぶっかけ…………」
とその時だった。その男が酔った勢いで振り翳した酒がコップごと宙を舞い、離れたテーブルに1人で座っていた男へとぶつかってしまった。どうやら、酔っていたせいで力が上手く入らず、手からすっぽ抜けてしまったようだ。
「す、すみません~俺の不注意で」
これによって若干酔いの覚めた男が慌てて、謝罪に向かうとそこには薄汚れたローブを纏った件の男が座っていた。
「いや、ローブに軽くかかっただけだから」
「あ、じゃあ大丈夫…………」
「じゃねぇよ」
「え…………」
その瞬間、酒をかけた男は凍り付いた。ローブの男が目をギラつかせ、不敵な笑みを浮かべていたからだ。
「酒もかかり、入れ物までぶつけられた。こりゃ、宣戦布告だろ」
「え、一体何…………ぐぼぉっあ!!」
次の瞬間、宙を舞う男。あまりの衝撃に思考が追い付かず、次にローブの男が放った踵落としによって地面に叩きつけられるまでの間、周りがスローモーションで動いていることぐらいしか認識は出来なかった。
「がはっ!!」
「おいおい。手応えがねぇな」
周りは騒然としていた。ローブの男が放った拳と蹴りの余波によってテーブルがいくつか壊れ、床には穴まで開いている。そればかりか、たった今、やり取りをしていた相手の男は床にめり込み、ローブの男が今もなお足で押し込んでいる為、絶体絶命の状態だった。
「ズーク!」
「お、お前………なんてことを」
先程まで男と話をしていた2人の友人がローブの男へと詰め寄る。その表情は焦りの色が濃いようだった。
「おいおい。俺は喧嘩をふっかけられたから買っただけだぜ」
「いや、だからあれは間違いで」
「ちゃんと謝っただろ!」
「あんなの謝罪じゃねぇ。まぁ、そんなのはどうでもいい。俺はやられたらやり返す精神だからな。あと俺の邪魔をする奴は許さねぇ」
そう言って去ろうとするローブの男。それを見た2人は慌てて止めにかかった。
「お、おい待て!まだ話は終わって」
「お、何だ?俺の邪魔をするのか?お前もこうなりたいのか?」
そう言って床にめり込んだ男を指差すローブの男。それに対して思わず踏み止まった2人を一体誰が責められようか。
「全く……………退屈するかと思ったが、なかなかに楽しませてくれたな、この街は」
ローブの男は徐に屈み込むと床にめり込んだ男の懐を探り、そこから大量の金を取り出してポケットへと仕舞い込んだ。
「なっ!?お、お前は一体何をしてるんだ!」
「ってか、こいつ金ないって言ってたのに!」
「そりゃ戦利品は貰うだろう。あと人のことをあまり信用しすぎるなよ?金がないとか言って他人から借りてるような奴は他の奴にも同じことを言って借りてる可能性が高い。まぁ、なんにせよ…………」
ローブの男が扉から出ていく去り際に言い残した言葉は
「女も酒もギャンブルもほどほどが一番よ。それが出来ない奴にやる資格はねぇ」
だった。あとに残された者達は呆気に取られていたが、それも数分の話。次第に脳が現実へと復帰してくると口々にこう言い合った。
「おい、あいつって」
「ああ。噂は本当だったんだな」
「噂って?」
「馬鹿、知らねぇのか?ここ1週間程、この街で負傷者や暴力沙汰、その他トラブルが相次いでるんだよ」
「ん?それは警備が巡回してるから大丈夫じゃないのか?」
「それがそうでもないんだよ。なんせ決まって夜の歓楽街で起きてるからな」
「なるほど」
「それでその現場に毎回いる…………ってか、その中心にいるのがさっきのあの男なんだと。だから、この辺りじゃ名の知れた男さ。確か、キョウと名乗ったそうだ」
「それはあいつで間違いないのか?」
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