俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第232話 悪意

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「フヒヒヒッ。いよいよだ」

とある組織の研究所にて、身なりの悪い

1人の男がほくそ笑んでいた。室内には

澱んだ空気が流れており、あちこちに物

が散乱している。男はそれを器用に避け

ながら、ベッドの上に並べられた|7体

《・・》の亡骸の前に立っていた。手に

は何かの資料のようなものを持ち、それ

が喜びからくる身体の震えでかすかに揺 

れている。それから少しして、男は鼻息

を荒くしながら、近くにいた研究員に怒

鳴り散らした。

「おい!あの方はまだいらっしゃらない

のか!」

「も、もうじき来られるとのことで

す!」

「本当にお呼びしたんだろうな?」

「は、はい!先程、こちらに向かってい

ると報告を受けました」

その直後、扉が勢いよく開かれる音がし

た。室内にいる全員の目がそこへと集中

する。

「ハ、ハジメ様!よ、良かっ

た………………いらっしゃらないのかと」

「お前に呼ばれたら、用事があっても来

るさ」

「勿体なきお言葉でございます」

「……………これが例の?」

「はい。もう完成しております」

ハジメと呼ばれた男は7体の骸を見下ろ

して、思わず顔を顰めかけたが、どうに

か無表情を貫いた。7体の意思なき身

体、そこにはそれぞれ胸のあたりに別々

の色の宝玉のようなものが埋め込まれて

いた。それは微弱ながらも明滅し、その

度に骸の身体に特殊な模様が浮かび上が

る。側から見れば、何か危ない実験をし

ているのは一目瞭然だった。

「やはり相性は大事ですね。彼らは完全

に適合しました」

「そうか」

「これで後は作戦を決行するだけです

ね」

「ズボラ…………本日までよくやってく

れた」

「いえいえ!とんでもごさいません!」

「思えば、お前との出会いは劇的なもの

だったな」

「ええ。僕があの組織にいた頃、偶然あ

なたと出会って………………もし、あの時

あなたに出会っていなければ、今の僕は

ありませんでした。本当に感謝しており

ます」

「俺の方こそ、感謝している

よ………………それとすまんな」

「え………それは一体どういう……………

ぐはっ!」

それはあまりに突然のことだった。ズボ

ラの身体をハジメの硬くて鋭い剣が貫い

たのだ。これを見た周りの研究員はパニ

ックになり、外へと逃げようとした。し

かし、

「"封鎖ロック"」

ハジメの放った魔法により、出入り口が

全て閉じられ、誰1人として外へと出る

ことができなくなってしまった。と同時



「"消音サイレント"」

中からの声が外へと聞こえなくなった。

これで助けも呼ぶことができなくなり、

彼らは完全に閉じ込められてしまった。

「ハジメ様…………一体どうして」

ズボラは意味が分からないという顔をし

ながら、訊いた。痛みでどうにかなりそ

うなのを根性で抑え込みながら……………

「お前の思想は危険だ。このまま一緒に

いて、もし作戦が失敗しようものなら、

俺の首すら掻きかねない」

「そ、そんなっ!僕があなたを見限ると

でも!?」

「だが、お前はあの組織を……………アス

ターロ教を裏切った」

「そ、それをあなたが言いますか!僕を

ここに引き摺り込んだ張本人が!」

「過程はどうでもいい。結果が全てだ」

「……………ふんっ、そうかよ。馬鹿馬鹿

しい。僕はこんな男の元で研究を続けて

いたのか」

「お前は芯から腐り切っている。お前の

ような男が組織を崩壊させる原因になる

んだ。もしかしたら、今回の作戦を失敗

に導くやもしれん」

「失敗、失敗ってうるせぇな!僕がつい

ているんだ。失敗なんて有り得ないだ

ろ!だいたい今回の作戦は何年も前から

考えていたんだ。失敗する要素なんて1

つもない!」

「覚えておけ。物事に絶対はない。完璧

だと思っていても実際に行動に移した

時、どんな非常事態が起こるのかは誰に

も分からないんだ」

「非常事態?それこそ、あり得ない!」

「お前はもう忘れたのか?あの組織の目

論みを打ち破った者がいたことを」

「しかし、それは貴様の未来視で既に分

かっていたことじゃないか!でなけれ

ば、誰があんな化け物を世に解き放つ

か。それこそ、世界の終わりだ」

「ところが、お前達のようなスパイ以外

のアスターロ教徒は邪神の危険性をイマ

イチ分かっていなかった。いや、正確に

は邪神の洗脳を受けた教主の影響が他の

教徒へも及び、自分達も危険に晒される

とは考えもしなかった…………だな」

「そして、僕達が難を逃れたのは貴様の

魔法によって洗脳が効かなかったから  

だ。だから、僕は他のスパイ達と共に混

乱に乗じてあそこを脱出し、ここへとや

ってきた。後始末を全て"黒締"にやら

せることにして」

「そう。全てはこちらの計画通

り……………とでも思ったか?」

「は?違うのか?」

「俺が視ていた結末では苦労の末、"黒

締"が邪神を滅ぼす……………まではいい

が、仲間が全員殺られてしまい、失意の

中、倒れた"黒締"も息を引き取

る…………はずだった。だが、結果はど

うだ!邪神が滅びたのは変わらない。し

かし、奴も奴の仲間も全員、生きている

じゃないか!こんな奴にとって都合のい

い未来なんて、俺は視ていないんだ!」

急に大声で叫んだハジメに対して、周囲

は困惑した表情を見せる。そして、それ

はズボラも同じだった。

「これで分かったか?奴は……………"黒

締"は危険だ」

「けっ、そうかよ」

「ところで…………そろそろ気が付かな

いか?」

「何にだ?」

「俺の剣で貫かれたはずのお前が出血も

なく、これだけ長い時間、話すらできて

いることに」

「っ!?そ、そうだ!い、一体何

故!?」

「簡単な話だ。俺の魔法で貫かれた瞬間

のまま時間を固定しているからだ。つい

でに痛覚も遮断しているから、痛かった

のは一瞬だけだった筈だ」

「な、なんだと貴様の…………」

「そんな口の利き方をしていていいの

か?今、お前の命は俺が握っているも同

然なんだぞ?ちょっと俺が気まぐれを起

こせば、お前はすぐにあの世行きだ」

「っ!?た、大変失礼致しました!い、

今までの非礼をお詫びします!だから、

どうか私めの命をお助け願………」

「はい、無理…………"解除リフト"」

「ぐばらあっ!?な、なんで……………」

「そんなの決まってるだろ」

「……………?」

「俺はお前のことが嫌いだからだ」









「主様、"十王剣武"全員揃っておりま

す」

「なぁ、もうこれで最後になるから、名

前で呼んでくれないか?」

「最後だなんてとんでもない!我々は全

員、どこまでもいつまででもあなたにつ

いていく所存です!」

「命令だ。俺達全員が集まるのは今回で

最後。作戦が終われば、あとは好きに生

きろ。それと俺のことは名前で呼べ」

「か、かしこまりました!ハジメ様!」

「よし……………では行くか」

とある城の廊下に靴の甲高い音が反響す

る。総勢11人にもなるその行軍はそれ

ぞれ様々な感情を抱えながらのものにな

った。そんな中、一番前を歩く男はとい

うと………………


「さぁ、世界にもう一度絶望を与えよ

う」


感情の読めない表情をしながら、前を見

据えていた。
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