俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第262話 一驚

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「わざわざ悪いのぅ。色々と忙しいのじ

ゃろう?」

冒険者ギルド フリーダム支部。現在、そ

このギルドマスター室ではブロンとシン

ヤがソファーに座り、向かい合って話を

していた。ちなみにシンヤの後ろにはテ

ィアとサラが言葉を発さず静かに佇んで

いる状態でその立ち姿には全くの隙がな

い。

「大丈夫だ。ちょうどギルドには用事も

あったからな。それよりもこんなところ

で話をしていていいのか?復興はどうし

た」

「それならば、大丈夫じゃ。"聖義事変

"が収束してから、まだ5日しか経って

いないんじゃが各地は日常を取り戻しつ

つある。やはり、"邪神災害"があって

からの危機意識は違ったんじゃろう。今

後、同じようなことがあった時の為の対

策を講じておるところが多々あったよう

じゃ。だから、被害はある程度抑えられ

ておる」

「そうか」

「あとは民衆の被害状況じゃが、それは

各地によっても異なる。そればっかりは

運としか言いようがない……………のだ

が、どうやら一部の者達は奴らに狙われ

て自力で何とかしたらしいのじゃ。それ

も戦う術を持たず、近くに助けてくれる

冒険者などもいないという状況で」

「それは………………運が良かったな」

「報告ではその者達は皆、絶体絶命な状

況の中、とある店で買った武器で奴らを

排除したらしい。ちなみにその店の名は

"鍛冶場ノエ"。お主らの展開している

事業の1つだそうな」

「だろうな」

「ふむ、あまり驚かんか。それとやけに

自分の店の商品に自信があるんじゃな」

「それはそうだろ。そもそも普段から戦

闘などをしない一般人に武器を売り出す

武器屋はそういない。ましてや、その武

器の性能が一般人でもプロに勝てるほど

良いものであるならば、色々と問題が起

こるだろ。例外を除けば」

「ではその例外とやらがお主らの武器屋

の商品だと」

「ああ。まず、購入段階で悪意を持った

者は会計ができないようになっている。

それから、武器自体も普段は特別性能が

良いという訳ではない。突然、剣術が得

意でない者が扱えるようになるとかいう

仕様もないし、ましてや悪意を持って振

るった場合は粉々に砕けるようになって

いる。その旨は購入の際に店員から説明

されるから、武器の所持者は全員、その

ことを認知している筈だ」

「ほぅ。であれば、何故そんな武器で連

中と渡り合えたんじゃ?」

「"鍛冶場ノエ"で売られている商品に

は全て緊急装置のようなものが付いてい

る。持ち主が重症や生命の危機に陥る程

の攻撃を受けそうになった時、うちの武

器を使えば、Cランク冒険者程度であれ

ば、何とか相手できるレベルまで性能を

発揮するようになっている。具体的に言

えば、全くの素人であっても最適化され

た体捌きができるようになり、それから

そこそこの剣術を使えるよう武器が導く

と言った方が分かりやすいか」

「ほぅ。つまり、その武器を持てば素人

であっても自然と身体が動くということ

じゃな?」

「ああ。とはいってもとてもではないが

高ランク冒険者と渡り合えるようになる

程じゃない。だから、今回その武器に助

けられた者達は相手がそこまでのレベル

に達していなかったか、あるいは単純に

運が良かった……………それだけだ」

「なるほどのぅ」

「で?まさか、今の話がしたくて俺を呼

んだのか?」

「いや、今のはただの世間話に過ぎぬ。

ちなみに武器に助けられた者達はお主ら

に感謝しておったぞ。そして、その一件

を知った他の者達も万が一を考えて、店

に殺到しておるらしいの」

「ああ。命には代えられないからな。お

かげで売上は上々だ」

「それはめでたいのぅ……………こほん。

それではここからが本題なのだが、まず

は報酬についてじゃ。敵の主力のほとん

どをお主らが殲滅したとのことで"黒天

の星"に各地から大量の報奨金が出てい

る。もちろん、ギルドからもじゃ。そし

て、その他の戦力についても傘下が頑張

って削ぎ落としていたとのことで"黒の

系譜"自体にも報奨金が出ておる。後で

まとめて渡すから、確認してくれ」

「分かった」

「それから次に冒険者ランクの昇格につ

いてじゃ。これはギルドマスター定例会

議にて、各人の貢献度や働きを考慮して

決めた。最初に傘下クランのランクだ

が……………"四継"以外の全てのメンバ

ーは1ランクずつ昇格じゃ。そして、こ

れに伴って、それぞれのクランランクも

変わった。"剣の誓い"・"風神"・"

雷神"・"槍投げ"、それとこの間ラン

クが上がったばかりの"サンバード"・

"フォートレス"は依然として変わらん

ままじゃが"威風堂々"・"黒椿"がA

ランクにそして、"守護団ガーディアンシールド"・"永久凍土コキュートス"がSランククランへと昇格

した。"四継"と彼らのクランランクが

変わらなかった理由だが、SSランクへ

はそう簡単にいけるものではないからじ

ゃ。SランクとSSランクの間には分厚

い壁がある。それを超えるのは至難の技

じゃ。そんな安売りしていいものではな

い」

「そうか」

「でお主らのランクじゃが……………まず

"十人十色"は全員EXランクじゃ。敵

の親玉をあんな形で包囲できる者達など

そうはいないからの。これで最高ランク

の冒険者は13人になったの。次に"十

長"。こやつらはSSランクじゃ。数々

の証言から敵の幹部達を一瞬で片付けた

ことが分かったからの。最後にそれ以外

の組員達は全員Sランクじゃ。各地で敵  

の殲滅に大きく貢献してくれた。見事と

しか言う他はない」

「……………安売りがどうとか言っていな

かったか?ランクの壁を超えるどころ

か、ぶち破っているのが複数いるんだ

が」

「お主も言ったではないか。例外もある

と。これがワシらにとっての例外じゃ」

「お前らがそれでいいのなら、これ以上

俺から言うことはないが………………とに

かく、話は分かった。報奨金とランクの

件だな?ちなみに他にも話はあったりす

るのか?」

「これは興味本位で聞くんだが何故、お

主とハジメの対面の映像が途中までしか

ないんじゃ?確か途中で魔道具の映像が

突然消えてしまったんじゃが……………」

「その日、現場には雨が降っていてな。

おまけに雷鳴まで轟いていて、いつ落雷

があってもおかしくはなかった」

「つまり、運悪く雷が落ちてきて魔道具

が機能しなくなったと?」

「ああ。確かお前らが最後に聞いたのは

奴の叫び声じゃないか?」

「そうじゃったの。確か"その単語も俺

の前で言うな!!"とか言っておった

の」

「その時だな、雷が落ちたのは。まぁ、

そればっかりは仕方がない。だが、そこ

までのやり取りは見たんだろう?」

「ああ。驚いたの。まさか、敵のトップ

が"転生者"じゃったとは………………

今、思うと髪や眼の色が珍しい黒だった

のはそのせいだったんじゃな」

「やはり、"転生者"はこの世界では珍

しいのか?」

「ああ。別の世界から転移・転生してく

る例など文献にもほぼ残されておらん。

強いて挙げるとするならば、昔いた勇者

様が確か"転移者"だったと思う」

「そうか」

「ふむ。であれば、あのハジメとかいう   

男があれだけのことをしでかす程の自信

があるのも納得じゃな。勇者様もこちら

の世界にやってきた時、大きな力を手に

したと文献には記されていたからの。同

じようにあの男にも何か強力な力が備わ  

っておったんじゃろう………………ん?そ

ういえばお主の特徴もまさしくその例

に……………」

「悪い、時間だ。報奨金の受け取りとラ

ンクの更新はまた別日に行わせてもら

う。邪魔したな」

「ヤケに急ぐの。どうしたんじゃ、急

に」

「ちょっとやらなければならないことが  

あってな。あの記事、読んだだろう?一

応、俺の知り合いなんでな」

「あの記事……………あ!ま、まさか、こ

のことか!?」

ブロンが慌てて近くにあった紙切れを指

差す。そこには大きくこう書かれてい

た。



「"笛吹き"ハーメルン、冒険者を引退  

か?彼曰く、"自身の今後は民意によっ

て決めてもらう"」
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