俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第284話 奸計

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「おい、大臣!一体どういうことなん

だ!魔王の存在は迷信に過ぎないから安

心しろと何度も言っていたではない

か!」

「そうよ!私にも毎晩そうやって慰めの

言葉をかけてくれていたじゃない!」

「い、いやぁ、こんなはず

は…………………お、おいそこの兵士!こ

のような神聖な場で出鱈目なことを言う

でないぞ!私に恥をかかせる気か!」

「い、いえっ!先程、魔王本人が通信の

魔道具で連絡をよこしたのでまず間違い

ないかと」

「まだ言うか!では何と連絡を受けたの

か答えてもらおうか!言っておくが今、

取り繕ったところですぐにバレるから

な!嘘でしたと言うなら、今のうちだ

ぞ!」

「いえ。本当のことなのでお気遣い頂か

なくて結構です………………では今から私

が受けた内容をお伝えさせて頂きます」

「お、おい!ち、ちょっと待て!今が最

後のチャンスなんだぞ!考え直して

も……………」

「大臣!邪魔をするな!兵士の声が聞こ

えないだろ!」

「そうよ!というより何故そんなに焦っ

ているの?」

「い、いえっ!私は焦ってな

ど……………」

「私が受けたのはこういった内容で

す……………………"我は魔王である。貴

国を襲撃したく遠路はるばる参った次第

だ。今の・・貴国には何の恨みもな

いが今日中には滅んでもらうこととな

る。我の存在を信じる信じないはそちら

の勝手だが、いずれにしても我の凶刃が

向けられることは確定しているから否が

応でも現実を直視するはめになるだろ

う。では武運を祈る…………………あ、お

情けで10分だけは待ってやる。その間

に国民を避難でもさせておくんだな

"………………と」

「「「………………」」」

静まり返る王の間。魔王の存在など到底

信じたくはないのだが、文言からいって

どうやら魔王の存在は確定しているらし

く、誰もがこの後に起こる現実を受け入

れざるを得なかった。







――――――――――――――――――






「ちくしょー!ふざけやがって!」

「自業自得だろ。むしろ、肋骨が折れた

だけで済んで良かったじゃないか」

「どこがだ!俺はただ調子に乗ってるあ

いつらに魔族の強さを教えてやろうとし

ただけだ!………………いててっ」

「まだ痛むのか?」

「ああ。いくらバカ高い金を払って骨折

が治ったとはいえ、他にも打撲や擦り傷

はあるからな………………くそっ!」

「だから、俺は止めただろ。これで分か

ったろ?お前なんかが息巻いたところで

勝てる相手じゃないんだよ」

「いいや!俺がやられたのは奴らの中で

も記事や映像の魔道具に一度も出たこと

がない魔族のガキだ!きっと今まで隠し

持っていた秘蔵っ子に違いねぇ!それに

俺は同じ魔族にやられるのだけはまだ納

得できる」

「ん~なんか俺は違う気がするんだけど

な」

「は?」

「これは俺の感想なんだがぱっと見、あ

の魔族の子供は"黒締"達と知り合って

間もないんじゃないか?まだ連中と完全

に馴染めているとはいえない感じがした

し。それにあの強さは間違いなく"黒締

"程じゃない。おそらく、冒険者ランク

でいえば"D"、よくて"C"ってとこ

ろじゃないか?」

「なんだと!?俺はよくてCランクの奴

にやられたってことか!?じゃあ俺と一

緒のランクじゃないか!そんな訳ある

か!……………いててっ!」

「あまり騒ぐと傷に響くぞ」

「お前のせいだろ」

「はぁ……………つまり、お前は"黒締"

に挑む前によく分からん同格の子供に負

けたんだ。良かったじゃないか。他のメ

ンバーにやられてたら、今頃お前の命は

なかったかもしれないんだぞ」

「さっきの"肋骨が折れただけで済んで

良かった"って、そういうことかよ」

「まぁ、奴らに武力で絡んでいって命が

あった奴はほとんどいないらしいから

な」

「けっ……………とんでもない連中だな」

「被害者面をするなよ。悪いのは絡んだ

方だろ」

「ふんっ………………そんなの」

そこまで言いかけて男は辺りが騒がしい

ことに気が付いた。見れば、複数の入門

審査官が駆け回っている。そして、彼ら

はある言葉を国民に向けて放っていた。

「皆さん、急いで避難をして下さい!あ

の魔王がここギムラにやって来ました!

奴はもう間もなく、ここを襲撃してきま

す!」

「魔王!?」

「とんでもないことになった

な……………」

男達は揃って深刻そうな表情を浮かべ、

顔を見合わせた。するとそこで何かを思

いついたのか、打撲した箇所をさすりつ

つ、男はニヤリとした笑みを浮かべて、

こう言った。

「そうだ。良いことを思い付いたぞ」

「おいおい、何をする気だ?」

「まぁ、黙って見ていろ。今度は失敗し

ねぇよ」

男はゆっくりとした足取りで歩いてい

く。その足は城の方へと向かっていた。









――――――――――――――――――









「何っ!?アドム様への謁見を申し出て

いる者がいるだと!?このくそ忙しい時

に何なんだ!」

「はい。何でもその者は冒険者らしく、

魔王に対抗する秘策があるとかで」

「すぐに通せ!今はどんな情報でも取り

入れるべきだ!」

「かしこまりました!」








「お前が例の冒険者か?何やら、魔王に

対抗する秘策があるとか言っていたらし

いな?」

「その通りでございます。私の案を用い

れば、おそらくあの凶悪な魔王ですら退

かせることが可能かと………………ただ、

いきなりやってきたよく分からない者の

言葉など信憑性があるとは思えないんで

すが、よろしいのでしょうか?」

「構わん。普段であればしっかりと裏を

取った上で動くかもしれないが今はそう

もいってられん」

「ありがとうございます」

「うむ。では話せ。時間がないから手短

にな。国民のことなどはどうでもいい

が、自分達は確実に逃げ延びなければな

らないからな」

「それが一国の王の言うことか

よ………………ボソッ」

「ん?なんか言ったか?」

「い、いえっ!そ、それでは話させて頂

きます…………………っと、その前に」

男は思わず零れたニヤリとした笑みを隠

そうともせずに話し始めた。

「皆様は邪神を倒した英雄をご存知です

か?」

「それぐらいならば耳には入っている

な。確か、"黒天の星"とかいうクラン

のリーダーじゃなかったか?」

「そうです。シンヤ・モリタニ、通称"

黒締"と呼ばれる男にございます」

「で?その者がなんだと?」

「現在、その男がクランメンバーを10

人程引き連れて、この国に来ているので

す」

「なんと!?………………もしや、お前の

案とは」

「はい。その者達を思い切って魔王にぶ

つけてみるというのはいかがでしょう

か?いくら魔王でも世界を滅ぼそうとし

た邪神を討った者が相手では流石に分が

悪いかと。上手くいけば、ギムラから手

を引かせられるかもしれません」

「なるほど!そんな手があったとは」

男の案に王だけではなく、周りの者達も

納得したのか、しきりに頷く様子が見ら

れた。これに男は内心でガッツポーズを

しつつ、ボソッと本音を漏らした。

「何が英雄だ。これで奴らは確実に潰れ

る。ざまぁみろ」
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