俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第293話 癖ある山羊に能あり

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「「シンヤさんっ!!」」

とうとう痺れを切らしたのか、サクヤを

守るようにして立っていたティアとサラ

は急いで倒れたシンヤの元へ向かう。そ

の際、2人でシンヤを抱え、シャウロフ

スキーから離れた場所へと連れていっ

た。一方、残されたカグヤはというとた

だ1人その場で呆然としているシャウロ

フスキーに徐に近付いていった。

「あ………師匠がそんな……………僕のせ

いで?」

「おい」

「っ!?カ、カグヤさん!?」

声を掛けられたシャウロフスキーが振り

返るとそこには今まで見たことがない

程、怒りを滲ませたカグヤが立ってい

た。

「お前、自分が何をしたか分かってんの

か?」

「ひっ!?……………こ、こうなったのっ

て僕のせい……………ですよね?」

「当たり前だろ。誰がどう見てもお前の

せいでシンヤはあんな目に遭った」

「っ!?す、すみませんでした!!

僕…………」

「言い訳なんて聞きたくねぇ。いいか?

お前が旅に同行することを許可したのは

シンヤだ。アタシらまで納得したなんて

考えるなよ?」

「っ!?………………はい」

カグヤの強い言葉にすっかりとしょぼく

れるシャウロフスキー。それを見たカグ

ヤは自身の愛刀である大太刀ハバキリを

引き抜いてシャウロフスキーの眼前へと

突きつけた。

「ひっ!?カ、カグヤさん!?」

「勘違いするなよ?いくら一緒に旅をし

たからといって、許されることと許され

ないことがある。勝手に仲間だと思い込

んでそこに甘えるな。アタシらにとって

はシンヤが全てなんだ。そのシンヤを傷

付ける者がいるのなら、アタシらはそい

つが誰であろうと絶対に許さない」

「あ……………ぅ………………」

あまりの気迫にシャウロフスキーはそこ

を一歩たりとも動くことができなかっ

た。確かに修行の一環で今まで色々と危

ない目には遭ってきたが、本気で殺気を

彼らから向けられたことはなかった。そ

の為、どこかで彼らに対して甘えのよう

なものがあったのかもしれない。シャウ

ロフスキーは思わずそう感じると唾を飲

み込んで居住いを正した。

「ほ、本当にすみませんでした!!僕に

できることがあれば、何でも致しま

す!!ですから、どうか……………どうか

師匠の命を救って下さい!!」

シャウロフスキーは額を地面へと擦り付

け、それはそれは綺麗な土下座をした。

彼にとって、それが今できる最大限の誠

意の表れだったのだろう。カグヤはシャ

ウロフスキーのその態度を見ると軽く笑

みを浮かべ、刀を鞘に収めた。

「顔を上げろ」

「で、ですがっ!?」

「刀を突き付けられて真っ先に発した言

葉が自分の保身ではなく、シンヤの身を

案じるものだった……………随分と成長し

たな」

「……………いえ。僕はまだまだ未熟で

す」

「誰だってそういう時期はある。今はそ

の謙虚さを持ててるだけで十分だ。なに

せお前はこれからどんどんと大きくなっ

ていくんだからな」

「そうでしょうか?」

「まぁ、今は色々とあって自信を失って

いるだけだ。言っておくがアタシらとい

たら、そんなことを感じる暇もない毎日

が待ってるぞ」

「えっ!?僕はまだ一緒にいてもいいん

ですか!?」

「知らん。それを決めるのはシンヤだか

らな。だが、個人的にアタシはお前のこ

とを気に入ってる」

「っ!?あ、ありがとうございま

す!!」

「それにシンヤもきっとそうだとは思う

ぞ」

「で、でもあれだけのことをしちゃった

ので」

「そんなのアイツは気にしていないと思

うが」

「いや、流石にそれは」

「アイツがお前に言っていた"落ちこぼ

れの気持ちなんて知らない"ってのは嘘

だ。確かにアイツは凄い。才能も金も運

もある。だが、それは今の話だ。何も最

初からそうだった訳じゃない。周りの者

はただ今のアイツを見て妬み羨むが、そ

れまで一体いくつの苦難を乗り越えてき

たかをまるで知らない」

「………………」

「アイツは……………シンヤは生まれた時

から壮絶な人生を歩んできている。それ

こそ最初は落ちこぼれだったそう

だ……………だから、お前がしたことなん

て気にしていないさ。なんせそれ以上の

ものを味わってきているんだ」

「えっ……………そうだったんだ」

「だから、お前の気持ちが1ミリも理解

できない訳じゃない。安心しろよ」

「……………」

「もし、それでも不安だったら……………

ほれ。直接本人に訊いてみろよ」

「えっ……………」

カグヤが顎で示した先を見てみるとそこ

には先程まで瀕死の状態なはずだったシ

ンヤが不敵な笑みを浮かべて立ってい

た。

「お前、今"何でもする"って言ったよ

な?」

「ええええぇぇぇぇっ~~~~!!??

し、師匠!?無事なんですか?あれ?で

も、確かに瀕死のはずで………………い、

いや、そんなことよりも師匠!ご迷惑と

ご心配をおかけして、本当にすみません

でした!!」

「そうか。反省しているのなら、今から

この間の修行の続きでもするか?凄いや

る気になっているみたいだしな」

「そ、それだけはどうか勘弁して下さ

い!!」







――――――――――――――――――






「な、何なの、この人達は………………」

魔王モロクは目の前にいるシンヤ達があ

まりに異質だった為、彼らが現れてから

の一連の流れから終始目が離せないでい

た。

「まさか、あの人達が坊やが言っていた

"とんでもなく強い人達"?だったら、

納得だわ………………次元が違いすぎる。

彼らからしたら魔王も可愛いものね」

モロクは自嘲の笑みを浮かべながら、1

人で納得していた。まさか、自分が噛ま

せ犬のような立場になるとは欠片も思っ

ておらず、シャウロフスキーと1対1で

戦っていた時が随分と前のことのように

彼女は感じていたのだ。

「どうしたんじゃ?」

とその時、真横から声を掛けられた。声

の主はギムラの元王女にして、クラン"

黒天の星"の幹部を務める少女、イヴだ

った。

「いえ、何でもないわ。それよりもあり

がとう。ずっと守っていてくれて」

実はシンヤがシャウロフスキーとぶつか

った直後、モロクの側に現れたイヴによ

って彼女は安全な場所まで誘導してもら

っていた。そして、その後もモロクはす

ぐ側に立つイヴに守られていたのだっ

た。

「礼には及ばん。もしお主に暴れられて

シンヤの邪魔をされたら敵わん。だか

ら、見張らせてもらっただけのことじ

ゃ」

「素直じゃないのね」

「仲間でない者に心を開く意味などない

じゃろう。ましてやお主は魔王なんじゃ

からな」

「その魔王が一魔族に守られてちゃ世話

ないわね…………………まぁ、とはいって

もあなたはどう見ても普通の魔族ではな

いようだけど」

「この国の元王女じゃしな」

「そういう意味じゃないわ。っていう

か、あなた元王族なのね…………………ち

なみに話は変わるんだけど、世界中の魔

族の中であなたは何番目に強いのかし

ら?」

「もちろん一番じゃ。妾は世界一強い魔

族だからのぅ」

「……………でしょうね」

「いや、冗談なんじゃが」

「そんな訳ないじゃない。あなたより強

い魔族がいるはずないでしょう」

「そんな話はどうでもいいのじゃ。種族

の中で一番だとか狭い次元の話をしても

どうにもならないしのぅ」

「いや、全然狭くはないわ」

「シンヤと関われば、そう感じるのじ

ゃ…………………っと、ちょうどそのシン

ヤがこっちに向かってきておるぞ」

イヴが顔を向けた先。そこにはシンヤが

ティア達を伴って、イヴ達の元へとやっ

てくるところだった。それを見たモロク

は自然と背筋が伸び、思わず服についた

埃や汚れを叩いた。

「お前らも無事だったか?」

「お前ら"も"とな?お主はボロボロじ

ゃったろ」

「ああ、心配かけて悪かったな。だが、事前にああなることは説明してあっただろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「それでも苦しかったのじゃ。今すぐに

でも飛び出して助けに向かいたかった」

「すまんな」

「抱き締めて撫でてくれなきゃ許さんの

じゃ」

「分かった。こっちに来い」

「やった!むぎゅっ!」

「よしよし……………どうした?やけに今

日は甘えん坊だな」

「そういう日があってもいいのじゃ。こ

れは通過儀礼なのじゃ」

イヴは幸せそうな表情をしながら、シン

ヤの胸に頭を強く擦り付けた。するとそ

れを見たティア達は恐ろしい形相でシン

ヤに食ってかかった。

「シンヤさん、私達もか・な・り心配したんですけど」

「そうですわ。思わず心臓が張り裂ける

ところでしたの」

「あ~あ、イヴばっかずりぃな」

彼女達の反応に対して、軽く微笑みを浮

かべたシンヤは両手を上に挙げながら、

こう言った。

「分かった。今日はお前達の言うことを

何でも聞こう。それでいいか?」

「「「はい!!!」」」

「こりゃ体力が持つか?………………

ん?」

嬉しそうに返事をするティア達を見なが

ら、そこで妙な視線を感じたシンヤがそ

の視線の元を辿ってみるとそこには魔王

モロクが羨ましそうな顔でシンヤ達を見

ていた。

「どうした?」

「っ!?あ、改めまして、先程は危ない

ところを助けて頂き、本当にありがとう

ございました」

「礼は受け入れるが敬語はやめろ。普通

に話せ」

「いや、でも命の恩人ですし」

「それならイヴも同じだろ?だが、さっ

きは普通に話してなかったか?」

「………………そうね。そういうことなら

普通に話させてもらうわ」

「ああ。なにせお前には訊きたいことが

あるからな。慣れてない話し方じゃ、大

変だろう」

「私に訊きたいこと?それって何かし

ら?」

モロクの問いに対し、シンヤは真面目な

顔をしながら言った。



「魔王モロク………………お前の過去につ

いてだ」
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