俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第329話 暗号

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「噂に聞いていたのと全く違う…………

随分と大人しいんだな」

「……………」

「それにやけに無口だ。お前、本当にあ

の男か?」

「……………」

「まぁ、いい。今日から、ここがお前の

家となる。頼むから、そのまま大人しく

しといてくれよ?騒ぎを起こされたら、

仕事が増えて敵わん」

「……………」

「それにしても名の知れた男が無銭飲食

とは……………しょうもない捕まり方をす

るな?………………あ、そうだ。今度、お

前のことを記事に載せたいっていう奴か

ら、魔道具で通信がきたんだが、何か言

っておくことはあるか?顔とかじゃなく

て、どうやらお前の放った言葉を載せた

いらしい」

「…………湯煎の礼、待っている」

「ん?それだけでいいのか?もっと家族

や仲間に言い残したこととかはないの

か?………………まぁ、そんな奴はいない

か。この分じゃ、面会に訪れる者もいな

そうだしな」

「………………いいや、あいつは確実に俺

に会いに来る……………ボソッ」

「ん?何か言ったか?」

「……………」

「ちぇっ、またダンマリかよ……………ま

ぁ、いいや。とりあえず、この牢の中に

入ってくれ。ちなみに食事はちゃんと

朝・昼・晩と3食分出すし、ないとは思

うが万が一、面会に訪れる者がいれば、

イジワルせずに会わせてやるよ」

看守の言葉に対して、軽く会釈をするだ

けで答える男。その後、牢の中へと投獄

され、1人っきりとなった男は再度、あ

の言葉を口にした。

「あいつは確実に俺に会いに来

る……………なんせ、俺があいつの立場で

もそうするだろうからな」







―――――――――――――――――――――






「シンヤさん?どうかしたんですか?」

「いや、この記事に書かれた"キョウ・

モリタニ"とかいう男のことが気になっ

てな」

「ああ。それって、つい最近、投獄され

た人ですよね?それにしてもまさか、シ

ンヤさんと同じ名字なんて凄い偶然です

よね?」

「ああ、奇しくもな」

「いやいや、肯定しないで下さいよ。そ

んな偶然があってたまるものですか。そ

の人が勝手にそう名乗っているだけでし

ょう?」

「……………」

「全く……………タチの悪いイタズラはよ

して欲しいですよね。何が目的かは知り

ませんが、そんな犯罪者と関わりがある

だなんて思われたら、迷惑を被るのはこ

っちなんですから。それに唯一、放った

言葉というのも意味が分かりませんし」

「……………」

「?シンヤさん?さっきから黙っていま

すが、どうされました?」

「…………ティア、俺の推測だがもしか

したら、この男はただのイタズラ好きな

犯罪者ではないのかもしれない」

「どういうことですか?」

「よく思い出して欲しいんだ

が………………名字のことはひとまず置い

ておいて、この"キョウ"という名前に

見覚えはないか?」

「"キョウ"という名前ですか?え~っ

と………………」

そこから頭を捻ること約1分。ティアは

突然、何かを閃いたかのようにハッとし

た顔をして、シンヤを見つめた。

「思い出しました!!確か、以前"獣の狩場ビースト・ハント"がとある軍団レギオンに狙われているという情報やその軍団レギオンが所有する軍団レギオンハウスまたはクランハウスの情報をくれた人の名前が"キョウ"でした」

「ああ」

「………………まさかとは思いますが、そ

の人と件の人物が同一人物だと?」

「そうだ」

「いや、それこそ偶然では?その捕まっ

た人が"キョウ"という名を騙っている

だけかもしれないじゃないですか」

「ところが、そうでもないんだ」

「?」

「先程、お前が言った"獣の狩場ビースト・ハント"を狙ったという軍団レギオン…………その名は?」

「"紫の蝋"です」

「そうだ。"キョウ"という男はその"

紫の蝋"を追い詰める手助けをしてくれ

た。外側から少しずつ、だが確実に蝋を

溶かしていくように」

「そうですね。私達もあの情報で勢いづ

きましたし」

「ここで話は変わるが、蝋を溶かす方法

は主に2つある。1つ目が火を灯し、長

い時間をかけて溶かしていく方法。そし

て、もう1つが………………湯煎だ」

「っ!?まさか!?」

「ああ。仮に投獄された男が本物の"キ

ョウ"でなければ、あんな言葉を放つは

ずがない。あのことは俺達とブロン、そ

れから封筒の差し出し人しか知り得ない

ことだからな」

「で、ではその男がシンヤさんの名字を

名乗っているのも」

「おそらく、何らかの理由があるんだろ

う。まぁ、どちらにせよ……………」

そこで急に立ち上がったシンヤは鋭い眼

光で窓の外を睨み付けたまま、言った。


「直接、会って確かめた方が早い」
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