俺は善人にはなれない

気衒い

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〜After story〜

第6話:謝罪

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「本当にすまなかった」

目の前の男がフェンドに向かって大きく頭を下げる。この男の名は"大風"リョーデック・アールヴァー。以前、俺達のパーティーに不法侵入した挙句、フェンドを侮辱したクズエルフだ。そんな男だが数日前に"話したいことがあるから、都合の良い日を教えて欲しい"と言ってきた為、本日こうして応接室で会っているという訳だ。そもそもあの時に今後は俺達に近付かないよう言ってはあるが、こいつからの賠償金は既に全額貰い受けているし、どうしても会って話したいことがあると言われ、それも数分で済むということだったから、了承したのだ。

「そして、"黒締"にも謝罪させて欲しい。本当にすまな…………っ!?」

「……………」

「…………なるほど。了解した。では代わりに感謝の念を述べさせて頂く。本日はこのような場を設けてくれて、ありがとう」

リョーデックが今度は俺にも頭を下げようとした為、俺は黙ったまま手で制するようなジェスチャーをして、その必要がないことを伝えた。もう賠償はしてもらったし、フェンドへの謝罪も済んだ。これ以上は本当に必要なかったのだ。

「俺はあの時までとんだ勘違いをしていた。自分が高ランク冒険者ということで天狗になっていたんだ。今まではケリュネイアがそれを抑えてくれていたから、どうにかなっていたんだが、あの日だけは違った。俺の驕りが最悪な形となって出てしまったんだ」

「「……………」」

「あれから、どんどんと仲間が俺の元から去っていった。"付き合いきれない"だの、"こんなつもりで仲間になったんじゃない"だのと言ってな……………結果、あのパーティーから一週間後、俺は冒険者活動を一時休止することにし、旅に出た。自分自身を見つめ直す為にな」

突然、始まった自分語り。正直、俺にとっては大して関わりのない奴のことなど心底どうでもいいんだが、それを止めようとは思わない。何故なら、フェンドが真剣にリョーデックの話を聞いていたからだ。

「そこで俺はいかに自分が小さいか、視野が狭いかを知った。種族がどうとか関係なく、みんな一生懸命に生きているんだ!みんな、リスペクトすべきなんだ!!この世界はなんて美しいんだ!!!ってね」

こいつ、大丈夫か?変な洗脳とか受けてないよな?あまりにもキャラが変わりすぎだろ。

「甘いな、"大風"リョーデック・アールヴァーよ」

俺が変な目でリョーデックを見ていると突然、横でフェンドが大声を上げた。フェンド、まさか今の話を聞いてお前までおかしく……………

「お前の考えの最先端がここにおわすシンヤ様だ!!まだまだお前の世界は狭いぞ!!」

「な、何だと~~~!!!」

「は?」

なんか嫌な予感がするんだが。

「いいか?シンヤ様はな、オイラ達にalways、新しい刺激を与えてくれるんだ!!その度、オイラ達は新しい世界を知る!!……………んでもって!!知ったと思ったら、次の瞬間、またまた新たな世界がっ!!」

「ほぅほぅ」

何でこのエルフ馬鹿はメモ取ってんだ?そんな大層なこと言われてないだろ。

「だから、リョーデックも是非こっちに……………」

「い、行きま~す!!行きたいで~す!!」

「黙れ、馬鹿共が」

「「うぐっ!?」」

俺は思わず、愛のない拳をこいつらの頭の上に落とした。だいぶ手加減をした為、たんこぶができない程度の痛みだろう。

「フェンド、お前何勝手に勧誘してんだ」

「いやっ、あの、その」

「お前、あれだろ?なかなか二次面接を通過できる奴がいないからって、こいつとその仲間達をヘッドハンティングして三次に通そうとしてんだろ?」

「ぎくっ!?」

「えっ!?そ、そうなのか!?……………へ、ヘッドハンティングだなんて、そんな俺は強くなんて…………でへへ」

「受け入れてんじゃねぇ!ってか、気持ち悪い笑い方するな」

「ぐべっ!?」

「シンヤ様、やっぱり駄目ですよね?」

「いや、実力とかならお前の見た通り、良さそうだな……………だが、それ以前に問題がある。見ただろ?お前の演説を聞いてからのこいつを」

「それがいいんじゃないですか!!この流されやすさが!!リョーデックならば、すぐにうちに馴染みますよ!!」

「そ、そうですか!?でへへ」

「だから、笑ってんじゃねぇ!あと、敬語になってるぞ」

「へ?だって、新人が敬語使うのは当たり前ですよね?」

「何もう入る気マンマンでいるんだよ!俺は反対だからな!なんか危険な香りがするし」

「そんなこと言わないで下さいよ~団長~」

「っ!?気色の悪い呼び方をするな!鳥肌が立ったわ!」

「ま、まぁ。でも、シンヤ様?確か、最終面接はティアさん達でシンヤ様は入団希望者に関してはその全てを一任していますよね?」

「今回は特例だ。こいつは不穏分子すぎる………………なんか、気持ちの悪い視線を感じるし」

「シンヤ…………いや、団長。俺さ、旅の途中で新たな自分を発見してさ。俺、本当は女性じゃなくて男性が……………」

「あぁ~聞きたくない!!それ以上、先は聞きたくない!!とにかく、俺は反対だ……………だが、まぁ決まりは決まりだ。一度決まったルールを私情で覆すのは良くないだろう。だから、フェンド………………こっから先はお前の好きにしていい」

「いいんですか!?」

「あぁ。こいつを三次に通しても構わない。まぁ、どうせ次で不合格だろうがな」

思わず、俺はドヤ顔で微笑みながら言った。そして、それを気色の悪い笑みで見ていたリョーデックに蹴りを入れた。しかし、俺のこの時の大いなる自信は数日後の報告を聞いて、脆くも崩れ去ることとなる………………おい、ティアよ。一体何故なんだ……………
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