俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
366 / 416
〜After story〜

第8話:黙祷

しおりを挟む


「すまない……………あなた達との約束を守ることができなかった」

俺はフォレスト家を前にして、勢いよく頭を下げた。現在、俺はサラ・ローズ・サクヤを伴って、フォレスト国へとやってきていた。その目的はただ1つ。彼らへの謝罪だった。

「うぐっ…………リース」

「……………」

「リース……………ああっ、私の可愛い可愛いリース」

俺からの報告を聞いた彼らは息を詰まらせながら泣いたり、黙ったまま目を閉じて涙を流したり、はたまた声を震わせながら泣き崩れたとそこからは彼女に対して、どれだけの愛情があったのかを窺わせた。そんな中、ただ1人じっとして座っていた前国王アース・フォレストは勢いよく立ち上がり、俺の顔を鋭い表情で見つめてきた。

「シンヤ……………その約束とやらだが」

「……………」

「安心せい。まだ破られておらん」

「えっ」

「だって、そうじゃろう?お前さんとワシがした約束はこうだ…………… "リースが常に笑顔でいられること"。お前がいつ、その約束を破った?」

「しかし、リースはもう」

「今まで!お前と行動を共にしてからのリースは常に笑顔だった!そして、それはこれからも変わることがない!……………なんせ、きっとリースは空の上でも常に笑顔でいてくれているはずだから」

「っ!?」

「だが…………だが、すまない。そうと分かっていてもな……………今日は…………今日だけは……………素直な気持ちを表してもいいだろうか」

そう言葉を詰まらせながら言ったアースに対して、俺は無言でゆっくりと頷いた。直後、アースはこの場にいる誰よりも静かに深く泣いた。

「「「……………」」」

そして、俺の後ろでは3人が立ったまま、目を閉じて手を組み祈るようなポーズで涙を流していた。









「シンヤさん……………私、もっともっと頑張りますね」

「どうした、突然?」

サクヤの発言に不思議そうな顔をする俺達。あのあと城を出た俺達は少し歩いてから帰ろうということになり、ゆっくりとフォレスト国内を見て回った。おそらくだが、リースのいた国の空気を肌で感じておきたかったのだと思う。それから、しばらくして国を出た俺達はみんな黙ったまま道を歩いていた時に突然、サクヤが口を開いたのだった。

「リースの家族のあの姿を見ていたら、何だかそう強く思えてきて……………でも別に私がリースの代わりになるとか、誰かの為にとかじゃないです。これは全て自分の為です」

「「「……………」」」

「私、向こうの世界からこっちにやってきて、最初は身体的にも精神的にも弱くて、それこそ地獄でしたけど…………それでもシンヤさんと出会って強くなって、なんだか自分が変われたような気がして……………何でもできる!私達にできないことは何もない!……………そんな驕りがいつのまにか、ありました」

「それが人間ってものだろ?誰しもいきなり強い力を手にしたら、普通はそうなる」

「ええ。ですが、どんなに強くなっても、どんなに凄くなってもできないことはある……………シンヤさんですら、そうです」

「…………ああ」

「だから、私はもっともっと頑張って、自分の限界を引き延ばします。自分の手の届く範囲をもっともっと広げて、いつか、いつの日にか……………そこにあなたがいてくれたら、嬉しいです」

「「サクヤ……………?」」

「おい、今のプロポーズか?2人が戸惑ってるから、あまり冗談は」

「冗談じゃないです。私は本気です」

「「サクヤ……………」」

「……………そうか」

「でも、今日は頑張るのをお休みします……………彼女に私の決意を伝えたいので」

そう言って、サクヤは徐に立ち止まり、目を閉じて手を組んだ。

「…………そうだな。それがいい」

そうして俺達もサクヤに倣い、同じことをする。

「「「「……………」」」」

心地よい木漏れ日が辺りに降り注ぎ、風もまた爽やかにそよぐ。幸い、周囲に人はなく、まるでこの世界が俺達を柔らかく優しく包み込んでくれているような感覚に陥った。そこでふと思う。これはリースが俺達を温かく見守ってくれているんじゃないかと。

「~~~~~~」

その時、耳元で聞き覚えのある声が聞こえた気がした。少し目を開けて隣を見てみると俺と同じく聞こえたのだろう。サクヤが嗚咽を漏らしながら、涙を流していた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...