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第2部

43 後のあらましについて

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 その後のことを語り、あらましをすべて締めくくろうとするならば、わだかまりなく誰もが手を繋ぎ、うまくやるようになった、と。
 そのような一言で済ませば、それが一番洗練された形なのかもしれない。

 そうすれば、ああ皆が幸せに暮らしたのだろう、と額面通りに受け取って了承できるし、その幸せについて、どのような性質のものであるのか。各々の好きなように想像を膨らませることができる。

 わたしが思うに、これは幸せとは言えないだとか。あるいは、こういった結末の方がよりよいと確信しているとか。
 物語の傾向について、誰もその好みを否定されることがないからだ。

 だけれどわたしは洗練された貴婦人のようには黙っていられない、自分の意見をはっきり言いたくなる、生来の職業婦人気質だから、もう少しだけつけ加えるつもりだ。

 実際のところ、見栄をはるのではなく、虚偽を通そうというのではなく、わたし達はそれなりにうまくやっている。

 舞踏会を終えてすぐに、アボット侯爵は宣言通りに晩餐会を催した。

 たくさんの燭台と立派な暖炉によって明るく暖められた、調達品はもちろん、飾り付けに至るまで、隅々まで気配りのなされた部屋。
 舞踏会会場とはまた雰囲気を異とする、心地の良い部屋で、優雅で美しい彩り、流行最先端の珍しい異国風アレンジの利いた、けれどどこか懐かしくも感じられる食事を味わった。
 食事中には活気溢れる会話、冗談が飛び交い、テーブルの上には繕いのない笑顔が並んでいた。

 そのあとの歓談時間にはピアノを乞われて弾き、歌った。

 最初に弾いたのが歌劇『リナルド』のアリア『私を泣かせてください』で、こちらはアボット侯爵からのリクエストだった。
 そして次に弾いたのは芝居『薔薇族の男達』より、レスタティーヴォ『喜びこそは単騎でやってくる』。
 リクエストをしたのはアボット侯爵夫人、アスコット子爵夫人、オルグレン婦人、真珠姫と、つまりはアンジーを除く女性陣全員だ。

 ちなみにこの曲名。
 著者であるアンジーが原作『薔薇族の男達』で、シェイクスピア著『ハムレット』の有名な台詞「悲しみがくるとき、それは単騎ではこない、大挙するのだ」を引用したのが由来となっている。
 劇中では、かの引用を絡め、ヒーローが熱烈な友情を歌い上げるシーンだ。

 ピアノを囲んで談話をしていたのが、いつしか女性陣による連弾となり、それから男女混声の大合唱となった。
 これを機に、女性陣主催による『薔薇族の男達』楽曲の演奏会が恒例となり、この演奏会は社交界において話題となっていった。

 話は変わり、オルグレン婦人は前カドガン伯爵と真珠姫がパトロンとなっていた店の一つで、レモンケーキを始め、菓子作りの腕前を存分に振るうようになった。
 伴侶と別れた者同士で気が合うのか、父とオルグレン婦人とで元伴侶の愚痴を言い合う姿について、たまに見かけることもある。

 そしてまたアスコット子爵は、かねてより前カドガン伯爵が始めようと準備していた勉強小屋で、理事の一人となり、さらなる詳細を詰め、学徒を集い、後に教鞭を振るい始めた。
 これにはもとより、アスコット子爵が少年の時分より、階級の垣根なく。貧富の優劣なく。意欲のあるなしすらも関わらず。
 人々には広く教育を与えるべく理想を抱いていたことから、前カドガン伯爵が着想したということだった。

 まったくの収益なしで勉強小屋を運営させることは難しく、その基金を募るために前カドガン伯爵と真珠姫は、知識人、思想家はもとより、商売で財を為した資本家階級と交流を深め、寄付を募った。
 悪評の立てられていた二人の豪遊とは、これらが目的の行為だったのだ。

 そしてまた、ウォールデンに無理難題をふっかけられたり、過度な労働により体を壊し、使い捨てられた雇われ人などの新しい勤め先を世話したり、あるいは独立の支援をしたり。そのようなことのために動くことについて、その活動を不快と見なす人達から、贅沢な部分を切り抜かれ、事実とは異なる噂をばら撒かれた。

 この部分においてわたしの見解を添えるならば、正直なところ、驚きしかない。
 真珠姫はウォールデン一族の面々を憎んでいただけでなく、屋敷の使用人や商店の労働者についても冷淡であったからだ。
 どのような心境の変化があったのか。
 それについては、若き日に交わした、アスコット子爵との友情のためだと真珠姫は笑った。
 詳細はわからなかったが、思想において子爵より、何らかの影響を受けたということだろう。

 さて、大商店であるウォールデンを敵対視する商人は多くいたため、真珠姫は当初、彼等からひどい侮蔑を受けたろうが、逆手に生かしていったに違いない。
 わたし達親子は似たような性向、女らしく優雅なたおやかさではなく、男であれば美徳とされる頑固さ、意志の強さを持つため、真珠姫の振る舞いについては、容易に想像できるというものだ。

 ウォールデンが零落した今となれば、前カドガン伯爵と真珠姫の築いたコネクションは、この国で財を得ようとするならば、誰もが欲するほどにまで昇り詰めていた。
 それこそ貴族であってすら、彼らを無視することは難しいだろう。
 最新の流行り、優雅で洗練された最高品質の逸品。それらを手にするには、前カドガン伯爵と真珠姫、二人と関わらないではいられない。

 それがためか、ややもすれば危険思想とも捉えられかねない、庶民向けの勉強小屋について、王室は静観している。
 カドガン伯爵領とアスコット子爵領の境界に一つ、王都に一つと小屋の規模が小さく、また王権に疑問を投げかける思想を取り扱わないことで、今のところはどうにか許されているのかもしれない。
 背後にファルマス公爵、レッドフォード侯爵、そしてアボット侯爵の存在があることも大きい。が、逆説的には、反乱のくすぶりと捉えられる危険性もあり、彼等が表立つことは決してない。

 はてさて。
 ここまで、後のあらましについて説明してきたわけではあるけれど、大人気作家であるアンジーによれば、物語はダンスで締めくくられるべきなのだという。
 だからわたしは、親友であり尊敬すべき大作家、次期レッドフォード侯爵の奥方であるアンジーの言葉に習い、舞台を移そうと思う。

 ある初夏の、カドガン伯爵領におけるピクニックについて。
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