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20.最終確認
ジョゼフィーヌは意気揚々と扉を開けた。
「まずは食堂です!」
「ほほう!」
頼んでいた家具やカーテンなどが届き使用人や商人の手を借りて、ジョゼフィーヌの考えた通りに設置した。
短い期間での作業だったが今できることをやりきったと思う。それなりの納得の出来栄えになった。力を貸してくれたみんなに感謝でいっぱいだ。
食堂の壁には風景画を飾った。テーブルクロスはオフホワイトにして、テーブルの中央にはシンプルな形の可愛い花瓶を置いて花を飾ってある。このことによって向かいに座るリックの顔がより麗しく見えるので眼福……と言いたいがそれも終わる。
ジョゼフィーヌが帰ってしまうとリックと食事をともにすることもなくなるのだから。
それはさておきリックが日常的に爽やかな気持ちで食事を摂れるといいなと思いながら考えた。実は驚くことに今までテーブルクロスすらなかったのでこれだけでも雰囲気が変わる。
リックはぐるりとテーブルの周りを歩いたあと、大きく頷いて微笑んだ。どうやら納得してくれたみたいでよかった。
「次は客室よ。さあ、どうぞ!」
「おっ、いいね」
モスグリーンのカーテンと同じ色のベッドカバーで揃えた。アンティークのスタンドランプを保管庫で見つけたので磨いてもらい置いた。もともとあったテーブルに調和していい感じ。別の客間はワイン色のカーテンとベッドカバーで揃えて花瓶や置物を飾った。
本音を言えば壁紙、絨毯、シャンデリアなども変えてみたいがお金も時間もかかりすぎるのでできる範囲で頑張った。
悔しいけれど本格的なものはいずれリックの奥様となる女性がするべきだろう……。
すべてを見せ終わるとリックは、感心しながらジョゼフィーヌにお礼を言った。
「ジョゼ、ありがとう。見違えたよ。これで友人が来ても格好がつく。前に来た友人には『もてなす気持ちはないのか!』と散々文句を言われたからね。」
「まあ。リックに文句を言う人がいるの?」
この領地に来る物好きはいないようなことを言っていたが、やはりバシュラール公爵を訪ねる人はいたらしい。
そのお客様の気持ちはよくわかる。確かに国王陛下の実弟の屋敷にしてはありえない地味さだから。ただ思っていても普通は口に出さないものだろう。非礼な貴族もいるのねと思っていたら、リックが苦笑いを浮かべて意外な人の名前を口にした。
「シリルだよ」
「え? お兄様が来たことあるの?」
お兄様の名前はシリル・シャレット。ジョゼフィーヌ同様リックとは長い付き合いだから行き来してもおかしくないが、ちょっと引っかかることがあった。
「お兄様は正式に入国申請してからここにきたの?」
「ははは――」
リックが目を逸らして乾いた笑い声を出した。リックだけでなくお兄様まで勝手に国境超えをしているらしい。みんな慣れすぎていけないことをしている自覚がないのではと心配になる。でも今回ジョゼフィーヌも同じ罪を犯していた。いや、ジョゼフィーヌは意識がないまま連れてこられているから無実なはず……はずよね?
その日の晩餐は豪勢なものだった。ジョゼフィーヌの好きなサラダに肉料理、魚料理、スープにデザート。明日、屋敷に帰ることになったのでお別れ会的な意味合いらしい。
「こんなに食べきれないわ」
「料理長がジョゼのために張り切ったようだ。せっかくだから食べられるところまで頑張ってくれ」
「うん。でもきっと残しちゃうわ」
前言撤回。結局全部食べてしまった、気のせいではなくお腹がポッコリしてしまった。自分の食欲が怖い。
ここにいる間は簡素なワンピースを着て気楽に過ごしていたから、意外と食べられるのだ。きっちりドレス生活に戻るのが辛いなぁ。コルセット付けたくない。それよりも心なしか太った気がする。ドレス……入るかしら?
食後は応接室に移動した。ジョアンナがお茶を置くと部屋を出て行った。リックと二人きりだ。
「ジョゼ。本当に戻るのかい? アルバン殿下との結婚が嫌ならずっとここにいればいい。私は浮気をしないし、ジョゼを大切にする。一緒に暮らそう」
まっすぐで真剣な目を向けられて心が揺らぎそうになる。これはジョゼフィーヌがどの人生を選ぶのか、最終確認になる。
「私はアルバンと婚約しているわ。それなのにどうやって?」
「新しい名前と身分ならすぐに用意できるよ」
リックが平然と言う。何とでもすると言っていたのは、そういう強硬手段だったらしい。荒っぽすぎる。リックらしくない提案に思えて正直なところがっかりした。私の答えは決まっている。それを望まない。
「私はリックの隣に立つときはジョゼフィーヌとしてがいい。まるで犯罪者のように名前を変えて偽りながら生きるのは嫌よ。それに私はシャレット公爵家の娘。自分自身の責任を知っている。投げ出すようなことはしない。たとえ不本意であっても己の役割を理解し全うしてきた。自分自身の中にある貴族としての誇りを自分で踏み躙るようなことはしない。国に戻って私は私のやるべきことをします」
はっきりと言い切った! リックの気持ちはありがたいけれど、ジョゼフィーヌにもプライドがある。逃げる人生は選ばない。
自分の手で初恋を終わらす。悲しいけれど仕方がないことなのだと自分の心に言い聞かせた。
リックは静かな表情でジョゼフィーヌの言葉を聞いていたが、ふいに顔を俯けて肩を震わせ始めた。
(え……もしかして断ったから怒った?)
「リ、リック?」
声をかけるとリックは顔を上げた。すぐに声を上げて笑い出した。
「あはははは――」
「どうしたの?」
「ああ、ごめん。あっさり振られたなあと思って」
「えっと……ご、ごめんなさい。怒ってる?」
リックの口調は責めるものではなかったが、ジョゼフィーヌはとっさに謝った。
「まずは食堂です!」
「ほほう!」
頼んでいた家具やカーテンなどが届き使用人や商人の手を借りて、ジョゼフィーヌの考えた通りに設置した。
短い期間での作業だったが今できることをやりきったと思う。それなりの納得の出来栄えになった。力を貸してくれたみんなに感謝でいっぱいだ。
食堂の壁には風景画を飾った。テーブルクロスはオフホワイトにして、テーブルの中央にはシンプルな形の可愛い花瓶を置いて花を飾ってある。このことによって向かいに座るリックの顔がより麗しく見えるので眼福……と言いたいがそれも終わる。
ジョゼフィーヌが帰ってしまうとリックと食事をともにすることもなくなるのだから。
それはさておきリックが日常的に爽やかな気持ちで食事を摂れるといいなと思いながら考えた。実は驚くことに今までテーブルクロスすらなかったのでこれだけでも雰囲気が変わる。
リックはぐるりとテーブルの周りを歩いたあと、大きく頷いて微笑んだ。どうやら納得してくれたみたいでよかった。
「次は客室よ。さあ、どうぞ!」
「おっ、いいね」
モスグリーンのカーテンと同じ色のベッドカバーで揃えた。アンティークのスタンドランプを保管庫で見つけたので磨いてもらい置いた。もともとあったテーブルに調和していい感じ。別の客間はワイン色のカーテンとベッドカバーで揃えて花瓶や置物を飾った。
本音を言えば壁紙、絨毯、シャンデリアなども変えてみたいがお金も時間もかかりすぎるのでできる範囲で頑張った。
悔しいけれど本格的なものはいずれリックの奥様となる女性がするべきだろう……。
すべてを見せ終わるとリックは、感心しながらジョゼフィーヌにお礼を言った。
「ジョゼ、ありがとう。見違えたよ。これで友人が来ても格好がつく。前に来た友人には『もてなす気持ちはないのか!』と散々文句を言われたからね。」
「まあ。リックに文句を言う人がいるの?」
この領地に来る物好きはいないようなことを言っていたが、やはりバシュラール公爵を訪ねる人はいたらしい。
そのお客様の気持ちはよくわかる。確かに国王陛下の実弟の屋敷にしてはありえない地味さだから。ただ思っていても普通は口に出さないものだろう。非礼な貴族もいるのねと思っていたら、リックが苦笑いを浮かべて意外な人の名前を口にした。
「シリルだよ」
「え? お兄様が来たことあるの?」
お兄様の名前はシリル・シャレット。ジョゼフィーヌ同様リックとは長い付き合いだから行き来してもおかしくないが、ちょっと引っかかることがあった。
「お兄様は正式に入国申請してからここにきたの?」
「ははは――」
リックが目を逸らして乾いた笑い声を出した。リックだけでなくお兄様まで勝手に国境超えをしているらしい。みんな慣れすぎていけないことをしている自覚がないのではと心配になる。でも今回ジョゼフィーヌも同じ罪を犯していた。いや、ジョゼフィーヌは意識がないまま連れてこられているから無実なはず……はずよね?
その日の晩餐は豪勢なものだった。ジョゼフィーヌの好きなサラダに肉料理、魚料理、スープにデザート。明日、屋敷に帰ることになったのでお別れ会的な意味合いらしい。
「こんなに食べきれないわ」
「料理長がジョゼのために張り切ったようだ。せっかくだから食べられるところまで頑張ってくれ」
「うん。でもきっと残しちゃうわ」
前言撤回。結局全部食べてしまった、気のせいではなくお腹がポッコリしてしまった。自分の食欲が怖い。
ここにいる間は簡素なワンピースを着て気楽に過ごしていたから、意外と食べられるのだ。きっちりドレス生活に戻るのが辛いなぁ。コルセット付けたくない。それよりも心なしか太った気がする。ドレス……入るかしら?
食後は応接室に移動した。ジョアンナがお茶を置くと部屋を出て行った。リックと二人きりだ。
「ジョゼ。本当に戻るのかい? アルバン殿下との結婚が嫌ならずっとここにいればいい。私は浮気をしないし、ジョゼを大切にする。一緒に暮らそう」
まっすぐで真剣な目を向けられて心が揺らぎそうになる。これはジョゼフィーヌがどの人生を選ぶのか、最終確認になる。
「私はアルバンと婚約しているわ。それなのにどうやって?」
「新しい名前と身分ならすぐに用意できるよ」
リックが平然と言う。何とでもすると言っていたのは、そういう強硬手段だったらしい。荒っぽすぎる。リックらしくない提案に思えて正直なところがっかりした。私の答えは決まっている。それを望まない。
「私はリックの隣に立つときはジョゼフィーヌとしてがいい。まるで犯罪者のように名前を変えて偽りながら生きるのは嫌よ。それに私はシャレット公爵家の娘。自分自身の責任を知っている。投げ出すようなことはしない。たとえ不本意であっても己の役割を理解し全うしてきた。自分自身の中にある貴族としての誇りを自分で踏み躙るようなことはしない。国に戻って私は私のやるべきことをします」
はっきりと言い切った! リックの気持ちはありがたいけれど、ジョゼフィーヌにもプライドがある。逃げる人生は選ばない。
自分の手で初恋を終わらす。悲しいけれど仕方がないことなのだと自分の心に言い聞かせた。
リックは静かな表情でジョゼフィーヌの言葉を聞いていたが、ふいに顔を俯けて肩を震わせ始めた。
(え……もしかして断ったから怒った?)
「リ、リック?」
声をかけるとリックは顔を上げた。すぐに声を上げて笑い出した。
「あはははは――」
「どうしたの?」
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リックの口調は責めるものではなかったが、ジョゼフィーヌはとっさに謝った。
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