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Chapter_2:コーズ&エフェクト
Note_47
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空が茜色に赤みがかっていく。しかし、ある者達にとっては暗雲立ち込める暗闇に包まれている。【フェニコプテラス】の【彼岸境】。爆発音が次々と鳴り響く。
ボレアリスが操縦している【Polaris4G】の武装によるものだ。名を【爆焔砲】と呼び、砲弾の中に燃料を閉じ込めた“焼夷弾”である。
不発しても、もう1つの武装【フレアゲート】で炎を噴き出して、火の海で砲弾を融かして爆発を引き起こす。
直撃すれば、致命的な威力が見込まれる。光剣で斬れば、目の前で大爆発が起こる。そのまま地面に落としても、時限爆弾として活用できる。
咎人を徹底的に燃やし尽くすことに特化された、手練れの処刑人に贈る人道兵器であった。人の形を残さぬため、生きた証を灰燼に帰す兵器。生き恥さえも残さない。
終わりの運命に抗う少女が、黒い機体【ラグナロク】に搭乗して光剣を振るう。
『……くっ!』
レオは反応しきれない。砲弾を目の前に飛ばされ、真っ二つに斬ってしまう。機体にとっては少しのダメージではあるが、徐々に資源の兆しが見えてくる。
(……残り半分切ってんのか。機体は頑丈で強いが、ペースが悪いな。横に振り払っても、あの機体は身軽だ。ブーストで飛んできやがる。なら……)
接近戦をしかける。他の機体が炎で邪魔をしてくる。炎の中でも怯まず動けるのは良いことだが、修復に必要な資源はどんどん減るばかりであった。
レオは不器用ながら、機体を豪快に扱って敵機を退けていく。
「減り早いな……調子が悪いようだな。ラグナロクとやら。」
『重要インシデントを確認いたします。
レオ様。リソースの減少率が高いため、次の解決方法を推奨いたします。
・火の上における戦闘は、継続的なダメージが予想されます。なるべく控えるようにしましょう。
・敵の砲弾【爆焔砲】によるリソース減少が一番大きな割合を占めています。爆発を引き起こす“焼夷弾”であり、回避が最も有効です。
・最も有効であった戦略は、
“敵の腕を掴みながら、光剣を発動させて敵を攻撃する”
……手法となります。』
「んじゃあ、またその手段を使えば……」
『飽くまで、最も有効であった手段です。しかしながら本機は、無類のパワーを誇り、近接戦闘による肉弾戦も得意です。
敵を捕まえることで、渾身の一撃をぶち込んでやりましょう!』
「お前、そういうキャラだったのか?」
『すみません。』
「でも……嫌いじゃねぇ。」
レオは右手に剣を持つ。敵に差し出すのは左手ということになる。しかし、レオは余裕の表情で戦いを続ける。
(左腕なら……義手ならいくらでもくれてやる。あの野郎の顔にぶち込めるなら、尚更だ!)
レオは左手の力を緩める。敵を掴める機会をいつでも作れるように心の準備をした。
一方で暗雲の中、長い光線が上向きに放出される。1機の白黒の小型機を追うように、弾幕が撃ち込まれる。
【リネア・フューニス】が操縦している【Polaris5G】の武装によるものだ。名を【イレイザービーム】と呼び、今までの光線銃とは異なる“持続型”の光線である。
剣のように振り下ろす。遠方で当たるはずもない。小さな的は狙ってから撃つものだが、構わず消そうと振り回す。彼の全てを終わらせて壊すために。
新たな運命を望む少年は、【P-bot_mk.Ⅲ】として空を制する。
『……サド君。』
『どうした?まさかリソース?』
『いいえ。私達のリソースは、守護者と異なり、莫大なものであります。代わりにエネルギーが切れそうです。』
『あと何パー?』
『……18%です。じっとしていれば節約できますが、あと20分程度で両翼が消えます。
それに休憩もしていないはずです。これ以上はあなたが……』
『すぐ始末する。それでいいかい?』
マークⅢの注意喚起に、サドはすぐ答える。真っ先に大将のフューニスを狙う。地上へと一気に降下して、真っ直ぐフューニスの機体に向かう。光剣を発動させて、スピードを出す。
『ハアアアァァァァァッッ!!!』
『何ッ!?』
敵の小型機が張っているシールドを突き抜けて、一気に近づく。
敵機の腹部を上下に両断して、上半身を浮かせる。すぐに飛行して高度を稼いでから、一気に下降して突進を行う。敵機の上半身にぶつかり、思い切り地面に叩きつけた。
『ク……クソが』
『悪魔が!』
サドは次の機体に狙いを付けた。敵の声で容易に反応する。一気に距離を縮める。
敵は炎を噴射する。瞬時に回避して、配下の機体を通り過ぎる。
敵機が振り向く間に、サドは業火の中から【ミクロダークホール】が持つ引力を用いて燃えている砲弾を拾う。【爆焔砲】の砲弾であった。
『いっ……せえぇぇのッッ!!!』
引力を活用させて、火の玉を敵機体に投げつけた。敵機が振り向いたときにはもう遅い。
大爆発と共に、敵機も無惨に爆散していく。断裂していく機体の四肢と、爆炎に直撃する胴体の表面が更に黒く焦げていく。
サドは死屍累々の機械の山を見て、次にレオの助けに行こうとひと呼吸置いた。
『………ッ!?』
唐突に、飛ぼうとしたところを何かの壁に邪魔されてしまう。徐々に壁が迫っていき、ある機体の手に握り込まれる。
暗闇の中、サドは完全に身動きが取れなかった。P-botの体として潰されることはないものの、このままではレオを助けに行けない。サドは脱出の機を伺う。
レオは敵機の腕を掴むまで、砲弾を回避し続けた。敵の配下が放つガトリング砲を受けているものの、まずはボレアリスを集中して狙う。
ボレアリスは、レオから後ろに逃げつつ炎を噴射していく。砲弾の弾数も20発あったものがあと5発ほどしか残っていない。
『達磨にして処す。』
1発撃ち込む。レオは避けながら近づいて、敵が差し出した右腕の砲身を掴もうとする。ボレアリスは後退して避ける。
『微塵も残さねぇ。』
2人の間に緊張が走る。【ラグナロク】のリソースは既に30%を切っている。おまけに1対2を強いられ集中できない。
一旦、部下の機体を狙う。部下の機体も遠距離型で、距離を取りながら戦う。ガトリング砲でダメージを与えながら逃げる。
レオは配下を炎の海に追い詰める。そして、海の中に敵を入れる。
(……未熟だな。)
突如として、部下の背後に爆発が起きた。ボレアリスが蒔いた砲弾が破裂したのだ。その衝撃で前方に動いてしまう。
その近づいたところをレオは逃さない。火炎放射器の砲身を左腕で引き込む。巨塊を地面にぶっ刺し、右手で敵を2回ぶん殴ってから、ボレアリスの方に機体ごとぶん投げる。
ボレアリスの機体にぶつけた。外殻が大きく傷ついていく。
それと同時に剣を担いで飛び込み、ボレアリスごと斬りにかかる。光剣を発動させた。
ボレアリスの機体は身軽に逃げ切る。部下は動けないまま、【ラグナロク】の光剣の餌食となった。残るはボレアリス1人である。
剣の光が消えて、巨塊に戻る。ボレアリスは既に2発ほど砲弾を足下に撃っており、爆破させてレオの機体にダメージを与える。
『リソース残量20%を切りました。』
「決めてやらァッ!!!」
レオは構わず接近して、左腕を前に出す。あと少しで砲身に届く。
『ッ!?』
何かに右脚を引っ掛けられる。間一髪、ボレアリスは回避する。
レオが恐る恐る足下を辿っていくと、そこにいたのは上半身だけのフューニスの機体だった。左手に何かを掴み、右手でレオの機体の右脚を捕らえる。
『……サド?』
『逃がさない!たとえこの腕が千切られようとも……』
レオが巨塊を下にぶっ刺して、敵機の右腕を粉砕する。その間に、ボレアリスは1発撃ち込む。なんとか避け切るが、避けた方向にもう1発撃ち込む。正面から受けてしまった。
機体は大きく仰け反る。レオは何か心地よい感覚を受け取る。大きなダメージ、轟く爆音、炸裂する火花。戦禍の中で、一瞬だけそのような快感が生まれていく。
その幸福感を…一瞬で切り替え、集中力が即座に回復している。レオは既に戦法を決めていた。
『リソース残量10%を切りました。』
一気にスパートをかける。正面に突っ込むレオに対して、ボレアリスは火炎で彼女を炙る。
レオは巨塊の先をボレアリスに向けてぶっ刺しにかかる。目の前に、フューニスの小型機がシールドを張って彼を守った。このままでは光線を防がれてしまう。
『同じ手、喰らうかァッ!』
巨塊のまま、シールドを突き破る。レオはそのまま左手を突き出して、光剣の準備をする。ボレアリスは右の主砲を前に出す。
『“楽園”に仇なす者が!燃え尽きろ!』
最後の一撃を、至近距離でぶち込んだ。
爆風に飲み込まれ、彼らの戦いの行く末が他者からは見えなかった。ただ黒い煙と炎の荒波が周囲に広がっていく。
火災の中から、一筋の光が見える。左手で敵の砲身を掴む。左手から蒸気が上がっているが構わない。
レオは光剣を振りかぶって、上から一気に振り下ろした。強烈な光がボレアリスに襲いかかる。
『ヴウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥグッ……オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオッッッッッ!!!』
光がボレアリスを浄化していく。機体が光で貫かれていき、破片が更に細かく分解され、巨塊と共に粉砕されていく。
次々と、爆発が連続で起きる。火炎放射器のガソリン、砲撃の硝煙、機体の燃料、全てが業火と化してボレアリスの大罪を洗い流していく。
光が消えていく。その様子を、フューニスが傍から見ていた。
『おのれ……ッ!?』
機体の左腕に違和感を察する。何かが引きずり込まれるような感じがする。先程より、機体の左手首が細く絞られている。手首を境にして断裂した。
掌から、P-botが再びエネルギーの3枚羽を両翼に宿しながら脱出する。
四肢を失い、何もできないフューニスの機体に一気に近づく。
『脱出!』
フューニスは緊急脱出用のボタンを押す。機体とコクピットが上手く分離しない。サドは上に乗って右手で機体に触れる。
フューニスのコクピットが横から狭まり始めた。あの時の、不気味な巨大機体がやってきたときと一緒だ。
『グォオオオッ!間に合えェェェッッ!』
コクピットから羽を伸ばして逃げようとした。しかし、空に逃げることはなかった。別の引力に推進力が奪われる。
サドが左手をフューニスの方に差し伸べて、【ミクロダークホール】を生み出していた。
絶対に逃がさない。フューニスは暗黒に飲まれまいと悪あがきをする。だが推進力がこれ以上、上がることはなく、そのまま飲み込まれていく。
『クソガァァァッッッ!!!』
コクピットが潰されていく。壁に挟まり体が捻じ曲げられ、有終の美を飾ろうと嘆く。
「貴様らを!……皆殺しにしてやる!……この、負け犬ごとブボォッ!!」
【Polaris5G】の右腕が飛んでくる。自分の機体に、右ストレートをぶち込まれる。レオが拾ってぶん投げたのだ。
フューニスは暗黒へと引き摺り込まれる。レオは息を切らしながら、彼女を憐れに見送る。
「……吠え面かいとけ。負け犬。」
重力が更に強くなる。フューニスは、期待の中から遠吠えを上げた。
「私は!まだ終わらあアァッ!!!」
『……【ミクロダークホール】!』
潰されていく。空間の一部となる。
「アアアァァァ………」
破片が中心に集まって、爆散した。しかし空間に全て収縮され、彼女の痕跡が残ることは何一つなかった。
闇は消え去り、戦いは終わったのだ。フューニスの小型機も機能を停止して、ゆっくりと地面に着陸する。
【ラグナロク】のAIがメッセージを発する。
『全敵機、大破を確認。リソースの枯渇により機能停止。
目標達成。リソース残量0%…
戦闘システムを解除。パイロットを解放いたします。』
ラグナロクは左手にレオを乗せて、炎の足場を避けて彼女を降ろして颯爽と去る。
レオはP-botのところに走って近づく。
「サド!」
P-botは少女の声でメッセージを発した。
『サド君……残り……10%です。レオさんを……探しましょう……。』
ロボットの上からハニカムが包み込まれ、上から崩れていく。サドの肉体に戻っていく。姉弟は互いの無事を目で見て確かめる。
「怪我は?」
「ねぇよ。そっちは?」
「大……丈夫。」
ふらついていた。マークⅢから一言。
『……エネルギー切れ間近です。』
「全然大丈夫じゃねぇだろ。」
「それより、早くしないと……」
「……何?ッ………」
レオにだるけが襲ってくる。目の前が揺らいでいる。赤い花の効果であり、周囲の温度が著しく上がっている。
サドがレオの肩を組んで、戦場を後にする。一歩ずつ、歩みを進めながら2人で話す。
「あのさ……」
「何だよ?」
サドには、P-botとしてやりたいことがある。
「……僕、みんなを守れたかな?」
それができたか、レオに問う。
「……そうだな。立派だったよ。」
「それなら、後はレオを守り切るだけ。下町まで無事に連れて行けば……」
「お前も……そろそろ限界だろ?」
レオの疑問に、サドは笑顔で言い返す。
「レオ。僕は……守りたいものを守り切るって、心に決めたんだ。この命はレオのもの。最後まで守り切るつもりさ!」
レオは更に言い返す。
「……私は、あんたを捨てる気なんて更々無い。どんな理不尽も越えてやる。仲間も守って勝ち上がる。そうすりゃ、全員無事だろ?
……それで満足か?」
レオは、サドの顔色を伺う。彼は…静かに涙を流していた。彼女に悟られないように隠していた。そして…静かに頷いてくれた。
「……うん。」
「フッ……上等だ。」
姉弟は共に歩む。戦の終焉を制して、2人の物語が再び記されていく。絶やされることのない無類の“信頼”が2人を繋ぎ止めていた。
ボレアリスが操縦している【Polaris4G】の武装によるものだ。名を【爆焔砲】と呼び、砲弾の中に燃料を閉じ込めた“焼夷弾”である。
不発しても、もう1つの武装【フレアゲート】で炎を噴き出して、火の海で砲弾を融かして爆発を引き起こす。
直撃すれば、致命的な威力が見込まれる。光剣で斬れば、目の前で大爆発が起こる。そのまま地面に落としても、時限爆弾として活用できる。
咎人を徹底的に燃やし尽くすことに特化された、手練れの処刑人に贈る人道兵器であった。人の形を残さぬため、生きた証を灰燼に帰す兵器。生き恥さえも残さない。
終わりの運命に抗う少女が、黒い機体【ラグナロク】に搭乗して光剣を振るう。
『……くっ!』
レオは反応しきれない。砲弾を目の前に飛ばされ、真っ二つに斬ってしまう。機体にとっては少しのダメージではあるが、徐々に資源の兆しが見えてくる。
(……残り半分切ってんのか。機体は頑丈で強いが、ペースが悪いな。横に振り払っても、あの機体は身軽だ。ブーストで飛んできやがる。なら……)
接近戦をしかける。他の機体が炎で邪魔をしてくる。炎の中でも怯まず動けるのは良いことだが、修復に必要な資源はどんどん減るばかりであった。
レオは不器用ながら、機体を豪快に扱って敵機を退けていく。
「減り早いな……調子が悪いようだな。ラグナロクとやら。」
『重要インシデントを確認いたします。
レオ様。リソースの減少率が高いため、次の解決方法を推奨いたします。
・火の上における戦闘は、継続的なダメージが予想されます。なるべく控えるようにしましょう。
・敵の砲弾【爆焔砲】によるリソース減少が一番大きな割合を占めています。爆発を引き起こす“焼夷弾”であり、回避が最も有効です。
・最も有効であった戦略は、
“敵の腕を掴みながら、光剣を発動させて敵を攻撃する”
……手法となります。』
「んじゃあ、またその手段を使えば……」
『飽くまで、最も有効であった手段です。しかしながら本機は、無類のパワーを誇り、近接戦闘による肉弾戦も得意です。
敵を捕まえることで、渾身の一撃をぶち込んでやりましょう!』
「お前、そういうキャラだったのか?」
『すみません。』
「でも……嫌いじゃねぇ。」
レオは右手に剣を持つ。敵に差し出すのは左手ということになる。しかし、レオは余裕の表情で戦いを続ける。
(左腕なら……義手ならいくらでもくれてやる。あの野郎の顔にぶち込めるなら、尚更だ!)
レオは左手の力を緩める。敵を掴める機会をいつでも作れるように心の準備をした。
一方で暗雲の中、長い光線が上向きに放出される。1機の白黒の小型機を追うように、弾幕が撃ち込まれる。
【リネア・フューニス】が操縦している【Polaris5G】の武装によるものだ。名を【イレイザービーム】と呼び、今までの光線銃とは異なる“持続型”の光線である。
剣のように振り下ろす。遠方で当たるはずもない。小さな的は狙ってから撃つものだが、構わず消そうと振り回す。彼の全てを終わらせて壊すために。
新たな運命を望む少年は、【P-bot_mk.Ⅲ】として空を制する。
『……サド君。』
『どうした?まさかリソース?』
『いいえ。私達のリソースは、守護者と異なり、莫大なものであります。代わりにエネルギーが切れそうです。』
『あと何パー?』
『……18%です。じっとしていれば節約できますが、あと20分程度で両翼が消えます。
それに休憩もしていないはずです。これ以上はあなたが……』
『すぐ始末する。それでいいかい?』
マークⅢの注意喚起に、サドはすぐ答える。真っ先に大将のフューニスを狙う。地上へと一気に降下して、真っ直ぐフューニスの機体に向かう。光剣を発動させて、スピードを出す。
『ハアアアァァァァァッッ!!!』
『何ッ!?』
敵の小型機が張っているシールドを突き抜けて、一気に近づく。
敵機の腹部を上下に両断して、上半身を浮かせる。すぐに飛行して高度を稼いでから、一気に下降して突進を行う。敵機の上半身にぶつかり、思い切り地面に叩きつけた。
『ク……クソが』
『悪魔が!』
サドは次の機体に狙いを付けた。敵の声で容易に反応する。一気に距離を縮める。
敵は炎を噴射する。瞬時に回避して、配下の機体を通り過ぎる。
敵機が振り向く間に、サドは業火の中から【ミクロダークホール】が持つ引力を用いて燃えている砲弾を拾う。【爆焔砲】の砲弾であった。
『いっ……せえぇぇのッッ!!!』
引力を活用させて、火の玉を敵機体に投げつけた。敵機が振り向いたときにはもう遅い。
大爆発と共に、敵機も無惨に爆散していく。断裂していく機体の四肢と、爆炎に直撃する胴体の表面が更に黒く焦げていく。
サドは死屍累々の機械の山を見て、次にレオの助けに行こうとひと呼吸置いた。
『………ッ!?』
唐突に、飛ぼうとしたところを何かの壁に邪魔されてしまう。徐々に壁が迫っていき、ある機体の手に握り込まれる。
暗闇の中、サドは完全に身動きが取れなかった。P-botの体として潰されることはないものの、このままではレオを助けに行けない。サドは脱出の機を伺う。
レオは敵機の腕を掴むまで、砲弾を回避し続けた。敵の配下が放つガトリング砲を受けているものの、まずはボレアリスを集中して狙う。
ボレアリスは、レオから後ろに逃げつつ炎を噴射していく。砲弾の弾数も20発あったものがあと5発ほどしか残っていない。
『達磨にして処す。』
1発撃ち込む。レオは避けながら近づいて、敵が差し出した右腕の砲身を掴もうとする。ボレアリスは後退して避ける。
『微塵も残さねぇ。』
2人の間に緊張が走る。【ラグナロク】のリソースは既に30%を切っている。おまけに1対2を強いられ集中できない。
一旦、部下の機体を狙う。部下の機体も遠距離型で、距離を取りながら戦う。ガトリング砲でダメージを与えながら逃げる。
レオは配下を炎の海に追い詰める。そして、海の中に敵を入れる。
(……未熟だな。)
突如として、部下の背後に爆発が起きた。ボレアリスが蒔いた砲弾が破裂したのだ。その衝撃で前方に動いてしまう。
その近づいたところをレオは逃さない。火炎放射器の砲身を左腕で引き込む。巨塊を地面にぶっ刺し、右手で敵を2回ぶん殴ってから、ボレアリスの方に機体ごとぶん投げる。
ボレアリスの機体にぶつけた。外殻が大きく傷ついていく。
それと同時に剣を担いで飛び込み、ボレアリスごと斬りにかかる。光剣を発動させた。
ボレアリスの機体は身軽に逃げ切る。部下は動けないまま、【ラグナロク】の光剣の餌食となった。残るはボレアリス1人である。
剣の光が消えて、巨塊に戻る。ボレアリスは既に2発ほど砲弾を足下に撃っており、爆破させてレオの機体にダメージを与える。
『リソース残量20%を切りました。』
「決めてやらァッ!!!」
レオは構わず接近して、左腕を前に出す。あと少しで砲身に届く。
『ッ!?』
何かに右脚を引っ掛けられる。間一髪、ボレアリスは回避する。
レオが恐る恐る足下を辿っていくと、そこにいたのは上半身だけのフューニスの機体だった。左手に何かを掴み、右手でレオの機体の右脚を捕らえる。
『……サド?』
『逃がさない!たとえこの腕が千切られようとも……』
レオが巨塊を下にぶっ刺して、敵機の右腕を粉砕する。その間に、ボレアリスは1発撃ち込む。なんとか避け切るが、避けた方向にもう1発撃ち込む。正面から受けてしまった。
機体は大きく仰け反る。レオは何か心地よい感覚を受け取る。大きなダメージ、轟く爆音、炸裂する火花。戦禍の中で、一瞬だけそのような快感が生まれていく。
その幸福感を…一瞬で切り替え、集中力が即座に回復している。レオは既に戦法を決めていた。
『リソース残量10%を切りました。』
一気にスパートをかける。正面に突っ込むレオに対して、ボレアリスは火炎で彼女を炙る。
レオは巨塊の先をボレアリスに向けてぶっ刺しにかかる。目の前に、フューニスの小型機がシールドを張って彼を守った。このままでは光線を防がれてしまう。
『同じ手、喰らうかァッ!』
巨塊のまま、シールドを突き破る。レオはそのまま左手を突き出して、光剣の準備をする。ボレアリスは右の主砲を前に出す。
『“楽園”に仇なす者が!燃え尽きろ!』
最後の一撃を、至近距離でぶち込んだ。
爆風に飲み込まれ、彼らの戦いの行く末が他者からは見えなかった。ただ黒い煙と炎の荒波が周囲に広がっていく。
火災の中から、一筋の光が見える。左手で敵の砲身を掴む。左手から蒸気が上がっているが構わない。
レオは光剣を振りかぶって、上から一気に振り下ろした。強烈な光がボレアリスに襲いかかる。
『ヴウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥグッ……オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオッッッッッ!!!』
光がボレアリスを浄化していく。機体が光で貫かれていき、破片が更に細かく分解され、巨塊と共に粉砕されていく。
次々と、爆発が連続で起きる。火炎放射器のガソリン、砲撃の硝煙、機体の燃料、全てが業火と化してボレアリスの大罪を洗い流していく。
光が消えていく。その様子を、フューニスが傍から見ていた。
『おのれ……ッ!?』
機体の左腕に違和感を察する。何かが引きずり込まれるような感じがする。先程より、機体の左手首が細く絞られている。手首を境にして断裂した。
掌から、P-botが再びエネルギーの3枚羽を両翼に宿しながら脱出する。
四肢を失い、何もできないフューニスの機体に一気に近づく。
『脱出!』
フューニスは緊急脱出用のボタンを押す。機体とコクピットが上手く分離しない。サドは上に乗って右手で機体に触れる。
フューニスのコクピットが横から狭まり始めた。あの時の、不気味な巨大機体がやってきたときと一緒だ。
『グォオオオッ!間に合えェェェッッ!』
コクピットから羽を伸ばして逃げようとした。しかし、空に逃げることはなかった。別の引力に推進力が奪われる。
サドが左手をフューニスの方に差し伸べて、【ミクロダークホール】を生み出していた。
絶対に逃がさない。フューニスは暗黒に飲まれまいと悪あがきをする。だが推進力がこれ以上、上がることはなく、そのまま飲み込まれていく。
『クソガァァァッッッ!!!』
コクピットが潰されていく。壁に挟まり体が捻じ曲げられ、有終の美を飾ろうと嘆く。
「貴様らを!……皆殺しにしてやる!……この、負け犬ごとブボォッ!!」
【Polaris5G】の右腕が飛んでくる。自分の機体に、右ストレートをぶち込まれる。レオが拾ってぶん投げたのだ。
フューニスは暗黒へと引き摺り込まれる。レオは息を切らしながら、彼女を憐れに見送る。
「……吠え面かいとけ。負け犬。」
重力が更に強くなる。フューニスは、期待の中から遠吠えを上げた。
「私は!まだ終わらあアァッ!!!」
『……【ミクロダークホール】!』
潰されていく。空間の一部となる。
「アアアァァァ………」
破片が中心に集まって、爆散した。しかし空間に全て収縮され、彼女の痕跡が残ることは何一つなかった。
闇は消え去り、戦いは終わったのだ。フューニスの小型機も機能を停止して、ゆっくりと地面に着陸する。
【ラグナロク】のAIがメッセージを発する。
『全敵機、大破を確認。リソースの枯渇により機能停止。
目標達成。リソース残量0%…
戦闘システムを解除。パイロットを解放いたします。』
ラグナロクは左手にレオを乗せて、炎の足場を避けて彼女を降ろして颯爽と去る。
レオはP-botのところに走って近づく。
「サド!」
P-botは少女の声でメッセージを発した。
『サド君……残り……10%です。レオさんを……探しましょう……。』
ロボットの上からハニカムが包み込まれ、上から崩れていく。サドの肉体に戻っていく。姉弟は互いの無事を目で見て確かめる。
「怪我は?」
「ねぇよ。そっちは?」
「大……丈夫。」
ふらついていた。マークⅢから一言。
『……エネルギー切れ間近です。』
「全然大丈夫じゃねぇだろ。」
「それより、早くしないと……」
「……何?ッ………」
レオにだるけが襲ってくる。目の前が揺らいでいる。赤い花の効果であり、周囲の温度が著しく上がっている。
サドがレオの肩を組んで、戦場を後にする。一歩ずつ、歩みを進めながら2人で話す。
「あのさ……」
「何だよ?」
サドには、P-botとしてやりたいことがある。
「……僕、みんなを守れたかな?」
それができたか、レオに問う。
「……そうだな。立派だったよ。」
「それなら、後はレオを守り切るだけ。下町まで無事に連れて行けば……」
「お前も……そろそろ限界だろ?」
レオの疑問に、サドは笑顔で言い返す。
「レオ。僕は……守りたいものを守り切るって、心に決めたんだ。この命はレオのもの。最後まで守り切るつもりさ!」
レオは更に言い返す。
「……私は、あんたを捨てる気なんて更々無い。どんな理不尽も越えてやる。仲間も守って勝ち上がる。そうすりゃ、全員無事だろ?
……それで満足か?」
レオは、サドの顔色を伺う。彼は…静かに涙を流していた。彼女に悟られないように隠していた。そして…静かに頷いてくれた。
「……うん。」
「フッ……上等だ。」
姉弟は共に歩む。戦の終焉を制して、2人の物語が再び記されていく。絶やされることのない無類の“信頼”が2人を繋ぎ止めていた。
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