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Chapter_3:機械工の性

Sub-Note_3.レオ in Meta-V

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 現実世界を乗り越えた体験を人がしたがるのは、別の世界に自分の期待を寄せるからだ。当然、そこで好きなものになりきって、自身の渇望を満たすのが最良であるが。

 キャンソン姉弟は、それぞれの部屋で休息を取っていた。

 その内、姉の【レオ・キャンソン】は自室のベッドに寝ながら、タブレットでアニメを見ていた。メタバース系で、日常系アニメだった。人気だから惰性で見てる感じだ。

 アイキャッチの後に流れるCMに、レオは半目になって見つめた。


『みなさん!』『みなさん!』

『『こんにちは~!』』

『私達、【Candy-Men】所属の【モノ】と【ドラ】!』

『二人合わせて“モノドラ”です!』

『現在、メタVの世界で輝く、新しいアイドルの卵を応援しています!』
『ほうほう!』

『今日中に応募して、抽選で1000名様にVRセットと特注アバターをプレゼント!』
『なんだって~!』

『そして、現在応募中の“アイドルの卵”に最終選考に残った方は、仮想空間最大級のステージ、“VRW”にて尊いライブの出場権と1万Uドル相当の物を得られるんだ……』
『ふんふん、すっご~い!』
『話の途中だって!』

『『詳しくはサイトで!』』


 レオには仮想空間に対する興味が、以前からあった。サドと再開するよりも前に、ヴァーチャルアイドルについて話題に上がっていた。

 しかし近年の傾向から、運営側がファン層のアバターに対して取捨選択を行うこともあったらしい。その為、“推し活”の敷居が高いのだ。

 よって、レオに関してはアイドルに一切興味を持たない。


(そもそも、私はレジスタンスの事もある。

でも、エンジニアとして機材ぐらいは揃えたいな……サドには教えないでおこう。

それに1万Uドル分の物が手に入ることも、念頭に入れておくか。)


 レオはそのサイトを確認し、応募へと踏み込んだ。


_____


 タイタン号にて、機体の修理を行っていたときに、レオはサドと談話していた。


「なあサド。」

「どうした?」

「仮想空間ってどんな感じなんだ?」

「マークⅢとしかやった事ないから分からない。もっと大人数いると、楽しいとは思う。」

『……耳寄りな情報いただきました。』


 マークⅢが2人の話を盗み聞きしていた。サドの要望に合わせて、P-bot内の仮想空間から、マークⅢを量産する。

 サドの動きが若干鈍くなっている。いち早く察して、マークⅢに頼む。


「……マークⅢ、増えてもパフォーマンスが悪くなるだけだから元に戻してもいい?」

『あっ、はい。』


 マークⅢは1体ずつ悲しげに消していった。



 休憩がてら、サドが外に出て日差しを浴びる。とても眩しい世界で、すぐには直視できない。

 そんな中で、ある小さな機体が何かを運んで輸送してきたようだ。頑丈な箱に梱包されていて、中身はまだ分からなかった。

 サドの目の前に置いていく。


『お届け物はこちらでよろしいですね。』

「え?あっ……はい。」

『フィードバックを送信しています……またのご利用をお待ちしております。』

「?」


 機体は行ってしまった。サドはタイタン号に戻る。既に修理を終えていて、レオは先に戻っていた。入り口を閉ざす。


_____


 サドが司令室に戻るところを、レオが出合わせた。四角い箱を持ってレオに報告する。


「レオ宛に何か来たけど。」

「……ッ!それは!」

「えっ?」

「それくれ。」

「うん。分かった。」


 レオは箱を受け取るやいなや、すぐ自室へと駆け込む。鋭い目つきでサドを睨む。扉の前で確認を取る。


「……中は見てねぇよな。」

「うん。」

「絶対に扉開けんなよ!」

「開けないから。」


 レオは気を引き締めたまま、扉を閉ざした。サドは首を傾げた。彼女の秘密について詮索する気はないが、大袈裟な反応をしていた。

 サドはマークⅢに尋ねる。


「マークⅢ、見ないよね。」

『見ちゃいましょう。』

「駄目だよ。緊急時以外は。全部、僕の責任になるからさ。」

『それは任せましたよ。』


 マークⅢは乗り気であった。絶対に無意識にやるつもりだ。先が思いやられる。


_____


 どうやら、当選したようだ。


「よし!当たったぜ!」


 レオは早速、箱を開封して中身を取り出す。機材は【マイクロチップ】付きのゴーグル、そしてラップトップ端末であった。

 ゴーグルはともかく、端末は安物のようだ。


(道理で、タダで渡されるわけか。でもいいか。これはこれで別に使おう。)


 環境の設定は一通り終えた。ゴーグルを付けて本格的にVRの世界へと入る。



 初期アバターの姿は、シンプルで丸い色白のマスコットのようだ。愛らしい見た目で、デザインだけ見れば人気はある。

 しかし、所詮は初期アバターである。


(このままだと、運営や他人から毛嫌いされやすい。まずは例のモデルに替えておくか。)


 レオはコードを入力し、アバターの選択画面へと移る。大体は露出の多いデザイン、勝ち気なデザイン、可愛らしいデザインで括ることができる。顔はほとんど一緒だが、レオは3ジャンルに絞って選択する。


(どれにしようか。

王道なのは、この可愛らしいデザインか。空のような青色と白いフリフリ。デザインこそ良いが……ロキ達に目をつけられたら、ただ事じゃなくなる。他のにしよう。

過激なデザインだな。野郎とビアンには刺さるんだろうか……結構、際どいな。見えるとこまで見える。自分の体ってわけじゃねぇから別にいいが……モラルは最悪だな。普通に、運営に追い出されかねない。他のにしよう。

勝ち気なデザインは嫌いじゃない。女性でありながら、旧世界の騎士という設定か。

……ん?女番長スケバン風ってのもいいな。それとボーイッシュ路線も……やけに揃ってんな。どれにしようかな。)


 熟考の上、レオは選択を導き出した。


(……最初の感覚を信じるか。女騎士風で。)


 色白金髪の女騎士団長。全体的に白を基調としたデザインで、露出が抑えられ、かつクールな見た目に仕上がっている。

 早速、差し替える。自分で選んだだけあって、中々馴染みやすい。


(……名前を決めるか。自分って分からないように姓は含めないようにしよう。

“レオ”でいいかな。アイドルになるわけでもないし、他の人もいるだろ……でもまあ、折角の異世界だし凝った名前にするのもいいかもな。

アニメに“獅子王”って名の、味方キャラにあやかって……“レオ”の本来の女性名は“レオナ”……“獅子王レオナ”……自分で言って恥ずかしくなったな。他のにしよう。

適当に、AIに任せてみるか。)


 サポートAIを回して、名前を決めさせてみた。



アバターの名前を、以下の条件に沿って決めろ。

・性別:女性
・言語:惑星連合共通語
・性格:勝ち気な性格に合うもの
・見た目:色白金髪のキャラ、騎士、
・設定:ある国の女騎士団長

要望:Leoから関連付けた名前にしてほしい。



『“
以下の候補が挙げられます。

○鉄血王ヴィルヘルミナ
○リカルダ・アリスティ
○ガオガオレオにゃん

………”』

(!??!?)


 最後の名前に動揺する。何か、嫌な予感を察した。


(……最後の洒落てんのか分かんねぇけど、絶対ヤバい名前にされるんじゃねぇか!実質2択みたいなもんなら、選ばないほうがいいな……。)


 レオは熟考の末、名前を決める。


(……“獅子王レオナ”ぐらいか。まあ“ガオガオレオにゃん”よりかはマシだな。舐められにくそうだし。)


 レオは名前を決め、五体満足で仮想世界へと入る。


『“Welcome to Meta-V”』


 仮想世界へと入る。レオの別世界への第一歩を踏み出した。


_____


 司令室にて、サドとライラは簡素な晩餐を取る。いつものハンバーガーであった。先に食べながら、レオを待っていた。


「レオちゃん、今日はいつになく遅いね。」

「今日、何か届け物が来たんですよ。」

「それって何だろう?」

「見てほしくなさそうだったから、僕は見なかった。」

『私は分かっ……』

「それは秘密にしないか?」

『……そうでしたね。』


 マークⅢは揺らがぬ茶目っ気で、レオの部屋を覗こうと考える。サドは根拠は弱いが、意地でも止めたがる。

 ライラが袋の中のハンバーガーを平らげたときのことだった。司令室にレオが入ってくる。


「レオ、先に食べてるよ。」

「遅かったじゃない。何やってたの?」

「遅くなったな、悪かった。」

「………。」

『サド君?固まってますよ。』


 サドはレオから醸し出す違和感に気づく。レオは彼に話しかける。


「そ、そんなに見てどうした?」

「以前より言葉遣いが良くなった気がしたけど、何かあったのかい?」

「いつも通りだ。別に気にするほどでもない。」


 サドは真顔で顔を逸らすレオを見つめる。レオはいつも通り、ハンバーガーを一気に平らげようとする。

 レオはさっさと司令室から出て、事実に戻っていった。


「……絶対にいつも通りじゃない。」

『部屋を覗きますか?』

「やめろっての。」


 サドは少し強めに言う。ライラもレオの隠し事に強い興味を示した。


_____


 レオは自室に戻り、扉の前で勝手に1人で張り詰めていた。


(は、ハメられた。なんか成り行きで、いつの間にかアイドル選考に応募してたなんざ……絶対に言えねぇ!

向こうの世界に染まっちまったな。慎重に立ち回らねぇと……ったく、油断ならねぇな。

仮想世界か……現実を疎かにしそうで怖いな。

……あと1時間だけやるか。)


 レオは深く反省し、仮想世界へと飛び込んだ。


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