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Chapter_3:機械工の性

Note_88

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 地下の個室にて囚われた女性を全て解放し、最後の最後としてウルサが解放されようとしていた。しかし彼女のに目に写るのは、元々配下に置いていた女性であった。

 あまりにも酷な仕打ちに怯えているウルサに対して、寛大なガーリィは手を差し伸べてあげた。

…その手にすがることなく、ウルサは一歩だけ後ろに退いた。


「?どうした。私はアンタを助けた。するべき礼って物があるでしょ?それとも、今ここで起きている騒動に混乱してる?」

「なにはともあれ、助かったことには変わりないの。元は向こうが誘拐してきたんだから、連れ戻せば一件落着なのに!素直じゃないね!」


 ガーリィの部下も、ウルサの部下だった。

…無論、ウルサは良い気味がしなかった。


「………私は嫌よ。」

「あ?」

「もう、あそこには居られない。今のみんなの態度が物語っている。」


 ガーリィと仲間達は呆れて、笑ってしまうものもいた。途端に笑顔が消えて、ウルサの首元を掴み、壁に押し込んだ。


「カッ……あっ……!」

「当たり前だろ。」


 腕で押さえ込まれ、徐々に首が締められていく。意識は遠のき、手前の声だけしか聞こえない。


「機体も持てねぇニートなんざ、消えても問題あるまい。アンタも同じように部下を馬鹿にしてきたんだろ?」

「ちがっ…」
「違かねぇさ。アンタは最初にリーダーになったときから、女にたかられてたんだろうが。ヤりまくって良い思いして、傷物ばっか増やしやがって。そのまま逃げたところで、アンタを望むファンだけ残って、私ら古参に礼も無い。」

「違う!」

「違わねぇ!」


 思い切り腕を押し込まれ、天にも昇りかけて上を見つめたときだった。


「……まあ、向こうでやりゃいい話だけどな。」


 ガーリィは腕を離してあげた。這いつくばるウルサを憐れむように視線を向ける。


「エッ…ヘァッ…ハァ…ハァ……ハァ……」


 今のウルサには武器もない。力もない。名誉もなければ、威勢もない。エンダー家にも伝手はない。あるのは奴らとのしがらみだけだ。

…ガーリィの狙いは、そのしがらみで彼女をもとの居場所に戻してあげることにあった。


「アンタは私達の所に戻ってくれりゃいい。男に逃げたところで、ロクな事にならねぇ。」

(それは、その通り……でも。)


 ガーリィはウルサの腕を強引に掴んで引き寄せた。



「どうせ今更、無理してリーダーやれなんて言わねぇさ。私達の下になれ!機械ならいくらでも作らせて、私が好きなだけ愛してやるよ。

幸いアンタはちょいカワで頑丈だろうから、シワシワになるまで使い古されるだろうよ。壊れようとも、新入り同然の末端のところを特別待遇してやんよ!

だから…やれよ。潰すんだ。お前を捕らえた忌々しいキャンプは此処にある。女を取り返して、クソオス共を殺し尽くせ。」



 頬に触れて、ウルサの絶望した顔を上げる。


(……元の居場所なんて、もう無い。)


 ガーリィはもはや、女性の顔をしていなかった。人ではない、邪悪な何かに見えていた。周りの人達も。

 ウルサの生気は完全に失っていた。確信したのだ。

…此処に居るのは敵ばかり。味方なんてものはない。彼らに止められて、彼女に隅々まで奪われることを思い知り、立ち止まっていた。


_____


 月夜の下、電灯がコンクリートに反射し道標みちしるべとなる。【Kerキエラキャンプ】の演習場にてレオは2mメートル移動用機体を乗り回す。一心不乱に目指した先に、もう1台の機体が倉庫付近で待っていた。

 レオはハンドルを右に倒し、機体を止めた。そこにライラと研究者の姿も見られた。


「レオちゃん!大変なの!【エンダー家】が…」

「武器は?持ってるよな!?」

「うん。安全の為に持っておいてって、言ってたもんね!」

「荷物は5号館の司令部に預けている。信頼できるとは言い切れないけど……」

「司令部は本部の人達だけで構成されてるよ。特に此処の拠点は重要だから、司令部に賄賂は居てもスパイはいない。

それにお金の問題は向こうも背負っていて、【シータス家】一派や最近の騒動によって連戦で疲弊しているらしい。」


 サドは既に情報をまとめていた。彼は人造人間アンドロイドであり、街の情報を蓄積していたようだ。

 3人揃い、武器も持っている。戦い守るために準備は整っている。レオはそれらを玩味して発言する。


「なら、やることはただ1つだな。3人で試験場に向かって、機体を守ればいい…あっ!機体傷つけたらごめんな。後で私が直すから。」

「いや、目をつけられたのは我々のテスト機。そこに放置した最終テストに不備があれば即座に演習を行うつもりだった。責任は我々にある。」

「そっ、モノホン本物はこっち。メモリにぶち込んでやったぜ。俺らはこれから司令部にこれを渡しに向かう。とゆーわけで……

倉庫は任せるぜっ……て……」


 レオがドドの腕を掴んだ。


「大空洞の研究者で、あの置き手紙を書いたのって……」

「オレで~す!」

「お前かーーッ!!!」

「アダダダダダダダッ!ギブ!ギブ!」

「いま緊急事態なんだって!」


 恥じらいもなく話すドドに我慢ならず、レオは即座に寝技で絞めた。サドがなだめに入って何とか取り留めた。

 ドドとベンは5号館に向かい、レオ達は倉庫に向かう。それぞれの移動用機体に乗り込んだ。


「なるべく裏口の方から来てくれ。斜線のかかってる場所だが敵は少ない。レジスタンスだった奴らが一斉に裏切って、地下の試験場前で立ちはだかっている。本部の方は我々に任せて、機体の護衛に当たること。本部の戦闘員の実力は惑星でも筋金入りだ。安心してくれ。」

「ベンさん、追手に気をつけてください。そのデータは大事な物ですから。」

「当然だ、生きてまた会おう。」


 両者、それぞれの目的地へ向かう。

 広大な敷地を走り、一直線の道を駆け抜ける。レオはサドに聞く。


「次は!?」

「この直線抜けたら十字路を左!そこの扉が最速!」

「キャッ!」


 加速させて一気に走る。十字路間近でドリフトして機体を止める。レオは建物の裏口を確認して、扉を見つけた。

 しかし、既に何台か機体が停められていた。15体ほど見受けられる。いずれも小さな機体であり、既に戦闘は始まっているそうだ。


「あそこで合ってるんだよな?」

「先回りされてる…一部だけレジスタンスじゃない。」

「どちらにせよ、私達に歯向かう奴らは敵だよな?」

「……多分。」

「多分って、これから重要なのに。」


 サドは自信を持てなかった。しかし、此処で止まってはいられない。


「行くぞ、ナビは任せた!」

「りょ!」


 レオ達は機体から降りて、扉の先へと向かう。


_____


 僅かな光を頼りに、先へと進むと人影が見えた。レオ達は武器を携えて前へと進むのみ。先に待ち構えていたのは、例の野郎共であった。


「追手か?」

「えっ、女ァ?」

「いや、あの眼鏡は役所で懸賞出てるオスだ!増援がもう来たのか…!?」


 奴らはサドを見るやいなや、武器を取り出してきた。見るからに敵であった。ガン飛ばしてくる悪漢共を前にライラは怯んだ。


「これからどうするの?」

「そんなの、やるに決まってんだろ!」


 背負っていた合体剣を構え、敵の迎撃に備える。小型機を使うまでもない。敵は6人。武器はほとんど素手で、あっても旧式の拳銃ぐらいであった。

 大剣を横に振り回して、敵を払って壁へと追い込む。畳み掛けるようにサドが突進して突き倒し、追い討ちを行おうとした。


「やめてくれ……俺は仲間だ!仲間を殺す気かァッ!」

(!)


 サドは斬り捨てることができなかった。手を止めてしまった。


(この人はレジスタッ…)


 発砲音が鳴り響く。正面から撃たれ、サドの顔は後ろに吹き飛ばされそうになった。額に目掛けて拳銃を一発だけ、これが最後の一発のようだ。それを最高の標的にぶち込んだ。


「へへ、次はその剣振ってる女だ。お上に連れて行け!顔を一発殴れヴァッ!」


 サドは光剣で敵の額をぶっ刺した。不穏な表情と共に背後にゆっくりと振り向く。額を撃たれた瞬間、敵は確信と絶望が入り混じり、一斉に腰を抜かした。

…彼は既に、人間ではない。


「は、話が違うじゃねぇか!奴が生きてるって噂はガセだったってのか!?ありゃ、人造人間アンドロイドじゃ」

「ウラァッ!」


 刀背みね打ちで敵を吹き飛ばした。そう、奴らの相手は彼一人だけではない。


「顔を一発殴れば……何だ?」

「知らねぇか。へっ、女とは言え札付きだ。権利なんかねぇよ。お前なんざ、ぶっ倒れるまで殴られてりゃいいんだよ!」


 野郎が突っ込んでくるも、柄で反撃気味に刺突してから一撃だけ斬る。背後から顔を殴られるものの、奴には光線銃を一発お見舞いして、脚を崩させた。

 サドも敵の粗末な左腕を両断して、敵の両脚を斬り捨てる。あと1人だけ残すのみ。姉弟より階段の方にいる。


「急いで、伝えにゃ……アイツは……アイツは!」


 残りの1人は外へと逃げようとした。ライラは近づく野郎に怖気づく。


「どけ!」

「あぁっ!」


 横に突き倒され、壁に寄りかかる。


「ライラさん!」

「あの野郎!」


 レオは小型機を起動し、即座に敵の頭部に衝突させた。敵は足を滑らせて階段を転がり、気絶した。

 間一髪であった。サドの正体を広める事態は免れた。


(ここで正体を広められたら、レジスタンスの士気を削がれる上に同行できなくなる。政府にもマークされるはずだ。)


 サドは敵の意識が失っていることを確認した。ライラは彼の手を取り立ち上がる。まだ緊張して戦場に慣れていない。


「ごめんこの武器、まだ慣れてなくて…」

「その武器は遠距離向きだ。狭い閉所なら、もう1つの【光線銃】を使うといい。

その長物は広い場所で使う。あんたには、高所から一方的に狙ってもらうから、これで遠距離砲に切り替えて撃ってほしい。」

「どこで撃てば……」

「私達の上から敵を蜂の巣にしてやればいい。試験場に行けば分かる。着いたら後はエレベーターで登れば良い。

試験場まで一気に走るぞ。」


 ライラに武器の使い方を確認させてから、息を整えて扉の先へと入る。

 目の前は暗闇に包まれ、奥にある僅かな光だけ見える。先に進む前に、レオは小声で指示する。暗視・透過技術を用いて敵の気配を察知した。


(サド、敵はいるか?)

(敵は先に進んでいる。更に下に向かっている!)

(急ぐぞ!)


 サドが先頭で導く。だが彼の息は既に荒れており、レオも違和感を感じていた。

 彼は怒っていた。


「本当に許せない。」

『……サド君、大丈夫ですか?』

「僕は、僕は良いんだ。でも……」

「無理して付いて来なくてもいいぞ。」

「!……嫌だ。」


 サドは混乱していた。敵味方が錯綜し、仲間を大切にする彼にとっては複雑な感情にならざるを得なかった。

 それでも彼は付いていくらしい。レオは弟に1つ入れ知恵してやった。


「だからこそ、試験場まで一気に駆け抜けるんだ。ここはレジスタンスキャンプ。やましいことが無い限りは、快く私達を通してくれるはず。暴力使って邪魔するやつには、思い切りやるんだ!」

「分かった!」


 サドは彼女の指示に従った。彼の事だから、口だけではないだろうけど、レオは懸念し注意を払っていた。


(ここを乗り越えなきゃ、あんたは悲しいままだ。アレどもがどれほど“酷い手段”を使おうが、罪悪感すら微塵も無い。奴らは一線は既に越えてるんだ。

突っ切れ!駆け抜けろ!奴らのボスはこの先にいる!)


 3人は階段を降りる。彼らを邪魔するものはまだ見られない。勢いをそのまま留めていたときに、奴らはやってきた。


(奴らだ!)

(ライラ!私に付いて!)

「えっ、ちょっと!」


 即座にレオが先頭に出て、小型機を起動させる。シールドを展開しながら敵に突っ込む。敵陣に入るやいなや、大剣を振り回して攻めてくる敵を次々と返り討ちにしていく。

 後衛にサドが立ち、二人の背後を守る。伏せながら銃で狙う野郎共をサドは次々と撃ち込み、恐れる敵に注意しつつ先に進んだ。

 目前の扉を開けると、今度は女性も入り混じっての乱戦が繰り広げられていた。見覚えのある顔を何人か確認できた。格闘に持ち込まれ、男に押さえつけられた女性はレオ達に告げる。


「アンタ達は……!とにかく先に向かって!ここは任せて!」

「分かった!」

「皆さん、お気をつけて!」

「ほう、お嬢さん。こんな無謀な状況で助けを呼ばねぇなん…」


 女性は脇腹に光線銃を一発撃ち込む。敵が彼女を手放し、光線銃のバッテリーを即座に取り替えた。


「いらないわ。無謀だなんて思わない限り!」


 此処に居るのは敵ばかりではない。味方だっている。彼らが止めてくれていることを噛み締めて、この騒動の主犯を追いかけるだけだ。




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