【完結】社長、俺のこと好きすぎじゃないですか?―キスから始まる溺愛オフィス―

砂原紗藍

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4.夕暮れの社長室で捕まる

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夕方五時。
定時になった瞬間、俺のスマホが震えた。

――『社長室へ。黒崎』

短い。けれど、逃げようのない呼び出し。
俺は思わず周囲を見回した。
先輩たちはまだパソコンに向かい、仕事を続けている。

「お疲れ様です」

小さく頭を下げて席を立つ。
落ち着かない気持ちをぐっと押し込んで、エレベーターへ向かった。

社長室の前に立つと、また呼吸が浅くなる。
深呼吸して、ノックをする。

「どうぞ」

扉を開けると、部屋には黒崎社長が一人。
大きな窓のそばで、夕日を背にしていた。

「来たね」

振り返る笑顔は、昼間よりも柔らかい。

「はい……」
「こっちに来て」

促されたソファに腰を下ろすと、黒崎社長もすぐ隣へ座る。
距離が近すぎて、体温まで伝わってきそうだ。

「配属先の話なんだけど」

黒崎社長は資料を取り出し、俺の前に置いた。

「お前は、どこで働きたい?」
「俺が……決めていいんですか?」
「ああ。お前の希望を聞きたい」

ページをめくりながら考える。
営業、企画、総務……どれも難しそうだが、俺の目は自然と一つの欄に止まった。

「俺、企画に興味があって……」
「企画か。いいね」

黒崎社長は迷いなく頷いた。

「じゃあ、企画部に配属する」
「え、そんな簡単に……?」
「お前が望んだんだ。尊重するよ」

それから社長は、少し声を低くした。

「ただし、一つ条件がある」
「条件……?」

黒崎社長はゆっくり身を寄せてくる。

「俺の直属で働いてもらう」
「直属……って」
「企画部の中でも、俺が担当するプロジェクトチームに入ってもらう」

黒崎社長の手が、俺の手に重なった。

「毎日、顔を合わせることになるけど。いいかな?」

俺の心臓が跳ね上がる。
毎日、この人と。

「えっと、あの……」
「嫌か?」

寂しげな声に、胸がぎゅっとなる。

「嫌……じゃないです」
「じゃあ、決まりだね」

黒崎社長は俺の手を包むように握り、優しく微笑んだ。

「これから、よろしく。颯真」

名前を呼ばれた瞬間、全身が熱くなる。

「はい……」

社長はそのまま俺の手を離さず、じっと見つめてくる。

「なぁ、颯真」
「……はい」
「昨日のこと。本当に覚えてないの?」

俺は小さく首を横に振った。

「そっか……」

ほんの少しだけ、落胆したような笑み。

「じゃあ──もう一回、確かめようか」
「え……?」

黒崎社長の顔が近づく。

「キス」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

反射的に手を伸ばすと、掌が黒崎社長の胸に当たる。

社長はその手を見て、くすっと笑った。

「待ってって……何を?」
「だ、だって……俺、好きとか、そういうの……」
「昨日は好きだって言ってたけど」
「それは酔ってたから……」
「じゃあ、素面の今はどうなの?」

黒崎社長の指先が、俺の頬に触れた。
優しいのに、逃げられない力がある。

「俺のこと、嫌い?」
「……嫌いじゃ、ないです」
「好き?」
「そ、それは……」

言葉に詰まる。
黒崎社長の目が細くなり、俺に寄り添うように囁く。

「答えられないなら……身体に聞いてみようか」

次の瞬間、首筋に柔らかな感触が触れた。

「っ……ん」

抑えきれずに、声が漏れる。

「ほら。素直だな」

黒崎社長は首筋に、甘いキスをもう一つ落とした。

「社長……っ」
「翔でいいよ。二人きりの時は」
「そんな……呼べませんって……」
「颯真」

名前を呼ばれ、身体が震える。
黒崎社長の腕が俺の背に回り、引き寄せられる。

「逃げないで」

囁きが、耳元で響く。

「お前のこと、俺は本気だから」

夕暮れの社長室で、俺の心臓はもう限界だった。

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