【完結】社長、俺のこと好きすぎじゃないですか?―キスから始まる溺愛オフィス―

砂原紗藍

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8.社長の横顔と、戻りはじめた記憶

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レストランからの帰り道。
車の中は静かで、少しだけ気まずいような空気だった。

運転する翔が、たまに俺の方を見る。
そのたびに、胸がドキッとする。

「颯真」
「……はい」
「昨日のメッセージ、見た?」
「あ、はい」

返事をできなかった理由をどう説明しようか迷うけど、翔は穏やかな顔をしていた。

「返事なかったから、もう寝たのかなって思って」
「すみません……何て返していいか分からなくて」
「無理に返さなくていいよ」

信号待ちで車が止まり、翔が横から俺を見る。

「でも、俺の気持ちはちゃんと本当だよ。それは覚えておいて」

その真剣な眼差しに、俺は息を呑んだ。

「……はい」

オフィスに戻っても、午後の仕事はまったく集中できない。
翔が近い。距離が近すぎる。

「颯真、この部分なんだけど」

翔が椅子ごと移動してきて、俺の隣に座る。
肩が触れそうで、心臓がうるさい。

「あの……」
「ん?」
「近いです……」
「そっか?」

翔は少し離れたけど、それでも近い。

「これくらいなら、普通だろ」

普通じゃない。絶対に、普通じゃない。

「颯真の顔、赤いよ」

頬に指が触れられる。
俺の意識が一気に翔に集中する。

「熱でもある?」
「だ、大丈夫です……」
「そう? なら、いいけど」

ニヤッとした顔をして席に戻る翔。
絶対わざとやってる。

「そろそろ終わりにしようか」

翔がパソコンを閉じた。

「お疲れ様でした」
「颯真、今日どうやって帰る?」
「電車です」
「駅まで送るよ」
「え、でも……」
「いいから」

翔は俺の返事を待たず、立ち上がった。



「颯真って、一人暮らし?」
「はい」

車の中、夕暮れの景色が流れていく。

「寂しくない?」
「慣れました」

実家は地方にあって、大学から上京してずっと一人暮らしだ。

「そっか」

翔は少し考えるような顔をした。

「もし寂しかったら、いつでも連絡して」
「え……」
「俺、颯真の話なら何でも聞くから」

その言葉に、胸が温かくなった。

「……ありがとうございます。社長、あの――」
「翔、でしょ」
「翔……」

名前を呼ぶと、翔は嬉しそうに笑った。

「颯真」

駅に着いて車を降りようとしたら、翔が俺の手を掴んだ。

「明日も、楽しみにしてる」
「……はい」
「おやすみ」

翔は俺の手を離した。
俺は車を降り、駅の改札に向かう。

振り返ると、翔がまだこっちを見ていた。
手を振ってくる。
俺も小さく手を振り返した。

その夜、アパートに戻った俺は、またベッドに座り込んだ。
スマホに翔からメッセージが来ていた。

『無事帰れた?』
『はい、今帰りました』
『お疲れ様。今日は楽しかった』
『俺も……楽しかったです』

送信してから、顔が熱くなった。
楽しかったって、認めてしまった。

『明日も一緒にランチ、いい?』
『はい』
『じゃあ、明日ね。おやすみ、颯真』
『おやすみなさい』

メッセージを送り終えると、スマホを胸の上に置いたまま動けなくなった。

黒崎翔。
その名前を思い浮かべるだけで、胸の奥がドキドキする。

「……これ、どういう気持ちなんだ」

自分でもよくわからないまま呟いた瞬間、頭の奥で何かが弾けた。

フラッシュバック。
忘れていた記憶が、鮮明に浮かび上がる。


――黒崎社長……俺、ずっと……。

あのときの息づかい。視線。震えていた声。

そして――

俺は、たしかに
翔にキスをしていた。

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