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24 初めての贈り物
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夜会の前日、ヘンリックは話があると言って夕食の後にローゼリアを応接室に呼び出した。
「その、……夜会の準備の件での問題は片付いたのだろうか?」
「ええ、昨日のうちに解決致しましたわ」
「そうか、良かった」
ローゼリアの返事を聞いたヘンリックは、ホッとしたように笑顔を浮かべる。
「何かあると予測はしておりましたから大丈夫ですわ。それに次の王家主催の夜会からは商会も商店も変えますから、古い縁もまとめて断ち切る事が出来ましたので、今回の事は良いきっかけになりました」
一昨日はあんなに大変そうにしていたのに、まるで何事も無かったかのようにローゼリアは答える。そんなローゼリアを見てヘンリックは、少し寂しい思いに駆られるのだった。
「次に何かがあった時は、……私にも相談をして欲しい」
「兄があの件に関わる事になりましのは、たまたま兄があの晩に食堂にいたことで、食材の確認をしていた者と行き会ったからでしたのよ。あの日の殿下は王宮に泊まられて出仕も普段よりも遅かったものですから、側近や文官たちよりも遅いご報告になってしまった事はお詫び致しますわ」
「そうじゃないんだ、キミにとって私は頼りない男かもしれないが、それでも次は私にも話をしてくれると嬉しい」
ヘンリックの真摯な表情にローゼリアは驚きつつも頷いた。
「承知致しましたわ」
ローゼリアの返事を聞いてからヘンリックはそばに控えていた侍従に目配せをする。応接室から出た侍従が再び現れた時には、小ぶりな花束と両手で持てる程度の薄い箱を手にしていて、それらをヘンリックに手渡した。
「それから、これをキミに」
そう言ってヘンリックは、ブルースターとラベンダーの花束をローゼリアに渡した。花束を貰う理由が思い浮かばないローゼリアは不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げている。
「これを、私にですか?……今年の誕生日は既に頂いていますわ」
ローゼリアの誕生日は数カ月も前に終わっていて、今年もヘンリック名義でのプレゼントは貰っていた。贈られてきたのは普段使いが出来そうな銀の髪飾りで、細工が凝っているところが気に入って使っている。結婚してから何回も使っていたが、ヘンリックは自分の名前で贈ったものだと気付いてはいなかった。
「それとこれも受け取って欲しい」
ローゼリアの問いには答えずにヘンリックは薄い箱をローテーブルの上に置き、対面に座るローゼリアの方へそっと寄せる。
見るからにアクセサリーが入っていると分かる大きさの箱は、丁寧に布で包まれており、ローゼリアはそっと布から出して木箱の蓋を開ける。
箱の中には、ブラックオパールを使ったネックレスが入っていた。
オパールというものは様々な色を含んでいるものが一般的ではあるが、このネックレスに使われているブラックオパールは粒が大きい上に、その色合いが黒色と黒灰色に混じって青い色が入っていたのだった。オパールの性質上、全く同じ柄の石はふたつと無い。
ヘンリックとローゼリアの瞳の色を混ぜたようなオパールは落ち着いた色をしていて、石の周りを小さなダイヤモンドで囲むオーソドックスなデザインだった。このデザインなら年齢が上がっても着け続ける事ができるだろう。
「……」
ローゼリアはどう反応していいかが分からなかった。宝飾品は必要があるから着けてはいるが、ローゼリア自身は元々それほど興味があるというわけではない。ヘンリックが初めてローゼリアの為にこのような価値のあるものを用意してくれた事を喜ぶにも、これまで彼に対して前向きな感情を持った経験が少ないせいか、ここにきて素直に喜ぶという事が出来なくなっていた。
「あ、ありがとうございます。殿下のお気持ちを有り難く頂戴致しますわ」
「宝石商にキミに似合いそうな石が欲しいと以前から頼んでいたんだ。商人が持ってきた中で一番綺麗だと思ったからそれを選んだ。……気に入ってくれただろうか?」
ヘンリックは怖々とした表情でローゼリアを見ている。
光を当てる角度を変えると少しだけ違った表情を見せてくれるとても綺麗な石だった。夫と自分の瞳の色が混ざった宝石を贈られるなんて、ローゼリアが読んだ恋愛小説にも出てきた事はない。これが兄や父からのものであったなら、ローゼリアは素直に喜ぶ事ができただろう。何の感情も持ち合わせていない相手から贈られる物に対してどう反応を返したらいいのかわからなくて、ローゼリアは戸惑っていた。
(どうしましょう、こんなに素敵なものを頂いたのに全く何の気持ちも湧いてこないわ)
きっとこれが彼の話していた関係の再構築に向けての行動のひとつなのだろう。しかしここでローゼリアは改めて気付いてしまったのだ。自分はヘンリックに対して彼ほどの熱量を持っていないという事に。
「ええ、とても素敵な物ですね。大切に致しますわ」
そう言いながらローゼリアは作った笑顔を浮かべる。彼自身からの初めての贈り物に笑顔で返すべきなのは頭では分かっていたが、ぷるぷると頬を引っ張る感覚があるので、自分が上手く笑えてはいない自覚はあったがどうしようも出来なかった。
「気に入ってくれたのなら良かった」
ローゼリアの偽りの笑顔にも彼は満足そうな表情を浮かべる。以前ヘンリックはローゼリアの笑顔を嫌いだと言った事があるのに意外だった。
「……どうして? どうして怒りませんの?」
ローゼリアの問いにヘンリックは一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに柔らかい表情で笑う。元々彼は顔立ちが整っているので、令嬢達が今の彼の表情を見たら黄色い声を上げそうな笑顔だった。
「突き返されるかもしれないと思っていたから、受け取ってもらえて嬉しかったんだ」
「そんな事、出来ませんわ。……贈り物を無下に扱うような事」
ローゼリアは眉根を寄せて白い手をきつく握りしめた。
まるで泣き出す事を抑えるような彼女の様子にヘンリックの胸が痛んだ。
彼女はきっと思い出しているのだ、これまで自分がヘンリックへ贈ってきた品々を。それらを彼女がどのような事を思いながら選んだのかを。
「せっかくですから、こちらは明日の夜会に着けさせていただきますわ」
「ありがとう」
そう言ってヘンリックは、ホッとしたように瞳を閉じた。
「その、……夜会の準備の件での問題は片付いたのだろうか?」
「ええ、昨日のうちに解決致しましたわ」
「そうか、良かった」
ローゼリアの返事を聞いたヘンリックは、ホッとしたように笑顔を浮かべる。
「何かあると予測はしておりましたから大丈夫ですわ。それに次の王家主催の夜会からは商会も商店も変えますから、古い縁もまとめて断ち切る事が出来ましたので、今回の事は良いきっかけになりました」
一昨日はあんなに大変そうにしていたのに、まるで何事も無かったかのようにローゼリアは答える。そんなローゼリアを見てヘンリックは、少し寂しい思いに駆られるのだった。
「次に何かがあった時は、……私にも相談をして欲しい」
「兄があの件に関わる事になりましのは、たまたま兄があの晩に食堂にいたことで、食材の確認をしていた者と行き会ったからでしたのよ。あの日の殿下は王宮に泊まられて出仕も普段よりも遅かったものですから、側近や文官たちよりも遅いご報告になってしまった事はお詫び致しますわ」
「そうじゃないんだ、キミにとって私は頼りない男かもしれないが、それでも次は私にも話をしてくれると嬉しい」
ヘンリックの真摯な表情にローゼリアは驚きつつも頷いた。
「承知致しましたわ」
ローゼリアの返事を聞いてからヘンリックはそばに控えていた侍従に目配せをする。応接室から出た侍従が再び現れた時には、小ぶりな花束と両手で持てる程度の薄い箱を手にしていて、それらをヘンリックに手渡した。
「それから、これをキミに」
そう言ってヘンリックは、ブルースターとラベンダーの花束をローゼリアに渡した。花束を貰う理由が思い浮かばないローゼリアは不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げている。
「これを、私にですか?……今年の誕生日は既に頂いていますわ」
ローゼリアの誕生日は数カ月も前に終わっていて、今年もヘンリック名義でのプレゼントは貰っていた。贈られてきたのは普段使いが出来そうな銀の髪飾りで、細工が凝っているところが気に入って使っている。結婚してから何回も使っていたが、ヘンリックは自分の名前で贈ったものだと気付いてはいなかった。
「それとこれも受け取って欲しい」
ローゼリアの問いには答えずにヘンリックは薄い箱をローテーブルの上に置き、対面に座るローゼリアの方へそっと寄せる。
見るからにアクセサリーが入っていると分かる大きさの箱は、丁寧に布で包まれており、ローゼリアはそっと布から出して木箱の蓋を開ける。
箱の中には、ブラックオパールを使ったネックレスが入っていた。
オパールというものは様々な色を含んでいるものが一般的ではあるが、このネックレスに使われているブラックオパールは粒が大きい上に、その色合いが黒色と黒灰色に混じって青い色が入っていたのだった。オパールの性質上、全く同じ柄の石はふたつと無い。
ヘンリックとローゼリアの瞳の色を混ぜたようなオパールは落ち着いた色をしていて、石の周りを小さなダイヤモンドで囲むオーソドックスなデザインだった。このデザインなら年齢が上がっても着け続ける事ができるだろう。
「……」
ローゼリアはどう反応していいかが分からなかった。宝飾品は必要があるから着けてはいるが、ローゼリア自身は元々それほど興味があるというわけではない。ヘンリックが初めてローゼリアの為にこのような価値のあるものを用意してくれた事を喜ぶにも、これまで彼に対して前向きな感情を持った経験が少ないせいか、ここにきて素直に喜ぶという事が出来なくなっていた。
「あ、ありがとうございます。殿下のお気持ちを有り難く頂戴致しますわ」
「宝石商にキミに似合いそうな石が欲しいと以前から頼んでいたんだ。商人が持ってきた中で一番綺麗だと思ったからそれを選んだ。……気に入ってくれただろうか?」
ヘンリックは怖々とした表情でローゼリアを見ている。
光を当てる角度を変えると少しだけ違った表情を見せてくれるとても綺麗な石だった。夫と自分の瞳の色が混ざった宝石を贈られるなんて、ローゼリアが読んだ恋愛小説にも出てきた事はない。これが兄や父からのものであったなら、ローゼリアは素直に喜ぶ事ができただろう。何の感情も持ち合わせていない相手から贈られる物に対してどう反応を返したらいいのかわからなくて、ローゼリアは戸惑っていた。
(どうしましょう、こんなに素敵なものを頂いたのに全く何の気持ちも湧いてこないわ)
きっとこれが彼の話していた関係の再構築に向けての行動のひとつなのだろう。しかしここでローゼリアは改めて気付いてしまったのだ。自分はヘンリックに対して彼ほどの熱量を持っていないという事に。
「ええ、とても素敵な物ですね。大切に致しますわ」
そう言いながらローゼリアは作った笑顔を浮かべる。彼自身からの初めての贈り物に笑顔で返すべきなのは頭では分かっていたが、ぷるぷると頬を引っ張る感覚があるので、自分が上手く笑えてはいない自覚はあったがどうしようも出来なかった。
「気に入ってくれたのなら良かった」
ローゼリアの偽りの笑顔にも彼は満足そうな表情を浮かべる。以前ヘンリックはローゼリアの笑顔を嫌いだと言った事があるのに意外だった。
「……どうして? どうして怒りませんの?」
ローゼリアの問いにヘンリックは一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに柔らかい表情で笑う。元々彼は顔立ちが整っているので、令嬢達が今の彼の表情を見たら黄色い声を上げそうな笑顔だった。
「突き返されるかもしれないと思っていたから、受け取ってもらえて嬉しかったんだ」
「そんな事、出来ませんわ。……贈り物を無下に扱うような事」
ローゼリアは眉根を寄せて白い手をきつく握りしめた。
まるで泣き出す事を抑えるような彼女の様子にヘンリックの胸が痛んだ。
彼女はきっと思い出しているのだ、これまで自分がヘンリックへ贈ってきた品々を。それらを彼女がどのような事を思いながら選んだのかを。
「せっかくですから、こちらは明日の夜会に着けさせていただきますわ」
「ありがとう」
そう言ってヘンリックは、ホッとしたように瞳を閉じた。
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