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本編・アリスティアの新学期
ヴァルハイトの思惑
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東雲がまだ空を覆う前の静かな部屋の一室
本来ならば学園の生徒や教師など居ないはずの時間帯。
しかし、確かに、彼等はそこに居た。
まるで、誰にも知られたくない様な、その様な秘密事を彼等は話し合っている様だった。
部屋の窓から差し込む月明かり、その月光の薄明かりに照らされるシルエット達。
ヴァルハイトとアリーシャの目の前には、黒髪を靡かせる深紅の瞳の女生徒。
「この時間に何の用件だ?」
「何の用とはご挨拶ね、いつからそんな身分になったのかしら」
「別に、俺達はお前等の配下になった覚えはない。」
ヴァルハイトと黒髪の女生徒との間では冷たく鋭い空気感が伝わってくる。触れれば即座に斬り捨てられそうな、それぐらいに危険な雰囲気を作り出していた。
「二人とも、彼等と大分、楽しんでたみたいね」
黒髪の女生徒は、まるでつい先程までの二人の様子が気に入らないのか、女生徒は真っ赤な血を彷彿とさせる深紅の瞳で二人を睨み付けていると、ヴァルハイトとアリーシャも彼女を睨み返す。
「…それほどでも無いが」
「ただの世間話にいちいち目くじら立てないでくれる?」
ヴァルハイトとアリーシャが女生徒に素っ気なく返すと、女生徒は不気味な冷笑を浮かべた。その表情がアリーシャの癪に触る。
「そんな事で、上手くいくのかしらね?」
「…もしかして、私たちをナメてます?」
「…あんなに楽しんでたら、情が移っちゃうんじゃないの?…ちゃんと殺せるの?」
「そんな事で情が移るものかよ」
ヴァルハイトは再度女生徒を睨み付けると
彼の瞳には怒りの様な感情が現れていた。
「…あの二人が俺達の育ての親を殺した奴の関係者ならば、俺達のやる事は決まっている。」
「…そうね、私達に迷いなんかないわ。たかがお喋り如きでそれが覆る事なんかない。」
迷いのない二人の目を見て、黒髪の女生徒は再び、不気味な冷笑を浮かべ、ため息を吐く。
「…はぁ…くれぐれも期待ハズレな事はしないでね、でないと、あなた達が酷い目に会うから。それを忘れないでね。」
そう言って、黒髪の女生徒は部屋から出て行った。ヴァルハイトとアリーシャは彼女の気配が無くなるまで、入り口を睨み付けていた。
「…しかし、本当に、サーリャ達の言っている事は正しいのだろうか…?」
「…そうね、接触してみたから解るけど…。イストの王子様も、新しく迎え入れられた王子妃様も、聴いていた話と大分イメージが違うわ。」
ヴァルハイトは天井を見上げて少し考えた。
今、自分たちが行おうとしている事に、ヴァルハイトは少なからず疑問を持ち始めていたのだ。
「…アリーシャ、もう少し探りを入れよう、サーリャ達の話が事実かどうか、俺は見極めたい。」
「別に構わないけど…じゃあ、私は王子妃様に探りを入れてみるわ。…でもヴァルハイト、隙があったら二人に仕掛けてもいいんじゃ無い?すぐに決着付きそうだけど?」
ヴァルハイトは一間置いて答える。
「無茶言うな、ただでさえ護衛の監視が厳しいんだぞ。それに、一番重要な事実の確認が出来ていない。これで王子達が仇じゃなかったら、メンダークス家に一生拭えない汚名が付く。そんな事になったら、拾ってもらった俺達の人生が、本当に無駄になっちまうだろうが。」
アリーシャは眉を顰めてヴァルハイトを見ていた。まるで自分が説教されている様なヴァルハイトの物言いが気に入らなかった。
「…ヴァルハイト。アンタにしては…いつにも増して、ずいぶん慎重ね」
「アリーシャ、お前が短絡的過ぎるんだ。俺が良いと言うまで、絶対に王子妃に仕掛けるんじゃないぞ?いいか?絶対だぞ?」
ヴァルハイトは今一度、アリーシャに釘を刺した。あえて釘を刺しておかないと、彼女は今すぐにでも、アリスティアに攻撃を仕掛ける可能性が懸念されたからだ。
「…あーもう、わかったわよ。精々、王子妃をいつでもお気軽に、楽にヤレる様に、しっかり仲良くなっておくわ。」
ヴァルハイトはアリーシャをやれやれと言った面持ちで視線を流すのだった。
そろそろ夜明けが近い。
※
その日は清々しい程の快晴であった。
雲ひとつない空は、まるで水色の絵の具でベタ塗りした様な程、爽やかな色をした蒼天である。
エチュード学園では最上級生から新入生までの全生徒を男女別で集めて、まるで催し物を行うかの様に学年合同授業を行っていた。
男子生徒は学園競技場で個人戦の模擬試合
女子生徒は各自で集まり、グループ毎に分かれて調理実習と男女で内容はだいぶ異なっていた。
ジークハルトとレオンは模造剣を交えて準備運動がてらに、素振りをしながら汗を流していると、そこにヴァルハイトが笑顔でやってきた。
「ひと試合、手合わせをお願いしても良いですか?」
それはジークハルトに向けたものだった。
「喜んで、お手柔らかによろしく。」
ジークハルトはヴァルハイトの誘いに快く乗ると、彼はにこりと笑う。二人のやり取りを見ていたレオンは、ヴァルハイトの笑顔に少し違和感を覚えていた。レオンは彼のその笑顔に、ほのかな殺気に似た感情を感じていた。
本来ならば学園の生徒や教師など居ないはずの時間帯。
しかし、確かに、彼等はそこに居た。
まるで、誰にも知られたくない様な、その様な秘密事を彼等は話し合っている様だった。
部屋の窓から差し込む月明かり、その月光の薄明かりに照らされるシルエット達。
ヴァルハイトとアリーシャの目の前には、黒髪を靡かせる深紅の瞳の女生徒。
「この時間に何の用件だ?」
「何の用とはご挨拶ね、いつからそんな身分になったのかしら」
「別に、俺達はお前等の配下になった覚えはない。」
ヴァルハイトと黒髪の女生徒との間では冷たく鋭い空気感が伝わってくる。触れれば即座に斬り捨てられそうな、それぐらいに危険な雰囲気を作り出していた。
「二人とも、彼等と大分、楽しんでたみたいね」
黒髪の女生徒は、まるでつい先程までの二人の様子が気に入らないのか、女生徒は真っ赤な血を彷彿とさせる深紅の瞳で二人を睨み付けていると、ヴァルハイトとアリーシャも彼女を睨み返す。
「…それほどでも無いが」
「ただの世間話にいちいち目くじら立てないでくれる?」
ヴァルハイトとアリーシャが女生徒に素っ気なく返すと、女生徒は不気味な冷笑を浮かべた。その表情がアリーシャの癪に触る。
「そんな事で、上手くいくのかしらね?」
「…もしかして、私たちをナメてます?」
「…あんなに楽しんでたら、情が移っちゃうんじゃないの?…ちゃんと殺せるの?」
「そんな事で情が移るものかよ」
ヴァルハイトは再度女生徒を睨み付けると
彼の瞳には怒りの様な感情が現れていた。
「…あの二人が俺達の育ての親を殺した奴の関係者ならば、俺達のやる事は決まっている。」
「…そうね、私達に迷いなんかないわ。たかがお喋り如きでそれが覆る事なんかない。」
迷いのない二人の目を見て、黒髪の女生徒は再び、不気味な冷笑を浮かべ、ため息を吐く。
「…はぁ…くれぐれも期待ハズレな事はしないでね、でないと、あなた達が酷い目に会うから。それを忘れないでね。」
そう言って、黒髪の女生徒は部屋から出て行った。ヴァルハイトとアリーシャは彼女の気配が無くなるまで、入り口を睨み付けていた。
「…しかし、本当に、サーリャ達の言っている事は正しいのだろうか…?」
「…そうね、接触してみたから解るけど…。イストの王子様も、新しく迎え入れられた王子妃様も、聴いていた話と大分イメージが違うわ。」
ヴァルハイトは天井を見上げて少し考えた。
今、自分たちが行おうとしている事に、ヴァルハイトは少なからず疑問を持ち始めていたのだ。
「…アリーシャ、もう少し探りを入れよう、サーリャ達の話が事実かどうか、俺は見極めたい。」
「別に構わないけど…じゃあ、私は王子妃様に探りを入れてみるわ。…でもヴァルハイト、隙があったら二人に仕掛けてもいいんじゃ無い?すぐに決着付きそうだけど?」
ヴァルハイトは一間置いて答える。
「無茶言うな、ただでさえ護衛の監視が厳しいんだぞ。それに、一番重要な事実の確認が出来ていない。これで王子達が仇じゃなかったら、メンダークス家に一生拭えない汚名が付く。そんな事になったら、拾ってもらった俺達の人生が、本当に無駄になっちまうだろうが。」
アリーシャは眉を顰めてヴァルハイトを見ていた。まるで自分が説教されている様なヴァルハイトの物言いが気に入らなかった。
「…ヴァルハイト。アンタにしては…いつにも増して、ずいぶん慎重ね」
「アリーシャ、お前が短絡的過ぎるんだ。俺が良いと言うまで、絶対に王子妃に仕掛けるんじゃないぞ?いいか?絶対だぞ?」
ヴァルハイトは今一度、アリーシャに釘を刺した。あえて釘を刺しておかないと、彼女は今すぐにでも、アリスティアに攻撃を仕掛ける可能性が懸念されたからだ。
「…あーもう、わかったわよ。精々、王子妃をいつでもお気軽に、楽にヤレる様に、しっかり仲良くなっておくわ。」
ヴァルハイトはアリーシャをやれやれと言った面持ちで視線を流すのだった。
そろそろ夜明けが近い。
※
その日は清々しい程の快晴であった。
雲ひとつない空は、まるで水色の絵の具でベタ塗りした様な程、爽やかな色をした蒼天である。
エチュード学園では最上級生から新入生までの全生徒を男女別で集めて、まるで催し物を行うかの様に学年合同授業を行っていた。
男子生徒は学園競技場で個人戦の模擬試合
女子生徒は各自で集まり、グループ毎に分かれて調理実習と男女で内容はだいぶ異なっていた。
ジークハルトとレオンは模造剣を交えて準備運動がてらに、素振りをしながら汗を流していると、そこにヴァルハイトが笑顔でやってきた。
「ひと試合、手合わせをお願いしても良いですか?」
それはジークハルトに向けたものだった。
「喜んで、お手柔らかによろしく。」
ジークハルトはヴァルハイトの誘いに快く乗ると、彼はにこりと笑う。二人のやり取りを見ていたレオンは、ヴァルハイトの笑顔に少し違和感を覚えていた。レオンは彼のその笑顔に、ほのかな殺気に似た感情を感じていた。
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