隣の席の一条くん。

中小路かほ

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桜の木の下で

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「でも、まさかひらりが…あの一条くんと付き合うことになるとはねー!」

「ちょっと…彩奈!声が大きいっ!」


わたしは、慌てて彩奈の口を手で塞ぐ。



一条くん――。


…いや。

晴翔とキスをした日から、数週間がたつ。


結局、怜也とのキスシーンは白紙に終わった。

事務所が改めて、NGを出したため。


怜也にファーストキスを奪われないなら、晴翔ともキスをする必要はなかったのだけれど、そのおかげで晴翔に気持ちを伝えることができた。


しばらくの間は、お互い友達同士を装っていた。


周りも、アイドルの花宮ひらりと不良の一条晴翔がまさか付き合ってるいるだなんて思っている人はいなく、平凡な毎日を過ごしていた。


だけど、わたしと晴翔の微妙な関係の変化にいち早く気づいたのは、彩奈――。

…ではなく、爽太くんだった!


「なんか最近、2人仲いいよね~?」


と言われたのが始まり。


「なに言ってんの、爽太!もともと2人は、隣の席で仲いいじゃん」

「そうなんだけど~。友達にしては距離が近いし、もしかして2人って付き合ってる?」


爽太くんがそう言うや否や、彩奈が目を輝かせて振り返る。


恋バナが大好物の彩奈に付きまとわれて、話さざるを得なかった。


幸い、彩奈も爽太くんもわたしのアイドルとしての事情を知っているから、周りにはバレないように配慮してくれた。


だけど彩奈と言ったら、わたしと晴翔のことになると興奮して、さっきみたいに声が大きくなったりする。


晴翔と付き合ったからと言って、アイドル活動でのファンサービスは変わりなく続けているつもり。


そこは、晴翔も理解してくれている。


学校では、お互い前と同じ名字で呼び。

デートのときは人目を忍んで、わたしは変装してバレないようにしている。


そうして、晴翔と付き合ってもうすぐ1ヶ月がたとうとする。



ジリジリとした暑さに汗が滲み出て、セミがうるさいくらいに合唱する夏となった。


あと少しで夏休み。

だけど、その前にあることがある。


それは、――三者面談。


受験生である中学3年生の夏。

夏休みに入る前に、進路について話さなければならない。


わたしは昼休みに、晴翔といっしょに屋上にやってきた。

だれもいないことを確認して、ベンチで隣同士で座る。


「晴翔って、もう三者面談終わったんだよね?」

「ああ、一昨日に」

「そっか~。志望校は、近くの公立だよね?」

「そのつもり」


晴翔は勉強もできるから、進学校でもある公立高校を受験する予定。


あそこの女の子の制服は、とってもかわいい。

男の子の制服は、今の学ランと違ってブレザーだけれど、きっと晴翔に似合うに違いない。


できれば、同じ学校の制服を着て、いっしょに登下校なんかしてみたい。


でも……。


「ひらりは、私立に行くんだよな?」

「…うん。そこの芸能コースに」


なんとか今は、学業と芸能活動の両立ができている。


だけど、これからどうなるかはわからない。


そこで、芸能活動に理解があり、芸能コースを選択できる私立の高校を受験するようにとママに提案された。

多くの有名芸能人を輩出している高校でもある。


事務所からも勧められていて、今の芸能活動の状況からしても、ほぼ合格は間違いないだろうって。


だから、今日の三者面談だってトントン拍子に話は進んだ。


他の人は、もっと先生とあっちの高校がいいや、こっちの高校がいいなど、いろいろと質問や相談をしていることだろう。


だけど、わたしの場合は――。


「花宮さんは、芸能活動のできる高校を志望ということで」

「はい、先生。そこならひらりも、芸能活動に集中できると思いますので」


先生とママとの志望校確認ということで、たったの5分で終わってしまった。


わたしだって、ついこの間まではその高校に入学するつもりでいた。


だけど、晴翔と出会って。

晴翔に恋をして。


これからも、もっともっと晴翔といっしょにいたいと思うようになってしまった。


だから、晴翔と過ごせる時間には限りがあって…。

すでにカウントダウンが始まっているということが、今は辛くてたまらない。



そんなある日、事務所から呼ばれた。

ママもいっしょにくるようにと。


毎年この時期は、契約更新のためにママと事務所に出向いている。


だから、今日もそのことかと思っていたら――。



「失礼します」


ノックして社長室に入ると、険しい顔をした社長がイスに座っていた。


「わざわざお呼び立てして申し訳ない」


社長に促されるまま、ママといっしょにソファに腰を下ろす。


「今日きてもらったのは、契約更新の手続きで…」


社長は、契約書を机の上に置いた。


「ありがとうございます。今後とも、ひらりをよろしくお願いします!」


ママは手慣れた様子で、契約書にサインしようとしたとき――。


「…が、契約更新するには…1つ条件があります」


そう言って、社長は机に並べた契約の書類を一旦引っ込めた。

突然のフェイントに、ママも苦笑いを浮かべる。


「条件とは…?」


ママが尋ねると、社長の背中からある封筒が出てきた。

そして、苦虫を噛み潰したような表情で、社長は封筒の中から紙を取り出す。


「こんなことは、今後一切ないように誓っていただきたい」


社長が机の上に出したのは、白黒写真のようなものが貼り付けられた…なにか。


しかし、すぐ目に飛び込んできた見出しに、心臓が一瞬止まったかと思うほど、息をするのも忘れてしまった。


【“恋愛禁止”のアイドル、PEACEのひらり、恋人と仲よしデート!】


デカデカと書かれた見出しのほかには、変装したわたしと晴翔が手を繋いで歩いている写真が載せられていた。

晴翔の顔にはモザイクがかかっているけど、知っている人が見れば、すぐに晴翔だってわかる。


「こ…、これは一体なんですか…!?」

「私が聞きたいくらいですよ」


社長は深いため息をつきながら、ママを突っぱねる。


わたしに彼氏がいることを知らないママが一番驚いている。


「…ひらり!どういうことなの!?」

「ひらり。この記事の内容は、本当なのか…?」


テンパりながら責めてくるママよりも、低く重たい声で問いかける社長のほうがこわい。


社長室に入ったとき、いつもと雰囲気が違うとは思っていたけど…。

こういうことだったのか。


…そうだよね。

社長の立場からしたら、“恋愛禁止”を売りにしてきたわたしをここまで育ててきたのに、隠れて彼氏とデートしていたなんて、裏切られたも同然のこと。


怒るのも無理ない。

勝手をしたのは、わたしなんだから。


「ひらりは、ウチの大切な商品です。ですから、この記事はこちらで握り潰しておきました。世に出回ることはありません」


それを聞いて、胸を撫で下ろすママ。

だけど、こんな写真を撮られた時点で、安心できるわけがない。


「ひらりは、これまでよくがんばってくれた。だからこそ、こんな男と遊びたくなることもあったかもしれない。だが、遊びならさっさと切ってしまいなさい。こんな男、百害あって一利なしだ」
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