【完結済】999本のひまわりを君に

こゆき

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 何かが弾ける音がして、俺の視界は真っ白になった。
 ガタンと大きな音がして、流石に目を覚ましたらしいザンカの慌てた声が聞こえる。

 床に倒れこんでしまったらしい俺の耳には、神父様を呼びに行くザンカの声に混じり、うるさいくらいの鐘の音が響いていた。

 ──リンゴーン……

 ラーレが、隣にいる。

 ──リンゴーン……

 シスターにこき使われて、夕飯を食いっぱぐれたラーレに、パンを差し出した。
 ああ、そうだ。俺も手伝いたかったのに、別の仕事があったから、助けられなくて、悔しかったんだ。

 ──リンゴーン

 成長した彼女は、かわいらしく、綺麗で。
 いつも買い出しの時は、彼女の隣を守ることに必死だった。

 ──リンゴーン

 パン屋の新作に頬をほころばせるラーレが、なによりも可愛かった。
 少し変わった彼女の感性さえ、愛おしくて。

 ──リンゴーン

 一緒に暮らしたいと、そう思っていた。

 ──リンゴーン!

 プレゼントに買った髪飾りは、彼女ば気に入った、ラーレによく似合う黄色いチューリップを模したもので。
 指輪も考えたけれど、どうしてもこれが似合うと、そう、思ったから。

 ──リンゴーン!!


『愛してる、ラーレ。ラーレのことが、好きだよ』


 伝えたかった言葉が、感情が。
 嵐の様に押し寄せる。


『君のことが、誰よりも好きなんだ。俺と、一緒に生きてくれないか』


 ──愛してる。

 リンゴーン!!!

 壊れるような鐘の音が、全てをかき消すように、鳴り響いて。
 俺の意識は、消え失せた。

 ただ、やっと取り戻せた髪飾りだけは、しっかりと握りしめたまま。


 *   * *


 バチン。

 幾度となく経験した、世界が切り替わるような衝撃。
 それなのに、今回の『やり直し』は圧倒的にいつもと違う。

「ここは……?」

 いつも、目が覚めるのは、喧騒の町中だ。
 直前に何を持っていようと、持ち越すことはできないのはずいぶん前に確認済だ。

 だと、いうのに。

「……、これ、は」

 俺の手には、しっかりと、あの髪飾りが握られていた。
 そして、ここは──

「教会の、廊下……っ!!」

 あたりを見回して、場所を認識して、曲がり角に消える淡い金髪を目にした瞬間、俺は走り出した。

 そうだ。そうだ!
 思い出した!!

 何故、何故忘れていたんだろう。
 俺はあの日、ラーレに会っていた。

 彼女を、最期の言葉を交わしていた!

 廊下を走って、走って、その音に驚いたのか振り返る彼女に手を伸ばす。
 明るい黄色の瞳は、大きく見開かれていた。

「ラーレ!!」
「イキシ、ア……?」

 ──ああ、やっと、届いた。

 ラーレの手を掴み、握りしめる。
 もう二度と、離さないように。

「好きだ、ラーレ。君が、君のことが! 何度、生まれ変わっても──!!」



 ──やっと伝えられた、ずっと言いたかった、言葉たち。
 この後に続けられた、たった五文字の言葉は。

 愛しいひとと、握りしめた髪飾りだけが聞いていた。


 もう、鐘の音は、聞こえない。

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