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第5話 孤独の訳

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 エルと組むようになって数十日、お誘いの声が増えてきた。

「一緒にチームを組みたい?」
 活躍を聞いたのだろう。
 そんなことが増えていたが、アーノルドは断っている。

 二人で上手くやれてるし、特に仲間が欲しいとも思わない。
 人が増えてややこしくなるのもの嫌だ。

 同じくエルも誘いを受けるが、断っている。

「アーノルドがいますので」
 最低ランクから始まったエルのランクも、今や上位となった。

 二人が充分深層に潜れる強さだという事や、攻撃魔法も使えるようになったという話が回ると、エルだけを勧誘するたちの悪い者まで出てきた。

 一人で魔術師と治癒師を兼任しているのだ、欲しがる者は多い。

「アーノルドより強く、そして金払いがいいのであれば、考えます」
 エルはそう言って断るようになった。

 一人で深層まで行けるアーノルドと並ぶ者はなかなかいない。

 そして報酬も二人で割っているので、エルの収入はだいぶ高く、定期でそんな高額な報酬を払えるチームはそうそうなかった。






 そんな断りを言い続けて、少し周りが大人しくなった頃の事だ。

「アーノルド」
 食事を終えて、アーノルドは酒を、エルは果実水を飲んでる時に話しかけられた。

 エルにとっては見知らぬ男だが、アーノルドには違うようだが。

「ギアン……この街に来ていたのか」
 男の顔を見て、アーノルドは驚き、そして苦々しい表情をする。

 エルは二人の様子で何となく察した。

(仲が良い訳ではなさそうですね)
 アーノルドは嫌そうにしているし、ギアンは笑顔だが目は笑っていない。

 とりあえず様子見をする。

「着いたばかりだがな。それにしてもギルドでお前の話を聞いて驚いた。お前がこの街にいる事、しかもコンビを組んでるなんて」
 エルは視線を受けるが何も答えず、冷ややかな目線を返すばかりだ。
 だがギアンに気にした素振りはない。

「で、俺に話しかけるなんてどういったつもりだ?前に話しかけるな、と言ったのはそちらだろ?自分の言ったことを忘れたのか?」
 アーノルドが皮肉げに口を歪ませる。

「忘れてなんてないさ、ただ評判を聞いて気になった。お前じゃなくて、お前の相棒がな」
 エルは今度は目線すら向けず、黙って果実水に口をつける。

「何も言うことはないさ、帰れ」
 不愉快そうにアーノルドは手を振って追い払おうとする。

「お前の相棒が知っているのか? チームを追い出された裏切り者のお前の事を」
 アーノルドの眉がピクンと跳ねるが、エルは相変わらず自分の手元しか見ていない。

「なぁ、あんた。アーノルドがチームも組まずに一人なの気にならなかったか? 普通は皆チームを組むし、ギルドも推奨している。それなのに組まないのは、こいつは仲間を裏切るやつだから、誰も組むやつがいなかったからだ」

「……へぇ、そうなのですか」
 エルは、ようやく口を開いた。

 食いついたのかと思ってギアンは早口で捲し立てる。

「こいつが俺の命令を聞かずに動いたから、俺達のチームは悲惨な目にあった。見ろよ」
 男が見せた左腕には凄惨な傷跡があり、エルも一瞥した。

「こちらは、どうしたのですか?」

「こいつが肝心なところでビビって逃げたから、チームのバランスが崩れたんだよ。仲間の治癒師を庇って俺はこんな傷を受けた。しばらく病室から出られないくらい酷かったぜ」
 アーノルドを見るが、彼は渋面になっているものの、何も言わない。

「酷い怪我を負うのは、ダンジョンに潜る冒険者ならば当たり前な気がしますが……今は冒険者に戻られてるのですか?」
 エルは同情するでもなく、ただ疑問を口に出す。

「あぁ冒険者には戻れた。だが、こいつが命令通りに動けばこんなことにはならなかった。肝心な時に仲間を見捨てるような男を、これからも信用できるか? 折角ランクも上がったんだから、もっといいチームに移ったらどうだ? 俺のところとかな」
 どかっと椅子に座り、ギアンは料理の注文をする。

 勝手な男だと不愉快になったエルは、再びアーノルドに視線を移す。

「アーノルド、説明してください。僕はあなたの口から話を聞きたい」
 アーノルドが一瞬視線を反らし、だがすぐにエルに移す。

「この場では特に話すことはないな」

「……そうですか」
 ぐっと果実水を飲み干し、エルが立ち上がる。

 お金を置いて、エルはアーノルドの腕を引っ張っていった。

「アーノルド、来てください」

「エル?」
 引っ張られ、アーノルドも立ち上がった。

「話は終わってないぞ」
 ギアンも立ち上がるが、エルは拒絶を示す。

「すみませんが、僕はアーノルド以外と組む気はないので」
 ギアンを残し、グイグイとアーノルドの腕を引っ張って外へ出ていった。






「おい、エル。俺でいいのか?」

「何がです? コンビ解消する必要なんかないでしょう」
 いまだエルに腕を掴まれているので、アーノルドは大人しくついて歩いた


「あいつの、ギアンの話を聞いて何も思わなかったか?」

「思いました。初めてアーノルドに怒りが沸きました」
 エルがアーノルドを人気のないところまで引っ張ってくる。

 誰もいないようなところに来て、ようやくエルは足を止めた。

「何故反論しないのですか」

「いや、何というかもう面倒くさくてな……」
 言葉尻が消えてしまう。

「何を言ってもあいつは話を聞かないし、反論を重ねればあることないこと話し始めるし、とても目立つ。あと気づいていたかわからないが、別な視線もあっただろ? あっちも厄介だ」

「隠れて聞いていた女性ですね?」

「……そこまで気づいたのか?」
 ちらっとアーノルドが視線をやった先にいた人物。

 フードをして目立たないようにしていたが、エルは背丈と体型から女性だと感じた。

「ここならば邪魔されないでしょう。本当はあの男と何があったんですか?」
 傷を負ったのは本当でも、内容は違うだろう。

「あんな出鱈目話とは違うんだが、確かにギアンが傷を負うようなった責任は俺にもある。甘やかしすぎたんだ」




    
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