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貴重な存在

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エレオノーラは喜んだ。

正式な書類はまだだが、ティアシーアの婚約が決まって嬉しい。

「これでリオーネも安心したわよね」
ずっと二人の恋愛に関して力を貸していたリオーネも、嬉しそうだ。

「えぇとっても。大好きな姉様達が幸せになれるのだから、本当に嬉しいわ」
リオーネは喜び、心から安堵する。

一つのステップも終わり、これで次のステップへと移れる。

婚約、婚姻、そして世継ぎ。

そこまで行けば王家の安泰も見えてくるだろう。

リオーネは自分が上につく気はなく、あくまで姉の補助がしたい。

憧れの二人の手助けになれるのが嬉しいのでつい張り切ってしまう。

「リオーネも意中の彼から了承を得られたかしら」

「滞りなくいいお返事を頂きました」
半ば強引に手に入れたようなものだが、それでも彼が他の女性のものにならないと確約出来ただけでも幸せだ。

姉が幸せになれば、自分の幸せも近づいていく。

わくわくしかない。

ティアシーアが正式に婚約したらリオーネも婚約届を提出しよう、書類の準備をせねば。

「ではわたくしもレナードとの婚姻をしっかり進めていくわ」
エレオノーラも自分のやるべきことを考える。

自分が先に結ばれないと、妹達も後に続けない。

「で、またティアシーアは恥ずかしさでお茶に来ないの?」
ティータイムに誘っても今日も来ない。

「いえ、それがミカエル様がいらしてるようです」
忙しいはずなのに、頻繁にティアシーアの元に来ているようだ。

無事に想いを遂げられ、公認になったのだから、その気持ちはエレオノーラもわかる。

だがリオーネはミカエルに謎な事を感じていた。

「でも、おかしいのです、馬車を使う様子がないらしいのです」

「え?」
リオーネの言葉にエレオノーラは訝しげになる。

「馬で来ているのではなくて?」
それなら馬車より早く移動できる。

「その様子もないらしくて……彼はどうやって移動しているのでしょう」
エレオノーラもリオーネも頭をひねる。

「こういう時は聞いてみた方が早いわ」
親戚になるのだし、遠慮はいらないだろう。

二人は疑問をさっさと解決するために、甘々なティータイムの場へと向かう。





「姉上にリオーネ、どうなされましたか?」
ミカエルと楽しくお茶をしていたところに二人が来たのだ。

からかわれるのではないかとティアシーアは警戒する。

「エレオノーラ様、リオーネ様。ご機嫌麗しゅうございます。挨拶にも伺わず申し訳ございません、少しでもティアシーア様と一緒に居たくてつい直行でこちらに来てしまいました」
ミカエルは頭を下げる。

「いいえ、こちらこそお邪魔してごめんなさいね。少しミカエル様に聞きたいことがあって」
二人はミカエルを囲むように近づく、迫力が凄い。

「ミカエル様はここまでどうやって来ているの? 馬車の形跡もないし、まさか馬? でもどこに繋いでいるのかしら」
エレオノーラの疑問にミカエルは困ったような顔をする。

「すみません、ティアシーア様に会いたいが為に報告が遅れてしまいました。お二人なら他言しないと思うのですが」
ミカエルは周囲を見る。

「今近くにいるのは、皆さんの信頼する従者の方だけですね?」
従者たちは遠巻きにいるが、そうだ。

エレオノーラがミカエルの言葉に応えるように頷いた。

それを見たミカエルの姿がふっとかき消える。

「「?!」」
急な事に皆が驚いた。

ミカエルは椅子に座っていた、立ち上がったり、動いた様子はなかった。

紛れもなく目の前にいたはずなのに。

「驚かせてしまってすみません」
綺麗に咲く花の中から、ミカエルが現れる。

花の精のようだとティアシーアはこんな状況なのに見惚れた。

「まさか、転移術?」
余程魔力が高くないと使えない。

「はい。内緒にしていましたが、俺の魔力はだいぶ強いのです、これを使ってティアシーア様に会いに来ていました」
思いも寄らない事だが、王家にとっては僥倖だ。

必ずではないが魔力は遺伝しやすい、次代の子も強い魔力を持つものが生まれやすい。

「何で内緒にしてたのですか?」
魔法やそういう事に疎いティアシーアはきょとんとしていた。

「魔力が高いものは欲しがるものが多いわ。それこそ大金をはたいて結婚させたり、魔力目当てで子どもを作ったり」
リオーネは何となく隠したい気持ちがわかる。

下手に力があると利用したいものが近づいてくるが、ミカエルのような転移術を使えるほどのものなら重宝されるし、引く手数多だ。

「家族だけが知っています。余計なトラブルは起こしたくなかった」
知られれば、煩わしい事が起きるだけだ。

ミカエルは愛する人と静かに暮らしたい。

「ミカエル様って凄い魔術師なのですね、驚きましたわ」
ティアシーアは素直に感心し、純粋にそう思って口にした。

「私にはそんな力もないし、羨ましいわ」
にこりと微笑むティアシーアを、たまらずミカエルが抱きしめる。

「え? あの?」

「だからティアシーア様がいいんだ」
普通の反応に普通の言葉、魔力の豊富さを知っても、態度を変えることもない。

狼狽える妹に、エレオノーラは優しく諭した。

「あなたはミカエル様の魔力など目当てではないものね。純粋に好きなだけだから、そのような反応が出来るのでしょうけど、あなたのように思う者の方が世間には少ないの。ミカエル様はあなたのそういう所、特別視をしない普通の人として見てくれるところに惹かれるんだわ」
ミカエルの感情を代弁するエレオノーラは、自身の婚約者を思い出す。

(ティアシーアとレナードはとても似ている。だからこそ惹かれてしまう)
どちらも能力や外見で判断しない。

中身を見てくれて、尚且つ特別視もせずに接してくれる。

周囲と違うエレオノーラやミカエル、リオーネはこういう人間に惹かれてしまう。

「わたくしも嬉しいわ、あなたのような人が親戚になってくれて」
エレオノーラは綺麗に笑う。

「愛する人の弟、そして妹の配偶者になるのだから、わたくしもあなたの為に力を貸すのを厭わないわ。困ったら何でも言ってね」
これは本心だ。

幾ばくかの打算もあるが、このように信頼できる者が義弟になったならば、自分も返していく。

家族は大事にしないと。

ティアシーアとレナードがいるならば、この男もまたエレオノーラに逆らう事はしないだろう。

逆もまた然り。

ミカエルの存在と力は貴重だ。

「私もティアシーア様の大切な姉君である、エレオノーラ様のお力になれるよう頑張ります。ちなみに回復魔法も自信ありますよ」
治癒師としての力も持つという。

「今度ぜひティアシーア様を癒させてください」
ティアシーアはよく訓練などで怪我をしてしまうので、ありがたい申し出だ。

「俺以外の男に触れられるなんて、嫌なので」
ミカエルが申し出た理由はかなり嫉妬深いものであった。


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