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2 海の国の聖人候補
309 ドメスティックな味噌
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309
「ええと……これが〝豆の妖精〟の卵ってこと?」
取り出された白い粉末状の〝種麹〟をマジマジと見たエジン先生は、不思議そうだ。
「そうです。とてもうまくいきましたね。この状態なら、保存も可能です。
そして、これさえあれば、帝国でも味噌は作れます」
それは、ある意味諸刃の剣でもあった。沿海州の特産品である〝味噌〟が、どこでも作れるものになることは、彼らにとって歓迎すべきことではないだろうから……
「エジン先生が、これをどうされるかについて、私は問いません。
先にも申し上げました通り、私は商品として売るために興味を持っているのではないのです。ですから、種麹が手に入ったからといって、私がいきなり味噌の大量生産を帝国で始める、といったご心配もいりません。
とはいえ、私の料理が一部の帝国人の間で噂になり始めているようですし、特に味噌については大陸での需要が高まる可能性を早めに考えておいて頂いた方がいいと思います。その節は、サイデム商会を通して、かなりの発注が来るはずですから」
保存の効く味噌そして醤油は、輸出品として需要が高まれば、沿海州諸国にとって非常に実入りのいい重要な商品に育つだろう。特に現在、海産物以外産業と言えるものがない状況のアキツにとっては外貨を稼げる貴重な取引材料にもなり得ると私は考えている。
そして、今〝種麹〟を作り出す方法を知っているのは、わたしたちだけ。
つまり、将来確実に得られる大きな利益をどう分配するか、そのさじ加減を握るのは私たち、沿海州ではエジン先生だけだ。
ラーメン大好きサイデムおじさまのゴリ押しで、イスの商人ギルド内に設置されたラーメン店の人気は相変わらず凄まじく、そこでしか食べられない限定品の味噌ラーメンの味は、食べた人たちのウワサで徐々にイス全域へ広まっている……という報告は既に私の耳にまで届いている。
参入希望者や類似品の店も続々現れているとキッペイから詳細に報告ももらった。
(どれも、まだまだ全く別物という感じらしいけどね……)
「帝国の特にイスで、安定した品質の味噌が大量に必要とされる時は近いと思います。
できれば、アキツの方であるエジン先生が指揮をとって、大量生産ができる体制を作ることをお勧めします」
私の話を聞いたエジン先生は困り顔だ。
そうだとは思っていたが、やはり彼も商売には大して興味はない人なのだ。
ともかく、今後の需要予測を話せてよかった。頭に留めておいてくれれば、エジンさんなら何か方策を考え始めるだろう。
(さて、味噌のことをもう少し研究した後は、いよいよ醤油作りだね)
「味噌についてですが、実際に試して頂ければはっきりするのですけど、豆の味噌に付いている妖精が、実は一番のんびり屋さんなんですよ。
麦に着く妖精さんたちが一番せっかちで、次が米です。
ですから、早急に必要なら麦、長期熟成なら豆、と使い分ければいいんです。更に、これは皆風味にも差があるので、組み合わせも多様にできて、料理の幅も広がりますよ」
要するに麹菌たちの好きなデンプン量の差なんだけどね。
デンプンが多い麦は発酵が早いし、少ない大豆は時間がかかる。
それぞれの特性さえ知っていれば、後は実験をしつつ最高の相性を見つけていけばいい。
「なんだか、君が〝豆の妖精〟に見えてきたよ。どうして、そんな事を知っているのか不思議でたまらないな。
実験で得たというには、画期的すぎる発見ばかりだよ」
「ま、まぁ、妖精さんとは確かにお付き合いがありますし、私もそれなりに実験はしてまいりましたから……」
再び、しどろもどろの言い訳をしつつ、とにかく重要な点を伝えることができた。
私たちは、麦、米、豆の味噌を、条件を変えながら仕込み、大量の味噌樽を作り上げた。
後は結果を……待ってられない!!
私は仕込んだいくつかの味噌樽を、大陸の魔法使いに頼んで〝時間を進めてもらう〟と言って蔵から持ち出し《無限回廊の扉》の時短機能をフル活用。3分間クッキングのような俊速で完成状態に持っていった。
(だって、待ってられないんだもん!)
仕込んだ味噌たちは、どれもとても美味しい味噌に出来上がっていた。
この調子なら、蔵で熟成を待っている子達も時間が経てば、美味しい味噌に全て生まれ変わってくれるはずだ。
もちろん歩留まりも驚異の改善が期待できる。
出来上がった、完全異世界産の合わせ味噌で作ったお味噌汁が美味しすぎて、私は本当に感動してしまった。
上質な天然物を吟味して作った出汁と味噌の組み合わせは、本当に旨味の洪水のようで、最初に飲んだ時には、ソーヤと2人頷き続けながら、その極上の風味をかみしめた。
実験の詳細を話しながら、自慢げにご馳走したグッケンス博士やセイリュウも、とても美味しいと手放しで褒めてくれた。
で、そうしたら、今度はどうしてもサイデムおじさまとキッペイにも食べさせてあげたくなってしまった。
(一度、こっそりイスに行ってみようかな……)
私は、醤油醸造の実験のためのメモを取りながら、久しぶりに帝国への帰還を考え始めた。
「ええと……これが〝豆の妖精〟の卵ってこと?」
取り出された白い粉末状の〝種麹〟をマジマジと見たエジン先生は、不思議そうだ。
「そうです。とてもうまくいきましたね。この状態なら、保存も可能です。
そして、これさえあれば、帝国でも味噌は作れます」
それは、ある意味諸刃の剣でもあった。沿海州の特産品である〝味噌〟が、どこでも作れるものになることは、彼らにとって歓迎すべきことではないだろうから……
「エジン先生が、これをどうされるかについて、私は問いません。
先にも申し上げました通り、私は商品として売るために興味を持っているのではないのです。ですから、種麹が手に入ったからといって、私がいきなり味噌の大量生産を帝国で始める、といったご心配もいりません。
とはいえ、私の料理が一部の帝国人の間で噂になり始めているようですし、特に味噌については大陸での需要が高まる可能性を早めに考えておいて頂いた方がいいと思います。その節は、サイデム商会を通して、かなりの発注が来るはずですから」
保存の効く味噌そして醤油は、輸出品として需要が高まれば、沿海州諸国にとって非常に実入りのいい重要な商品に育つだろう。特に現在、海産物以外産業と言えるものがない状況のアキツにとっては外貨を稼げる貴重な取引材料にもなり得ると私は考えている。
そして、今〝種麹〟を作り出す方法を知っているのは、わたしたちだけ。
つまり、将来確実に得られる大きな利益をどう分配するか、そのさじ加減を握るのは私たち、沿海州ではエジン先生だけだ。
ラーメン大好きサイデムおじさまのゴリ押しで、イスの商人ギルド内に設置されたラーメン店の人気は相変わらず凄まじく、そこでしか食べられない限定品の味噌ラーメンの味は、食べた人たちのウワサで徐々にイス全域へ広まっている……という報告は既に私の耳にまで届いている。
参入希望者や類似品の店も続々現れているとキッペイから詳細に報告ももらった。
(どれも、まだまだ全く別物という感じらしいけどね……)
「帝国の特にイスで、安定した品質の味噌が大量に必要とされる時は近いと思います。
できれば、アキツの方であるエジン先生が指揮をとって、大量生産ができる体制を作ることをお勧めします」
私の話を聞いたエジン先生は困り顔だ。
そうだとは思っていたが、やはり彼も商売には大して興味はない人なのだ。
ともかく、今後の需要予測を話せてよかった。頭に留めておいてくれれば、エジンさんなら何か方策を考え始めるだろう。
(さて、味噌のことをもう少し研究した後は、いよいよ醤油作りだね)
「味噌についてですが、実際に試して頂ければはっきりするのですけど、豆の味噌に付いている妖精が、実は一番のんびり屋さんなんですよ。
麦に着く妖精さんたちが一番せっかちで、次が米です。
ですから、早急に必要なら麦、長期熟成なら豆、と使い分ければいいんです。更に、これは皆風味にも差があるので、組み合わせも多様にできて、料理の幅も広がりますよ」
要するに麹菌たちの好きなデンプン量の差なんだけどね。
デンプンが多い麦は発酵が早いし、少ない大豆は時間がかかる。
それぞれの特性さえ知っていれば、後は実験をしつつ最高の相性を見つけていけばいい。
「なんだか、君が〝豆の妖精〟に見えてきたよ。どうして、そんな事を知っているのか不思議でたまらないな。
実験で得たというには、画期的すぎる発見ばかりだよ」
「ま、まぁ、妖精さんとは確かにお付き合いがありますし、私もそれなりに実験はしてまいりましたから……」
再び、しどろもどろの言い訳をしつつ、とにかく重要な点を伝えることができた。
私たちは、麦、米、豆の味噌を、条件を変えながら仕込み、大量の味噌樽を作り上げた。
後は結果を……待ってられない!!
私は仕込んだいくつかの味噌樽を、大陸の魔法使いに頼んで〝時間を進めてもらう〟と言って蔵から持ち出し《無限回廊の扉》の時短機能をフル活用。3分間クッキングのような俊速で完成状態に持っていった。
(だって、待ってられないんだもん!)
仕込んだ味噌たちは、どれもとても美味しい味噌に出来上がっていた。
この調子なら、蔵で熟成を待っている子達も時間が経てば、美味しい味噌に全て生まれ変わってくれるはずだ。
もちろん歩留まりも驚異の改善が期待できる。
出来上がった、完全異世界産の合わせ味噌で作ったお味噌汁が美味しすぎて、私は本当に感動してしまった。
上質な天然物を吟味して作った出汁と味噌の組み合わせは、本当に旨味の洪水のようで、最初に飲んだ時には、ソーヤと2人頷き続けながら、その極上の風味をかみしめた。
実験の詳細を話しながら、自慢げにご馳走したグッケンス博士やセイリュウも、とても美味しいと手放しで褒めてくれた。
で、そうしたら、今度はどうしてもサイデムおじさまとキッペイにも食べさせてあげたくなってしまった。
(一度、こっそりイスに行ってみようかな……)
私は、醤油醸造の実験のためのメモを取りながら、久しぶりに帝国への帰還を考え始めた。
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