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3 魔法学校の聖人候補
401 お茶会をしましょう
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401
「みんなでお茶会をしたい、ってそんなに難しいの?」
私の言葉に、美味しそうにリンゴを焼き込んだマフィンを食べていたトルルが顔をしかめる。
トルルとは最近放課後に短いお茶の時間を共にすることが、時々ある。普段、忙しすぎて見失いがちなクラスメートの動向などを知る貴重な機会だ。トルルにとっても美味しいお茶とお菓子付きでおしゃべりするのは、楽しい時間のようで、最近は他のクラスメートも巻き込んで、楽しくやっていた。
「この学校では学業については差はないんだけど、生活が全然違うでしょ、私たちと貴族の方々って……」
特に学年上位の豪華な第1寮に住んでいる学生は、学園内でも使用人に傅かれながら暮らしており、ほぼ全ての貴族が所属している《社交クラブ》で、年中お茶会やダンスパーティーに興じていて、彼らと普通の生徒は授業以外ではほぼ接点がない。
「一般庶民の生徒が、お茶に誘ってもきっと使用人がたくさんついてくるだろうし、お互い気まずいんじゃないかなぁ。聞いたことないもの、こんな風に気軽にお茶を楽しむ貴族の学生なんて……
大体、何を話したらいいのかもよく分からないよね」
今日はテスト明けの休み、トルルだけでなくお友達を誘って、芝生の上に敷物を広げてピクニック風にお茶をしている。
参加者はトルルにオーライリ、それに参考書作りの時仲良くなったライアン、ザイク、モーラ。全員、ものすごい勢いで、私の作ってきたお菓子を食べている。
大量の砂糖やバターはまだ生産されておらず、一般家庭に安定した火力のオーブンがまだまだ広まっていないせいもあり、焼き菓子文化がほぼないこの世界、私の作るお菓子はどこでも好評だ。
このマフィンはソーヤのお墨付きだし、いくつかのクッキー、一口サイズのローストビーフやキッシュ、ミニサイズのパイといったフィンガー・フードも、かなりよくできている。それに、広い魔法学校の森を臨む青空の下、爽やかに吹く風を感じながらの、のんびりしたお茶会は、余計食べ物を美味しく見せてくれるのかもしれない。
「でも……私は、サンス様って、そういう人じゃない気がするんですけどね」
私の言葉にオーライリが、同意してくれた。
「確かにサンス様は、ああいう気の強い負けん気な方ではありますが、正義感の強い面白い方です。まぁ、ちょっとご自分を強く見せようとなさるので、居丈高に見えるところはありますが、あの方なら、もしかしたら、お誘いしたら、いらっしゃるかもしれませんね。招待状を出されてみてはどうですか?
非公式のお茶会でも、貴族の方は儀礼を重んじますから……」
なるほど、確かに貴族の間では、何かにつけ〝先触れ〟が必要だった。
「じゃ、みんなでまた近いうちにお茶会をするときに、クローナ・サンス嬢をご招待してみましょう」
「おいしいお菓子があるならいつでも呼んでよ」
「お菓子以外もすっごくおいしい。大食堂に負けてないね。また食べさせて!」
「楽しみですね」
みんな美味しくて楽しいお茶会は大好きみたいだ。
数日後、授業の後、クローナ・サンス嬢が、また私の前に立った。いつもの見慣れた仁王立ちだ。
「私も忙しい身ですが、正式なご招待を頂いたのですから、一度もお応えしないというのも失礼でしょう。お伺致しますわ」
そう言いながら、貴族らしく綺麗な花束を添えたカードを私に押しつけるように渡して、ちょっと赤くなりながら去っていった。
その態度とは裏腹にお返事のカードには
〝嬉しいご招待をありがとう。とても楽しみにしています〟
と、可愛らしい彼女の字で丁寧に書かれていた。
学生同士の気軽なお茶会にしたいという、私の意向も承知してくれ、当日は従者や立派な手土産などもなしでお願いしたい、ということも快諾してくれた。
(やっぱり、話せる人だと思うな、クローナ嬢)
今回のお茶会は、貴族のクローナ嬢にも楽しんでもらえるよう、少しだけいつもより豪華に設えてみようと思う。トルルたちの意向を聞いてみたところ、彼女たちも貴族のお茶会に興味はある様子だったので、どちらにとっても楽しい趣向にしようと思う。
サンス嬢が自分の侍従たちを連れてこないと言ってくれたので、セーヤとソーヤにみんなの侍従という雰囲気でサーブをしてもらうことにした。この2人の妖精さんたちは、その気になれば最高のサービスを提供してくれる。
「メイロードさまのためならば、しっかり努めさせて頂きます」
「お任せください。ダテに長く生きてませんよ。当日はつまみ食いも我慢します!」
力強い味方を得て、
(でもソーヤはつまみ食いすると思うけど……)
私は楽しくお茶会の準備に勤しんだ。
今回のお茶会では、貴族も庶民も等しく楽しめることが重要だ。
根っから貴族のお姫様であるクローナ嬢にも心地よく、全く貴族社会のしきたりや礼儀と接点のないトルルたちにも緊張せずに楽しんでもらわなければならない。
気を張らず楽しくお話ができるような仕掛けも考えた方が良いだろう。
私はソーヤにある調査を依頼し、その結果を基に色々と準備を進め、当日使えそうな料理の試作を始めた。
新しい料理に、ソーヤも大喜び。張り切ってお手伝いと試食役をしてくれた。
セーヤも、このお茶会のために新しい髪飾りを張り切って作ってくれているそうだ。
料理が固まってくるにつれ、私もなんだか楽しくなってきた。
(いいお茶会にして、みんな仲良くなれるといいな)
「みんなでお茶会をしたい、ってそんなに難しいの?」
私の言葉に、美味しそうにリンゴを焼き込んだマフィンを食べていたトルルが顔をしかめる。
トルルとは最近放課後に短いお茶の時間を共にすることが、時々ある。普段、忙しすぎて見失いがちなクラスメートの動向などを知る貴重な機会だ。トルルにとっても美味しいお茶とお菓子付きでおしゃべりするのは、楽しい時間のようで、最近は他のクラスメートも巻き込んで、楽しくやっていた。
「この学校では学業については差はないんだけど、生活が全然違うでしょ、私たちと貴族の方々って……」
特に学年上位の豪華な第1寮に住んでいる学生は、学園内でも使用人に傅かれながら暮らしており、ほぼ全ての貴族が所属している《社交クラブ》で、年中お茶会やダンスパーティーに興じていて、彼らと普通の生徒は授業以外ではほぼ接点がない。
「一般庶民の生徒が、お茶に誘ってもきっと使用人がたくさんついてくるだろうし、お互い気まずいんじゃないかなぁ。聞いたことないもの、こんな風に気軽にお茶を楽しむ貴族の学生なんて……
大体、何を話したらいいのかもよく分からないよね」
今日はテスト明けの休み、トルルだけでなくお友達を誘って、芝生の上に敷物を広げてピクニック風にお茶をしている。
参加者はトルルにオーライリ、それに参考書作りの時仲良くなったライアン、ザイク、モーラ。全員、ものすごい勢いで、私の作ってきたお菓子を食べている。
大量の砂糖やバターはまだ生産されておらず、一般家庭に安定した火力のオーブンがまだまだ広まっていないせいもあり、焼き菓子文化がほぼないこの世界、私の作るお菓子はどこでも好評だ。
このマフィンはソーヤのお墨付きだし、いくつかのクッキー、一口サイズのローストビーフやキッシュ、ミニサイズのパイといったフィンガー・フードも、かなりよくできている。それに、広い魔法学校の森を臨む青空の下、爽やかに吹く風を感じながらの、のんびりしたお茶会は、余計食べ物を美味しく見せてくれるのかもしれない。
「でも……私は、サンス様って、そういう人じゃない気がするんですけどね」
私の言葉にオーライリが、同意してくれた。
「確かにサンス様は、ああいう気の強い負けん気な方ではありますが、正義感の強い面白い方です。まぁ、ちょっとご自分を強く見せようとなさるので、居丈高に見えるところはありますが、あの方なら、もしかしたら、お誘いしたら、いらっしゃるかもしれませんね。招待状を出されてみてはどうですか?
非公式のお茶会でも、貴族の方は儀礼を重んじますから……」
なるほど、確かに貴族の間では、何かにつけ〝先触れ〟が必要だった。
「じゃ、みんなでまた近いうちにお茶会をするときに、クローナ・サンス嬢をご招待してみましょう」
「おいしいお菓子があるならいつでも呼んでよ」
「お菓子以外もすっごくおいしい。大食堂に負けてないね。また食べさせて!」
「楽しみですね」
みんな美味しくて楽しいお茶会は大好きみたいだ。
数日後、授業の後、クローナ・サンス嬢が、また私の前に立った。いつもの見慣れた仁王立ちだ。
「私も忙しい身ですが、正式なご招待を頂いたのですから、一度もお応えしないというのも失礼でしょう。お伺致しますわ」
そう言いながら、貴族らしく綺麗な花束を添えたカードを私に押しつけるように渡して、ちょっと赤くなりながら去っていった。
その態度とは裏腹にお返事のカードには
〝嬉しいご招待をありがとう。とても楽しみにしています〟
と、可愛らしい彼女の字で丁寧に書かれていた。
学生同士の気軽なお茶会にしたいという、私の意向も承知してくれ、当日は従者や立派な手土産などもなしでお願いしたい、ということも快諾してくれた。
(やっぱり、話せる人だと思うな、クローナ嬢)
今回のお茶会は、貴族のクローナ嬢にも楽しんでもらえるよう、少しだけいつもより豪華に設えてみようと思う。トルルたちの意向を聞いてみたところ、彼女たちも貴族のお茶会に興味はある様子だったので、どちらにとっても楽しい趣向にしようと思う。
サンス嬢が自分の侍従たちを連れてこないと言ってくれたので、セーヤとソーヤにみんなの侍従という雰囲気でサーブをしてもらうことにした。この2人の妖精さんたちは、その気になれば最高のサービスを提供してくれる。
「メイロードさまのためならば、しっかり努めさせて頂きます」
「お任せください。ダテに長く生きてませんよ。当日はつまみ食いも我慢します!」
力強い味方を得て、
(でもソーヤはつまみ食いすると思うけど……)
私は楽しくお茶会の準備に勤しんだ。
今回のお茶会では、貴族も庶民も等しく楽しめることが重要だ。
根っから貴族のお姫様であるクローナ嬢にも心地よく、全く貴族社会のしきたりや礼儀と接点のないトルルたちにも緊張せずに楽しんでもらわなければならない。
気を張らず楽しくお話ができるような仕掛けも考えた方が良いだろう。
私はソーヤにある調査を依頼し、その結果を基に色々と準備を進め、当日使えそうな料理の試作を始めた。
新しい料理に、ソーヤも大喜び。張り切ってお手伝いと試食役をしてくれた。
セーヤも、このお茶会のために新しい髪飾りを張り切って作ってくれているそうだ。
料理が固まってくるにつれ、私もなんだか楽しくなってきた。
(いいお茶会にして、みんな仲良くなれるといいな)
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