利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
230 / 840
3 魔法学校の聖人候補

419 夏休みの小旅行 シラン村

しおりを挟む
419

さすがに勉強漬けのまま新学期になってしまうのは悲しいので、小旅行のつもりで夏休みの間に、いろいろと気になっている場所を見て回ることにした。

まずはこっそりシラン村へ戻る。
実のところ、シラン村の家には雑貨店の雑務もあるし、大好きなマイ魔石温泉もあるので、ちょくちょく戻ってはいるのだが、家の外に出ることはなく戻っている。

(私はまだ旅に出ていることになっているしね)

状況についてはセーヤとソーヤが報告してくれていることもあり、私が突然戻るとどういう騒ぎになるか、もうだいたい想像がつくので《迷彩魔法》を駆使しながらの隠密視察をしてみることにした。

セーヤとソーヤには雑貨店の管理をお願いしているし〝メイロード・ソース〟についても村の事務局から随時報告書が上がってくるので、おおよその状況はわかっているが、自分の目で確認することも大事だと思う。

私は姿を消したまま、店のすぐ前にある村の広場に行き、告知の時のために設けられている高い台の上に登ってみた。

そこから見渡してみると、村の発展は目に見えて伝わってきた。住宅の数も増え、商店や工房も増え、人通りも多く、街の中心部はとても活気にあふれていた。清潔さも保たれていて、道路整備も相変わらず完璧なところを見ると、財政的な問題も特にないようだ。制服の子供たちも元気に走り回っている。
この制服は今も私からのプレゼントとして毎年きちんと届けているのだが、注文数が増えているところを見ると、学校の方も順調に子供達を受け入れているようだ。

そうそう、シラン村警備隊隊長のレストン・カラックさんにもようやく春がやってきたらしい。お相手は新しく警備隊に入ってきたこの村出身の女性冒険者だそうで、喧嘩しながらも仲良くやっているそうだ。

(よかったね、カラックさん)

盗賊団を捕まえた収穫祭、それに私の誕生日パーティーをした日は、〝秋の収穫祭〟〝夏の聖女祭〟となって定着しているそうで、村の掲示板には〝夏の聖女祭〟の模擬店で集まった寄付金の使い道についての情報や〝秋の収穫祭〟に向けての準備日程が張り出されていた。

(うーん、私の誕生日は〝聖女祭〟になっちゃったのか。まぁ、私の名前が出ていないだけマシだよね)

外から、私の雑貨店を見てみると、こちらもかなりの盛況で、常にお客様が出入りしている。時間によっては入場制限が必要になることもあるそうだ。

この雑貨店は他の店の出店の妨げにならないよう〝規模を広げない〟という方針で気を使って営業しているが、それでも売り上げは毎年倍以上になるペースで増加している。〝メイロード・ソース〟発祥の店として、近隣の村や町からも買い物にわざわざやってくる、この村の観光名所化しているというのも大きいが、何よりリピーターが多いため、客は増えることはあっても減ることがないという状況が続いている。

従業員からの情報によると、私がアンテナショップとしてこの店を使っているため、そういった他にない珍しい惣菜や食材を求めて、どこで噂を聞いたのかわからないが、こっそり貴族の厨房関係者も来ているという。そういう人たちは、やたらと根掘り葉掘り質問してくる上、大量に購入しようとするため、すぐわかるそうだ。

ちなみに、今でも村人優先が店の基本方針なので、他の方へ迷惑がかかるような大量購入はご遠慮頂いているし、どんな相手でも毅然と対応するよう従業員には徹底してもらっている。

従業員といえば、現在の私の店では〝メイロードの雑貨店〟という名前はそのままだが、《無限回廊の扉》からの品出しをセーヤに任せている以外は、日々の仕事のほとんどを村の方にお願いしている。ここで働く皆さんは優秀でとても士気が高く頼れるので、本当に助かっている。

この〝士気が高い〟理由については、どうもうちが優良企業で社員を大切にしている、ということだけではないらしい。
なんでも、私が従業員の制服がわりに作ったお揃いのカフェ風のエプロンを着ることが、この村ではある種のステータスになっているそうだ。

どうも、私が教会の設置を全力拒否してしまったせいで、この店が〝聖地〟化してしまっているようで、この店を利用したり働いたりすることが、村人たちにとっては教会へ行くようなものになっているらしい。
店を去らなければならなくなった従業員は、皆そのエプロンを買い取らせてくれというので、勤務最終日に名前を刺繍したエプロンを贈呈する卒業式のような行事も行われ、その式には見物人まであるという。

最近もひとりの追加募集に100人以上の応募があり、選考が大変だったそうだ。おかげで優秀な人たちがキビキビ働いてくれているので、とても助かっているが、私を崇めるような教会や施設を作らないでくれと懇願した影響がこんな形で出てくるとは思いもよらなかった。
なんとも気持ち的にこそばゆいことではあるが、地域密着型の雑貨店としては悪い影響ではないので、

(村の方々にはご愛顧頂いているようでなにより)

と思っておくことにする。

このような状況なので、先ほど言ったような大量買いを強引にしようとするような外様のお客様は、たとえ貴族をかさにきていようと権力をふりかざそうと、村人は誰ひとり怯まず従業員と客が一丸となって追い出してしまうらしい。

(強いなぁ、村の皆さん)

もちろん、基本的には何かトラブルがあればすぐセーヤもしくはソーヤが駆けつけるので、力比べになっても村人に怪我をさせるようなことにはならないし、ふたりは貴族対応にも慣れているのでおおごとになることはまずない。

私が消えたまま店に戻ってくると、そこではトラブルが起こっていた。

「この〝シュークリーム〟というもの、あるだけ全部買い取ろう。いくらだ!」

今、雑貨店のショーケースの前で、現在テスト販売中の新製品〝スワン・シュークリーム〟を3人の従者を連れた男性が買い占めようとしている。

(カスタードと生クリームのダブルクリームを使い、遊び心を出して白鳥のように見えるようシュー生地の首と頭をつけた新製品。バニラ・ビーンズがまだまだ貴重品のため、村でしか販売できないんだよね)

「お客様、申し訳ございません。こちらの商品は限定品でございまして、村の外から来られた方には人数分しかお売りできません」

従業員は、にこやかにピシッとお断りしている。

「バカなことをいうな。私たちはヘック伯爵家の者だぞ。村の人間と一緒にされては困る。すぐの用意するが良かろう」

「大変申し訳ございません。ですが、この店の方針は店主メイロード・マリスが決めたものでございます。たとえ皇族の方々であろうとも、優先されるのは、この村の方々なのでございます」

毅然として断り続ける従業員に、買い物に来ていた他の村人たちも、そうだそうだと声を揃える。

そこにセーヤが営業スマイルで登場。慇懃に礼をとって、真っ赤な顔で怒りを爆発させようとする男の耳元で囁く。

「店主であるメイロード・マリスは、サガン・サイデム様とご昵懇であるだけでなく、侯爵家そして皇族方ともお付き合いがございますが、皆さまご無理はおっしゃいませんよ。ここで狼藉を働かれれば、むしろご家名に傷をつけることになりましょうね」

「こ、皇族!!」

相変わらず、優雅で品のある態度を貫いたままセーヤは、3人分の〝スワン・シュークリーム〟を用意し、生物ナマモノなので〝マジックバッグ〟に入れないのであれば、本日中にお召し上がりくださいとにこやかに告げた。

男はセーヤの言葉に赤くなっていた顔を今度は青くしながら、若干震える手で金を払い商品を従者に受け取らせると店を後にした。

そして従業員たちはあくまで丁寧な態度でそれを見送った後、何事もなかったかのように仕事に戻っていった。

〔さすが、素晴らしい接客でしたね、セーヤ〕

私の念話にソーヤはクスリと笑ってこう返してきた。

〔すべては、メイロードさまのご指示でございましょう。それに何ひとつ嘘もございませんし…… 。
ああいう方達は、恐れているものがはっきりしているのである意味扱いやすいお客様ですよ〕

士気の高い従業員と有能な妖精さんのタッグで運営されているこの店は、どうやら安泰のようだ。

店の外にある喫茶スペースで嬉しそうに〝シュークリーム〟を頬張る男の子とお母さんを見ながら、私はシラン村の視察を終えた。
しおりを挟む
感想 3,006

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、 優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、 俺は必死に、置いていかれないようについていった。 自分には何もできないと思っていた。 それでも、少しでも役に立ちたくて、 誰にも迷惑をかけないようにと、 夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。 仲間を護れるなら… そう思って使った支援魔法や探知魔法も、 気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。 だけどある日、告げられた。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、優しさからの判断だった。 俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。 こうして俺は、静かにパーティを離れた。 これからは一人で、穏やかに生きていこう。 そう思っていたし、そのはずだった。 …だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。