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1巻
1-1
第一章 始まりの前に終わってしまった
「オバちゃん!」
(この世で聞く最後の言葉がそれかぁ)
うら若き二十二歳の未婚女子(彼氏なし)が、トラックに轢かれて死に際に、最後に聞く言葉が〝オバちゃん〟。
ああ、なんて私らしいのだろう。
名前が小幡初子だからなのだけど、私は昔からこのあだ名でしか呼ばれたことがない。私がこの〝オバちゃん〟生活を歩むことになったすべての発端は、
「あとはあなたがやって……」
という短い遺言を残し、小学一年生になったばかりの私に、祖母が家事一切すべてを丸投げして唐突に亡くなったことだ。まだ六歳の子供だった私に祖母がこんな遺言を残した理由は、わが家が普通の家とはかなり違う家庭環境によるのだが……
まず私の母、この人は私が生まれる以前から外では〝神の手〟とか〝聖母〟とか呼ばれていた優秀な小児科医だったのだが、家事能力が極めて低い上に、文句を言う隙もないほどの激務の毎日を過ごしている人だった。それでも祖母が亡くなるまでは、祖母とお手伝いさんが家事を担うことで私の家はきちんと管理されていた。
祖母は医師として活躍する母を誇りに思いつつも、私には同じ轍を踏ませたくなかったのか、物心がつく前から徹底的に家事を仕込み、母を助けられるよう教育した。それがあの遺言に繋がるわけだが、言われるまでもなく、あの母に任せたらどんなカオスになるか、骨身にしみて知っていた私が、なんとか日々の家事を回していくしかなかった。
しかも、わが家にはもう一人困った人物がいた。私の年子の弟だ。この子は小幡家に生まれた待望の男子だったため、祖母に溺愛された。そのため自分が常に一番大事にされなければ気のすまない暴君に育ち、私の仕事を増やすだけ増やして何もせず、一切の我慢ができなかった。当然、そんな弟のわがままに付き合いきれないお手伝いさんは居着かず、私の負担は日々増えていった。それでも何度も私に謝りながら、食事もそこそこに仕事へ向かう母を見ていると、とても弟の世話が嫌だとは言えなかった。
では父親はというと、こちらも母以上に激務の医師だった。戦地を渡り歩く人道派医療組織のエースだそうで(未だに実態はよく知らない)、埃っぽい荷物と一緒に帰ってきて、気がつくとその荷物とまたいなくなっていた。家にいる時は優しく頼りがいがあって尊敬できる父なのだが、ほとんど日本にいない上、連絡を取ることさえ困難な地域を行き来していたのだから、助けになるわけがなかった。
そんな状況なのに、私が九歳の時、母は双子の男の子を出産する。最初は、
「大丈夫、今度は私がしっかり育てるから!」
と、夢みるように豪語していた母だが、仕事に追いまくられて、あっという間に弟たちの世話も私に丸投げ。この人は、医師としては天才だったが、それ以外は何もかも適当なのだ。
その結果、私は学校の休み時間に弟たちの通園カバンを縫い、学校帰りにはネギの刺さったエコバッグを常に持ち歩き、部活もできず、家事と勉強で手一杯の日々を延々と送り続けた。
そして〝オバちゃん〟としか呼びようのないこのライフスタイルを貫いて私は成長していった。弟たちと母の面倒を見ながら、高校に入った頃にはクラスメイトから〝完全無欠の兼業主婦〟の称号を貰っていた私は、この春、地元の名門女子大の家政学部を首席で卒業した。はっきり言って楽勝だった。
そして明日、やっと家から離れ、教師となるべくこの町から遠く離れた着任先へ向かう。
母からは泣いて〝行かないで〟とすがられたが、さすがに就職を蹴ってまでは無理ということで納得させた。別にわが家はお金がないわけじゃないので、いまの弟たちの年齢ならお手伝いさんの力を借りればなんとかしのげると思う。双子の弟たちには、それなりに家事を仕込んだしね。
私にはやりきったという清々しい思いしかなく、一片の悔いもない旅立ちだった。
そんなめまぐるしく過ぎていった長い主婦生活のことを考え、物思いに耽っていると、いつの間にか見たことのないだだっ広い真っ白な空間にべたっと座っていた。足元にはテレビ映像のように、事故後らしい、見覚えのある光景が透けて見えている。
それはかなりショッキングな光景で、そこでは〝私〟が頭から血を流して倒れていて、その右手はトラックの下敷きになっていた。
倒れている私の横には、遠方へ引っ越してしまう前にケーキバイキングに行こうと誘ってくれた、数少ない友人である優子ちゃんが、なすすべなく泣きながら座り込んでいる。
(ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって……)
私がかばった男の子も泣きじゃくっているけど無事みたいだ。
(よかった。怪我がなくて、ほんとによかった)
トラックに突っ込まれる直前、私が見た運転席の人はハンドルにもたれかかるように倒れ伏していて、意識がないように見えた。駆けつけた救急車が、その運転手さんを運び去っていく。
(助かるといいけど……)
「そなたを轢き殺した男の心配とは、人が良いの」
振り返って声の方を見ると、すごく大きな人がいた。いや人のようだが、私からは足しか見えないほど巨大な何かだ。
「われが大きく見えているようだな。それは霊的なモノ、この世ならざるモノにそなたが畏怖の念を持ち、大事にしていることの表れであるよ。良い娘だ」
大きい人は笑っているようだけれど、その顔は霞むほど上方にあるのでよく見えない。
「そうか、話がしにくいのだな。ではこれで良いか」
どうやら心を読まれているらしいと思った次の瞬間、目の前にはどこかの宗教画で見たような現実感ないくらい美形の人が佇んでいた。
「私は死んだんですね」
「そうだな。この世界の小幡初子という存在はもういない」
淡々と言われてしまった。
(だよね。どう見ても死んでるよね)
下に見える惨状は、やはり自分に起きてしまったことなのだ。
「私はこれからどうなるんですか? 天国とか地獄とかそういうところへ行くのでしょうか」
そんな私の疑問への答えは思ってもみなかったものだった。
「そなた聖人にならぬか」
「聖人って……私になんの功績が?」
あまりに意外な展開に、考えが追いつかない。聖人って現世で修行したり功績があったりして祭り上げられる人のことだよね。ありえない、二十歳そこそこの私が聖人!?
「そんなに驚かずともよい。まぁ、祭り上げられている彼らの多くは聖人ではある。だが、人と〝多くを見るモノ〟は違うのだ。この世には、人の目には触れずとも尊き行いを続ける美しい魂を持つものが数多いる。そなたもそのひとり」
慈悲深いとでもいうのだろうか、温かい眼差しで私を見つめながら彼は言った。
「そなたの短い人生のほぼすべては自分以外の者のために捧げられていたな。手伝う者たちも音をあげて居つかない中、手を抜かず家族のために尽くした。見事な滅私であった。尊きことよ」
確かに思い返すだけでグッタリした気分になるぐらいの怒涛の日々だったけれど、母を尊敬もしていたし、医師として子供たちを救うために激務を続ける母に負担をかけたくなかった。家のことは私がやるしかなかったし、正直六歳の私のほうが、こと家事に関しては母よりまだマシだった。そこから始まった主婦生活は、私の妙な完璧主義と弟たちへの思いが暴走した結果だと思うよ。私に青春の思い出などひとつもないのは事実だけど……ね。
「お前の献身が、医師としての両親を完璧にサポートした結果、何千もの命が救われてきた。そしてな。お前がいま、救った子供なのだが……」
どうやら私が身を挺して事故から救った子供は、将来人類存亡の危機を救う鍵となる人物なのだそうだ。実は事故についても予言されており、子供を救うためにこの方が介入する予定だったのだが、不測の事態が起きて間に合わなかったらしい。
「そなたの滅私の行動が人類を救ったのだよ」
ちょっと、ちょっと待ってください! いいこと言った風に、また慈悲スマイルしてますが、あなたがちゃんとしていたら、ワタシ死なずに済んだのでは? やっと、やっと初めてすべてを自分のために使える日々がやってきたのにコレですか!? 子供は助けたかったから助けた。そのことに悔いはない。でも、こんなのあんまりだ!
「無理です。こんな気持ちで聖人なんて無理です! 私の人生を返して! いますぐ!」
私の背後からは、これまでの人生で一度もまとったことのない真っ黒なオーラが出ていると確信できた。
「さ、先ほど言ったように、この世界でのそなたの命脈は途切れてしまったのだ。私たちはお前のように清い心で人のために生きる者を常に探している。私たちと共に、人々を良き方向へ導く手伝いをしてはくれないか……だ、だめか?」
聖人にリクルートしようとした人物の真っ黒オーラに、さすがの慈悲スマイルも引きつり、目が泳いでいる。なおも睨み続け、威圧する私。
「では、転生してみてはどうでしょう」
張り詰めた空気を無視した感じで、上の方から涼やかな、のんびりした声が聞こえてきた。
「転生?」
今度は、スレンダーで女性的な物腰の、サラッサラの長い銀髪をなびかせた人が突然目の前に現れた。女子に人気の某歌劇団で大階段のセンターから降りてくる人みたいな、圧倒的なキラキラ感と神々しさ。
「そう、この世界とはかなり違う場所にはなりますが、人として転生させます。支援もできるだけ、加護もきっちり授けましょう。きっといままでとは違った楽しい生活が送れると思いますよ。でも、それを望むのであれば、あまり時間がありません。いますぐ決断してください。さあ、どうしますか?」
美人の極上スマイルの破壊力ってすごい。びっくりしすぎて怒りがどこかへいってしまった。本当にキラキラ輝いてるよ、眩しい。
突然の提案だけど、〝別の世界〟で生まれ変わって、人生をやり直すってことか。私が人として生きるには、もうその道しかないのだろうなぁ。実際、眼下に見える私は大量の血を流し、すでにこと切れている。〝オバちゃん〟はもういないのだ。
正直なところ〝転生〟が何なのかもよくわからない。
(まるでゲームの世界にでも入り込むみたいだ)
そう思っていると、女神様は見透かしたようにこう言った。
「ゲーム……ですか。なるほど、そういう理解ならばそれでいいでしょう。こちらもできるだけそなたが理解しやすいよう支援するつもりですよ」
支援がなんなのかよくわからないが、詳しく聞く時間はなさそうだ。それに仮にも人を聖人にリクルートするようなこの神様たちが私に嘘をつくとも思えない。よく内容はわからないが〝できるかぎりの支援〟という言葉は信じてもいい気はする。私は聖人になんてなりたくないし、ここでこのまま死んでしまいたくもない。
「転生でお願いします」
私がきっぱりとそう言うと、宗教画のような姿の方は少し残念そうな顔をしたが、銀の髪の美貌の女神(なんだろうな、多分)は、すっきりとした極上の笑顔を私に向けた。眩しいってば!
「あなたには新たな世界を生きてもらいましょう。私たちはあなたがここへ戻ってくる日を待っていますよ。良き人生を、人の子よ」
◆ ◆ ◆
(痛い! 痛い! 痛い!)
気がついた私は真っ暗な中、身体中の痛みと右腕の激痛に身悶えもできずにいた。狭い箱の中にいるようだが、状況がまったくわからない。
(痛い! 苦しい! 痛い!)
悲鳴や動物の叫び声が間断なく続き、体格のいい人たちがドスドスと急ぎ足で行き交うような振動が伝わってくる。その低く大きな振動が、私の痛みを倍加させ叫ぶ力もない。もう呼吸するのもツラくなってきた。右腕は確実に折れている。見えないけれど、切り傷や打ち身、捻挫もあると思う。鉄の匂いがして手にヌルッとした感触があるからおそらく出血もしている。耳鳴りがする。頭痛も酷い。
(動けない! 痛い! 寒い! 怖い!)
転生した瞬間に危機的状況にいるよ。神様! できるだけの支援があってこれって酷くないですか! 激痛の中で朦朧としながら悪態をついた次の瞬間、爆発音が響き、すさまじい衝撃と身体中の痛みが私の意識を奪った。
第二章 傷ついた聖人候補
カチャカチャ、カチャカチャ……
なんの音だろう。瓶……たくさんの瓶が触れ合うような音。いま、こうして横になっていると痛みはほとんどないが、全身がだるく、右腕も動かせない。いまの私には、少しずつ目を開けて周囲の様子を見ることぐらいしかできないようだった。眩しさに耐えながら、そろそろと開けた目の焦点が徐々に合ってきた時、目の前に居たのは試験管のようなガラス瓶の入った箱を運んでいるウサギだった。
(巨大な垂れ耳の……いやいや大きすぎる! しかも二足歩行!)
「お、目が覚めたね、メイちゃん」
状況が呑み込めず、まだうまく表情が作れないまま呆然としてしまう。そんな私に、優しげな笑顔で話しかけるその姿は、本格的すぎるウサギコスプレの人? という雰囲気で、鼻から口にかけてウサギっぽい感じはあるが、顔立ちはほぼ人、しかもすごく可愛い。
「こ……こは、どこ……なんでしょうか?」
(あれ? なんだこの声、子供みたい、あれ? 手が小さい、あれあれ?)
軽くパニック状態に陥った私を事件のショックによるものと解釈したらしいウサ耳美人さんは、私を抱き起こし背中をさすりながら、彼女の知っている事件のあらましを説明してくれた。
ここはシラン村。両親と私は、イスという都会の街に住み、生まれ故郷のこの村に数年に一度帰省していた。今回も馬車で十日の旅は順調だった。ところが、村まで半日の距離に来た時、突然、数人の野党に襲われた。馬車についていた護衛の善戦でなんとか活路が開けそうに思えた直後、事態はさらによくない方へ動いた。近くを徘徊していた凶暴なオークの群れが血の匂いで刺激されて強襲をかけてきたのだ。そこからは野党たちも巻き込んだ血で血を洗う乱戦。満身創痍で逃げ延びた護衛のひとりの知らせを受け、オーク討伐隊が駆けつけた時には、護衛たちも馬車にいた人間も誰も生きてはいなかった。椅子の下の隠し箱にいた瀕死の幼女を除いて……
目に涙を浮かべながら、なんとかショックを与えないよう気遣ってくれているウサギの人には悪いのだが、私は状況を聞いて冷静になっていた。
(なるほどねー。転生ってどうなるのかと思ったら、ほかの人に入れられちゃったんだ)
私がいま入っているこの躰の主は〝メイロード〟という名の六歳の女の子だという。彼女はおそらく野党の襲撃に巻き込まれた時、すでに事切れていたのだろう。そんな悲劇に見舞われた魂の脱け殻に私の魂を無理やりねじ込んだ、ということらしい。
(もう一度、六歳からやり直しかぁ)
いつのまにか号泣しながら抱きしめてくれているウサギのお姉さんの慰めの言葉を耳に、私はこれからどうしたものか、と小さな手をグーパーしつつ、ぼんやり考えていた。
目が覚めてから一週間ほどが過ぎた。
私の怪我は酷いものだったらしいが、発見後すぐにウサギのお姉さん――ハルリリさんの治療が受けられたため、奇跡的に後遺症もなく回復できた。もっとも、五日間目を覚まさなかったようだけど。腕が治るまで、それほど時間はかからないそうだ。絶対折れていたのに、いまでは普通に動くようになっている。
「魔法ってすごい」
手を動かしながら、いままでいた世界ではないことを実感する。
「ごめんね。もう少し薬が充実していたらもっと早く治せたんだけどね」
美人垂れ耳ウサギの人、改め、村のヒーラー兼薬局店主、エルフの血も引くという不思議な獣人ハルリリさんが、たくさんの薬草を選別しながら、ちょっと困ったような顔で答えてくれる。
「私のヒーラーとしての腕は、中の下ぐらいだから、回復薬を併用しても、メイちゃんほどの大怪我だと簡単にはいかないんだよね」
「でも、田舎の村にヒーラーさんが常駐していること自体かなり珍しいって、さっき薬を取りに来た方が教えてくれました。私は運がいいって……」
「家族を一度に失った子に〝運がいい〟なんてどこの馬鹿よ!」
ハルリリさん、机を思いっきり叩いて怒っている。本当に優しい人だ。
「ハルリリさん〝夢見草〟の葉が潰れて落ちてます。そんな、大事じゃないですから。私が助かっただけでも奇跡のような幸運だったのはわかっていますから……」
怒って振り上げたハルリリさんの手から床に散らばった葉っぱを拾って、机の上の箱に戻す。
(ハルリリさんはそう言うけど、この躰にいた子は亡くなっているからね。いまここに私がいるのは、無理やり起こした奇跡、反則技の〝転生〟なんだよ)
そんなことを考えながら、私はほぼ無意識に机の上の箱の整理を始めてしまう。
「メイちゃん、都会っ子なのに薬草に詳しいのね。〝夢見草〟は田舎ではそう珍しくないけど、イスみたいな街中では見ないのに」
(え? あ? 確かに、なんで知ってるんだろう、こんなこと)
改めて〝夢見草〟を見ると、私の目の前にマンガの吹き出しみたいなものが現れた。
〉夢見草――微弱な魔力を含む多年草・眠りに関する薬品材料・可食
続けて机の上の別の薬草をじっと見る。
〉マンビョウの実――マンビョウの木から取れる赤い実・強い苦味がある・内臓疾患系に効果のある薬品材料・可食
〉ポンポン草――花葉ともに香りが良く茶としての利用が一般的・薬品材料・可食
じっと見ると説明が見える! なにこれ!
「あらら、この〝マンビョウの実〟ガンド山脈産だぁ。苦味が強すぎて配合が面倒なんだよね。どうしようかなぁ」
どうやらハルリリさんも、私と同じようにこの吹き出しで情報を見ているようだ。
「産地まで、わかるんですか?」
「あ、これ《鑑定》っていうスキルがあるんだよ」
「スキル?」
「自分が持っている能力だよ。生まれつき持っている人も多いし、そうでなくとも学ぶことで習得可能なの。だけど習熟度が低いままで諦めてしまうことが多いから、使い物になる人は少ないんだよね。私のレベルだと、産地や効能、おおよその価値も調べられるんだよ。薬を作るには必須なんだ」
ハルリリさんは、ヒーラーより薬作りがメインの仕事のようだ。
「達人レベルになると、他人まで《鑑定》できるらしいよ。ヒーラーとしては欲しい能力だけど、自分を見るようには簡単じゃないからね」
(え、自分を鑑定?)
とりあえず私には《鑑定》スキルがあるみたいだけど、ハルリリさんほど詳しくは見えていない。そもそも習熟度ってなんだろう。
「あの、習熟度ってなんですか」
「ああ、《鑑定》の場合、たくさんの《鑑定》をすることで習熟度を上げて、スキルを磨く必要があるんだけどね。特に新しいものの《鑑定》には魔法力が多く必要で、迂闊にするのは危ないよ。体力と同じで、外で魔法力切れを起こすと倒れたりして危険でしょ? ほとんどの人は元々の魔法力が少ないから、使えるレベルに達するほどの《鑑定》スキルまでは、なかなか上げられないのよね」
「魔法力って重要なんですね」
「攻撃的な魔法もあるけど、こういう地味なスキルにも魔法力のあるなしは大きく影響するよ。エルフに比べると、魔法の素質のある人は少ないから、大きな魔法力を持つ人は尊敬されるけど、その分面倒も多いよね」
魔法力があるっていいことだけじゃないことは察したけど、できることがはっきりしないと、これからのことも決められない。
(っ……て、そもそも子供の私に自活ってできるんだろうか?)
とにかく、自分の状態を把握するためにもあとで自分の《鑑定》をしてみよう。
「《鑑定》」
これが正しいのかわからないけれど、取り敢えずやってみようと、寝る前にベッドの上で自分の胸に手を当てて言ってみた。
(あ、吹き出し出た)
メイロード・マリス 6歳
HP:20(-5)
MP:1000
スキル:鑑定・緑の手・癒しの手・無限回廊の扉
ユニークスキル:生産の陣・異世界召喚の陣
加護:生産と豊穣
字名:護る者
属性:全属性耐性・全属性適性
(……………?)
ほとんど意味はわからないが、見覚えがある表示だ。なんだかゲーム画面で見た表示に似ている気がする。
そもそも私はゲームにはあまり詳しくはない。それでも、弟たちが夢中になってゲームをしている様子を横で洗濯物を畳みながら見たことはある。弟たちは説明したがりで、私にいろいろ教えながらゲームをしていたので、基本的なルールぐらいは把握できているはず。ステータスというのが持っている能力を表すもので、重要な情報だということも教えてもらった。
いま私の目の前に浮かび上がっているこの表示が、おそらく私のステータス。HPというのが体力でMPというのが魔法力だと思う。弟たちがRPGという戦って自分を成長させるゲームをしていた時、HPが足りないとかMPの回復が遅いとか言っていた。
おそらく、この解釈で合っているとは思うが、だとすると体力があまりにも低い。基準はわからないけれど低いことはわかる。括弧の中のマイナスは怪我のせいかな。子供の上に病み上がりならば、こんなものなのかもしれない。
魔法力の1000は高いのだろうか? どうなの? 体力と比較すると、すごく高い気もするが、これも基準を知らないので判断しようがない。
ともかく、わかる範囲でこの画面に表示された内容について考えてみよう。
《鑑定》……これを使うと、いろいろなものについて知識が得られるようだ。ここではなんの情報も持たない私にはありがたい能力だ。六歳までの記憶もなく、この世界の基礎知識がないに等しい私には生命線だと思う。できるだけ早く高めたほうがいいだろう。
《緑の手》……これはなんだろう。確か植物を育てるのが上手な人のことをそんな風に言うのじゃなかったっけ。具体的に何ができるのか。考えてもわからないので、保留。
《癒しの手》というのは、なんとなくわかる。ハルリリさんの癒し治療《ヒール》みたいなものかな? これも試してみよう。あ、でも病気や怪我をした人がいないと検証不可か。魔法力のことは、なるべく人に知られたくないし、自分で自分を治せるのかもわからないし、結講面倒だ。検証は保留にしておこう。
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