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4 聖人候補の領地経営
645 二日目の攻防
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645
〝パレス菓子博覧会〟二日目が始まった。今日も快晴、絶好の行楽日和だ。会場入口前の行列は昨日より更に膨れ上がっており、警備からはすでに入場制限があるかもしれないことが、並んでいる人たちにアナウンスされている状況。今日も混雑は必至、組織票と関係のないお客様がたくさん来場してくださることは、私たちの陣営にとって喜ばしい状況なのだが、そのかわり昨日以上の忙しさを覚悟しなければならない。
(今日も戦争ね。よし、やるぞ!)
頬をピシャンと両手で打って気合を入れた私は、みんなの前に立つ。
「この〝パレス菓子博覧会〟は残すところ二日です。この二日間に〝カカオの誘惑〟の命運、そしてこの店の名前をつけてくださった正妃様の名誉がかかっています。ですが気負うことはありません。私たちはただ誠実にお客様と向かい合い、私たちのお菓子を楽しんでいただけるよう全力を尽くすのみです。そして、その先に私たちの勝利があるのです!」
私は朝礼でみんなに檄を飛ばし、この二日間を乗り切ろうと話した。みんなのモチベーションは高く保たれているし、調整役のキッペイがいい仕事をしてくれているため、昨日よりさらにいい雰囲気だ。
おかげさまで開門直後から〝カカオの誘惑〟の屋台は大行列となっている。昨日買えずに帰られた方々のための列にもかなりの方が並び始めている。二日続けて並んでもらえるとは、ありがたいことだ。
「どう? 二度目の購入のために並ぶ人の数は少しは減った?」
行列の整理をしていた売り子さんに、昨日配った一度この屋台で購入されて再度並ばれている方向けの、この会場で買わなくとも〝カカオの誘惑〟で後日半額で購入できる判が押されたチケットが機能しているかを聞いてみると、効果は覿面だったようだ。
(まぁ、この菓子博覧会はお祭り騒ぎだけあって、ものすごい行列だからね。好きな時に買いに行けるなら、そのほうがいいよね。その分ほかの店も回れるし……)
昨日打った対策が、順調に機能して、屋台の売り上げは加速していく。私も今日はチョコレート色のエプロンドレスでお客様対応。チョコレート色でお菓子の形の飾りがたくさんついた可愛いカチューシャをセーヤが作ってくれたので、それも装着。店のみんなも〝破壊力抜群です!〟と太鼓判を押してくれた、このあざといまでの可愛さで出陣だ。
(もう、使えるものは何でも使いますよ! 美少女パワーでもなんでも!)
笑顔の私は、みんなと一緒に子供たちに可愛くデコレーションした鈴カステラを渡したり、お菓子を振る舞ったりと忙しく働いた。
怒涛の午前中が過ぎ、お昼を回る時間になると、キッペイから
「しっかり休憩するように!」
という厳しいお達しがあり、私は後ろ髪を惹かれつつも一時戦線を離脱した。キッペイは私の体力なしをよく知っているので、無理をさせないようものすごく気を使ってくれる。さすがにもう昔ほど弱くはないけれど、たしかにこのところ準備やら何やらで深夜までの作業が続いているので、キッペイの心配はごもっとも。ここで私が倒れるのが、かなりまずい事態なのも確かだ。
「じゃ、少しだけ休憩するね」
私は後方に下がり、休憩用のスペースで椅子に腰掛けた。すると顔の前に何やら薄い木を使った簡易皿が差し出された。差し出している人の顔を見ようと振り返ると、そこにはサイデムおじさま。
「本当に昨日の今日で屋台を作ったんですか?! レシピと麺は提供しましたけどよく準備しましたねぇ」
おじさまはフンっと鼻を鳴らして得意げだ。
「俺を誰だと思ってる! 絶対儲かると言われてやらずにいられるわけがなかろう! おかげでうちの屋台も行列だ。けっこういい値段をつけてるんだが、お祭りってやつは財布の紐がゆるむ……なかなかいい商売だ」
昨日の飲み物屋台の売り上げと人の多さを見て、屋台を増強することにしたというおじさまに、簡単に作れてうまい屋台向きの料理はないかと聞かれたので〝焼きナポリタン〟のレシピと《無限回廊の扉》に備蓄してある生麺の提供を申し出たのだ。
「報酬は麺の提供代も含めて、純益の三割でいいですよ。今回はお祭りを盛り上げてもらう意味でも、おじさまに稼いでいただいたほうがいいですから、大盤振る舞いです! あ、ソースはメイロード・ソースを買って使ってくださいね」
昨日の夜、茹でた麺を鉄板で焼いて仕上げるトマトソースのパスタ〝焼きナポリタン〟の試作品を食べたおじさまは即決で今日からの菓子博にこの屋台を出すことを決めた。
「トマトソースに少しだけ食べるラー油を入れるのがコクを出すコツですね。でも、ふたつのソースを使うだけだから簡単ですし、ゆるんだ麺も焼くと締まるので、たくさん茹でても大丈夫だから大量調理向きなんですよ」
おじさまはあっという間に二皿を完食して、口の周りをトマトソースだらけにしながら、すぐにあちこちに指示を出し、今日に間に合わせてきた。
(さすが、商機は逃さないね)
私は太めの麺で食べ応えのある焼きナポリタンを頂きながら、おじさまに会場の様子を聞いた。
「どこの店も賑わっているぞ。ここに出店しているのはみんな味自慢の店だし、固定客もあるからな。だが、お前のところがダントツだ。忌々しいことに〝金の小箱〟にもたしかにかなりの人数が並んでいるが、こことは比べものにならん。それに、どうも不思議なんだが〝金の小箱〟で買ったクッキーを食べている客の多くが、なんだか妙な顔をしていたんだ。
あれは、いったいなんなのか。ちょっと不思議でな……」
おじさまの商売人らしい細かい観察眼に驚きながら、私はナポリタンを口の運びつつニンマリと笑った。
(よしよし、こちらのあの作戦、ちゃんと効き目があったみたいね)
〝パレス菓子博覧会〟二日目が始まった。今日も快晴、絶好の行楽日和だ。会場入口前の行列は昨日より更に膨れ上がっており、警備からはすでに入場制限があるかもしれないことが、並んでいる人たちにアナウンスされている状況。今日も混雑は必至、組織票と関係のないお客様がたくさん来場してくださることは、私たちの陣営にとって喜ばしい状況なのだが、そのかわり昨日以上の忙しさを覚悟しなければならない。
(今日も戦争ね。よし、やるぞ!)
頬をピシャンと両手で打って気合を入れた私は、みんなの前に立つ。
「この〝パレス菓子博覧会〟は残すところ二日です。この二日間に〝カカオの誘惑〟の命運、そしてこの店の名前をつけてくださった正妃様の名誉がかかっています。ですが気負うことはありません。私たちはただ誠実にお客様と向かい合い、私たちのお菓子を楽しんでいただけるよう全力を尽くすのみです。そして、その先に私たちの勝利があるのです!」
私は朝礼でみんなに檄を飛ばし、この二日間を乗り切ろうと話した。みんなのモチベーションは高く保たれているし、調整役のキッペイがいい仕事をしてくれているため、昨日よりさらにいい雰囲気だ。
おかげさまで開門直後から〝カカオの誘惑〟の屋台は大行列となっている。昨日買えずに帰られた方々のための列にもかなりの方が並び始めている。二日続けて並んでもらえるとは、ありがたいことだ。
「どう? 二度目の購入のために並ぶ人の数は少しは減った?」
行列の整理をしていた売り子さんに、昨日配った一度この屋台で購入されて再度並ばれている方向けの、この会場で買わなくとも〝カカオの誘惑〟で後日半額で購入できる判が押されたチケットが機能しているかを聞いてみると、効果は覿面だったようだ。
(まぁ、この菓子博覧会はお祭り騒ぎだけあって、ものすごい行列だからね。好きな時に買いに行けるなら、そのほうがいいよね。その分ほかの店も回れるし……)
昨日打った対策が、順調に機能して、屋台の売り上げは加速していく。私も今日はチョコレート色のエプロンドレスでお客様対応。チョコレート色でお菓子の形の飾りがたくさんついた可愛いカチューシャをセーヤが作ってくれたので、それも装着。店のみんなも〝破壊力抜群です!〟と太鼓判を押してくれた、このあざといまでの可愛さで出陣だ。
(もう、使えるものは何でも使いますよ! 美少女パワーでもなんでも!)
笑顔の私は、みんなと一緒に子供たちに可愛くデコレーションした鈴カステラを渡したり、お菓子を振る舞ったりと忙しく働いた。
怒涛の午前中が過ぎ、お昼を回る時間になると、キッペイから
「しっかり休憩するように!」
という厳しいお達しがあり、私は後ろ髪を惹かれつつも一時戦線を離脱した。キッペイは私の体力なしをよく知っているので、無理をさせないようものすごく気を使ってくれる。さすがにもう昔ほど弱くはないけれど、たしかにこのところ準備やら何やらで深夜までの作業が続いているので、キッペイの心配はごもっとも。ここで私が倒れるのが、かなりまずい事態なのも確かだ。
「じゃ、少しだけ休憩するね」
私は後方に下がり、休憩用のスペースで椅子に腰掛けた。すると顔の前に何やら薄い木を使った簡易皿が差し出された。差し出している人の顔を見ようと振り返ると、そこにはサイデムおじさま。
「本当に昨日の今日で屋台を作ったんですか?! レシピと麺は提供しましたけどよく準備しましたねぇ」
おじさまはフンっと鼻を鳴らして得意げだ。
「俺を誰だと思ってる! 絶対儲かると言われてやらずにいられるわけがなかろう! おかげでうちの屋台も行列だ。けっこういい値段をつけてるんだが、お祭りってやつは財布の紐がゆるむ……なかなかいい商売だ」
昨日の飲み物屋台の売り上げと人の多さを見て、屋台を増強することにしたというおじさまに、簡単に作れてうまい屋台向きの料理はないかと聞かれたので〝焼きナポリタン〟のレシピと《無限回廊の扉》に備蓄してある生麺の提供を申し出たのだ。
「報酬は麺の提供代も含めて、純益の三割でいいですよ。今回はお祭りを盛り上げてもらう意味でも、おじさまに稼いでいただいたほうがいいですから、大盤振る舞いです! あ、ソースはメイロード・ソースを買って使ってくださいね」
昨日の夜、茹でた麺を鉄板で焼いて仕上げるトマトソースのパスタ〝焼きナポリタン〟の試作品を食べたおじさまは即決で今日からの菓子博にこの屋台を出すことを決めた。
「トマトソースに少しだけ食べるラー油を入れるのがコクを出すコツですね。でも、ふたつのソースを使うだけだから簡単ですし、ゆるんだ麺も焼くと締まるので、たくさん茹でても大丈夫だから大量調理向きなんですよ」
おじさまはあっという間に二皿を完食して、口の周りをトマトソースだらけにしながら、すぐにあちこちに指示を出し、今日に間に合わせてきた。
(さすが、商機は逃さないね)
私は太めの麺で食べ応えのある焼きナポリタンを頂きながら、おじさまに会場の様子を聞いた。
「どこの店も賑わっているぞ。ここに出店しているのはみんな味自慢の店だし、固定客もあるからな。だが、お前のところがダントツだ。忌々しいことに〝金の小箱〟にもたしかにかなりの人数が並んでいるが、こことは比べものにならん。それに、どうも不思議なんだが〝金の小箱〟で買ったクッキーを食べている客の多くが、なんだか妙な顔をしていたんだ。
あれは、いったいなんなのか。ちょっと不思議でな……」
おじさまの商売人らしい細かい観察眼に驚きながら、私はナポリタンを口の運びつつニンマリと笑った。
(よしよし、こちらのあの作戦、ちゃんと効き目があったみたいね)
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