838 / 840
6 謎の事件と聖人候補
1026 蕎麦で一杯
しおりを挟む
1026
まずは打ち立てのお蕎麦を味わってもらいたいので、博士の話は食事をしながらということにして、私とソーヤは準備を進めた。
(なんといってもお蕎麦は挽きたて、打ちたて、茹でたての〝三たて〟が一番美味しいからね。よし、手早く作っていくよ!)
グッケンス博士とついでにセイリュウにも、まずはクラフトビールをよく冷えたグラスでお出しした。アテには黄身の味噌漬けや大根おろしをたっぷり添えた卵焼きといったお蕎麦屋さん風のおつまみを追加。帰ってきた直後は眉間に皺を刻んでいた博士も、いまはペールエールを楽しみながら緊張の解けた表情でセイリュウと何やら話し込んでいる様子だ。
私が手早く天ぷらを揚げ、ソーヤが蕎麦を鮮やかな手さばきで茹で上げたら、いよいよ夕食の開始だ。
「さあ出来立ての十割蕎麦と天ぷら盛り合わせです。召し上がれ!」
話し込んでいたふたりも嬉しそうに目の前に並べられた蕎麦と天ぷらに目を移した。
「おお、これはうまそうじゃな」
「十割蕎麦は難しいって言ってたよね。腕をあげたんだ。楽しみだな」
「ええ、メイロードさまおすすめの今回の蕎麦は、正真正銘の蕎麦粉十割でございます。ズルズル。
この美しい見た目と素晴らしい歯応え! 清涼感のある爽やかな香りが素晴らしいです。ズルルルズル。
もちろんこの地味に溢れた野菜、新鮮な貝やエビの天麩羅の美味しさが、揚げたてのホクホクで、サクサクで……」
すべてを秒速で口に入れながらの、いつものソーヤの情熱解説を聞きながら、いい香りのお蕎麦を楽しんでいると、グッケンス博士が難しい顔で帰ってきた理由を教えてくれた。
「実はのぉ……例の〝巨大暴走〟のときに〝四双竜〟を仕留めた方法をどうしても教えろと軍部がうるさくてのぉ……」
「あー、アレですか」
箸を止めた私は思わず声を出した。
あのときダンジョンのラスボスに強力な魔法つきで巨大な杭を超高速で打ち込んだ攻撃……あれはキングリザードの〝銀の骨〟の研究の成果だ。
(あの〝銀の骨〟研究を進めてみたら、いろいろまずいってわかっちゃったんだ。あのとき、こりゃ強力すぎて軍部に目をつけられそうだから発表できない、と諦めて封印したんだよね)
〝魔法力〟の増幅と分配を同時に行えるということがわかった〝銀の骨〟は究極の兵器になる可能性を秘めてはいるが、その核となる〝銀の骨〟は一回使い切りで、しかもキングリザード一匹から二個しか得られない。それでなくとも現存数の少ないキングリザードを、しかもかなりの危険を犯して討伐しなければ得られない珍しいものなのだ。あの実験のあとも高価買取依頼を出し続けて博士が集めてくれた〝銀の骨〟を加えても結局状態の良いものは十六個しか集まらなかったし、それ以後まったく増えていない。それも私が実験ですでに十二個使っているので、使える〝銀の骨〟の残りはもう四個しかない状況だった。
グッケンス博士は『一度きりしか使えない魔法』だと誤魔化すことで終わらせられると思っていたのに、何度も何度もあの攻撃の秘密について蒸し返されて困惑しているという。
「あれはもう再現不可能だと告げて、そこで話は終わりだと言ったのだが、それなら再現が不可能であるということを示してほしいと食いつかれてなぁ……」
多くの兵士の目の前で、とてつもない威力の武器による攻撃を見せられた軍部は、どうしてもそれをそのままにしておけなかったのだろう。それは、わからないでもなかった。
(もしそれが、グッケンス博士以外の誰かにも再現可能な武器であったら、それはシド帝国の危機につながるかもしれないからね。まぁ、実際、それは私が研究した結果だったりするし……)
「〝四双竜〟をなるべく被害なく確実に倒すためには、あの方法しかなかったと思うので、使ったことに後悔はないですが、どうにも面倒なことになっちゃいましたね」
「とりあえず、わしは資料として〝銀の骨〟を保管するため、残り三個のうちひとつは貰うぞ。それから〝四双竜〟に使った一個、あと残りはふたつだ。メイロードの研究資料とそれを軍部に渡して、どうするかは奴らに決めさせるしかないかのぉ」
「そうですね。ただ、あのときの威力が出せたのは私が《増幅》の魔法を重ねがけしたっていうのもあるんですよ……」
「奴らもたった二個の〝銀の骨〟では実験もおいそれとはできなかろうし、その秘密には辿り着けんじゃろう」
「そうですよね……そうであってもらわないと……」
私は机に取り出したふたつの〝銀の骨〟を見ながら、明日軍部と話をするという博士の上首尾を祈るしかなかった。
まずは打ち立てのお蕎麦を味わってもらいたいので、博士の話は食事をしながらということにして、私とソーヤは準備を進めた。
(なんといってもお蕎麦は挽きたて、打ちたて、茹でたての〝三たて〟が一番美味しいからね。よし、手早く作っていくよ!)
グッケンス博士とついでにセイリュウにも、まずはクラフトビールをよく冷えたグラスでお出しした。アテには黄身の味噌漬けや大根おろしをたっぷり添えた卵焼きといったお蕎麦屋さん風のおつまみを追加。帰ってきた直後は眉間に皺を刻んでいた博士も、いまはペールエールを楽しみながら緊張の解けた表情でセイリュウと何やら話し込んでいる様子だ。
私が手早く天ぷらを揚げ、ソーヤが蕎麦を鮮やかな手さばきで茹で上げたら、いよいよ夕食の開始だ。
「さあ出来立ての十割蕎麦と天ぷら盛り合わせです。召し上がれ!」
話し込んでいたふたりも嬉しそうに目の前に並べられた蕎麦と天ぷらに目を移した。
「おお、これはうまそうじゃな」
「十割蕎麦は難しいって言ってたよね。腕をあげたんだ。楽しみだな」
「ええ、メイロードさまおすすめの今回の蕎麦は、正真正銘の蕎麦粉十割でございます。ズルズル。
この美しい見た目と素晴らしい歯応え! 清涼感のある爽やかな香りが素晴らしいです。ズルルルズル。
もちろんこの地味に溢れた野菜、新鮮な貝やエビの天麩羅の美味しさが、揚げたてのホクホクで、サクサクで……」
すべてを秒速で口に入れながらの、いつものソーヤの情熱解説を聞きながら、いい香りのお蕎麦を楽しんでいると、グッケンス博士が難しい顔で帰ってきた理由を教えてくれた。
「実はのぉ……例の〝巨大暴走〟のときに〝四双竜〟を仕留めた方法をどうしても教えろと軍部がうるさくてのぉ……」
「あー、アレですか」
箸を止めた私は思わず声を出した。
あのときダンジョンのラスボスに強力な魔法つきで巨大な杭を超高速で打ち込んだ攻撃……あれはキングリザードの〝銀の骨〟の研究の成果だ。
(あの〝銀の骨〟研究を進めてみたら、いろいろまずいってわかっちゃったんだ。あのとき、こりゃ強力すぎて軍部に目をつけられそうだから発表できない、と諦めて封印したんだよね)
〝魔法力〟の増幅と分配を同時に行えるということがわかった〝銀の骨〟は究極の兵器になる可能性を秘めてはいるが、その核となる〝銀の骨〟は一回使い切りで、しかもキングリザード一匹から二個しか得られない。それでなくとも現存数の少ないキングリザードを、しかもかなりの危険を犯して討伐しなければ得られない珍しいものなのだ。あの実験のあとも高価買取依頼を出し続けて博士が集めてくれた〝銀の骨〟を加えても結局状態の良いものは十六個しか集まらなかったし、それ以後まったく増えていない。それも私が実験ですでに十二個使っているので、使える〝銀の骨〟の残りはもう四個しかない状況だった。
グッケンス博士は『一度きりしか使えない魔法』だと誤魔化すことで終わらせられると思っていたのに、何度も何度もあの攻撃の秘密について蒸し返されて困惑しているという。
「あれはもう再現不可能だと告げて、そこで話は終わりだと言ったのだが、それなら再現が不可能であるということを示してほしいと食いつかれてなぁ……」
多くの兵士の目の前で、とてつもない威力の武器による攻撃を見せられた軍部は、どうしてもそれをそのままにしておけなかったのだろう。それは、わからないでもなかった。
(もしそれが、グッケンス博士以外の誰かにも再現可能な武器であったら、それはシド帝国の危機につながるかもしれないからね。まぁ、実際、それは私が研究した結果だったりするし……)
「〝四双竜〟をなるべく被害なく確実に倒すためには、あの方法しかなかったと思うので、使ったことに後悔はないですが、どうにも面倒なことになっちゃいましたね」
「とりあえず、わしは資料として〝銀の骨〟を保管するため、残り三個のうちひとつは貰うぞ。それから〝四双竜〟に使った一個、あと残りはふたつだ。メイロードの研究資料とそれを軍部に渡して、どうするかは奴らに決めさせるしかないかのぉ」
「そうですね。ただ、あのときの威力が出せたのは私が《増幅》の魔法を重ねがけしたっていうのもあるんですよ……」
「奴らもたった二個の〝銀の骨〟では実験もおいそれとはできなかろうし、その秘密には辿り着けんじゃろう」
「そうですよね……そうであってもらわないと……」
私は机に取り出したふたつの〝銀の骨〟を見ながら、明日軍部と話をするという博士の上首尾を祈るしかなかった。
1,240
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
2025.10〜連載版構想書き溜め中
2025.12 〜現時点10万字越え確定
よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて
碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。
美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。
第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。