無表情だけどクラスで一番の美少女が、少しずつ俺に懐いて微笑むようになっていく

猫正宗

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青い空と赤面するアリス

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 1限目と2限目の合間の休憩時間。

 特に話す相手もいない俺は、いつも通り机に突っ伏して居眠りをしながら、時間が過ぎるのを待っている。

 今日も、昼になったらアリスを誘いに行こう。

 そんなことを考えてウトウトしていると、急に教室がガヤガヤし始めた。

「……なんだ?
 騒がしいな」

 顔を上げてクラスメートたちの見ているほうに、俺も目を向ける。

 すると彼らの視線を追った先、教室の後ろの扉に、可憐な金髪美少女の姿があった。

 西澄アリスだ。

 俺と目があったアリスは、扉に半分くらい身を隠しながら、ちょいちょいと手招きをしてくる。

 席を立ち、彼女の元へと向かった。

「どうしたアリス。
 E組までくるなんて初めてじゃねぇか」

「大輔くんに用事がありまして。
 今日のお昼は空いていますか?」

「ん?
 昼はお前と一緒に、学食でもと思ってたが」

「……そうですか。
 それなら、ちょうど良かったです。
 大輔くん。
 今日は屋上でお昼ごはんを食べませんか?
 わたし、お弁当を持ってきましたので」

「ああ、いいぞ。
 なら俺は購買でパンでも買うことにするわ」

 アリスがゆるゆると首を振る。

「……大輔くんのぶんもあります。
 作ってきました。
 だからパンは買わなくても大丈夫です」

「まじか⁉︎
 アリスの手料理か?」

 思わず声を張り上げてしまう。

 するとアリスは少し頬を赤らめて、こくりと頷いた。

「じゃあ、約束です。
 お昼に屋上で」

「おお!
 すっげぇ楽しみだな!」

 アリスはもう一度頷いてから、そそくさとA組へと戻っていった。

 やっぱりちょっと恥ずかしかったらしい。

 彼女が見えなくなるまで後ろ姿を見送ってから、俺も席に戻る。

 振り返るとE組のやつらが驚いた顔で見つめてきた。

「い、いまのってA組の西澄だろ?
 やっぱり可愛いなぁ……。
 北川とどんな関係なんだ」

「知らねえよ。
 お前、北川に直接聞いてこいよ」

「む、無理だって。
 機嫌を損ねたら、なにされるかわからないって言うし」

「北川のことだし、まさか500円で言うことを聞かせていたり……」

「バッカ。
 ただの噂だろ、それ」

 急にクラスのやつらが騒がしくなるも、誰も俺には話しかけてこない。

 俺はクラスメートのことは特段気にもせず、昼に想いを馳せながら、上機嫌に椅子の背もたれに体を預けた。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 屋上にやってきた。

 今日の天気は快晴で、青く高い空には真っ白な雲が浮かんでいる。

「ここにしましょう」

 アリスが持参してきたレジャーシートを敷いた。

 ふたり用のそのシートに、小さな弁当と大きな弁当を並べる。

 屋上には俺たち以外にもグループで昼食を食べている生徒が散見できたが、レジャーシートまで敷いているのは俺たちだけである。

 気分はまるでピクニックだ。

「用意できました。
 座って下さい」

「あんがとよ」

 シートに腰を下ろし、向かい合ったアリスから大きいほうの弁当箱を受け取る。

 ふたを開けると、中身はオーソドックスな弁当だった。

 白いごはんが半分で、もう半分は色とりどりのおかず。

 出し巻き卵に、タコさんウィンナーに、小さなミートボール。

 どれも好きなおかずだ。

「どうぞ、召し上がってください」

「おう。
 んじゃ、いただきます!」

 白米と一緒に出し巻き卵を頬張った。

 ひと噛みすると、奥歯に卵の殻と思わしきじゃりっとした食感がある。

 思わず噛むのをやめた。

「……すみません。
 あまり料理は得意ではないので、美味しくないかもしれません」

 見ればアリスの指には、いくつもの絆創膏が巻かれていた。

 彼女の弁当箱のおかずは、どれも黒く焦げている。

 きっと上手に出来たものを選んで、俺の弁当に詰めてくれたのだろう。

 俺が見ていることに気づいたアリスは、さっと指を背中に隠した。

「……お菓子なら割と上手に作れるのですが、料理は苦手です」

 彼女がしょんぼりうな垂れる。

「いつも大輔くんにはお世話になってばかりなので、なにかお返しをしたかったのですが……。
 すみません。
 気が急いていたようです。
 やっぱり上手になるまで、作ってくるべきではありませんでした」

 アリスが俺の弁当を取り上げようと、手を伸ばしてきた。

 だが俺は渡さない。

「……なんでそうなるんだよ。
 うめぇぞ、この弁当」

 再び箸を動かし、もぐもぐと飯を掻き込んでいく。

 食べながら想像する。

 アリスはどんな風に思いながら弁当を作ってくれたんだろうか。

 きっと俺の笑顔に想いを馳せながら作ってくれたんだと思う。

 だから俺は、ごくりと飯を飲み込んでから、ニカッと笑ってみせた。

「ははっ。
 うめぇな!」

 多分アリスは早起きをして、この弁当を作ってくれたのだろう。

 もしかしてこれを作るために、料理の練習なんかもしてくれたのかもしれない。

 そんなことを思うと、胸の奥からじんわりと、暖かな気持ちが湧き上がってくる。

「あっ。
 大輔くん……。
 そんな無理しなくても――」

「無理なんかしてねぇよ」

 黙々と弁当を食う。

 出し巻き卵には卵の殻が入っていて、タコさんウィンナーは一部が焦げ、ミートボールは火を通し過ぎてもさもさしていたが、そんなことはどうでもいい。

 俺はアリスが俺のために料理を作ってくれたことが嬉しくて、すぐに弁当を完食してしまった。

「……ふぅ、ご馳走さん。
 美味かったぜ」

 うな垂れていたアリスが、俺を真っ直ぐみて微笑んだ。

「……やっぱり大輔くんは、大輔くんですね。
 ありがとうございます」

「なんでアリスが礼を言うんだよ。
 こっちこそ、ありがとうだ。
 また気が向いたら、作ってくれよな」

「…………はい」

 頷いた彼女の頬は、少し赤くなっていた。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 屋上で食休みをしながら、アリスと語り合う。

「そういえば、そろそろGWゴールデンウィークだよな。
 アリスはなんか予定あんのか?」

「特にありません。
 家で料理の練習でもしようかと思っています。
 今度こそ大輔くんに、本当に美味しいお弁当を食べて欲しいですから」

 可愛いことを言ってくれる。

 俺は無意識に手を伸ばし、妹たちにそうするように、彼女の金色の頭をぽんぽんと叩いた。

「――はぅ⁉︎」

 変化は急激に起きた。

 アリスの顔が真っ赤に染まっていく。

「う、うぉ⁉︎
 ど、どうしたアリス。
 顔が真っ赤だぞ!」

「わ、わかりません。
 なんだか急にふわってなって……。
 か、顔が熱いです」

 話している間にも、ますますアリスの顔は赤くなっていく。

 試しに俺は、もう一度彼女の頭をぽんぽんしてみた。

「――はぅ⁉︎」

 またアリスが変な声をだした。

 もう顔は熟したトマトみたいに真っ赤だ。

 もしかするとこいつ、頭を撫でられて照れてるのかも知れない。

「はははっ。
 なんか楽しいな、これ。
 うりゃ」

 今度はぐりぐりと頭を撫で回す。

 すると彼女の目も、一緒にぐるぐると回り始めた。

「や、やめ……。
 わたしで遊ばないで下さい。
 ぅぅ……。
 だ、大輔くんっ」

 やっぱり楽しい。

 俺は青い空の下、赤面して悶えるアリスを堪能した。
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