無表情だけどクラスで一番の美少女が、少しずつ俺に懐いて微笑むようになっていく

猫正宗

文字の大きさ
33 / 52

試験勉強、猫とハプニング

しおりを挟む
 今日も今日とてアリスの部屋で勉強会である。

 この1週間は、とにかく勉強漬けだった。

 なにせアリスは直接勉強を教えてくれるだけでは飽き足らず、自宅で解いておくようにと、宿題まで課してくるのだ。

 しかもこれがまた、なかなかのボリューム……。

 容赦のない教師っぷりである。

 だがその甲斐あって、俺の試験対策はいつになく準備万端に仕上がっていた。

 ◇

「……よし、ぜんぶ解けたぜ。
 さぁアリス。
 これでどうだ!」

 解き終えた答案用紙をアリスに手渡す。

 これはアリスがわざわざ手作りしてくれた、数学の予想問題だ。

「お疲れ様です、大輔くん。
 では採点をしますので、少し待っていて下さいね」

 受け取った答案に、アリスが真剣な顔つきで目を落とす。

 まったく自分の勉強もあるだろうに、こんなに世話を焼いてくれるなんて、ありがたいことだ。

 今後勉強については、俺はもうアリスに頭が上がらないだろう。

「……ん。
 大丈夫です。
 ほとんどの問題が、しっかり解けています」

「ふぅ。
 そりゃ良かった。
 じゃあこれで、勉強会は終了ってことで構わないか?」

「はい。
 問題ないと思います。
 ですが試験中も、復習を欠かさないてくださいね」

 ようやくアリスのお墨付きがでた。

 頑張って勉強した甲斐がある。

「……しかし大輔くんはすごいですね。
 最初はあんなにわからない問題だらけだったのに、たった1週間で、もうこんなに解けるようになりました」

「まぁ、根を詰めて勉強したからなぁ。
 なにせアリスが出す宿題が、べらぼうな量だったしよ。
 ははは……」

 容赦のない量の宿題を思い出し、思わず乾いた笑いをこぼしてしまう。

「それでもすごいです。
 というか、わたしも良かれと思って張り切りすぎたかもしれません。
 すみませんでした」

「いや、なんでアリスが謝るんだよ。
 世話になってるのは、俺のほうだってのに」

 頭を下げるアリスに鷹揚に手を振って返す。

 ところで、もともと俺は勉強は嫌いだが不得手ではない。

 頑張ればそこそこの成績は残せるし、実際中学のときはそれなりに勉強していたから、地区で一番の進学校である都立天光寺高校にも入学できたのだ。

「ふぁぁ……。
 あふ」

 気が緩んだ途端に眠気がやってきた。

「ふふ。
 大きなあくびです。
 大輔くん、睡眠不足ですか?」

「まぁな。
 ここ数日は遅くまで起きて、宿題をこなしてたからなぁ」

「なるほど。
 では明日から試験ですし、今日はゆっくりと寝て下さい。
 勉強会、お疲れ様でした」

「おう、お疲れ様。
 ありがとうな。
 ほんと助かったよ」

 礼を言ってから、眠気覚ましに紅茶のお代わりでもと、ポットに手を伸ばす。

 しかし紅茶はすでに空になっていた。

「ありゃ。
 もうないのか」

「あ、ほんとですね。
 気付かずにすみません。
 新しく淹れてきます」

 アリスがポットを持って立ち上がる。

「あ、そうです。
 淹れなおすついでにおやつにしましょう。
 勉強がぜんぶ終わったら大輔くんに食べてもらおうと思って、クッキーを焼いておいたのです」

「おー!
 そりゃ嬉しいな。
 何から何までありがとうな。
 また今度、礼をするよ。
 なんか希望があれば言ってくれ!」

「いえ、気にしないで下さい。
 わたしのほうこそ、いつも大輔くんにはお世話になりっぱなしですので。
 ではすぐに戻るので、少し待っていて下さい」

 アリスはパタパタとスリッパを鳴らして、部屋を出て行った。

 ◇

 アリスが戻ってくるまでの間、俺は少し手持ち無沙汰になった。

 なんとなく部屋を見回す。

 以前来たときと変わらず、飾り気のない部屋だ。

 でもどことなく、前よりも温もりが感じられる気がする。

 これはアリスの性格が少しずつ明るくなってきているからだろうか。

 取り止めもなくそんな事を考えていると、少しだけ開いたままだったドアの隙間から、白い子猫が入ってきた。

「……にゃあ」

「ん?
 なんだ?」

「にゃあぁ」

「ああ、お前か。
 久しぶりじゃねーか。
 元気にしてたか?」

 こいつは俺がアリスと出会うきっかけになった白猫で、たしか『マリア』とかいう名前をつけてもらっていたはずだ。

「なんだぁお前。
 少し見ない間にデカくなったなぁ」

 ひと回り大きくなった子猫をみて、すくすくと育ってるんだなと嬉しくなる。

「ほら。
 撫でてやるからこっちこい」

「みっ」

 手招きして呼び寄せるも、猫はこちらには来ずにクローゼットのほうに歩いていく。

「なんだ、愛想のないやつだな。
 もう俺のことは忘れちまったか?」

「にゃあ」

 返事をしているつもりなのか、猫は軽く鳴いてみせてから、少しだけ開いていたクローゼットの扉の隙間に頭を押し当てた。

 どうやら中に入りたいらしい。

 しかしその隙間はほんの僅かで、立て付けも少し悪いようだ。

 なかなか頭は通りそうにない。

 だが白猫マリアは諦めず、無理矢理額をねじ込み続けて――

「み、みぃ⁉︎」

 そのまま扉に挟まってしまった。

「みっ⁉︎
 みぃぃぃい゛!」

「おわっ⁉︎
 お前、なにしてんだよ!」

「にゃあ!
 にゃあああ゛!」

「ま、待ってろ!
 いま助けてやっから!」

 慌ててクローゼットに駆け寄り、扉を開けてやる。

「ふぎぃ!
 ふにゃぁあ!」

 隙間から解放されたマリアは、最後に大きな鳴き声を発したかと思うと、一目散に部屋の外へと走り去っていった。

 ◇

「……ふぅ。
 まったく、なんだったんだあいつは」

 猫だというのにクローゼットのドアに挟まってパニックになるとか、お間抜けにもほどがある。

 おかげで眠気も吹っ飛んでしまった。

「あらまぁ……」

 乱暴に開けてしまったせいでクローゼットの中身が少し散乱してしまっている。

「はぁ、アリスが戻ってくるまでに片付けるとするかか。
 ……ん?
 なんだこれ。
 よっと……」

 フローリングの床に落ちていたコルクボードを手に取り、なんとなく裏返してみる。

「おわっ⁉︎
 こ、こいつぁ……!」

 それを見て、思わず目を見張る。

 ついでに驚きの声を上げてしまった。

 なんとそのコルクボードには、俺の写真が何枚も貼り付けられていたのだ。

 ◇

「な、な……」

 びっくりして固まっていると、廊下からトントンと足音が聞こえてきた。

 アリスが戻ってきたのだ。

「紅茶淹れてきました。
 ところで大輔くん。
 いまマリアが毛を逆立てて、凄い勢いで走っていきましたが、なにかあったので、す……か……?」

 紅茶とクッキーの乗せられたトレイをテーブルに置いたアリスが、俺の手元をみて固まった。

「だ、大輔くん⁉︎
 そ、それはっ。
 その手に持っているコルクボードは!」

 アリスが慌てふためいている。

 というか、こんな彼女をみるのは初めてかもしれない。

「あ、ああ。
 悪りぃ。
 クローゼットの中から出てきたんだが……」

 そっとひっくり返して、俺の写真が貼られている面を見せる。

「――っ!!
 あ、あ……。
 ん~~~~っ⁉︎」

 その瞬間、いつもは無表情なアリスが変な声を漏らしながら真っ赤になった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...