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幼女をモフって落ち着こう。

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テラス付きの広々とした寝室へ案内されたルシフェルは、ふかふかのベッドに寝そべった。

アイラリンドは別室に控えている。
七座天使メイド隊も寝室の外だ。

しかしルシフェルの緊張は解けなかった。
頭は混乱したままだ。
けれども、ともかく一人になれた今のうちに、今日起きた一連の出来事を整理しなければならない。

ルシフェルは横たえていた身体を起こし、ベッドのふちに腰掛ける。
するとちょうどそのタイミングで、テラスに何者かの影が舞い降りた。

「えっ? 誰⁉︎」

驚くルシフェルに構うことなく、影は無遠慮に寝室へと侵入した。
パタパタと飛んでルシフェルに抱きつく。

「ルシフェル様ぁ! ジズなの!」

小さな侵入者は空獣ジズだった。
ルシフェルは頭から飛びついてくるジズを、胸の辺りで受け止めた。

「……っと、なんだジズだったのか。驚かさないでよ、もう」
「えへへ。ルシフェル様、ルシフェル様ぁ」
「ところで、どうしたの?」
「えっとね。ルシフェル様、もう今日のお仕事は終わったんでしょ? ジズ、ルシフェル様のお仕事が終わるの待ってたの!」

ジズはルシフェルの胸にぐりぐりとおでこを押し付ける。
ジズから発せられるルシフェル好き好きオーラは健在だった。
ルシフェルは胸にすっぽりと収まって幸せそうにしている小柄な身体をしっかりと抱き直し、視線を落とす。

(うん、やっぱりこの子は可愛いなぁ)

何というか見てると癒されるのだ。
けどそれだけではない。
そわそわして心がくすぐったいと言うか、なんとも面映おもばゆいと言うか、ともかく悪い気はしない。

ルシフェルは嬉しくなって、ジズのスベスベした翼を撫でた。
胸の飾り毛をモフモフする。

「……ふわぁ……ルシフェル様ぁ……それ、気持ちいい……」

ジズが表情を蕩けさせる。
ルシフェルの指先を誘導するみたいに耳の裏を差し出してきたり、小さなアゴをくいっと上げて細っこい喉元を見せてくる。

「もっと、撫でてぇ……」

ルシフェルは望まれるままにジズをモフり回していく。
どこを触ってもすべすべで、もふもふだ。

「おおお、これは凄い。極上の撫で心地……。いつまでも撫で回していたくなるな」

ルシフェルの手は一時も止まることはない。
ジズが小さく唇を開いた。

「……きゅうん……ルシフェル、様ぁ……気持ち……いいのぉ……」

ジズの目がとろんとして来た。
そのままモフり続ける。
そうしている内に、やがてジズはルシフェルの胸の中で眠りに落ちていった。



ジズはルシフェルに抱きついたまま、スヤスヤと寝息を立てている。

胸のなかのジズを眺めていると、ルシフェルはようやく人心地ついた気がした。
緊張がほぐれていく。

クリアになった頭で考える。
ともかくまずは状況整理だ。

ジズに連れられてやってきたこの場所。
超天空城アイラリンド。
光輝溢れる天上の世界。

アイラリンドには帰還を喜ばれ、そのあとは訳もわからぬまま引き合わされた、なんか物凄い天使たちやメイドさんたちに一方的に忠誠を誓われた。

『偉大なるルシフェル様、お帰りなさいませ』
『偉大なるルシフェル様、我が忠誠を貴方様に』

皆が皆、口を揃えてそんなことを言った。

「……はぁぁぁ……」

ルシフェルは深くため息をついてから、ボリボリと頭を掻いた。

「……参ったな、これは。……うん、どう考えても人違いだ」

ルシフェルは思った。
アイラリンドも他の天使たちも、どこか他所のルシフェルと人違いをしている。
いや、この場合は天使違いだろうか。

「そもそも俺って、マジで天使なの? ただなんかの拍子で羽が生えた人間じゃなくて?」

そんな疑問が脳裏をよぎる。
何かの拍子で羽が生える人間というのも意味不明ではあるが、いきなり「実はお前は凄い天使でした」とか言われるよりまだ現実味がある。

大体にしてルシフェルはルシフェルでも、白羽しらは明星るしふぇるなのである。
ルシフェルなどという天使ではなく、単なるキラキラネームの人間だ。
それが現実だ。

「……うん。絶対に人違いだ。ともかくアイラリンドさんにそのことを伝えなきゃ……」

ルシフェルはこれ以上話がややこしくなってしまう前に、誤解をとくことを決意した。
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