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本編

魔石の相性①

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 んうっ……眩しい……

 窓から射し込んだ光が顔に当たり眩しくて目が覚めた。

 チャッピーが俺に声を掛けて起こしてくれる。
 いやこれはチャッピーじゃなくて、確かポワソン少年だったよな……。

「おはようございます姫様!」

 爽やかな笑顔で今日も姫と言われる……。
 いちいち気にしたら負けだな。

「おはよう、ポワソン」

 眠い目を擦りながら体を起こそうとすると腰に違和感を覚える。
 何かが巻き付いている感覚がある。
 しかも温かくて気味が悪い。

 恐る恐る布団を捲れば、キラキラ王子が俺の腰に腕を巻き付けて眠っていたのだ!

「お、お前、何で俺の布団で寝てるんだよっ!?」

 あまりの出来事に驚いて声を荒げると、その声でキラキラ王子は目覚めた。

「おはようございます。私のケイト姫」

 突っ込みどころが満載過ぎて思わず固まる。
 無反応な俺に何を思ったのか、キラキラ王子は腰に回した腕に力を込めてギュッと抱き付き、俺の胸に顔をグリグリ押し付けてきた。

 突然の奇行に慌てて引き剥がそうとするけど、思っているよりも王子の力が強くて上手く離すことが出来ない。

「ケイト姫は良い匂いですね。ずっと嗅いでいたいです……」

 俺が必死に離そうと藻掻いているっていうのに、変態王子コイツはスーハーしてる!!
 あまりの気持ち悪さにゾワッと鳥肌が立って、俺はポワソン少年に助けを求めた。

「ポワソン助けて!」

 静観していたポワソン少年だったけど、俺のヘルプの声を聞くとすぐに布団を思いっきり捲った。

「ルシアン殿下、あまりしつこくなさいますと姫様に嫌われてしまいますよ?」

 ポワソン少年の言葉を聞いた王子は、ガバッと起き上がると急いで離れた。
 嫌われますよって言うけど、俺は王子のことはもう既に嫌いだぞと思うが漸くはなれてくれて落ち着いたから何も言わなかった。

「申し訳ありませんでした。あまりに姫の香りが素晴らしく、離れ難くなってしまいました……」

 言ってることはしおらしいと見せ掛けて変態的だし、表情はキラキラ笑顔だしでちっとも申し訳なさそうではない。
 男の俺の香り匂いが素晴らしいからとか、気色悪いこと言ってるのも生理的に受け付けない。

「勝手に他人の布団に入ってくるんじゃねえよ! 俺はパーソナルスペースを侵す奴は大嫌いだ!」

 『大嫌い』という単語を口にした途端、王子の笑顔が消えた。
 ただでさえ色白なのに、血の気を失ってもっと白くなった気さえする。
 でも俺は悪くないんだから気なんか使ってやる必要はない。

 『まずはお互いのことを知ることから始めましょう』って言っていたのはコイツだ。
 何の情報も歩み寄りもなくいきなり抱き枕にされたら誰だって怒るだろ。

 王子だからって俺は絶対に媚びないからな。

「姫……。勝手に布団に入ってしまったことは本当に申し訳なかったです……。まず私のことを知って貰う必要があったというのに、気持ちが急いてしまいました……。言い訳になってしまいますが、初めは寝顔だけだと思っていたのです。しかし気持ち良さそうに眠る姫の寝顔があまりにも美しく離れがたくなってしまい……結果姫に不快な思いをさせてしまいました。何とお詫びしたらいいかの……」

 顔面蒼白で消え入りそうな声で許しを請う王子を見ていたら、さっきまで怒り狂っていたのに甘いって思われるかもしれないけど、何だか可哀想に思えた。

「もういいから、次から勝手に布団に入ってくんじゃねぇぞ?」

 そう言うと俺はこの変態を許した。

「さぁ、話も纏まった様ですし朝の支度にかかりましょう。ルシアン殿下も自室に戻られて御支度なさってくださいね」

 ポワソン少年がさっと部屋のドアを開けると、隣の部屋に繋がっているようでそこに王子は消えて行った。
 ドアで隣の部屋と行き来できる様になっているのか……。
 ということは隣室は王子の部屋だろうか?

「なぁポワソン、そのドアの向こうって王子の部屋なのか?」

「はい、勿論です。姫様はルシアン殿下の伴侶になられるお方なので、この王子妃の部屋が姫様の部屋なのですよ」

 王子妃の部屋……。
 王子妃って、お妃様のことだよな? 

 だ・か・らっ! 俺はそんなものにはならないって言っているし、受け入れた覚えは全くない。

 人拐い王子の伴侶になんてなる訳がないのに、何でこの王子妃の部屋とかいうところに勝手に押し込んでるんだよ!

 夕飯の後、自分からこの部屋に入ったけどさ!
 召喚されたこの部屋しか知らないから、ここに戻って来たけど!
 そんな大層な名前の部屋だって知ってたなら、俺はこの部屋に戻って来ることはなかったよ。

 今からでも部屋を変えてもらいたい。

 口を開きかけたが、ポワソン少年が有無を言わさぬ勢いで朝の身支度を始めたから、俺は言うタイミングを完全に逃してしまった。

 昨日貰った魔石は俺専用だし無くさずいつでも使えるようにと、紐を編み込んで作った弛い網の様な物で包んで首から提げられるようにしてもらった。

 俺以外の奴等は魔力があるからこんなのに頼らなくてもいいんだもんな。
 羨ましくなんてないんだからな!
 まあ、せっかく魔法がある世界に来たなら少しくらい使えても良いじゃんとは思うけど……。

 朝食の用意が出来たと、昨日の執事さんが呼びに来てくれたので俺はポワソン少年と連れ立って食堂に向かった。

 さすが王族と言うべきか、朝にしては多くの種類の食事が並んでいて驚いた。

「姫、食欲がないのですか?」

 何から食べるべきか悩んでなかなか食事に手を付けない俺に王子は心配そうに訊ねた。

 食欲がないわけじゃないし、答えるのは癪だから無言で食事を始めた。

 僅かにクスッと笑い声が聞こえた気がして王子を見るけど、奴は澄ました顔でスープを飲んでいた。

 一晩寝てだいぶ気持ちも落ち着いてきたし、元の世界に戻ることが出来ないのなら現実を受け入れて、この世界での生き方を考えなければならないな。

 俺は王子の伴侶になんてなる気はないしな!
 それにコイツは王子なんだから、世継ぎも必要だろし。
 男同士ってだけで子作りなんて到底無理な話なんだから、俺は俺で生きていくし解放してもらわなければならない。

 食後のお茶で一息吐いていると王子の視線を感じた。
 どうやら俺の胸元にある魔石を見ていたようだ。

「そちらの魔石の使い心地はいかがですか?」

 ずっとお互い無言を貫いていたから、突然話し掛けられて驚くが、不快なことを言われた訳でもないから素直に答えることにする。
 魔石の使い心地と言われても、これしか知らない俺は比べようもなく変なことを聞くものだと思った。

「いや他を知らないから分かんないけど、普通にランプもシャワーも使えて便利だとは思う」

 正直な感想を言っただけなのに、王子の後ろに花でも飛んでるんじゃないかってくらい満面の笑顔で叫ぶように言った。

「それは大変喜ばしいことです! やはり私と姫は結ばれる運命なのですね♪」

 いきなりの大声にも驚いたけど、本当に後光が射したように眩しく、反応に困り再び固まる。
 この光も魔法なのか?
 俺が眩しそうにしていると王子は慌てて光を消してくれた。

「申し訳ありません! あまりに嬉しくてつい魔力が溢れてしまいました!」


 光は消えて相変わらずキラキラした笑顔だけが残った。

 へぇ、魔力って光って見えるんだな。
 そんなところに感心していると、ふとさっきの『結ばれる運命』という言葉が引っ掛かった。
 魔石なんてどれを使っても一緒なんじゃないのか?

 声に出ていたようで王子は説明してくれた。

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