【R18】101回目の転生~天然無自覚少女は溺愛に気付かない~

しろ

文字の大きさ
82 / 177

78.~カインside~

しおりを挟む
転移して最初に目に入ったのは、大粒の涙を流すミューの姿だった。ミューは我慢強い子で、赤ちゃんの頃からあまり泣かない。そんな子が人前でこんなにも泣くなんて…。
俺のミューにナイフそんな物を向けてただですむと思うなよ。

「殺す…」

「なっ…!か…体が…っ!?」

ポールと目があった瞬間俺の魔法が発動した。魅了魔法の応用で、まだ完璧にコントロールできる訳ではないが、相手の動きを止める程度なら容易く行える。

ポールの動きを止め、俺はゆっくりと近づきナイフを奪って投げ捨てる。
制止したままのポールからミューを奪い抱き締めれば、ミューは「カイ兄様…」と小さな声を発するのがやっとで、その美しい瞳からはとめどなく涙が溢れている。

「ミュー、来るのが遅くなってごめん。もう大丈夫だから。」

ミューはコクンと頷き俺にしがみつく。相当怖かったんだろう、小さな身体はまだカタカタと震えが収まらない。

「ミュラ嬢、怪我はないか?」

「ミュラ、無事で良かったのじゃ…。」

そんなミューを覗き見るアレスとキュアネ様。

「おい…、ミューがびっくりするだろ。そういうのは後にしろ。アレス、お前と俺はあの下衆野郎の処理が先だ。」

「カイン、仮にもこの国の第一王子に対して扱いが酷くないか?せっかくのミュラ嬢との再会なんだぞ。」

「うるさい、さっさと働け。」

「はいはい、この俺に命令できるのはカインくらいだぞ。」とかなんとかブツブツ言いながらも、視線の先はポールへと冷たく向けられていた。

「ここは危険だから、ミュラはわれと一緒に下がっていよう。さっ、ミュラ手を繋ごう。」

サーラにミューを預けようとしたが、キュアネ様がサッと手を出してしまった為、立場的に拒否が難しい。アレスは幼なじみだから気さくに話す事を許されているが、キュアネ様はそこまでの関係ではない。つまり王族と公爵家の長男という上下関係がキッチリ存在するのだ。

ミューをチラリと見れば、俺に向かってコクンと頷きキュアネ様の手を取った。

「キュアネ様、ミューをよろしくお願いいたします。」

頭を下げるが、キュアネ様はそれどころじゃないらしい。ミューの手を握って顔を赤くさせ身悶えていた。

「くぅ~っ、ミュラ可愛らしい手じゃの。さっ、此方へおいで。」

ミューは心配そうに俺の方をチラチラ見ながらキュアネ様と一緒に、後ろに控えていたサーラの元へ向かう。

「おっ…おい!お前らっ!俺のミュラお嬢様をどこへやる!俺達は想い合ってるんだ!今すぐこの魔法を解除しろ!!」

眼球と口はかろうじて動けるようで、ポールが怒号を響かせる。動こうと必死なのか、汗だくで顔は真っ赤になっている。顔から下に視線を下ろせば、股間にテントを張っているのが目についた。

ポールの肩を乱暴に押し倒れ込んだ所へ、俺はその汚い膨らみを靴で踏みつける。

「おい、俺のミューに何してるんだ。この変態野郎がっ!!」

「うっ…!!」

ギリギリと股間を踏みつければ、ポールは急に与えられた刺激に顔を歪ませる。

「おいおい、そこのお前。いくらロレイル公爵家の使用人だからって、王族にそんな汚らわしい物を見せつけるなんて不敬だぞ?そうだな…ソレ、切り落としてやろうか?」

平民のポールでも、この赤い髪の男が誰なのか解ったのだろう。この国で赤い髪は王族しか居ない。直接見た事はなくてもアレス第一王子なのだと気づいたようで、青い顔でガタガタと震え出した。

「失礼致します。アレス第一王子様、カイン様、この度は誠に申し訳ございません。後の処理はわたくしが…」

駆けつけたハリーが頭を下げ、引き連れてきた警備兵へポールを連行させる。
俺としては直接手を下したい程アイツが憎いが、王族のアレスとキュアネ様がいる手前、これ以上事を大きくするといろいろ厄介だ。ミューの評判にも関わるし、ポールの命もただでは済まない。俺としてはポールがどうなっても構わないが…ロレイル公爵家の使用人が王族に不敬を働き処刑されたとなってはあまりにも体裁が悪い。

「おや、ハリー。随分遅い登場ではないか。ミュラ嬢の安全の為に身を引いていた我々に対し、此度の件はあまりにもお粗末ではないか?…ふむ、ティータイムを邪魔されてしまったし喉が乾いたな。ゆっくり屋敷の中でお茶をいただけるだろうか。勿論ミュラ嬢も一緒に。」

にこりと美しい笑みを浮かべるアレスは有無を言わさない圧で…。ハリーは頭を下げるしかない。

「ハリー、客間へお茶の準備を。ミューが落ち着けるようにミルクティーも用意して。サーラはミューを一度お風呂に入れて着替えさせてやってくれ。」

ミューは緊張の為汗をかいていたし、なによりあの男が触れた肌を綺麗に洗い流してやりたかった。アレスとキュアネ様を多少お待たせしてしまうが、この5年間我慢できたのだからなんてこと無いだろう。

「かしこまりました。」

こうして、不本意ながらもミューの他家への解禁となるのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...