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90.~ハリーside~
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「ハリー!今日1日お手伝いしたらいくら貰えるかしら?」
「は?」
おっと、しまった。ミュラお嬢様が余りにも突拍子も無い事を言うから、思わず素の声を漏らしてしまった。
「あのね、プレゼントを沢山いただいたからお礼に薔薇のポプリをあげようと思うの。」
「あぁ、ミュラお嬢様の手作りのポプリでございますね。」
ミュラお嬢様が作っているポプリ、実はただのポプリではない。本人は気づいていないようだが、ポプリに魔力が込められている。きっと作っている途中に知らず知らず魔力を注いでいるのだろう。そのせいか、乾燥させた薔薇の花びらは生花と見間違う程色鮮やかだ。香りは濃く華やかで、数ヶ月経っても香りが持続している。しかも、癒しの効果付き。
ミュラお嬢様がポプリを作り始めた当初、屋敷のみんなにポプリを配った事がある。そのポプリを見てルイズ様と二人で頭を抱えた記憶がよぎる。
「私が作ったポプリなんて、大した物じゃないんだけどね…小袋に入れて香り袋としてプレゼントしようかなって思うの。」
大した物じゃ無いと言うのは大いに間違っている。魔力の込められた特別なポプリ、
それに加えミュラお嬢様の手作り…これはなかなか厄介なプレゼントになるのではないか…。ミュラお嬢様を溺愛するあのガキ共にそんな物を送ったら余計に……。
そこまで考えて思考を止める。ミュラお嬢様が誰に愛されようと俺の関与する所では無い。
第一、家令としてお嬢様に危害を加える者を排除するのは仕事だが、お嬢様の意思まで制限するのは間違っている。
「それは素敵なお考えですね。それで…ポプリのプレゼントとお手伝いはどういう繋がりが?」
「ポプリを入れるオーガンジーの小袋とレースのリボンを買いたいんだけど、お金を持ってなくて…。サーラに働くのはダメと言われたから、お屋敷のお手伝いなら…その、お小遣いが貰えるかなって…ダメかしら?」
上目遣いで首をコテンと傾けるミュラお嬢様のお願いを拒否できる者なんてこの世に居ないんじゃないか?他の女が同じ仕草をしたら『あざとい、ウザイ』と感じるが、ミュラお嬢様だと全く嫌悪感がない。幼さ故だろうか…?
それにしても、手伝いをしてお小遣い…か。
今までカイン様含めご子息方からそんな事を言われた事はない。ミュラお嬢様のこの庶民的な発想はどこから来るのだろう?生まれた時から不自由なく何でも与えられている環境で、ミュラお嬢様は自分に与えられる全ての物が当たり前だとは思っていない。だからこそ、他人から与えられた物や感情に感謝する気持ちを忘れない。そんなミュラお嬢様を、一人の人間として素晴らしいと心から思う。
「ダメではないですが…」
膝を付き、ミュラお嬢様と目線を合わせ話しかける。
「危険な事はいけません。簡単なお手伝いであれば良いですよ。必ずサーラと一緒に行う事、いいですね?ロレイル公爵家のお給金は高いですから…ランチを食べた後からディナー迄の間お手伝いいただければ、小袋とリボンを買うお金になりますよ。」
確かにロレイル公爵家の給金は高いが、今回ミュラお嬢様が望む品物を買うのには金額が足りない。しかし、そこは特別手当てという事で多めに渡す。実際、使用人達にとっては憧れのミュラお嬢様と一緒に過ごせるなんて夢のような一時を味わえるのだ。使用人の就業意欲を高めるのにも一役かっていると思えば、お釣が出る程だろう。
「ホント?嬉しいっ!ありがとうハリー!」
満面の笑みで首にギュッと抱きつかれた為、体勢を崩しそうになり、思わずミュラお嬢様の背中に手を回す。
「あら?ハリー薔薇の香りがするわね?」
クンクンと首元に顔を寄せるのは止めて欲しい。ふと視線を感じ見上げれば、ミュラお嬢様の背後に立つサーラが冷たい視線で俺を見下ろしていた。やましい事は何もないのに、何故後ろめたい気持ちになるのだろう?
「あぁ…、以前ミュラお嬢様からいただいたポプリをジャケットの胸ポケットに…」
「え!使ってくれているの?嬉しい!ハリー大好き!」
チュッと頬にキスをされ更にギュッと抱きしめられる。「意外と香りが続くのね~」なんて呑気な事を良いながら、ご機嫌で抱きついたまま…。できれば早急に離れて欲しい。色々不味い気がするから…。刺す様な視線を感じて上を向けば、サーラが軽蔑の眼差しを向けていた。
いや、俺悪くないって…。
ちょっと口元が緩んだかもしれないけど…。
はぁ…、ミュラお嬢様にはペースを崩されっぱなしでいつもの俺を保てない。
何なんだ一体…。はぁ…。
「は?」
おっと、しまった。ミュラお嬢様が余りにも突拍子も無い事を言うから、思わず素の声を漏らしてしまった。
「あのね、プレゼントを沢山いただいたからお礼に薔薇のポプリをあげようと思うの。」
「あぁ、ミュラお嬢様の手作りのポプリでございますね。」
ミュラお嬢様が作っているポプリ、実はただのポプリではない。本人は気づいていないようだが、ポプリに魔力が込められている。きっと作っている途中に知らず知らず魔力を注いでいるのだろう。そのせいか、乾燥させた薔薇の花びらは生花と見間違う程色鮮やかだ。香りは濃く華やかで、数ヶ月経っても香りが持続している。しかも、癒しの効果付き。
ミュラお嬢様がポプリを作り始めた当初、屋敷のみんなにポプリを配った事がある。そのポプリを見てルイズ様と二人で頭を抱えた記憶がよぎる。
「私が作ったポプリなんて、大した物じゃないんだけどね…小袋に入れて香り袋としてプレゼントしようかなって思うの。」
大した物じゃ無いと言うのは大いに間違っている。魔力の込められた特別なポプリ、
それに加えミュラお嬢様の手作り…これはなかなか厄介なプレゼントになるのではないか…。ミュラお嬢様を溺愛するあのガキ共にそんな物を送ったら余計に……。
そこまで考えて思考を止める。ミュラお嬢様が誰に愛されようと俺の関与する所では無い。
第一、家令としてお嬢様に危害を加える者を排除するのは仕事だが、お嬢様の意思まで制限するのは間違っている。
「それは素敵なお考えですね。それで…ポプリのプレゼントとお手伝いはどういう繋がりが?」
「ポプリを入れるオーガンジーの小袋とレースのリボンを買いたいんだけど、お金を持ってなくて…。サーラに働くのはダメと言われたから、お屋敷のお手伝いなら…その、お小遣いが貰えるかなって…ダメかしら?」
上目遣いで首をコテンと傾けるミュラお嬢様のお願いを拒否できる者なんてこの世に居ないんじゃないか?他の女が同じ仕草をしたら『あざとい、ウザイ』と感じるが、ミュラお嬢様だと全く嫌悪感がない。幼さ故だろうか…?
それにしても、手伝いをしてお小遣い…か。
今までカイン様含めご子息方からそんな事を言われた事はない。ミュラお嬢様のこの庶民的な発想はどこから来るのだろう?生まれた時から不自由なく何でも与えられている環境で、ミュラお嬢様は自分に与えられる全ての物が当たり前だとは思っていない。だからこそ、他人から与えられた物や感情に感謝する気持ちを忘れない。そんなミュラお嬢様を、一人の人間として素晴らしいと心から思う。
「ダメではないですが…」
膝を付き、ミュラお嬢様と目線を合わせ話しかける。
「危険な事はいけません。簡単なお手伝いであれば良いですよ。必ずサーラと一緒に行う事、いいですね?ロレイル公爵家のお給金は高いですから…ランチを食べた後からディナー迄の間お手伝いいただければ、小袋とリボンを買うお金になりますよ。」
確かにロレイル公爵家の給金は高いが、今回ミュラお嬢様が望む品物を買うのには金額が足りない。しかし、そこは特別手当てという事で多めに渡す。実際、使用人達にとっては憧れのミュラお嬢様と一緒に過ごせるなんて夢のような一時を味わえるのだ。使用人の就業意欲を高めるのにも一役かっていると思えば、お釣が出る程だろう。
「ホント?嬉しいっ!ありがとうハリー!」
満面の笑みで首にギュッと抱きつかれた為、体勢を崩しそうになり、思わずミュラお嬢様の背中に手を回す。
「あら?ハリー薔薇の香りがするわね?」
クンクンと首元に顔を寄せるのは止めて欲しい。ふと視線を感じ見上げれば、ミュラお嬢様の背後に立つサーラが冷たい視線で俺を見下ろしていた。やましい事は何もないのに、何故後ろめたい気持ちになるのだろう?
「あぁ…、以前ミュラお嬢様からいただいたポプリをジャケットの胸ポケットに…」
「え!使ってくれているの?嬉しい!ハリー大好き!」
チュッと頬にキスをされ更にギュッと抱きしめられる。「意外と香りが続くのね~」なんて呑気な事を良いながら、ご機嫌で抱きついたまま…。できれば早急に離れて欲しい。色々不味い気がするから…。刺す様な視線を感じて上を向けば、サーラが軽蔑の眼差しを向けていた。
いや、俺悪くないって…。
ちょっと口元が緩んだかもしれないけど…。
はぁ…、ミュラお嬢様にはペースを崩されっぱなしでいつもの俺を保てない。
何なんだ一体…。はぁ…。
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