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98.【ミュラ7歳】~ハイドside~
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「おはようございます、姫。」
「おはようございます、ハイド様。」
姫が王宮に通うようになってから1年が経った。アレス王子様の命で、王宮までの道のりを騎士団が姫の護衛につくことになり、こうして毎日お迎えにあがっている。
「何度もお伝えしておりますが、俺の事は様付けで呼ばなくて結構です。姫はロレイル公爵家のご令嬢なのですから。」
「でも…ロレイル公爵家が凄いのはパパが頑張っているからで、私自身は偉くも何ともないのよ?ハイド様は私より年上だし、騎士団のお仕事に携わっておられて凄いわ。それより、私の事を『姫』と呼ぶ方がおかしいと思うのだけれど?」
「姫は姫ですから。これだけは譲れません。」
「ふふふ、ハイド様ったら面白い方なのね。」
と花が咲く様に笑う姫は本当に美しい。
7歳になられ、身長が伸びたせいもあり、少しずつ女性らしい雰囲気を纏うようになり更に美しくなった。容姿や甘い声、柔らかい表情には誰もが見惚れてしまう。
馬車に乗り込む為に手を差し出せば、姫の細く白い手が重ねられ、引き上げる身体は華奢で軽い。勢いがついてしまい、思わず抱き止めるような体勢になり姫の甘い花の香りにドキリとした。
「も…申し訳ございません。」
「いいえ、ありがとうございます。ハイド様。」
姫は公爵家のご令嬢なのに、傲慢な態度は一切とらない。挨拶やお礼の言葉を丁寧にしてくれる。そういった所もあり、騎士団でも姫の人気はすごい。こうして毎日の護衛も、争奪戦なのだから。
馬車には姫と俺の二人で乗り込み、周りを騎馬隊が警護していた。
普通は向かい合わせで座るのだが「進行方向と逆向きだと酔うでしょう?どうぞ隣へ座って」と、姫の隣に座る事を許されている。正直なところ馬車に酔うことはないのだが、誘惑に負けた。
「ハイド様、これ、もし宜しければ貰って下さい。いつもお世話になっているお礼です。」
姫の手には可愛らしいレースの小袋に入れられたポプリが乗せられていた。
「これは…以前いただいた姫の手作りのポプリですか?」
「はい。あれから1年経っていますし、以前プレゼントした物は香りが落ちてきてしまったでしょう?」
「嬉しいです。ありがとうございます。」
「ふふ、どういたしまして。」
華やかな薔薇の香りを嗅ぐと姫を思い出せる。以前貰ったポプリも大切にしているが、宝物が増えた。
「あぁ、でも困りました。俺からお返しするものがありません。」
「いえ、いつもこうしてお迎えに来てくださっているお礼なのですから、お礼は結構ですよ?」
「そういう訳にはいきません。何かお礼に出来る事はありませんか?何でも言ってください。姫の望む物なら宝石でもドレスでも何だってプレゼントいたします。」
「えぇ?ポプリのお礼に宝石だなんて…。ふふふ、ハイド様ったら冗談もおっしゃるんですね。あ、そうだ!でしたらお願いしたい事がひとつあります。」
俺としては冗談なんかじゃなく、姫が望む物は何でもプレゼントしたい。物だけじゃなく、姫が望むなら誰かを殺す事だって厭わない。勿論優しい姫はそんな事を言わないけれど…。
「お願いですか?何でしょう?」
姫がそっと耳へ顔を寄せ「実は…」と内緒話を始める。急に距離が近づいて俺はドキドキしていた。
「実は、街にお買い物に出てみたいんです。サーラから街で人気のドーナツのお店の話を聞いて…食べてみたくって。ハイド様、一緒に行っていただけますか?」
なんて可愛らしいお願いだろうか。
少し照れた様に笑う姫と間近で視線が絡み合う。俺は姫の手を取り、手の甲にチュッとキスを落とした。
「姫の為なら喜んでお付き合いさせていただきます。」
「ありがとうございます、ハイド様。」
満面の笑みで喜ぶ姿に、心が締め付けられる。
「姫…。キスをしても…?」
「え…?」
姫の返事を待たずに、頬にキスをする。
我が主、アレス王子様には申し訳ないが、俺の命は姫の為にある。
今はまだ姫を護る力が足りない。もっと鍛練して、何者からも姫を護れるようになったら、その時は…唇にキスする事を許して欲しい。
「おはようございます、ハイド様。」
姫が王宮に通うようになってから1年が経った。アレス王子様の命で、王宮までの道のりを騎士団が姫の護衛につくことになり、こうして毎日お迎えにあがっている。
「何度もお伝えしておりますが、俺の事は様付けで呼ばなくて結構です。姫はロレイル公爵家のご令嬢なのですから。」
「でも…ロレイル公爵家が凄いのはパパが頑張っているからで、私自身は偉くも何ともないのよ?ハイド様は私より年上だし、騎士団のお仕事に携わっておられて凄いわ。それより、私の事を『姫』と呼ぶ方がおかしいと思うのだけれど?」
「姫は姫ですから。これだけは譲れません。」
「ふふふ、ハイド様ったら面白い方なのね。」
と花が咲く様に笑う姫は本当に美しい。
7歳になられ、身長が伸びたせいもあり、少しずつ女性らしい雰囲気を纏うようになり更に美しくなった。容姿や甘い声、柔らかい表情には誰もが見惚れてしまう。
馬車に乗り込む為に手を差し出せば、姫の細く白い手が重ねられ、引き上げる身体は華奢で軽い。勢いがついてしまい、思わず抱き止めるような体勢になり姫の甘い花の香りにドキリとした。
「も…申し訳ございません。」
「いいえ、ありがとうございます。ハイド様。」
姫は公爵家のご令嬢なのに、傲慢な態度は一切とらない。挨拶やお礼の言葉を丁寧にしてくれる。そういった所もあり、騎士団でも姫の人気はすごい。こうして毎日の護衛も、争奪戦なのだから。
馬車には姫と俺の二人で乗り込み、周りを騎馬隊が警護していた。
普通は向かい合わせで座るのだが「進行方向と逆向きだと酔うでしょう?どうぞ隣へ座って」と、姫の隣に座る事を許されている。正直なところ馬車に酔うことはないのだが、誘惑に負けた。
「ハイド様、これ、もし宜しければ貰って下さい。いつもお世話になっているお礼です。」
姫の手には可愛らしいレースの小袋に入れられたポプリが乗せられていた。
「これは…以前いただいた姫の手作りのポプリですか?」
「はい。あれから1年経っていますし、以前プレゼントした物は香りが落ちてきてしまったでしょう?」
「嬉しいです。ありがとうございます。」
「ふふ、どういたしまして。」
華やかな薔薇の香りを嗅ぐと姫を思い出せる。以前貰ったポプリも大切にしているが、宝物が増えた。
「あぁ、でも困りました。俺からお返しするものがありません。」
「いえ、いつもこうしてお迎えに来てくださっているお礼なのですから、お礼は結構ですよ?」
「そういう訳にはいきません。何かお礼に出来る事はありませんか?何でも言ってください。姫の望む物なら宝石でもドレスでも何だってプレゼントいたします。」
「えぇ?ポプリのお礼に宝石だなんて…。ふふふ、ハイド様ったら冗談もおっしゃるんですね。あ、そうだ!でしたらお願いしたい事がひとつあります。」
俺としては冗談なんかじゃなく、姫が望む物は何でもプレゼントしたい。物だけじゃなく、姫が望むなら誰かを殺す事だって厭わない。勿論優しい姫はそんな事を言わないけれど…。
「お願いですか?何でしょう?」
姫がそっと耳へ顔を寄せ「実は…」と内緒話を始める。急に距離が近づいて俺はドキドキしていた。
「実は、街にお買い物に出てみたいんです。サーラから街で人気のドーナツのお店の話を聞いて…食べてみたくって。ハイド様、一緒に行っていただけますか?」
なんて可愛らしいお願いだろうか。
少し照れた様に笑う姫と間近で視線が絡み合う。俺は姫の手を取り、手の甲にチュッとキスを落とした。
「姫の為なら喜んでお付き合いさせていただきます。」
「ありがとうございます、ハイド様。」
満面の笑みで喜ぶ姿に、心が締め付けられる。
「姫…。キスをしても…?」
「え…?」
姫の返事を待たずに、頬にキスをする。
我が主、アレス王子様には申し訳ないが、俺の命は姫の為にある。
今はまだ姫を護る力が足りない。もっと鍛練して、何者からも姫を護れるようになったら、その時は…唇にキスする事を許して欲しい。
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