【R18】101回目の転生~天然無自覚少女は溺愛に気付かない~

しろ

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103.【ミュラ9歳】~ゼノンside~

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最近ミュラちゃんの元気がないと、いろんな人から聞いていた。先日はシラー侯爵家で大泣きしてしまったとも耳にしたし…その後王宮で行っていた勉強会やお茶会も欠席しているらしい。

この3年間、周りがミュラちゃんを溺愛している中、僕は少し離れた場所から彼女を見ていたように思う。容姿は美しいと思うし、性格や仕草も可愛らしいと思う。だけど6歳下のミュラちゃんは大切な妹の様な存在で、これが恋かと問われたら違う様な気がしていた。


いつものお茶会を終え馬車で屋敷に帰る途中、薔薇園のベンチにミュラちゃんがポツンと座っているのを見かけ、僕は慌てて馬車を止めた。

「こんにちは、ミュラちゃん。」

「あ…ゼノン様。こんにちは。」

元々華奢なミュラちゃんだけど、少し痩せたように思う。無理矢理作る微笑みも何だか痛々しい。

「隣いい?今日は一人なの?」

「はい。部屋に閉じ籠ってばかりいたら良くないかなって…。少し外の空気が吸いたくて、脱け出して来たの。」

「屋敷の人はここに居ること知ってるの?」

「…うんん…。」

チラリと周りを見渡せば、ロレイル公爵家の護衛や騎士団、魔術団の者達が物陰から監視しているのが見えた。ミュラちゃんに危険が及ばない様に、安全に一人の時間を過ごさせてるって所かな。

「…たまには一人になりたい時もあるよね。」

「ゼノン様もあるの?」

「勿論あるよ。毎日思ってる。」

「毎日…。ふふふ、ゼノン様がそんな事思ってるなんてなんだか意外です。」

「そう?」

「はい。…私は…大切な人が沢山できたから…一人になるのが怖いな。今が幸せ過ぎて…全部失くなっちゃったらって思うと怖い。」

ミュラちゃんの意外な言葉に驚いた。
皆から愛されていつも笑顔で笑っているイメージだったのに。そもそも、あの執着心の強い彼らに好かれている時点で一人になりたくてもなれないのでは…?

「失くなる事なんて無いと思うけど…。」
そう溢した言葉に後悔した…。

大粒の涙を流し、苦痛に歪んだ顔をした彼女に息を飲んだ。

「失くなっちゃうの!今までだって…ずっと…っ!」搾り出したような、叫びにならない声が突き刺さる。

「今までって…?」
僕の知る限り、ミュラちゃんの大切な人が彼女を裏切ったり離れて行った事は一度もないはずだ。

「私…独りになりたくない。こんなに辛いなら、幸せになんてならなきゃよかった。初めから独りだったらっ!!」

泣き叫ぶ彼女が何故か消えてしまいそうに思えて、思わず抱き締めた。

「独りにはならないよ…。僕がいる。例え皆がミュラちゃんの元から消えても、僕が居る。」

「でも…私が消えたら…?私が皆の前から消えたら?私は独りだよ?」

「そしたら…追いかけてあげる。大丈夫。絶対独りにはさせないよ。」

泣きじゃくるミュラちゃんを抱き締めながら、自然と出てきた自分の言葉に驚いたと同時に、妙に納得できた気がした。

泣き止まないミュラちゃんの瞼にキスをして、あぁこれが愛なんだな…と気付いた。

彼女が何故そんな風に不安に思っているのかはわからないけれど、僕がその不安を取り除く為に側に居ればいい。

彼女が消えてしまわないように…この手の中に閉じ込めてしまえばいい。
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