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102.【ミュラ9歳】~エレクトラside~
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最近、ミュラが悩んでいる気がする。
先日9歳のお誕生日を迎え盛大なパーティーをしてから、時々悲しい顔をしたり、ぼーっと空を見上げている時がある。
元気の無いミュラの力になりたくて、今日はミュラを初めて屋敷に招いた。
実の所『屋敷に招く』までかなり大変だった。なかなかカインの許可がおりず、最終的には賄賂を渡す形でチャンスをゲットしたのだ。
「ねぇ、カイン。最近王都ではウエイトベアが流行っているのよ。」
「ウエイトベア?」
「子供の出生時の体重と同じ重さのくまのぬいぐるみよ。ミュラのウエイトベアを作ってみたくない?」
「2750g」
「え?」
「だから、ミューの出生時の体重だ。2750g」
うわ、何も見ずにサラッと答えたわ…。
「へぇ…。私なら、特別なウエイトベアを作ることができるわ。」
「何が目的だ。」
「ウエイトベアを作る代わりに、ミュラをシラー侯爵家にお招きしたいの。お願い!」
「…。1日だけだぞ。」
「ありがとう!」
というやり取りの末やっと掴んだチャンス。
ちなみにミュラのウエイトベアの中には、カインのリクエストで、ミュラの髪とミュラが作ったポプリが一緒に埋め込まれている。うん、髪の毛を入れるとか、街のお店には注文できないわね。
そんな訳で、今私の部屋にミュラが居る。
好きな子が部屋に居るってこんなにも緊張するのね。
「わぁ~、エレクトラ様のお部屋っていろんな物が置いてあるのね。これ全部魔法や占いに使う物なの?」
「えぇ、そうよ。私は占術が得意だから、特にそれ関係が多いわね~。ねぇ、ミュラ…」
部屋の中の水晶やタロットを興味津々な様子で見ているミュラに近づき、手を取る。
「何か、悩んでいることがあるんじゃない?」
「えっ…」
ミュラはパッと目を見開き、不安そうな顔でこちらを見る。
「私でよければ…力になりたいわ。」
誰かに嫌がらせされているのなら、秘密裏に呪い殺す事だってできる。私一人の力では難しい事だって、ミュラの為なら協力してくれる人が沢山いるもの。
「……エレクトラ様、あの…占いで寿命とか…分かりますか…?」
「寿命?…誰の?」
もしかして、ご両親の寿命とか?
公爵様はまだまだお若いと思うけど優しいミュラなら『パパとママが死んじゃったら…』と考えてしまうのも分かる気がする。
「その……私の…。」
ミュラは気まずそうに下を向いてしまう。
「え…ミュラ…の?…はっ!もしかしてどこか体調が悪いの?病気とか?」
まさかの返答に私は最悪のパターンを想像してしまう。もしミュラが重い病気で、余命何ヵ月とかだったらどうしよう…。
「違うの!全然大丈夫。すっごく元気だし、病気もしてない。…えっと…、ただ単純に自分の寿命とか分かるのかな~って…あはは…」
「よ…良かったぁ…。」
ギュッとミュラを抱き締める。
ミュラが居なくなるなんて想像したくないし、想像できない。この3年間ミュラと過ごして、私は更にミュラの事が好きになったんだから。
タロットカードで出た運命の人だからじゃない、ミュラだから好きになった。
「ごめんなさい…変な事言って…」
そうポツリと言ってミュラもギュッと抱き締め返してくれる。
「質問の答えだけど…正解な寿命とかはわからないわね。だけど、これから起こる危機的状況を予知することはできると思うわ。」
「危機的状況を予知…?」
「そう、例えば『その船に乗ると、船が沈没して命を落とすでしょう』とか、『隣国へ向かう馬車が襲われて…』とかね。生死の危険にさらされる状況はある程度予知する事ができると思うわ。」
「それ…私にもできる?」
腕の中のミュラが上目遣いで首をかしげる。
9歳になったミュラは最近更に可愛らしくなった。
「え、えぇ。できるわ。ミュラの最近の悩みがそれで晴れるなら、喜んで協力するわ。」
そういえば、3年前にロレイル公爵家の庭師がミュラにナイフを向けた事があったわね。もしかしてそれがトラウマになっていたのかしら?
可愛らしいミュラだから、今後もそういう危険はあるのかもしれない。もし占術で危険な事が予知出来れば、私達がそれを事前に対処すればいいだけ。
ミュラを椅子に座らせ、テーブルの上には水晶を用意した。
「じゃあ、まずは簡単な事から…とりあえず今日の運勢をみてみましょ。」
「うん…。」
私はそっと手をかざし水晶に魔力を流し込んでいく。
「えーっと…。ん?何これ?」
泣いてるミュラのワンピースを脱がしてる私がみえるんだけど…。え?!何これ?!まさか…私が手を出しちゃうってこと?
「エレクトラ様?…何がみえたの?」
不安そうにこちらを見つめるミュラに、本当の事を言う訳にもいかず…
「あ、えーっと。今日は悩みを解決するきっかけがみつかるって出てるわ!」
おもいっきり嘘をついてしまった…。
「ホント?良かったぁ。」
ほっとしたようにふにゃりと微笑むミュラを見て、ミュラに嘘はつきたくないけど、これで良かったんだと思い直す。
「よし!じゃあ…肝心の未来をみていくわね!」
気合いを入れ直し、先程より慎重に魔力を操っていく。
水晶にぼんやりと映るグレーの…
「猫…?」
次の瞬間水晶がパリン!と音を立てて砕け散った。
「きゃっ!!」とミュラの叫び声に慌てて目を向ければ、砕けた水晶の破片がパラパラとミュラのワンピースに飛び散ってしまっていた。
「ミュラッ!!ごめん!大丈夫?!」
慌てて駆け寄れば、ミュラはポツリと
「やっぱり…未来は無いんだ…」
と呟いた気がしたけれど、泣き出してしまったミュラに、私はパニックでその意味を聞き返す事は出来なかった。
「大変!怪我は無い?水晶の破片で怪我するといけないから、ワンピース脱ぎましょ。」
泣いて動けなくなってしまったミュラのワンピースのボタンを慌てて外していく…
バンッ!と勢いよくドアが開き
「おい!今の音は何だ!?」と兄のクロノスが部屋に入ってきた。
大泣きのミュラ。
ワンピースを脱がしてる私。
それを見た兄の鬼の形相…。
「ちょっ…お兄様これは…違うのよ!」
「何が違うんだ?お前…いくらミュラが好きだからって…。」
「違う…誤解だってば…」
「言い残す事はないか?」
「だから違うのよー!!!」
何とか兄に状況を説明して、わかってもらえたけれど…。
それからしばらくミュラが泣き止まず、迎えに来たカインに殺されそうになったのは言うまでもない。
先日9歳のお誕生日を迎え盛大なパーティーをしてから、時々悲しい顔をしたり、ぼーっと空を見上げている時がある。
元気の無いミュラの力になりたくて、今日はミュラを初めて屋敷に招いた。
実の所『屋敷に招く』までかなり大変だった。なかなかカインの許可がおりず、最終的には賄賂を渡す形でチャンスをゲットしたのだ。
「ねぇ、カイン。最近王都ではウエイトベアが流行っているのよ。」
「ウエイトベア?」
「子供の出生時の体重と同じ重さのくまのぬいぐるみよ。ミュラのウエイトベアを作ってみたくない?」
「2750g」
「え?」
「だから、ミューの出生時の体重だ。2750g」
うわ、何も見ずにサラッと答えたわ…。
「へぇ…。私なら、特別なウエイトベアを作ることができるわ。」
「何が目的だ。」
「ウエイトベアを作る代わりに、ミュラをシラー侯爵家にお招きしたいの。お願い!」
「…。1日だけだぞ。」
「ありがとう!」
というやり取りの末やっと掴んだチャンス。
ちなみにミュラのウエイトベアの中には、カインのリクエストで、ミュラの髪とミュラが作ったポプリが一緒に埋め込まれている。うん、髪の毛を入れるとか、街のお店には注文できないわね。
そんな訳で、今私の部屋にミュラが居る。
好きな子が部屋に居るってこんなにも緊張するのね。
「わぁ~、エレクトラ様のお部屋っていろんな物が置いてあるのね。これ全部魔法や占いに使う物なの?」
「えぇ、そうよ。私は占術が得意だから、特にそれ関係が多いわね~。ねぇ、ミュラ…」
部屋の中の水晶やタロットを興味津々な様子で見ているミュラに近づき、手を取る。
「何か、悩んでいることがあるんじゃない?」
「えっ…」
ミュラはパッと目を見開き、不安そうな顔でこちらを見る。
「私でよければ…力になりたいわ。」
誰かに嫌がらせされているのなら、秘密裏に呪い殺す事だってできる。私一人の力では難しい事だって、ミュラの為なら協力してくれる人が沢山いるもの。
「……エレクトラ様、あの…占いで寿命とか…分かりますか…?」
「寿命?…誰の?」
もしかして、ご両親の寿命とか?
公爵様はまだまだお若いと思うけど優しいミュラなら『パパとママが死んじゃったら…』と考えてしまうのも分かる気がする。
「その……私の…。」
ミュラは気まずそうに下を向いてしまう。
「え…ミュラ…の?…はっ!もしかしてどこか体調が悪いの?病気とか?」
まさかの返答に私は最悪のパターンを想像してしまう。もしミュラが重い病気で、余命何ヵ月とかだったらどうしよう…。
「違うの!全然大丈夫。すっごく元気だし、病気もしてない。…えっと…、ただ単純に自分の寿命とか分かるのかな~って…あはは…」
「よ…良かったぁ…。」
ギュッとミュラを抱き締める。
ミュラが居なくなるなんて想像したくないし、想像できない。この3年間ミュラと過ごして、私は更にミュラの事が好きになったんだから。
タロットカードで出た運命の人だからじゃない、ミュラだから好きになった。
「ごめんなさい…変な事言って…」
そうポツリと言ってミュラもギュッと抱き締め返してくれる。
「質問の答えだけど…正解な寿命とかはわからないわね。だけど、これから起こる危機的状況を予知することはできると思うわ。」
「危機的状況を予知…?」
「そう、例えば『その船に乗ると、船が沈没して命を落とすでしょう』とか、『隣国へ向かう馬車が襲われて…』とかね。生死の危険にさらされる状況はある程度予知する事ができると思うわ。」
「それ…私にもできる?」
腕の中のミュラが上目遣いで首をかしげる。
9歳になったミュラは最近更に可愛らしくなった。
「え、えぇ。できるわ。ミュラの最近の悩みがそれで晴れるなら、喜んで協力するわ。」
そういえば、3年前にロレイル公爵家の庭師がミュラにナイフを向けた事があったわね。もしかしてそれがトラウマになっていたのかしら?
可愛らしいミュラだから、今後もそういう危険はあるのかもしれない。もし占術で危険な事が予知出来れば、私達がそれを事前に対処すればいいだけ。
ミュラを椅子に座らせ、テーブルの上には水晶を用意した。
「じゃあ、まずは簡単な事から…とりあえず今日の運勢をみてみましょ。」
「うん…。」
私はそっと手をかざし水晶に魔力を流し込んでいく。
「えーっと…。ん?何これ?」
泣いてるミュラのワンピースを脱がしてる私がみえるんだけど…。え?!何これ?!まさか…私が手を出しちゃうってこと?
「エレクトラ様?…何がみえたの?」
不安そうにこちらを見つめるミュラに、本当の事を言う訳にもいかず…
「あ、えーっと。今日は悩みを解決するきっかけがみつかるって出てるわ!」
おもいっきり嘘をついてしまった…。
「ホント?良かったぁ。」
ほっとしたようにふにゃりと微笑むミュラを見て、ミュラに嘘はつきたくないけど、これで良かったんだと思い直す。
「よし!じゃあ…肝心の未来をみていくわね!」
気合いを入れ直し、先程より慎重に魔力を操っていく。
水晶にぼんやりと映るグレーの…
「猫…?」
次の瞬間水晶がパリン!と音を立てて砕け散った。
「きゃっ!!」とミュラの叫び声に慌てて目を向ければ、砕けた水晶の破片がパラパラとミュラのワンピースに飛び散ってしまっていた。
「ミュラッ!!ごめん!大丈夫?!」
慌てて駆け寄れば、ミュラはポツリと
「やっぱり…未来は無いんだ…」
と呟いた気がしたけれど、泣き出してしまったミュラに、私はパニックでその意味を聞き返す事は出来なかった。
「大変!怪我は無い?水晶の破片で怪我するといけないから、ワンピース脱ぎましょ。」
泣いて動けなくなってしまったミュラのワンピースのボタンを慌てて外していく…
バンッ!と勢いよくドアが開き
「おい!今の音は何だ!?」と兄のクロノスが部屋に入ってきた。
大泣きのミュラ。
ワンピースを脱がしてる私。
それを見た兄の鬼の形相…。
「ちょっ…お兄様これは…違うのよ!」
「何が違うんだ?お前…いくらミュラが好きだからって…。」
「違う…誤解だってば…」
「言い残す事はないか?」
「だから違うのよー!!!」
何とか兄に状況を説明して、わかってもらえたけれど…。
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