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彼女の前世
episode11
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「……貴様遅いぞ」
「大変申し訳ございません」
謝罪以外の言葉を拒絶する、絶対零度を放つ陛下。
今回は完全に私の落ち度だ。
やはり咳が止まらなくても、血を飲み込んで我慢して来ればよかったとスカートの端を握る。だが、後悔しても遅い。
「呼ばれたら早く来い。本当に頭以外はダメだな」
「おっしゃる通りでございます」
ひたすら頭を下げて謝り続ける。
「まぁそれはいい。貴様、今日リーナと茶会をしたそうだな? 何故リーナに会った」
そうか。それだったのか。私をレリーナと会わせたくないのに今日、私が茶会の招待を断らず参加して長々と話していたのに怒っているのだ。
「貴様のような者が聖女であるリーナと話していいと思っているのか? つくづく烏滸がましい女だな? 私が貴様に振り向かないから、次はリーナに取り入ろうとしているのか。無駄な足掻きだな」
違う。取り入ろうなんて一欠片も思ったことなどない。レリーナと長話しをしたのは茶菓子の誘惑もあったが、ここで不参加にするとレリーナの機嫌が悪くなり、後々今よりも陛下の当てつけが酷くなるのを恐れてだ。
でもそんなことを言ったら「言い訳など要らない。嘘をつくな」とこの人は言うだろう。
それが、陛下だ。
「大変申し訳ございません。私の落ち度です。皆様を不快な気持ちにさせてしまい……」
深く深く謝罪のお辞儀をする。
早くこの時間が終わって欲しい。またいつ咳き込むか分からない。もしかしたらふらついて倒れてしまうかもしれない。そうなったらまずい。
きっと、陛下は、周りの者は────可哀想な人を演じるのかと罵倒するに違いない。
「いい加減にしろ。次リーナに近づいたらただでは置かない。覚悟するんだな。話は以上だ出て行け」
「はい。皆様大変申し訳ございませんでした」
陛下以外の側近達にも謝罪をする。そして言うが早いが退出した。
来た時よりも駆け足で自室へと戻る。
途中ですれ違う侍女達から、聞こえてくるはずの無い会話が私を襲う。
「ダメな皇妃殿下」
「役に立たない皇妃殿下」
「誰からも愛されない皇妃殿下」
「邪魔な皇妃殿下」
「────さっさと消えてしまえばいいのに」
クスクスと言う笑い声とともに聞こえてくる幻聴。
勢いよく自室の扉を閉めるが、それでも声は聞こえてきて。私は耳を塞ぐ。
「やめて……私は……ゴホッゴホッ」
激しく咳き込み、またしても洗面台で血を吐き出す。
ようやく収まり正面の鏡を見ると、そこ映っていたのは虚ろな目をした一人の女性。
その人物──〝リーティア〟に問いかける。
「私は……何のために生きているの? 私を必要としてくれている人はいる……? 愛してくれる人はいる……? 私は………何のために……何故……生きているの?」
自問自答を繰り返す。
心に刺さったトゲが二度、三度、抉る。
次、なにか起こったら私の心は完全に壊れるだろう。漠然とそう思った。
バルコニーに出て、月を眺める。最近は嫌なことがあると月を眺めるのが習慣だった。
(私は自分が嫌い。周りの人も嫌い。どんなに努力しても労いの言葉ではなくて、棘のある言葉を投げかけてくる人達が嫌い)
病が私を縛るのならばこのまま縛り付けられてしまえばいい。
もう何も残っていないのだから。
失うものなんてないのだから。
だから私は女神様に祈る。
時が来たら安らかに眠りにつけますようにと。
祈ってる最中にポケットの中にあった薔薇の栞は、またしても仄かに光りを放っていた。
「大変申し訳ございません」
謝罪以外の言葉を拒絶する、絶対零度を放つ陛下。
今回は完全に私の落ち度だ。
やはり咳が止まらなくても、血を飲み込んで我慢して来ればよかったとスカートの端を握る。だが、後悔しても遅い。
「呼ばれたら早く来い。本当に頭以外はダメだな」
「おっしゃる通りでございます」
ひたすら頭を下げて謝り続ける。
「まぁそれはいい。貴様、今日リーナと茶会をしたそうだな? 何故リーナに会った」
そうか。それだったのか。私をレリーナと会わせたくないのに今日、私が茶会の招待を断らず参加して長々と話していたのに怒っているのだ。
「貴様のような者が聖女であるリーナと話していいと思っているのか? つくづく烏滸がましい女だな? 私が貴様に振り向かないから、次はリーナに取り入ろうとしているのか。無駄な足掻きだな」
違う。取り入ろうなんて一欠片も思ったことなどない。レリーナと長話しをしたのは茶菓子の誘惑もあったが、ここで不参加にするとレリーナの機嫌が悪くなり、後々今よりも陛下の当てつけが酷くなるのを恐れてだ。
でもそんなことを言ったら「言い訳など要らない。嘘をつくな」とこの人は言うだろう。
それが、陛下だ。
「大変申し訳ございません。私の落ち度です。皆様を不快な気持ちにさせてしまい……」
深く深く謝罪のお辞儀をする。
早くこの時間が終わって欲しい。またいつ咳き込むか分からない。もしかしたらふらついて倒れてしまうかもしれない。そうなったらまずい。
きっと、陛下は、周りの者は────可哀想な人を演じるのかと罵倒するに違いない。
「いい加減にしろ。次リーナに近づいたらただでは置かない。覚悟するんだな。話は以上だ出て行け」
「はい。皆様大変申し訳ございませんでした」
陛下以外の側近達にも謝罪をする。そして言うが早いが退出した。
来た時よりも駆け足で自室へと戻る。
途中ですれ違う侍女達から、聞こえてくるはずの無い会話が私を襲う。
「ダメな皇妃殿下」
「役に立たない皇妃殿下」
「誰からも愛されない皇妃殿下」
「邪魔な皇妃殿下」
「────さっさと消えてしまえばいいのに」
クスクスと言う笑い声とともに聞こえてくる幻聴。
勢いよく自室の扉を閉めるが、それでも声は聞こえてきて。私は耳を塞ぐ。
「やめて……私は……ゴホッゴホッ」
激しく咳き込み、またしても洗面台で血を吐き出す。
ようやく収まり正面の鏡を見ると、そこ映っていたのは虚ろな目をした一人の女性。
その人物──〝リーティア〟に問いかける。
「私は……何のために生きているの? 私を必要としてくれている人はいる……? 愛してくれる人はいる……? 私は………何のために……何故……生きているの?」
自問自答を繰り返す。
心に刺さったトゲが二度、三度、抉る。
次、なにか起こったら私の心は完全に壊れるだろう。漠然とそう思った。
バルコニーに出て、月を眺める。最近は嫌なことがあると月を眺めるのが習慣だった。
(私は自分が嫌い。周りの人も嫌い。どんなに努力しても労いの言葉ではなくて、棘のある言葉を投げかけてくる人達が嫌い)
病が私を縛るのならばこのまま縛り付けられてしまえばいい。
もう何も残っていないのだから。
失うものなんてないのだから。
だから私は女神様に祈る。
時が来たら安らかに眠りにつけますようにと。
祈ってる最中にポケットの中にあった薔薇の栞は、またしても仄かに光りを放っていた。
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