Desperado~エピローグから始まる異世界放浪紀

ダメ人間共同体

文字の大きさ
22 / 38

Take the devil 7

しおりを挟む

「おいおいおい、竜騎士のヤツしくじったのかよ!」

スパイクの入った鉄製の巨大な棍棒を持った戦士が地面に静かに横たわる竜騎士の遺体を見ながら言った。

「体も完全に冷たくなっている。死後、数時間経っているわ。
 傷跡一つ無いわね。魔法かしら?」
真っ赤な修道服を着たシスターが竜騎士の体を触りながら答えた。

「辺りに争った形跡一つ無いわ。ドラゴンも戦う間もなく倒されたということね。
 一人で行かせるべきでは無かったわね」

白銀の鎧を纏った金髪の女勇者が答えた。

「おいおい、マジかよ! 竜騎士のヤツ、性格はアレたが一瞬にしてやられるほど弱くはなかったろう!」

「竜騎士とドラゴンを一瞬にして葬る事が出来るヤツがいるということね。
 アイツの言うとおり、警戒しておいたほうがいいわね」

「勇者、これからどうするのです?」
シスターが聞くと

「一度、ヘルザイムの城まで戻ってアイツにワープゲートを開いてもらった方が良さそうね
 ワープゲートがあれば先回りできるでしょう」

竜騎士の冷たくなった遺体を見ながら勇者は言った。
シスターは竜騎士の手を胸の上で組むと手刀で五芒星を斬るとしばらく黙祷を捧げた後にマジックバッグを取り出し竜騎士の遺体をしまった。



^-^-^-^-^-^-^

「ダメだな~ 上空の風が強すぎて空を飛ぶのは危険だ。
 時間も丁度いい。あそこで飯食ったら地べたを走る」

男は幾つか点在する林の一つを指差した。
ライザを荷物のように肩に担いだままゆっくりと林の一つに着陸した。
昨日の荒野とは異なり点在ではあるが緑を目にすることができる。
かつてこの辺りは緑が生い茂る大地だったのか、それとも荒野に緑が戻ろうとしているのか?
ただハッキリしているのは荒野の乾いた風とは違い多少なりとも水分が含まれていることだ。

空を見上げたとき太陽は真上に来ていた。
朝に家を畳み数時間が経過していた。
デブーとガーリはマジックバッグの中に入ってもらい休んでもらう事にした。
夜など見張りが必要なときに呼び出す事にした。

しばらく林の中を歩き

「この当たりでいいだろう」

とライザを降ろしアウトドア用の折りたたみ式・ピクニックテーブルをマジックバッグから取り出しセットした。
大量のカレーが入っている寸胴を出し、炊き立てのご飯が入っているおひつを取り出した皿によそる。
おかずにスパイシーロック鳥とトレントと世界樹の葉で作ったサラダをテーブルの上に置く。

「さぁ~喰うぞ! ライザ! 手を洗え! ウォーター!」

と言うと右手の指先からちょろちょろと水が出てくる。
ライザは何も言わずに黙って手を洗った。

「俺のカレーは超絶旨いぞ!
 カレーだけは誰にも負けない自信があるんだ。食え喰え!」

男は椅子に座り両手を合わせ

「いただきます」

と言うとライザが

「それは何? 何かのおまじない?」

「これか!?これは俺の故郷の教えといえば良いのかな?
 料理を作った人、材料となるものを作った人、材料になった生き物や植物などに対する感謝の言葉だ」

「変な風習ね」

「まぁ~そうかもしれないな。俺の世界でもこんな事をする民族は多くはいなかったからな。
 この世界では、こんな風習は無さそうだな」

「私たちの世界では弱いものが強い物へ奉仕をし、弱いものは奪われる運命にあるから。弱肉強食よ!」

「まぁ~大体の世界は弱肉強食だな。俺たちの世界でもそうだったが・・・・・・
 俺は弱肉強食より焼肉定食の方が好きだけどな!」

「馬鹿じゃない! 何言っているのよ!」

とライザは一瞬、そっぽを向いたが向きなおし

「人間! お前、寂しがりやらしいな」

「お、お、お前、誰に聞いたんだよ!」

男はいきなり振られ焦った。

「な、わけねーだろ! とっとと喰え!
 喰い終わったらデザートでも出してやるからよー」

ライザは何も言わず、頷きもせずにスプーンに乗せたカレーを食べる。
口に入れ咀嚼した瞬間に目を見開いた。
口の中にカレーの辛さ、うま味が広がりすべての味覚を刺激する。
慌てて顔を上げると目の前の男は勝ち誇った顔をしていた。

「ムカつく!」

「旨いだろ!」

「お前の顔を見た瞬間すべてが不味くなった!」

「強情なお姫様だな~」

「フン! 人間のクセに生意気な奴だ!」

と言うと顔を背け黙々とカレーを口にした。
男はクスっと笑った。
(可愛いもんだ!)



食べ終わる頃合をみて男は袖の下に手を入れ透き通った袋に一つ一つ梱包された物を取り出した。
その中には薄茶色で表面が少し凸凹しており少し潰れた球状のモノが入っていた。

「これはこうやって」

と言うと男は器用に透き通った袋を破り中身を取り出した。
「男なら齧り付いてもいいんだけど女はこうやって」

と言うと二つに割って一つをライザに手渡した。
中身は黄色いクリーム状のものが入っていた。
男はそれを口にした。
ライザもそれに習い口に入れる。

「甘い!」

今まで口にした事のない甘さだった。

「何だこれは!」

「シュークリームと言って俺の世界では人気のお菓子さ」

「人間界にはこんな物があるというのか?」

「いや、俺が産まれた世界だ。俺はこの世界の住人では無いのでな」

「何を言っているんだ? お前は! 夕べもお前の悪魔達が変な話をしていたが世界は一つしか無いだろ!」

「いや、無限に有る。見えないだけであって無限に世界はあるんだよ。
 ライザのすぐ後にも世界が広がっているんだよ」

と男が言うとライザはハッとした顔をして後ろを振り向く。

「振り向いても見えないぜ」

「お前は私をからかっているのか?」

「いや、マジメな話しさ」

「お前は見えるのか?」

「見えるわけないだろ! 作り話だから」

「お前!! ムカつく!! もっと寄こせ!」

男は袖の下に手を入れ新しいシュークリームを取り出した。

「今度は中身がカスタードと生クリームになっているヤツだ。
 俺は欲張りで2色シュークリームの方が好きなんだよ」

テーブルの上に置いたし新しいシュークリームを先ほど男がやって見せたように透明の袋を上手に破り口に入れた。

「こっちの方が好きかも!」

「だろ、生クリームが有ったほうが美味しいだろ」

ライザは2色シュークリームを食べながら男に聞いた。

「お前は人間なんだろ。昨日の黒騎士が言うように、何故、私を人間に引き渡さない?
 私を人間に引き渡せば手柄も褒美も思うままだろ。 
 200年前は人間側で戦っていたのだろ?」

「まぁ~前回は人間側だったが、今回は魔族側というよりヘルザイムに雇われたからだ」

「人間を裏切ってもか?」

「裏切るも何も今回の雇い主がヘルザイムだからな~
 この世界の人間とは関係無い」

「雇ったと言うけど、お前を雇うのにはどうすればいいんだ?」

「なに?俺を雇ってこの世界でも征服する気か?
 俺を雇いたければ、これを手に入れるしか無いな」

と男は言うと袖に手を入れ拳大の赤い玉を取り出しライザの前に置いた。
ライザは手に取り眺めた。

「これは何だ?」

「俺は勝手に『欠片』と言っている」

「何のためにこれを集めているんだ?」

「俺の願いをかなえるためだな」

「願い?」

「そう。願い」

「お前の願いとは何だ? まさかお前が言う『ありとあらゆる世界を征服する』とかなのか?」

「おいおい、止めてくれよ! 世界征服なんて暇人のすることだ!」

「じゃ何が望みなんだ?」

「お子ちゃまには分からないことさ」

「ムカつくーーーー!!」

と言うとライザは立ち上がると欠片を明後日の方向へ力一杯投げつけた!

ピューッッと凄い音を立てて欠片は飛んでいった。

「うわーーー! バカ野郎! 何てことするんだ!!」

男は立ち上がり玉が投げられた方へ飛んだ。
そして、テーブルの方を振り返るとライザが魔王城のほうへと飛空魔法で飛び去って行った。

「あ~~クソ~~!!!」

と空中で頭を一度掻き毟るとライザの後を追った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...